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五章「魔王城とは、中二心をくすぐるもの」

 間に合った……

「ここがアルイエ港かぁ!」

 俺は、賑わう港町で歓声をあげる。

 ここは、ギルドから街二つ挟んだ先にある港町。 この地域では、最も大きい港だけに船と人の数が異常。なかにチラホラ亜人種の姿もあり、俺は改めて異世界を実感する。

 亜人種。つまりは、エルフやドワーフ、ケットシーといった半妖精人種のことである。……にしても、エルフさん達かわいいな。金髪エメラルドの瞳とか、どこのラノベだよって感じだ。でも、何より、あのケットシーの耳! ケモミミですぜ?ヤバい! フワフワやんか! 触りたい! モフりたい!

 そんなことを考え、よだれを垂らしていると――――。

「い・く・わ・よっ!」

 何やらふてくされた様子のユリアが、ズビシと俺の横腹に手刀で突きをいれる。……え。なんで怒ってんの?

 スタスタと先に行くユリアに、俺は頭に疑問符を浮かべ仕方なくその後を追う。

 今日のクエストは、「魔王の討伐」だ。

 とは、言ってもアニメで出るような究極的な魔王では無く、地域支配を始めた若手の魔王の討伐だ。まさか、いきなりそんな化物には挑まねぇよ。つか、まぁ。それでも、そこらの魔物やギルドの連中よりは遥かに強いそうだ。だからと言ってはなんだが、俺とユリア以外にこの二人も誘って来た。

 俺はそこで、後ろを歩く二人の魔導師を見る。

「かぁーっ。魔王クラスに認定受けた馬鹿とやるのは久々だぜ!がぜん燃えてくるわ!」

「ふんっ!上がる分には問題ないが、気抜いてヘマだけは、するなよ?」

「んなことすっかよっ!炎魔王の弟子なめんな!」

 フラックとアルファスである。

 フラックは頼りがいがあるし、アルファスは炎魔王の弟子ということだから、魔王戦には有効と考え、声をかけてみたのだ。偶然にも二人は、仕事を探していたらしく、すんなりパーティーに加わってくれた。……つかよ。アルファスくん、炎魔王の弟子ってマジか。

「ところでよユリア。船なんてホントに借りれんのか?」

 俺は、今回一番の問題を問う。

 正直、このパーティーなら、よほどの化物が出ない限り勝てる自信がある。だが、それ以前の問題として、この港からターゲットの魔王が潜伏している島への船が無い。まぁ普通に考えりゃ当たり前な話だ。誰も魔王なんかがいる島なんか行きたくはないし、そんなとこにまで船を出したいと考える船乗りもいない。

 結果として、俺達は自力で船を借りるなりして、島に向かわないとならないのだ。

 俺の問いにユリアは、「だっ大丈夫よっ!私に任せて」と言って冷や汗を流している。一度もこちらを見ないあたりが滅茶苦茶不安になるのは、俺の考えすぎだろうか? いや、というかコレ絶対アテないだろ? 無いよね?

 俺は、船着き場でフラフラと歩き回るユリアを半眼で見つめ、やれやれとため息をつく。いやー、そのな? 一応、これ俺が言い出しっぺのクエストだし、船の件くらいだったら事前に用意して良かったんだが、ユリアが「これくらい、私がやってあげるわよっ!」と元気よく言うもんだからつい任せちまったんだ。

「コウヤ。この調子だと日が暮れる気がするが?」

 フラックの言葉に、俺は肩をすくめるとユリアを呼び戻す。

 そして――――


 十分後。


 俺達は、港から少し離れた海岸に来ていた。

「おいおいコウヤ? こんなとこ探しても船なんざねぇぞ?」

 そう言って、不思議そうな顔をするアルファスに、俺はニヤリと笑って指をふる。

「そんなことしねぇよ。それよか、みんな準備はいいか?今日は目的地まで歩くぞ」

 

 ?


 三人とも、俺の「歩く」という言葉に首を傾げた。

「ねぇ。コウヤ? どんなに高速で走ったところで、海上は流石に走れないわよ? 道が無いのにどうやって歩くの?」

 ユリアがそう言った時、フラックが「あ」と声を漏らし俺の考えを察した。

 フラックの反応に「え? なになに?」と問いかけるユリア。アルファスもサッパリわからんといった様子だ。

 そんなパーティーメンバーに俺は声高に言った。


「道が無い? なら、――――作ればいい!!!!」


 言うなり俺は、目的地の方角めがけて、握りしめた拳を全力で振り抜いた。


 次の瞬間。


 とてつもない突風が吹き荒れ、俺以外の三人が風に押され後退する。突風の中、遅れてやってきた盛大な破裂音が周囲を包む。


 しばしの間の後、周囲に静寂が戻る。

 ユリア達は、目をあけるなり絶句した。が、すぐに有らん限りの全力でこう叫ぶ。


「「「うっ海が割れた!!!!!?」」」



×××



 イリカーナは、ギルド内のカウンターで依頼の書類整理を行っていた。

 今日のギルドは、魔導師が出払っていることもあり、いつもより人が少なかった。

 少し寂しげに感じられるが、事務をする上ではかえって集中できる。 

 イリカーナは、前に垂れてきた横髪をすくうと、一枚の書類に目を落とした。

 それは、数時間前にコウヤ達が受注したクエストの控え書類だった。

「……私も行きたかったなぁ」

 どこか遠い目でそう呟いたイリカーナは、そっとその書類を隅に置く。

 その時、イリカーナはピタリと動きを止め、控え書類にもう一度目を通す。

 そして、その異変に気づいた。

「文字が…………」

 よく見ると控え書類上の文字がゆっくりと変化し、別の文へと書き換わる。

「偽造書類っ!?」

 声をあげたイリカーナは、驚きつつも再び書類を見返し、変更された依頼内容を確認する。

 そして――――


「晴島さん達が危ないっ!!」


 イリカーナは、上着を羽織ると、慌ててギルドから駆け出して行った。



 そんなイリカーナの姿を見つめる者が一人。



 ステイル・ヴェインは、フロアの隅の影からそっと姿を現し目を細めた。


「さて……我も行くか」



×××



 割れた海の間をゆったりと進む俺は、欠伸混じりに前方にデコピンをする。

 すると、デコピンによって発生した衝撃派が、目の前に立ちはだかる海竜種のモンスターを弾き飛ばした。

 さも、簡単に海竜種を撃退する俺に、後ろの三人は絶句する。

「……そんな簡単にケリ付けられると、自信なくすんだけど……」

 そう言って苦笑いするユリアに、俺は「あー」と温い返事を返し、スタスタと先を進む。

 足元は、フラックの岩魔法とアルファスの炎魔法で、いい感じに歩きやすく舗装されているため、非常に楽だ。

 二人が道を作る間、俺とユリアが割れた海から現れる魔物を撃退する役を買う。と言っても、基本的に俺の一撃でカタがつくから、事実上ユリアの仕事は無い。

「お前、案外一人で魔王倒せるんじゃねぇか?」

 そう言ってケラケラと笑うアルファスに、俺は首をふる。

「いや。そうでもねぇぜ? だってよぅ。――――ほらっ!」

 言うなり、俺はユリアの首根っこをつかむと飛び上がった。

「え!? 何っ!?」 ユリアが悲鳴に似た声をあげた次の瞬間、強烈な閃光と共に紫の光を纏った一本の矢が飛んで来た。

 俺のジャンプに合わせて飛び上がったフラックとアルファスが警戒した表情になる。

 飛来した矢は、そのまま俺達の後方で大爆発を起こす。

 爆風が吹き荒れる中、着地した俺達は身構えた。

 俺は、言った。

「こりゃぁ、大層な挨拶だねぇ? わざわざお迎えに来てくれたのか?」

 すると、遥か前方に姿を現した女はクスリと笑い、こう返す。


「お迎えですって? 違うわ。お見送りに来たのよ?死の世界へのね」


 高出力の魔力を放つ弓を肩に担ぎ、女は自信ありげな笑みを浮かべた。

 俺は、女の姿を素早く観察する。尖った耳に、美しく黄色いロングヘアー、肉体から放出される魔力の質感を見るに、こいつはエルフだな。

 エルフと言うのは、どの地域でも基礎魔力が高く、魔法潜在力に長ける種族。一筋縄にはいかないだろうことが、俺にだって分かる。

 が、それでも、コイツに負けるようじゃ、魔王は倒せない。おそらく奴は、魔王の使い。なら、ここで一発ぶちかまして、一泡食わせてやるってのが粋ってもんだぜ!

 俺は一歩前にでると、声を上げた。


「俺は、ガルグイユ・クレストの紅哉だ! 今から、テメェらに引導を渡してやる! ぶっ飛ばしてやるから、かかって来いっ!!!」


 その一言に彼女は弓をとる。

 ユリア、フラック、アルファスもおのおの魔法を発動し身構える。


 俺は、拳を打ち合わせると「はっ!」と笑い声をあげた。


 そして、


「んじゃぁ!! いくぞっ!!!!」


 大海の真ん中に響くその声に、両者は同時に飛び出していく。

 今ここに、魔王戦最初の戦いが幕を開けた。

 土曜日と日曜日は、投稿お休みします。

 感想くださった「赤チン」さんありがとうございます。

 お気に入りしてくださった方々も感謝です。

 これからもよろしくお願いします。

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