七章「死海の四従士」
明日は、もしかしたらお休みするかもしれません。でも、しないかもしれません(笑)
異世界にも地雷たるものは存在する。
しかし、そのほとんどが踏んだことすら本人に感じ取らせずに発動する非常に悪質なものである。ただでさえ悪質な地雷という兵器に魔法要素を加えるとは、この世界を創ったお方はなかなか趣味が悪いと見た。
何が言いたいのか。単刀直入に言おう。俺達四人は、その地雷を踏んだ。
結果。
「あちゃー。こりゃねーぜ」
そう呟いた俺の周りには、ゴブリンを始めとする魔物が多数。近くに仲間三人の姿は無い。
ここは、魔王の島の森林地帯。
先ほど島に到着した俺達だったが、上陸早々に転送地雷を踏み、四人仲良く島のどこぞに飛ばされていった。そして、俺はこの森林地帯にいる。
踏んだ瞬間はわからなかったのだが、転送されて気が付く。俺は魔法地雷を踏んだのだと……。
「あー!!! めんどくせーな! いいぜ! こいよ! ぶっ飛ばしてやる!!」
そう叫ぶと、俺は周囲を取り巻く魔物達に向かって飛び出した。
魔物達は、四方から一斉に俺めがけて襲いかかってくる。中には剣やら斧やらと、武器を構えている連中もいる。……殺す気かよっ!? ……あれ? ……あぁそっか。殺す気なんだ。
「ハーフバースト!」
俺は理解するなり声をあげると、先ほど習得した一点集中型の攻撃手段をとる。
腕のみに力を集中させた一撃が、人狼の群れを消し飛ばす。
すぐさま地に手をついた俺は、足を広げ逆立ちの状態から体を回転させた。
体を軸に駒のように回転した俺の回し蹴りに、ゴブリン、リザードマンが次々にはぜる。飛び散る血しぶきに、我ながら結構グロいなと思うが、やらねばやられる故致し方ない。
「サイナラッ!」
最後の一匹を蹴り飛ばした俺は、ふぅと息をつくと辺りを見回した。
おそらく普段は、アマゾンが如く立派な熱帯樹林なのだろうが、今は血にまみれた真っ赤な世界が広がっている。なんだか悪い気がして、俺は足早にその場を後にした。
その時、敢えて俺は気づいていないフリをしていたが、ずっと頭上のはるか上空で俺を観察している魔導師が非常に気になっていた。…………なんでって? そりゃ決まってんだろ。そいつが美少女だからだっ!! ……つかよ。この位置見えるんじゃね? 見えるんじゃね!?
×××
「はぁ。転送地雷とは、やられたわ……」
そう呟いたユリアは、砂浜をトボトボと歩く。
すぐにでも城に突入したいところだが、コウヤ達がいない状態で一人突入してもいいことは無い。日もそろそろ暮れるし、いい感じのとこで仮眠をとりたい。そう考えるユリアだったが、敵陣で仮眠を取れるような場所などあるはずも無い。
と、その時、
「似たニオイが……スル!」
独特の口調の発言に、ユリアは慌てて振り返った。
振り返ったユリアの数十メートル先にソイツは、いた。
口元を布で覆い、フードを被り、包帯で覆われた病的に細い腕、赤いローブと黒い帯を纏うソイツはもう一度言った。
「俺と似たニオイが……スル!」
言うなり、ソイツは、魔法を放って来た。
突き出された手の平から、黒い煙のようなものが吹き出し、ユリアを襲う。
「はぁっ!!」
ユリアは、素早く赤雷を放電させると黒い煙を一蹴し、身構えた。
「私は、ガルグイユ・クレストのユリア・コルストル。あなたは、どちらさま?」
すると、敵はわずかに間を開けた後静かに応えた。
「俺は、魔王の下部[死海の四従士]が一人、ユグトラ…………ダ!」
先ほど同様に、独特の口調でそう返すユグトラに、ユリアは若干のイラつきを見せるが、すぐさま赤雷を纏う拳を構えると、こう言った。
「じゃ。確認ですけど、ユグトラさん? 先ほどの一撃は、宣戦布告と取ってもよろしくて?」
「……確認するまでも……ナイ!!」
その直後、同時に突き出された二人の手のひらから赤雷と黒煙がそれぞれに飛び出し、両者の間で激しくぶつかり合った。
爆風に互いに交代した二人。
ユリアは、小さく呟く。
「たまには、活躍しないとねっ…………気合いいれていくわよっ」
×××
「おぃおぃ。こりゃ何の冗談だ?」
一面岩石で敷き詰められた大地に少年の苛立ちの籠もった声が響く。
そんなアルファスの言葉に、対峙する男はニヤリと笑う。
「そりゃ、こっちのセリフだぁ。アルファス」
そう言った男は、炎を纏う拳を大げさに構えてみせる。
その姿にアルファスは、怒りを露わにした表情で言った。
「クソ野郎がよくもまぁ。ぬけぬけと……」
「まぁ。そういうなぁ。弟子兄弟の間柄じゃねぇか」
「俺は、あんたを兄弟子とは認めねぇ!!!テメェが師匠にしたこと、忘れたわけじゃねぇだろうな!!!」
激情をさらし、怒鳴るアルファスに男はヤレヤレとかぶりを振った。
「わぁーかってねぇなぁ。アルファスぅ。師匠もクソも――――――」
「――――自分より、弱い老いぼれなんざ。ただの消し炭でしかねぇんだよ」
ヘラっと笑って見せる男に、アルファスは激昂する。
「ストルクぅううう!!! テメェええ!!!!!」
岩の大地を蹴り、飛び出したアルファスは火炎の拳を握りしめる。
襲いかかって来るアルファスに、ストルクたる青年は再びヤレヤレとかぶりを振る。
そして――――
「お前にゃ。少し教育が必要だなぁ? え? そうやって、馬鹿みたいに突っ込んでくるあたりとかよぅ」
そう言った男は、迫り来るアルファスに向かって身構えると、静かに詠唱した。
「フレイム・メイル、牙閃剣」
突如として、出現した火炎の刃に、アルファスは声をあげる間もなく、一瞬にしてのみ込まれたのだった。
×××
「フラック・バルストラーゼ」
どこからか名を呼ばれたフラックは、座禅を止めゆっくりと立ち上がる。
自らの正面、数メートル先に声の主はいた。
「見たことねぇ顔だが……俺が忘れてるだけか?」
ストレートに言ったフラックに、相手は首を振る。
「いや。会ったことは無い。ただ、お主は自分が思っているよりも有名だということを知った方がいい」
そう応えた老人魔導師に、フラックは無言を持って返す。
すぐにでも仕掛け決着させたいが、この老人魔導師ただ者ではない。決して超人的な魔力を帯びているわけではない。しかし、その魔力は、とても洗練され研ぎ澄まされ、濃いものだった。
「……あんた。何もんだ?」
フラックの問いただすような口調にも、老人は動じる様子はなく、たんたんと答える。
「魔王の下部にして[死海の四従士]が一人、ウォーゼン・ハルノス」
その名に僅かに反応したフラックは、内心冷や汗を流した。
ウォーゼン・ハルノス。この大陸で五本指に入る魔導師ギルド[千陣の英知]の代表的魔導師にして、魔力鍛錬の達人たる人物だ。扱う魔法は数多、武術にも長け、そこらの魔導師では数百人が束になっても歯が立たないと聞く。
正直なところ教えこそ請いたいものの、戦いたいとは微塵にも思わない相手だ。しかし、どういう事情か、彼は魔王の下についている。魔王の下部な以上、倒さねばならないのが今回のクエストであり、それをクリアするのがガルグイユ・クレストの魔導師としてのプライド。
ここで引いては闘龍の名が廃る。
フラックは、ふぅと息を吐くと、ウォーゼンを真っ直ぐに見た。
「……じゃぁ。爺さん。そろそろと言っちゃなんだが……」
「そうじゃの……ワシも魔王からの命令があるからの……」
そう言葉を交わした両者は、互いに少し距離をとると身構えた。
そして、一呼吸の後、一斉に飛び出した。
「「いざ! 尋常にっ!!」」
最近、皆様の応援の声に喜びがとまりません。もっと誉めて下さい(笑)
昨日の話で、エルフがお亡くなりになった件について、友人が「エルフを殺した罪は重いぞ?(ニヤリ)」と言って来たので、皆さんがどう思われてるのかが気になりまふ(ガクブル)