十五章「遠足は帰るまでが、遠足です」
投稿遅くなってスミマセン。いろいろ忙しくて(・_・;)。
と言うわけで、[魔王アスカ]討伐篇が終わります(笑)
まだ、話は続きますからね?
誰だろう。……俺は、背負われてるのか?
徐々に覚醒していく意識の中、俺は体に伝わって来る振動から、そんなことを感じた。
うっすらと目を開けると、視界が動いており、確かに背負われている感覚がある。
「……こ、ここは?」
はっきりしない中、そう呟いた俺に前から返事が返って来る。
「目が覚めたか。……まぁいい。しばらく大人しくしていろ。その体では、動けまい」
見ると、すぐ目の前に誰かの頭がある。
ふわふわと揺れる金髪のロングヘアー。鈴のような声に取ってつけたような強気な口調。……つい早急聞いたような……。
考えている内に意識がはっきりして来る。
「あ! お前さっきのパンツ女!!」
「アルスだ!!!」
赤面して声を上げた女騎士は、怒って勢いよく俺を背から落とした。
「ぐえっ」
腰から落ちた俺が、苦しげな声を漏らすと、アルスは急に慌てて俺を助け起こす。
「だっ大丈夫か?」
「お? おう。それよか、お前……なんで?」
助け起こされた俺は、アルスを見る。
どこから取ってきたのか、アルスは簡単な鎧を身につけており、腰には先ほどとは異なる剣がさしてある。
俺の言葉にアルスは、そっぽを向く。
「ぐ、偶然だ。偶然お前がいたから拾ってやっただけだ。勘違いするなよ? 私はただ偶然――――――」
「コウヤぁあああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
突如、アルスの言葉を遮るようにして、周囲に第三の声が響いた。
俺の名を呼ぶ声に、俺は叫び返す。
「ユリア? おーい! ここだ! ここにいるぞー!!」
セリフを遮られたアルスがむくれる中、瓦礫の向こうから赤い閃光が近づいて来る。
俺は、よいしょっと立ち上がると駆け寄ってきたユリアから距離を取った。
「無事だったのね? 良かった!!」
「心配ありがとう。それよか雷消せ、感電したらどうする」
「あ……ごめん」
雷を消したユリアは、俺の無事を確認すると隣に立つアルスを見た。
「あれ? アーちゃん?」
ユリアは、ハッとしたような顔になる。すると、同様にアルスも目を見開いた。
「ユーちゃん!?」
何やら驚いている二人に俺は首を傾げる。
「え? 何? 知り合い?」
俺の問いにユリアが答えた。
「うん! アーちゃんとは幼なじみなのっ。それにしても懐かしいなぁ。なんでここに?」
ユリアの発言にアルスは、なんて答えるべきか視線を漂わせる。……まぁ、流石に魔王の部下やってるとは言い難いわな。
そう思った俺は、助け舟を出す。
「なんか魔王に良いようにこき使われてたようなんだがよ。さっきまで伸びてた俺を助けてくれたんだ」
アルスがどういう心境で魔王に仕えていたかは知らないが、とりあえずはこういうことにしておく。横目で見ると、アルスもひとまず納得してくれるようで小さく頷いている。
ユリアも、なるほどと真剣な顔になる。
と、不意に俺は大事なことを思い出した。
「……つか、魔王は?」
すると、ユリアとアルスがキョトンとした表情になる。
「あれ? コウヤが倒したんじゃないの?」
「てっきりアンタが倒したのかと思ってたのだけど? でも、ホラ。奴は死んだことには違いないはず」
そう言って、アルスは腕にある魔王の紋章を見せてくる。
「魔王が生きている限り、この紋章は契約印として働き、魔法呪縛の効果を発揮するのだが…………見たところ光も消えているし、魔法呪縛も感じない。ということは、奴は死んだと考えるのが妥当な気がするが?」
俺は首をひねる。
「うーん。なるほど。でも、おっかしいなぁ。確かに大ダメージは与えた気はするんだけど、倒した記憶は無いしなぁ。つか最後俺、凍りづけにされた気がするんだけど……」
確かに俺が凍って魔王が勝ち誇ったように笑ってた気がするんだがなぁ? それとも、打ちどころ悪くて後からクルやつで死んだか? まぁ悪い奴だったし、死んだなら死んだでいっこうにかまわんわけだが……。というか、エルフはぁ?
そこでユリアが思い出したような顔になると、慌てた口調で言った。
「そうだっ! よく分かんないけど、急いで逃げないといけないんだったよ!! 二人共、ついて来てっ!!」
言うなり、踵を返して駆け出すユリア。ミニスカであんなに全力疾走するんだ。ちっとくらい見えないんですかね?
そんな邪念を脳裏に湧かせつつ、俺とアルスはユリアを追う。
結局、ユリアのミニスカは鉄壁でした。
×××
「で、お前これからどうすんの?」
ボート避難完了した俺は、隣に同乗するアルスに聞いた。
ボートには、俺とアルス、ユリアにイリカーナ、フラックとアルファスが乗っている。
イリカーナの操縦する魔導ボートは、島からぐんぐん離れて行き、今は島のシルエットがはっきり見えるほどの距離まで来ている。
俺の問いにアルスは、答えた。
「とりあえず、お前のギルドに行ってみようと思う。そして、母についてキチンと調べるつもりだ。その後までは考えてないが、とりあえずそれが終わらないと、次に進めない」
まぁ、そりゃそうだわな。親が誰かに殺されたってなりゃ、真相突き止めるまでは落ち着けやしねぇ。そういやぁ、どうしてんだろ。マイファザーにマイマザー、そして、マイエンジェルスーパーシスター。やっきになって捜索依頼出してたりしたら申し訳ないどころじゃないな。
そんなことを考えつつ、俺はアルスに言った。
「……そっか。それがいいな。自分で納得いくことが重要だもんな。マスターには、俺が話つけてやる。だから、しっかり調べて来な」
「……すまないな」
アルスはそう言うと、どこか安心したような表情になり、目を閉じる。
すると、不意にアルファスが口を開いた。
「そういえばなんだがよ。結局、なんで緊急避難する必要があったんだ?」
あー。それよ。なんで? 魔王は消えたんじゃなくて?
同じことを考えていたのか、フラックにユリアも同時にイリカーナを見つめる。
「あぁ。それはですね……」
イリカーナは、そう呟くと上着のポケットから一枚の依頼書を取り出した。
「これは、皆さんが手続きをした魔王討伐の依頼書です。しかし……」
そう言うなりイリカーナは、依頼書を指先から放たれた光線魔法で撃ち抜いた。マジか……。
直後、依頼書が蠢き、一匹のコウモリに変身する。しかし、コウモリは撃ち抜かれたことで絶命しており、そのまま海に着水して沈んでいった。
「これは、偽装された依頼書です。よく使われる手口なのですが、今のように使い魔を依頼書に変え、依頼書に二つの依頼を書きます。そして、片方を使い魔に隠させます。依頼者が手続きを完了した後に、使い魔が隠していた方の依頼を表示することで、クエスト終了時に報酬額の半分しか受け取れなくなる典型的な詐欺システムです。でも、これだけなら危険はありません。問題は、今回の偽装依頼書にあるもう一方の依頼です」
イリカーナは、言葉を切ると、島を指差した。
「あれ、島じゃなくて、生き物です」
「あ゛!?」「む!?」「へ!?」「なっ!?」「うそっ!?」
口々に驚きの声を漏らす面々。
「あれ、古代種に分類される巨大な亀です。名前は、グラージネロス。現在は、魔王の結界魔法によって眠らされていますが、魔王が倒された今、あの亀がいつ起きて暴れ出すかわかりません。グラージネロスの討伐は、第一級の高難易度クエストとして扱われています。今回のもう一方のクエストがそれな訳ですが、正直専門の装備無しでは――――」
「じゃ。ついでにソイツも終わらせて、報酬全額受け取ろうじゃん」
そう言って、俺は立ち上がった。
突然の俺の発言に数秒の間、皆がほうけるのが分かる。……? む。そんなにヤバいことか? モン○ンで言うジエン○ーランとか、ヤマ○カミ、ラオ○ャンロン、シェン○オレンとか、そういう感じじゃないのか? デカいし大変だけど、倒せるには倒せる的な奴じゃないの?というかよ。詐欺にかかるとか一番嫌なんだけど。俺さ。電話詐欺とか来たら、弄んで逆に論破したりしたい人なんですけど。(※できるとは言ってません)
首を傾げた俺だったが、すぐに島の方を向くと拳を握る。
「まっ待って下さい! 流石にそれは――」
慌ててイリカーナが声をあげるが、それをフラックが制する。
アルファスも俺の一言にニヤリと笑みを浮かべた。
「まぁ。確かに俺、フラック、ユリアの三人なら専門の装備が必要だったかもしれねぇな。でも」
その言葉の続きをユリアが繋ぐ。
「コウヤなら……。いえ、コウヤとなら、そんなもの無くても達成できる!」
「えっえっ……えぇぇええ!!??」
立ち上がるユリアとアルファスにイリカーナは目を白黒させる。
アルスは、俺を一瞥するとため息をつく。
「確かに……あんたなら、余裕ね」
その声には、どこかこれから起こる出来事への期待を感じられる含みがあった。
すぐさまフラックが、魔法で海底から岩石を引き上げ、ボートの周囲にバリゲートを作り上げる。
俺は、ボートから飛び上がると、二人に声をかけた。
「ユリア、アルファス。頼む!」
すると、二人は同時に頷き魔法を発動する。
「フレイム・メイル! ウォーハンマー!!」
「雷激鎚!!」
二人が振り抜いた火炎鎚と雷鎚が俺の足裏に接触する。
俺は、二人の魔法の勢いに体を任せ、二つ大鎚を蹴り一直線に島目掛けて飛び出した。
風を切り、海上を高速飛翔する俺は、全身に力を込めて拳を構える。
結局、エルフはいなかったし、ステイルうんたら氏も現れなかった。お持ち帰りは、趣味外の女騎士一人。魔王討伐は、痛いし凍らされるし、牢獄の美少女は幻想に過ぎなかった。正直、全然収穫無かったよ。同人誌買いたいよ! ……でも、このメンツで仕事完遂できることは、最高に嬉しい!
それに良く分かった。この世界はやっぱり魔法が全てだ。魔法的権力の強い奴がその他を虐げ苦しめる。そうじゃ無い奴だっているけど、魔王みたいに他人の命を道具としてる奴だっている。
俺の脳裏にはアルテマス・アリスに埋め込まれた人々が浮かんでいた。結局あの後どうなったか分からない。助けられ無かったのが悔しくて仕方がない。それに、これからも今回のような一人の下らない価値観で苦しむ人々がいるのはもっと耐えられない。だから、俺がこれから変えてやる!
「魔力0の俺が! この超怪力で世界に新たな夜明けを告げるんだあああ!!」
水平線に日が顔を出し、周囲が光に包まれる中そう宣言した俺は、有らん限りの全力で拳を振り抜いた。
「フルバースト・スマッシュ!――乖絶拳!!!」
×××
数十キロ圏内、完全に干上がった海。島は跡形もなくなり、爆風で発生した強烈な上昇気流により生成された雲が雨を降らす。
海溝の縁に立つ俺は、ボートから降りて駆け寄って来る仲間達をぼんやりと見つめ、登っていく太陽に視線をうつした。
なんでこの世界に来たのか。どうやってここに来たのか。この超怪力は何なのか。全く持って思い出せない。
でも、いいさ。今、俺には世界を変えるって言う目標ができた。例え記憶が無くたって、明日に進む理由があれば、人間ってのは前に踏み出せる。
同人誌もなければ、エロゲもアニメも無い。正直退屈だ。けれど、アイツらとこのギルドにいれば、その退屈も少しは紛れそうな気がする。
手の甲にあるギルドの紋章を撫でた俺は、どこぞのラノベ主人公ばりのまとめ文句を心中で呟くと、走ってくる仲間達に方へと一歩踏み出したのだった。
「俺、マジかっこいいわ~」
こそっと、本音を呟いてしまう俺。
しかし、その一言がここまでの全てを台無しにしたことは、言うまでもないことだった。
[魔王アスカ]討伐篇END
前回の投稿後にブックマークして下さった皆さん、ありがとうございます!感謝感激して涙が止まりません。(※泣いては無いです)
[魔王アスカ]討伐篇ですが、ようやく終わりました。書いてて楽しかったです。特に同人誌の下りが(笑)
次回からは、ファンタジーには欠かせない武器についての篇を書こうと思ってます。(※と思っているだけです)
では、次回は早めに出せるように頑張ります!
これからも応援よろしくお願いします!




