十九章「生物ならざる生物」
遅くなって、すみません!
ようやく書きました! 俺は、またまだ死んでねーぜ!w
「攻撃が乱雑な上に、芸が無いわ」
そう言った鋼精の女性は、近くにある巨木にすがりあくびを漏らす。
一見上品に見えるが、その仕草や態度はがさつ。されど、その全てをうち消すほどの妖艶さが、彼女の全てを偉大なものに魅せる。
真っ白な肌に、ほっそりとした体躯。白銀の髪に瑠璃色の瞳。あまりの美しさにその存在そのものが、何かの芸術作品のようにすら見える 。
そんな彼女が興味を持った人物ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーそれは、今まさに彼女の正面で膝をつき、体中から赤雷を放つ少女。
そう。ユリアである。
ユリアは口元に滲む血を拭い、苦笑いを漏らした。
「…………出し惜しみしてられないわね」
言うなり、ユリアは魔力の質を変化させる。
ー悪魔魔法ー
⁉︎
鋼精の女性がユリアの異変を感じ取り、身震いする。
次の瞬間、彼女の目の前にはユリアの手のひらがあった。
目を見開く彼女。ユリアは詠唱した。
「紫士咎の雷扇掌!!」
濃密な魔力が込められた掌底打ちが雷撃とともに鋼精の顔面に直撃する。
「きゅぅっ!」
彼女は、勢いよく吹き飛ぶと巨木に激突した。
「…………悪魔魔法」
そう漏らした彼女は、ふわりと宙に浮かび上がる。
ユリアは、逃がすまいと追撃を試みた。
しかし、女は素早く正面に人差し指を突き出すと、呟いた。
「吞め」
直後、ユリアの放った赤雷が彼女の前に出現した空間の歪みに飲み込まれる。
「え⁉︎」
驚くのもつかの間、ユリアに迫る鋼精。
詰められた距離。ユリアは、自らを庇うように反射的に腕を構えガードしようとする。
「撃つ」
彼女の言葉とともに再び、空間の歪みが出現する。だが、それは四方あらゆる場所に顕現していた。
そして、その歪みから赤雷が放たれた。
!
「くっ!!!」
激しい爆音が鳴り、赤雷があらゆる方位から、ユリアを襲う。
ダメージは、薄い。ということは、これはコピーでは無く、吸収→発散。自分の魔法は受ければ、痛いには痛いが、ダメージは少ないのだ。
「驚いた。体術だけかと思ったら、そんな魔法持ってたのね」
すると、女はクスリと笑った。
謎の笑いに怪訝な顔になるユリア。彼女は、言った。
「私達、鋼精の扱う力は、魔法じゃないわ。精呪といわれる生まれつき体の一部として備わっている力。精神力を糧にしてるのよ?………………それに」
そこまで言った女は、再び空間の歪みを出現させる。
ユリアは、何度もやらせないと、勢い良く地を蹴った。
このタイミングで飛び出せば、放たれた雷を自分の雷で相殺可能だ。
赤雷を拳に纏い、鋼精に迫るユリアは詠唱する。
「紫士咎の崩雷拳!!」
高出力の魔力を込めた拳を突き出すユリア。タイミングはばっちりだ。あわよくば、相殺どころか返り討ちにできる。
「撃つ」
予想とぴったりのタイミングで、彼女が呟く。
しかし、空間から吐き出されたのは赤雷では無く、巨大な爆炎だった。
「は⁉︎」
予想外の事態につい、力が抜ける。
直後、ユリアを爆炎が襲う。
「くぅっ!」
緊急回避で横に飛び退くことで、なんとか爆炎を避ける。
ユリアは、唸る。
「吸収と発散じゃないの?」
その言葉に、彼女は頷いた。
「私の精呪は、〈記憶回廊〉。1度、飲み込んだ魔法などを解析、記憶して、いつでも自分の力として扱えるの。魔法では無くて、精呪としてね。もちろん解析してるから、同種の魔法ならこんなこともできるわ」
言うなり、彼女は手のひらを突き出す。
すぐさま空間から、とてつも無い出力の力が伝わってくる。
やばっ!
伏せた直後、頭上を螺旋する高威力の赤雷が通過し、背後の森林を吹き飛ばした。
爆風に飛ばされそうになるユリアは、驚愕に目を剥く。
「これって……雷魔秘伝。紫士咎の電衝旋撃脚⁉︎」
実際、目にした技は蹴りでは無く、螺旋する赤雷の放出だったが、この感じと威力、雷の動き。間違いなく、紫士咎の電衝旋撃脚だ。
ユリアは、舌を巻き苦笑いを漏らす。
「なんて、厄介……」
正直、これ以上は体力的にも危険。諦める判断の方が正しい。
でも、ダメだ。
ユリアは、唇を噛み彼女をキッと睨む。
でも、それじゃダメなのだ。このままでは、ダメなのだ。もっと力を、純粋に努力で得た力がもっと必要なのだ。
付け焼き刃で、力を得るならいろいろ方法がある。
しかし、鋼精は、違う。戦い認められ、始めて力となる。
そういった力じゃないと、自分は彼の隣には並べない。
ユリアの脳裏には、突然ギルドに現れた怪力少年が浮かんでいた。
がさつだし、いろいろ知らないことが多いし、魔力も無い。でも、堂々としてるし、芯がある。戦闘が強いことより、自分はそんな人らしい強さに憧れた。
『魔力0の俺が! この超怪力で世界に新たな夜明けを告げるんだあああ!!』
魔王討伐の際、彼はこう叫んだ。どういう意味かは、よくわからなかったが、それでも彼からは、それを成し遂げたいという強い意志が感じられた。
自分もあんな人間になりたい。そして、彼の隣に立ち、ともに歩んでいきたい。真の意味で自分の力となる強さを更に得ることで、きっと近づけるーーーー
「だから、…………こんなところで立ち止まる訳にはいかないのよ!」
ユリアは、立ち上がり叫んだ。
その次の瞬間。
ユリアの体に異変が起こった。
突然、ユリアの体のさまざまな箇所が黒く変色し、左目が赤に変わる。いたるところから、紫の魔力が滲み出し激しい放電現象を起こす。
それを見た鋼精の目から、笑みが消えた。
「呆れた。好きな男について行きたいだけで、そこまでするの? そんなに私が必要なのかしら? 」
そのセリフに、強くうなづくユリア。
鋼精は、身構えると小さな声で独り言を漏らす。
「この子にそこまでさせる男。会ってみたいわね」
×××
「何なんだお前ら」
俺は、前方に立つ面々をまっすぐに睨む。
すると、ガスマスクをつけた人物が俺を指差した。
「やれ。ヴェノン」
刹那。
先ほどまで、はなれたところにいた紫の化け物が、目の前にいた。
「うぉっ⁉︎」
飛び退くと同時に化け物が手のひらを地面に叩きつける。
土埃が上がり、その場に小さなクレーターができた。
「パワー勝負か! おもしれぇ!!」
俺は、着地した足で地を蹴り、化け物の懐まで一瞬にして入り込む。
‼︎
俺のあまりの早さに化け物の他、ガスマスク野郎達も息を飲むのが分かる。
さっさと、このクモのっぺらぼう片付けて、あのマスク野郎をぶっ飛ばす!
拳を構えた俺は、力を集中させる。
「ハーフ・バースト!!!」
叫んだ俺は、ガラ空きとなっている化け物のボディに向かって、ハーフ・バーストの拳を突き出した。
爆風が吹き荒れ、確かな手応えがあった。……楽勝か。
しかし、
「ヴェノン」
ガスマスクの声が聞こえたと思った瞬間、不意に土埃の中から、化け物の手が伸びて来た。
「そんなっ⁉︎」
マトリッ○スさながらの姿勢で、突き出された手を交わした俺は、慌てて飛び退く。
「ハーフ・バーストを耐えただと⁉︎」
地形すら、えぐる一撃だ。回避並べない分かるが、今のは、確かに直撃したはず。なのに……。
驚愕した俺は、化け物を見た。
化け物は煙を両手で払い、シーシーと音を立てながら、クモ足を一つ一つ確認している。
よく見ると、クモの腹部が僅かに凹んでいる。しかし、それは見る見る内に小さくなると、元どおりの肌になる。再生能力があるのか⁉︎
ガスマスクが笑う。
「すげぇパワーだな。でも、そのくらいなら、ヴェノンの敵じゃない」
その直後、ヴェノンが動いた。
奴は、両手のひらを突き出すような姿勢で俺に襲いかかって来た。
俺は、片方の手を交わし、もう一方にハーフ・バーストの拳を打ち込んだ。が、俺の拳が奴の手のひらに触れた瞬間。
ジュッ!
突然の痛みが拳を襲い、体中をものすごい熱気が駆け抜ける。拳が焼けた。
驚いた俺は、とっさに反対の拳で奴の腕を殴り上げた。
千切れ吹き飛ぶヴェノンの腕。しかし、鮮血は散らない。
大きく距離を取った俺は、かすれた声で言った。
「お前……本当に生き物か?」
見れば、ヴェノンの腕の断面は粘土を千切ったようなかんじで、これといった血管や筋肉があるようには見えない。ただそこには、骨らしきものと紫色の肉が詰まっているだけで、体液らしき体液は見当たらない。
俺は、焼けただれた己の右拳を見る。
「……熱の魔法か?」
そう呟いている間にも、奴の腕は元どおりに再生していた。
俺の言葉に、ガスマスクが首をふる。
「熱の魔法か……おしいな。こいつは魔法なんかじゃない」
そして、ガスマスクはマスクに影をつくると、楽しそうななんとも不気味な声でこう言った。
「こいつはぁ、転生能力だ」
刹那
俺の鼻先に、ヴェノンの手のひらがあった。
×××
ヘルセーラの光線が三人の盗賊を撃ち抜く。
すぐさま背後から火炎魔法が飛来するも、飛び上がり反転したヘルセーラは手のひらから放ったレーザーで、攻撃者を排除する。
これで、五十三人目だ。
コウヤにユノを任されてから、数十分。ヘルセーラは、通りにおしよせて来た盗賊やチンピラ魔導師を次々に処理していた。
レーザーの連続照射を繰り返していたヘルセーラは、ひと段落ついたことで、フッと息をつく。
振り返ると、店の戸にもたれかかり舟をこいでいるユノがいる。この非常時に呑気なものでだ。
ヘルセーラは、小さな欠伸をして細くて白い四肢を うーん と伸ばす。
と、その時、妙な感覚が体を駆け巡る。それは、体表面というより内側に響き、染み渡るようなものだった。 ……これはーーーーーー
その意味を理解するなり、ヘルセーラはユノを叩き起こす。
「起きて! 起きてよ! ユノっ!!!」
「ふぁ?」
ユノを激しく揺するヘルセーラは、惚けたような声を漏らす彼女に先ほど仕舞われた最上級のダガーを差し出すと、こう言った。
「コウヤがピンチなのっ! 私をこれに込めて、コウヤに届けて! 急いで! 断るなら、この剣は私が破壊するっ!!!」
その言葉にユノが僅かに反応し、パチリと目を見開く。どうやら、酔いがいくから覚めたようだ。
「ふぁ……って、いつの間に持ってきたのよコレ。というか、破壊ってあなたね……」
そこまで言ったユノは、ふと周囲を見る。
そこで、ユノはようやく事態を理解したようで、だんだんと眠そうだった目が、驚きのあまり大きく見開かれる。
「なっ、なんじゃこりゃぁあああああ!」
火の手の上がる店や壊された店、ヘルセーラが次々に撃ち抜き倒していく盗賊達。ユノは、「はぇー⁉︎」と声を漏らしつつ、レーザー照射を始めるヘルセーラに向き直る。
「コウヤがピンチって、ほんと?」
「うん。現状ピンチではないけど、このまま戦うと必ずピンチになる。伝わってきたイメージだと、右拳が焼けただれてる。多分、攻撃を受けたんだと思う」
ヘルセーラの言葉にユノは、うーんと唸り、ヘルセーラの手にあるダガーに視線を落とす。
この剣。ユノが先代から受け継いだもので、製作者不明。完璧なまでの合金調合率と細かい調整の施された鍛造加工により、魔力効率や脆性、靭性、剛性などあらゆる分野にて非常に性能の突出したものとなっている。
先代曰く、「これ以上なる剣を打つことが、我ら一族の永遠の冒険である」。
幼き頃に聞かされたその言葉は、いつしか自分への重荷となり、時を経るにつれ記憶の片隅へと追いやられていった。自分では無く誰か後世の者に……。そんな風に考える自分がいた。あくまで、自分は自分の望む最高の鍛冶屋でありたい。しかし、この剣に挑めば、それは永遠に叶わぬものとなるかもしれない。ましてや、それを上書き加工すれば、その剣が如何に高性能かを目の当たりにすることとなる。それが怖かったのだ。
でもーーーーーーーーーーーーーー
「お願い! ユノ!」
目の前で、主の危機に慌てる少女。
流石にこの状況で何もしなければ、鍛冶屋以前に人間としてのユノは、ある意味で死んでしまう。プライドなら、死んだって、超えていけばいいと先代は言った。
……しかたないわね。
ユノは、ため息をついた。そして、自嘲気味の笑みを漏らし呟いた。
「…………私、冒険者じゃないんだけどなぁ」
投稿があいたうちに、新しくブックマークして下さった方や、ポイントつけて下さった方! 本当にありがとうございます! 感謝です! さらなる投稿、執筆意欲が湧いてきます! また、感謝の意を込めて、また近い内にイラストをあげたいと考えています!
みなさん、これからもよろしくお願いします!




