八章「火炎が生まれた日」
昨日ブックマークが減ったのは、先日エルフを殺した件についての怒りからでしょうか?(涙目)
今回は、ちょっと回想的なシーンから入ります。
――おいボウズ。炎は好きか?――
男はそう言って、目の前で泣きじゃくる少年を撫でた。
後に世界は、この男を炎魔王と呼ぶ。男は、悪魔種の亜人だった。エルフ、ドワーフ、ケットシーと数多ある亜人種の中でも、一際強力な戦闘力と魔力を生まれながらに持つ希少種族、それが悪魔種。
男の名は、サイラ。
サイラは、悪魔種には珍しい人類共存派の悪魔にして、火炎魔法の達人だった。その力をけして悪しき私欲に使うことなく、人のため生ける全ての命のために使う。それがサイラという男。
その当時、悪魔はその力を魔物統一に使い、人類支配に走る傾向があり、ほとんどの多種族は悪魔種を見るだけで脅える有り様だった。
しかし、そんな中現れた正しき火炎の悪魔サイラ。人々は、畏怖と敬意を込め、男を[炎魔王]と呼んだ。
サイラに拾われた身より無き少年は、ある時彼より魔法を授かった。
その際、サイラは少年に優しく言う。
――ボウズ。こいつはな。炎の武装魔法だ。でも、勘違いすんなよ? こいつはぁ、強力な攻撃魔法として扱えるが、それと同じくらい「何かを守れる魔法」だ――
そう言ったサイラは、ニカッと笑って見せる。そして、まだ七つにもならない少年の足元に炎で文字を書いて説明した。
――武装。普通に聞けば、それは戦うためのもんだ。でもな。武装することには、大事な意味がある――
一般的に悪魔が人間に魔法を教える際、それは悪魔が常日頃から扱う、特殊かつ破壊力を優先に編み出された[悪魔魔法]を教えるのが普通である。しかし、サイラはそうしなかった。そこにどういった理由があるのか、知る者はいない。
サイラはそこで少年の目を覗き込むと、ゆっくりと言い聞かせた。
――守るべきものがあるとき、守りたいものに守りの盾を持たせたとする。それは立派な武装だ。意味がわかるかボウズ? 戦うために武装するのは当たり前、大事なのはぁ「守りたいから戦う」つぅ理由を持って武装することだ。力っつぅのはぁ、むやみに振るうもんじゃぁねぇ。そのへんのことよぉーく覚えとけよぉ?――
その時の少年は、当時の自分がなんと答えたのかを覚えていない。されど、この親代わりとも言えよう男の言った言葉は一字の狂いもなく覚えている。
「……オヤジ」
×××
燃え上がる爆炎を見つめ、[死海の四従士]ストルクは、くぁーっと欠伸を漏らした。
「これでわかったろアルファスぅ? オッサンの綺麗事なんざ、このご時世じゃ通用しねぇんだよ。大事なのはなぁ――――」
「いつだって、「守りたいから戦う」つぅ理由を持って武装することだっ!」
爆炎からあげられたアルファスの一言に、ストルクは不愉快そうに眉間に皺をよせた。
「へぇ……。意識あるとはぁ……やるじゃねぇか」
そう言って身構えるストルク。その前方の爆炎がグラリと揺らぐ。
爆炎の中から現れたアルファスは、爆炎を払うと、荒い呼吸に体を上下させ、ストルクを睨んだ。その体は、酷い火傷で意識があることが不思議に思える有り様である。
「……たかが一撃で倒れたりは、しねぇ。師匠の在り方を肯定するために俺は立つ。師匠の教えてくれた生き方を守るために俺は、戦うんだよっ!!」
ストルクは、そんなアルファスの覇気の籠もった声にわずかに気圧され、後ずさる。
「……かなり全力で撃ったはずなんだが……なぁ? まぁ。いいっ! その馬鹿みたいな理想を力でねじ伏せたら、諦めがつくんだよなぁ! え? アルファスぅうう!!!」
そう叫ぶと、ダメージでふらつくアルファス目掛けて魔法詠唱を行った。
「フレイム・メイル!!!――――――」
が、その時、
「悪者退散っ!」
「ぐほぉぇっ!!」
突如として飛び出して来た少年が、魔法発動直前のストルクの顔面に膝蹴りをお見舞いした。
爆風が周囲を襲い、ストルクは白目をむき吹き飛ぶ。そのままストルクは飛んでいき、岩に激突するとガックリとうなだれ、気絶した。
アルファスは、闖入者の少年を見てホッと息を吐いた。
「……コウヤか」
×××
俺は岩場に着地すると、パンパンと体中の泥を払い落とす。
そして、岩を背に気絶している青年とアルファスを交互に見る。
「よぅ! 無事だったか? って、無事じゃ無さそうっ!?」
アルファスの全身は大火傷で赤黒くなっている。自分まで痛くなりそうな有り様に俺は、ひぃっと声を漏らすと、どうしたものかとアルファスの周りをあたふたとする。医療セットは、フラックが簡易制の格納魔法で持ち歩いているため、俺にはアルファスの怪我をどうにかすることは出来ない。こういう時、治癒魔法とか使えたらなぁとか、魔力0なのに寂しい願望をいだいてしまう。……くぅ! 涙が出るぜっ!!
そんな俺に、アルファスはプッと笑いを漏らした。
「おいおい。大げさだ。痛むが、火炎の魔導師は火傷になれてるから心配ねぇよ」
そう言ってアルファスは、ドカッとその場に腰を降ろす。そんな彼に俺は率直な質問を投げかける。
「あのよぅ? 自分の炎じゃ火傷しねぇのに、なんで他人の炎だと火傷するんだ?」
すると、アルファスは一瞬「え?」って顔になるが、簡単に説明する。
「そりゃよ。他人の魔力と俺の魔力じゃ魔力の波が違うし、同じ属性でも込める魔力の分が違えば、その分いてぇよ」
ほぅ。つまり音の周波数的なイメージですか……。俺は、脳内で波の分野の勉強を思い出す。……ん? ってことは、もしかしたら敵と同じ波の魔力で魔法を同時に発動したら打ち消せるんじゃね?
そう考えた俺は、その趣を伝えるとアルファスは首を横にふる。
「んなもん、わかんねぇよ。つか、それ魔壊石の原理じゃねぇか。あの石は、ありとあらゆる魔力の波を放つからな。そりゃ、ありとあらゆる波なら、一つくらいピッタリの波があるだろうが、普通は無理だな」
アルファスは、ふぅとため息をつくとゆっくり立ち上がった。
俺は、アルファスの言葉に先日のギルド大戦で出た魔壊石のことを思い出す。……あー。なるほどね。そういう原理でしたかぁ。
納得した俺は、ぐーっと背伸びをすると、アルファスに目配せする。……そろそろいっかなぁ?
そう思いつつアルファスの反応を待つ。すると、どうやらアイツも感づいていた様で、すぐさま「問題ない」と頷きが返ってくる。
何に感づいているのか。
それは簡単。
俺は、大きく息をすると全力で上空に向かって叫んだ。
「見せる気まんまんのクソビッチパンチラネェちゃーーーーん!!!! そろそろ降りてきて戦えよーーーーっ!! もう、そのレース付き水色ショーツ見飽きたんすけどぉ?」
その直後だった。
俺達から、少し離れたところに天空から物凄い勢いで何かが落下する。
それは、爆音と土煙をあげ着地に成功すると、ゆっくりとこちらに近づいて来た。
土煙から現れたのは――――。
「美少女騎士キターーーーーーー!!!!!!」
スカートを抑え、赤面した面でこちらを睨む女騎士は、興奮しまくりの俺の発言でその顔を更に赤くしたのだった。
×××
「予想以上にやる……ナ!」
そう言った[死海の四従士]ユグトラに、ユリアは余裕の表情をもって返す。
あたり一面には落雷による小クレーターが無数。赤雷が今もわずかに放電しているものもあり、戦いの激しさ……いや、ユリアの実力の高さを物語る。
「これほどに凄まじい威力にも関わらず、魔力の消費が感じられん。恐ろしい女だ……ナ!!!」
「なんでいちいち、その喋り方するのよ……というか、あなたもタフよね? どれだけ撃ち込めば倒れてくれるのかしら?」
ユリアはそう言いつつ、内心冷や汗を流す。確かにこのユグトラという男、ダメージはあるはずだし、疲れが現れているのが見てとれる。しかし、何故かこの男、魔力の調子が全く持って変化しないのだ。
本来、魔導師の体力と魔力は比例関係にあり、魔導師が体力を消費すれば、それに伴い魔力も消費される。鍛えている者でも、流石にこれほどの体力消費をした際には、少しは魔力の乱れが感じられるものなのだ。
「それは、あんたが思っているよりも、俺が体力を消費していないってことじゃないのか……ナ!!」
心の内を見透かしたような敵の発言にユリアは、身震いする。
すぐさま敵の放った黒煙を赤雷で弾くと、ユリアは決定的一撃を与えるべく相手を観察した。
そんなユリアに、ユグトラはフードの下でニンマリと笑みを浮かべた。あまりにもおぞましい微笑みに、ユリアは数本後ずさる。
ユグトラは言った。
「その目! 似てる似てる……すごく似てる…………ヨ!」
「なっ…… 何に?」 恐る恐るそう問い返したユリア。すると、ユグトラは暫しの間の後、ハァと嬉しそうに吐息を漏らすと、先ほどよりも声高に発言した。
「何って、そりゃ~、あ・く・――――――――――」
刹那
一陣の風とともに、ユグトラのすぐ横数ミリの大地が赤雷の一撃で削り取られる。
わずか一瞬の出来事に、ユグトラは目をむいた。
さすがに言葉を失った彼に、ユリアは言った。
「……もういいわ。やっぱり聞きたくないわ。……だからって言ったら悪いんだけど、――――――――――――もぅくたばってくれないかしら?」
いつもよりずっと冷ややかに響くその声に、大地は沈黙を余儀なくされるのであった。
感想くださった[名前はみせられないよ]さん。ありがとうございます(≧∇≦)。 ブックマークして下さった方もありがとうございます(≧∇≦)。Twitterで宣伝拡散して下さった皆さんもありがとうございます!
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