十八章「ヴェノン」
今回は、グロ回かな?
ノノント村は、世界有数の特殊技術を持つことで知られる為、それなりに警備も大切となってくる。ましてや、夜となれば尚更である。
警備兵の青年は、同僚の兵達数人と村の門番をしていた。
今夜は星がよく見えるいい夜で、そろそろ夏が近いこともあって僅かに蒸し暑い気候であった。
ときどき仲間と雑談を交えつつ、そろそろ交代の時間だなと思い始めた時だった。
不意にどこからか足音が聞こえ、青年達は体を強ばらせる。
しばらくして夜の闇から現れたのは、一人の青年。
ボサボサの黒髪に見たことの無い黒いマスクで顔を覆い、黒いコートを纏っている。荷物は無いが、とても怪しげだ。
門を通過しようとした怪しげな青年に、警備兵は声をかける。
「失礼。物品の確認をさせていただいてもよろしいですか?」
すると、青年は立ち止まり、警備兵の方に向く。
「あぁ。いいよ」
明るくのんびりとした様子で答える青年。
警備兵達は、青年の装備品を確認する。
コートの下には無数の鎖が巻かれており、一瞬ギョッとしたが、攻撃用ではなさそうだ。日中なら、武装騎士や冒険者が来ても大して気にはとめない。というより、そういう人物が来る村だから気にしないのだが、店が閉まる夜の来客となると、どうしても武装が気になるのだ。
一通り調べたが、特に危険な要素が無かったため、青年を通そうとする。
すると、突然に同僚が青年のマスクを素早く剥ぎ取った。
地面に転がるマスク。
俯き、慌ててマスクを拾おうとする青年。
同僚は、その肩を掴み、青年の顔を確認しようとした。
その時、
「ヴェノン」
青年の口から、謎の一言が放たれる。その声は先ほどとはうって変わった低く不気味な音だった。
その次の瞬間。
青年の肩を掴んだ警備兵が、突然出現した紫色の手に掴まれて持ち上げられる。
振り返った警備兵達は、驚愕した。
そこには、みたことの無い大型の魔物がいた。
全身明るい紫色。のっぺりとした何も無い顔、筋肉質な上半身は人、下半身は六本足のクモ。体長は三メートルはある。
その魔物は、片手に掴んだ警備兵を軽い仕草で弄ぶ。
そして、さも簡単にその兵士を千切り捨てた。
!!!!?
降り注ぐ鮮血。絶叫する警備兵。上下に二分された体が、投げ捨てられる。臓物は散り、残りの警備兵達が目をむく。
マスクを拾い、陰る顔に薄ら笑いを浮かべる青年。
警備兵達が抜剣し、魔物を囲み込む。
青年は、マスクを装着し、パチンと指を鳴らす。
「散らせ。ヴェノン」
刹那。
周囲が赤い世界に変化した。
×××
あれから、俺はヘルセーラとともに何度となくユノに頼み込んだ。しかし、ユノはあの短剣だけは死んでも売れないと言って断った。
仕方ないので、今日のところは諦めて、また明日剣を選び直す方向で、俺とヘルセーラは店を出た。
アルスとユリアは、まだ戻らないとこを見るに鋼精と戦っているのか、探しているのかのどちらかなのだろう。ユノが言うには、中には数日から一週間ほど森に籠もる連中もいるのだとかなんとか。まぁ、腹へったら一度戻って来るんじゃないかな?
俺とヘルセーラは、そのまま外付けの階段から店の二階に上がる。屋根裏にあたる二階は空き部屋になってるらしく、ユノが貸してくれたのだ。
部屋は、手入れもそこそこ行き届いており、椅子に机、ソファー、小さなクローゼット、ベッドもある。
「おぉー! すごーい!」
ヘルセーラは、声をあげるとふわりと宙に浮き上がり、ベッドまで飛んでいく。そのままベッドにうつ伏せにダイブしたヘルセーラは、うっとりとした表情で布団に埋まると、そのままウトウトとし始める。なにコレかわいい。なんか小動物っぽい。こんなのが自分の妖精さんとか、全世界の男子に呪われそうだぜ。
俺は、くぁーっと欠伸を漏らしソファーに腰掛ける。そのまま座っているとなんだか眠くなってきたので、俺は目を閉じた。
明日は、あの剣手には入るといいな……。
そして、一時間ほど経っただろうか。
ソファーで横になって、寝ると寝ないの間でうつらうつらしていた俺は、不意に自分の上に重さを感じて目を開けた。
「っ! ゆ、ユノ!?」
見ると、そこにはユノがいる。しかも、俺の上に馬乗りになって、肩から胸元まで衣服をはだけさせている。
よく見ると、顔が赤く、手には酒の瓶と杯が握られている。……酔ってやがるのかコイツ!?
はだけた胸元から覗く驚くほど白く艶やかな肌に、俺は視線のやり場に困る。
「お、おい……。ユ、ユノさん!?」
童貞少年には、刺激が強すぎるぅぅうう!!!
内心で発狂しつつ、俺はユノをとりあえずどかせようとするが、当の彼女は全くもってどこうとしない。
「ふふぅ〜ん。どうよ? おねぇさんにドキドキしちゃったぁ? ねぇ?」
めっちゃ声が艶めかしい! やめてくれ! マジで! 理性のリミッターが限界だよぉぉおお!!
引きつった笑みを浮かべ、なんとか逃れようとするが、予想外にしっかりホールドされている。ここは、超怪力で……。
「おねぇさん。強い男がいいのぉ。コウヤみ・た・い・な」
そう言って、ユノは俺の両手をソファーに押し付けると、ゆっくりと顔を近づけてくる。
ちょいちょいちょいちょい! ヤバいって、マジヤバい。R-18ついちゃうよ! マジやめろ! そうだ! ヘルセーラに助けてもらえばいい!
俺は、チラリとベッドを見る。しかし、これほど話しているにも関わらず、ヘルセーラが起きる様子は無い。
ユノの吐息が耳にくすぐったい。ユノの体が俺に少しずつ密着していき、心臓が死にそうだ。
「お、おい……。マジでやめ――」
目と鼻の先まで近づいたユノの顔に俺は、たまらず声をあげそうになる。
その時だった。
強烈な爆音が外で鳴り響き、建物が震えた。
ユノと俺は、ソファーから投げ出され、ゴロゴロと床を転がった。
「っんだぁ!?」
俺は、素早く起き上がると、すぐそばで「コウヤぁ〜」と手を伸ばしているユノを助け起こす。
飛び起きたヘルセーラは、目をこすりながらシバシバと眠そうにまばたきをしている。
ユノをソファーに座らせた俺は、急いで外に出ると、隣の建物の屋根に登った。
そして、村の門エリアで何やら騒ぎと火が上がっていることを確認する。
目を凝らすと、盗賊のような人物達と、村の警備兵および村に滞在していた騎士達が交戦していた。中には、人狼やゴブリンといった人外のものまで紛れ込んでいる。
俺は、外に出てきたヘルセーラに「ユノを守れ!」とだけ伝えると、騒ぎの中心に向かって駆け出した。
×××
村の門を入ってすぐの広場は、血の海と化していた。
敵味方問わず、大量の血が流れる様をガスマスクの青年は満足そうに眺めていた。
すると、そこに二人の人物が現れる。一人は若い女。派手で露出の多い真っ赤な衣服に白衣を着込み、髪は純粋な金髪でキツく鋭い目をしている。もう一人は三十代半ばの男で、オールバックの銀髪に顎髭といった人相。タバコをくわえており、黒いチョッキに白いシャツと深緑のネクタイ、細めのズボンをはいている。
男が言った。
「久賀のあんちゃん。指示通り、集められるだけのチンピラをバラまいたが……これでいいのか?」
すると、久賀と呼ばれたガスマスクの青年は、頷いた。
「あぁ。問題ないよ。あいつらは囮。完全制圧も成功したらラッキーくらいで構わんさ。本来の目的は、秘伝書だ。まぁ。そっちに関しちゃ、既に手はうってある」
その言葉に女が手を挙げる。
「はいはーい! 質問! その間、私達は何したらいいんですかぁ?」
見た目に反して、可愛らしく無邪気な声でそう言った彼女に、青年は首を捻る。
「……まぁ、お好きに」
「やったー!!!」
声をあげた女は、スキップ気味な歩調で、その場に倒れている騎士達の死体の山に近づく。
そして、女はとても嬉しそうな顔でその死体に触れた。
しばらく何やら死体達をいじくり回していた彼女は、不意に立ち上がると青年の方を向き、ニッコリと微笑んだ。
「どうせなら、パーティーは楽しい方がいいよね?」
その直後、先ほどまで死体だった騎士達がふらりと立ち上がり、一斉に村の兵に襲いかかった。
「なんだっ!?」「ひぃいい!?」「うわぁあああ!!」
悲鳴を上げる兵士達。
彼女は呟く。
「うーん。時間無いし、素材が悪いからヴェノンは作れなかったけど……これだけいたら楽しいよね?」
手をドロドロの血で真っ赤に染めた彼女は、楽しそうに笑うと手を叩く。
青年は、苦笑を漏らし、暴れまわる化けものを眺めた。
と、そこで男がパチンと指を鳴らす。
「そうだ。どうせなら、大パーティーにしようぜ」
言うなり、男は片目を抑えて天を仰ぐ。そして、すぐさま目を見開き暴れまわる死体騎士を見た。
次の瞬間。その場に、先方で暴れまわる死体騎士と瓜二つの死体騎士達が出現する。
「これで二倍よぅ」
男が手を振ると、出現した死体騎士達が動き出す。
激しさを増す戦場。工房は次々に破壊されていき、青年達はゆっくりと村の中心へと進んで行く。
その時。
何かを感じとった三人は、ふと足をとめる。
直後。
突風ともの凄い衝撃波が周囲を襲い、半分ほどの死体騎士とチンピラ達が消し飛ばされた。
「なっ、なんだぁ!?」
「えっ!? 何? 何これ!?」
慌てふためく二人を制し、青年は突風の発生源を見る。
そこには、一人の少年が立っていた。黒髪に、魔導士風の格好。見たところ魔力は感じない。
拳を振り抜いた姿勢で立つその少年は、ゆっくりと顔を上げると怒りの目で青年を真っ直ぐに見た。
「お前らが主犯か?」
少年の言葉に、青年はハッと笑いを漏らし、呟いた。
「ヴェノン」
すると、少年と青年を結ぶ直線上に全身明るい紫色の肌をした化けものが飛び込んで来る。
ヴェノンと呼ばれたそのクモと人を掛け合わせたような化けものは、少年を確認すると、「シー、シー」と音を出して身構えた。
同じく身構える少年は、拳を青年達に向けると、こう言った。
「俺は、ガルグイユ・クレストのコウヤだ。誰だか知らねーが、ここで暴れる以上、この俺がぶっ飛ばしてやる! まとめてかかって来い!!!」
その声は、夜の闇にどこまでも響く。
ここに、今幕開けんとする激闘の火蓋が切って落とされた。
みなさん! 感想ください! より良いものを書きたいので!!




