十七章「悪意とは静かにされど、確実に」
ふぅ。書いたぜ( ̄∀ ̄)
俺の打ち出した拳がスレスレで交わされる。
鋼精の少女がニヤリと笑うのが分かる。
「アマいね」
「そりゃ、どうかな?」
言うなり、俺は打ち出した拳を捻りながら勢いよく開く。
同時に爆風が巻き起こり、彼女は吹き飛んだ。
「きゅぅっ!?」
俺は、間髪入れずに飛び出し、一瞬にして少女との距離を詰める。
しかし、彼女は空中で態勢を整えると、手のひらを突き出して来た。
目の前で真っ白な光が炸裂。だが、それは予測済み。
俺は、少女の正面で急ストップすると光が炸裂する瞬間に横に逸れる。
直後、輝く光の中からレーザーのようなものが照射され、俺が先ほどまでいた空間を通過した。
目眩ましからの攻撃といったところか。俺は、すぐさま少女の真横からデコピンを放つ。
木々が吹き飛び、少女が宙に舞う。
「つっよっ……」
少女が苦しげな声を漏らす。
俺は、飛び上がると笑う。
「降参してくれてもいいんだぜ?」
すると、少女は不機嫌そうに頬を膨らませる。
「……僕が降参? …………嫌だねっ!!!」
なっ!? 僕っ娘だと…………!?
少女の一人称に驚愕する俺。しかし、その隙がピンチを誘う。
空中に飛び出した俺に、四方から彼女の放った白い光が襲いかかった。
「ぐおっ!?」
地面に叩きつけられた俺は、すぐさま跳ね起きると、続く光線照射を緊急回避。
俺は、横にあった巨木を片手で根こそぎ引き抜く。
少女の表情が引きつる。
「なんて力……。何するの……? ねぇ。何するの!?」
俺は、その問いに答えるべく、木を構え飛び上がる。
「こうするんだよっ!!!」
そう言うなり、俺は木を振り下ろし、空中にいる少女を叩き落とす。
「にゃっ!!!」
少女が声をあげて地に落ち、激しい土埃をあげる。
刹那。
天が輝き始めたことに気づいた俺は、空を見上げる。
「マジかよっ!」
天空には、巨大な魔法陣が出現しており、今まさに魔法を発射しようとしていた。おそらく先ほど空中にいた時に発動していたのだろう。
見ると、地に這いつくばる少女が、傷だらけの顔でニコリと微笑み親指を立てる。
「相打ちといこうか」
「マジかぁああああ!!!!!」
直後、魔法が発動し、巨大な魔法陣から特大の光線が放たれた。
轟音と共にとてつもない衝撃が俺を襲う………………が、
「うぅぅぉおおおっらぁあああああ!!」
怒声をあげた俺は、フルバーストの力で天空に向けて拳を突き上げた。
何かが弾けたような音が周囲にこだまし、魔法陣と光線魔法が一瞬にして払われる。
「……うそ…………」
這いつくばる鋼精が驚愕した声を漏らす。
俺は、瞬く間に彼女の正面に移動すると、その顔面に向けて拳を突き出した。
「ひっ!!!?」
脅えたような声をあげ、固く目を閉じた少女。
俺は、その鼻先スレスレで拳を止めた。
風圧が彼女をよけるように駆け抜け、背後に広がる森を削りとる。
拳を下ろした俺は、その場にペタンと座り込んだ少女に言った。
「俺の勝ちな?」
すると、固く目を閉じたままの少女は、コクコクと強く頷いた。よく見ると、その目尻には大粒の涙が溜まっている。
少し怖がらせ過ぎたかな……?
俺は、なんだか可哀想になったので、目の前にある可愛らしい頭をヨシヨシと撫でてやった。
×××
「はぁあああ!? ヘルセーラじゃないのぉぉおおお!!!?」
店に戻るなり、ユノが絶叫し、俺と鋼精ちゃんは耳を塞ぐ。
「……うるせぇよ。で、なんなんだ? そんなに驚いて」
俺が微妙な口調で呟くと、ユノはワナワナと震えながら俺の隣にいる鋼精ちゃんを指差す。
指さされた鋼精ちゃんは、俺の服の裾をキュッと掴むと僅かに背に隠れる。
ユノが言った。
「この子、めちゃくちゃ強い上に見つけた人手当たり次第に攻撃して再起不能にすることで有名なのよ!? あなた勝ったの!? この子に勝ったの!?」
マジか……。俺は、改めて鋼精ちゃんことヘルセーラを見る。
ヘルセーラは、俺と目が合うとニパッと笑って見せる。犬歯が見えて可愛い。……つか、笑ってごまかすなよ。
俺は苦笑しつつ、再びユノの方を見る。
「まぁなんにせよ。俺はコイツに決めたからさ。とりあえず、作ってくれよ魂剣ってやつ」
俺はそう言って、ヘルセーラの両肩に手を乗せて正面に立たせた。
素直に正面に立つヘルセーラに、ユノはやれやれと言った様子でため息をつく。
「……ほんと、あんた何者なのよ…………。まぁいいわ。作ってあげる」
そう言って、ユノは腰にさげていた布を頭に巻き、俺達に手招きする。
「さっそくだけど、ヘルセーラを剣に込めるから、ついて来て」
ユノは、そのまま店の奥に入っていく。俺とヘルセーラもそれに続いて店の奥へと進んだ。
店の奥は小さな工房となっていた。
釜戸(?)らしきものや、金属を打つハンマーや、台。冷却水。如何にも鍛冶屋って感じだ。壁には、完成した剣や刀が無数に並べられており、その一つ一つが素人目に見てもはっきり分かるほどに上質なものであった。
「えっとぉ。今いい金属が無いから、この剣達の中から気に入ったの選んでよ。それにヘルセーラを込めて打ち直すからさ」
ユノは、そう言って、工房にある長いすにドッカと腰をおろす。……なんか、コイツおっさんくさいな。いちいち仕草とか、適当なとことか。おかげで、せっかく美人なのに色気のいの字も感じねぇぜ。
俺は、そんなことを考えつつ、並べられた無数の刀剣に視線を移した。
正直、あんまり長いのはかえって動きにくいし邪魔なんだよねぇ。かといって長さを抑えると威力とかリーチがなぁ……。モン○ンなら太刀なんだけどねぇ。ゴッド○ーターなら、神○が大剣サイズだし……。つか、刀剣とかD○Mさんとこのオンラインゲームみたいだな。
そんなことを考えながら、刀剣をあさっていると、不意に横にいたヘルセーラが服の裾をクイクイと引っ張る。
「どした?」
振り向いた俺に、ヘルセーラは一本のダガー(?)を差し出した。
ヘルセーラの差し出したそれは、ダガーと言うよりもナイフに近い小振りのもので、刀身は白銀色。刃や柄には、至るところに細かい文字が刻まれており、青白い光を放っている。柄の末端には、何かの魔法石らしき黒い石が埋め込まれていた。
「僕、これに入りたい!」
その直後、店内にユノの悲鳴が上がる。
「ちょっ! ちょっと待ちなさい! それどこから引っ張ってきたのよ! この店一番どころか村一番級の一品よ! というか、そもそも売り物じゃないの!!」
ユノは、すぐさまヘルセーラからひょいとダガーを取り上げる。
「あれが良かったのに……」
少し寂しげなヘルセーラ。
俺も腕を組みうなる。
「しかしなぁ……。ダガーだとリーチがなぁ」
すると、ヘルセーラは言った。
「それは、関係ないよ? 僕の能力だったら目視範囲は全て光線の射程圏だし。魂剣はその能力を自由に発動できるからね」
さらりととんでも無い情報を吐くヘルセーラに、俺は絶句した。
「…………マジ!?」
「うん。でも、能力を最大限いかすにはそれなりの器がひつよ――――」
「ユノ!!! 今のダガー売ってくれ!!!!!!!」
俺は、ダガーをしまおうとするユノの肩をつかみ声をあげる。
「嫌よ! これは、数百年に一度級の超素晴らしいできなのよっ! たとえアルスの紹介と言えど、初来店の人にはっ! って痛い痛い! 掴む力強い!」
「そこをなんとかぁああ!!」
「痛い痛いから、放してっ!!!!」
狭い店内に二人の悲鳴に近い声が響く。
俺は、素早く手を放すと一瞬にして、ユノの正面に回り込む。
そして、世界一美しい土下座でお願いする。
「お願いします!!!」
すると、勢いにおされたのか、わずかにユノが後ずさる。
お?
後退したユノはしばらく考えると、フゥと息を吐き、やれやれと言った様子で微笑を浮かべた。
まさか?
そして、ユノは言った。
「やだ!!!」
×××
コウヤ達のいるノノント村から、はるか先にあるとある港町。
その外れにある酒場にて、彼らは集う。
「なぁ。どうよ? もしも世界屈指の技術ってのが、悪の手に落ちたらよ」
不意にどこからか漏れた呟きに、カウンターでグラスを弄ぶ女が微笑む。
「そんなこと言うまで無いんじゃない?」
その言葉に酒場のマスターである人物も薄く微笑む。
「だよな?」
すると、女のとなりの空間が揺らぎ、そこに一人の男が現れる。
ガサガサに伸びた灰色気味の黒髪、体中に巻かれた無数の鎖に黒いコート。顔には、この世界には存在するはずもないガスマスクが装着されていた。
男は、酒場中にいる連中を見回した。
酒場には数十いや百数人程度の者が集まっており、人間だけでなく、亜人種や魔物まで混じっている。その全てが、その男の次の言葉を待っている。
男は、マスクの下で微笑んだ。
そして、声高に宣言する。
「そんじゃ。始めようか。……ターゲットは、ノノント村。やることは、簡単――――」
そこで言葉を切った男は、カウンターに置かれたグラスを宙に放ると、落下するグラスに手をかざす。
刹那。
グラスが一瞬で、紙を丸めたように圧縮され、小さなガラス玉となって床に転がった。
男は、それを踏み砕き、続けた。
「完全制圧だ」
その言葉は、酒場中に不気味に響き、そこにいた全ての悪意を深く濃く燃え上がらせたのだった。
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