十四章「忘れかけていた奴らは、遅れてやって来る」
今回は挿絵付きです!初の挿絵、線画は私、色は友人X氏 本当にありがとうございました!! これからもよろしくお願いします!! イラストは、コウヤとユリアです!!
「フラック! ユリア! 無事だったか!?」
東の空が白み始める頃、アルファスは海岸で肩を貸しあって歩く二人を発見した。ストルクとの対決の後、一度城に戻ったアルファスだったが、コウヤと魔王の戦いが激しく撤退せざるをえなかった。
アルファスの声にフラックとユリアが手をあげる。
二人に駆け寄ると、ユリアが言った。
「コウヤは?」
アルファスは、城の方を指す。
「さっきから地響き聞こえるだろ? あいつ今魔王とサシで戦ってやがるぜ」
苦笑いするアルファスにフラックが笑いを漏らした。
「死海の四従士をまとめる魔王と、タイマンはるのか……アイツは化け物だな…………」
と、不意にそれまで鳴り響いていた地響きが鳴り止んだ。
ユリアが不安げな顔になる。
「コウヤ…………」
「心配すんなよユリア。一発で島の一部消し飛ばすような奴だ。奴は勝つ」
アルファスの言葉にユリアは、静かになった城を見つめる。
その時、
「みなさんっ!! やっと見つけました!!」
突然、海の方から声がして三人は振り返る。
「イリカーナ。どうしてここに?」
フラックの言葉に魔導ボートに乗るイリカーナは、早口に応える。
「それについては後ほど説明します。皆さん急いで乗って下さい!!」
イリカーナは、かなり慌てている様子で、ギルド職員の制服があちこち乱れ、髪も潮風で少し浮いていた。
イリカーナに急かされて、ボートに駆け寄る三人。
「コウヤさんは、どこに?」
イリカーナの言葉に、三人が城を見る。
その次の瞬間だった。
!!?
突然、城から黒い風のようなものが周囲を駆け抜け、アルファス達はその余波に吹き飛ばされる。
「なっ何!?」
「なんだこの魔力!?」
「ぐおっ!?」
「ひやぁぁぁあ!?」
起き上がった四人は、城を見る。
「こいつは……魔王か?」
「いや、違うな。さっき感じてたもんとは、全くの別もんだ」
フラックの言葉にアルファスが首を振る。
島全体にビリビリと空間振動を起こすほどの魔力が渦巻く。
ユリアは駆け出した。
「ユリアさん!?」
イリカーナが呼び止めようするが、ユリアは止まらない。
「私、コウヤを探して来る! みんなは先に行って! 絶対追いつくから!」
そんなユリアにアルファスとフラックも駆け出そうとする。
「ユリアさんはともかく! お二人は待って下さいっ!!」
二人の肩に手をかけたイリカーナは、仕方ないとばかりに説明を始める。
「お二人とも聞いてください! はやく避難しないと危険なんです! 命に関わるんです! だって、この島は――――――――――――――――――――」
×××
魔王は、地に叩きつけられていた。それは、魔法によるものでも膂力によるものでも無い。純粋な魔力の圧力によって押さえつけられていたのだ。
「なっ……なんなんだお前は!?」
しかし、魔王の言葉は少年には届かない。
コウヤは、一歩踏み出した。
「返事すら無いってか!」
魔王は、怒鳴ると文字を綴る。
〈機関銃一斉射〉〈剣聖乱舞〉
すぐさま無数の機関銃と聖剣がコウヤを囲むように出現し、一斉に動きだす。が…………。
「罪は深い」
コウヤが呟いた瞬間、無数の機関銃と聖剣が砂となって消えていく。
「それならっ!」
魔王は驚きも早々に、すぐさま氷結魔法を発動させようとする。
「無駄」
コウヤの言葉が、魔王の右腕を消し飛ばす。
!!!?
血しぶきが宙を舞い、魔王の魔法が中断された。
「あああああああ!!!!」
魔王が絶叫し、のた打ちまわる。
コウヤは、詠唱した。
「紫士咎の暗黒螺旋舞」
直後、真っ黒な魔力が魔王に襲いかかり、黒い渦を巻き起こす。
「なっ!? 悪魔魔法だとっ!!?」
闇の魔力に引き裂かれ魔王は、吹き飛び、壁に叩きつけられる。
〈自腕再生〉〈肉体強化〉
素早く左手でそう綴った魔王。すぐさま消し飛んだ右腕が再生する。
その直後、
「漆黒砕鬼・亜閃咬牙」
コウヤの背後に闇から生まれた巨大な鬼が出現する。鬼は、強力な魔力を込めた大爪振り下ろす。
スレスレで回避する魔王、コウヤは更なる詠唱を重ねた。
「邪印黒精の凶星乱撃」
コウヤから飛び出した漆黒の光が、四方から魔王を攻撃する。
「ぐああああああいああああああああああああ!!!」
数百もの光に四方から貫かれ、魔王は四肢を投げ出し、悲鳴をあげた。
宙を舞う魔王は呟いた。
「零式の禁忌魔法……だ…………と?」
その時、コウヤが拳を握る。魔王は目をむいた。
「マジか…………」
次の瞬間、コウヤが拳を振り抜いた。
黒い魔力が拳に圧縮され、風圧と共に放たれる。
フロアが完全に崩壊し、[アテルマス・アリス]が崩れ去る。魔王は、魔力と風圧の渦に消えていく。
「クソがああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
小さくなっていく魔王の声。崩れ去る城。
崩落する城の瓦礫。その中でコウヤは、無言で立ち尽くしていた。
そして、
「まだ……裁かれし者は多い」
そう呟いたコウヤは、その場に倒れる。
倒れたコウヤから黒い魔力が消え、島全体の振動がおさまった。
そんなコウヤに無数の瓦礫が降り注ぐ。
完全に意識を失った少年は、城の地下深くへと消えた。
×××
魔王は、折れた両腕と血まみれの左脚を引きずりながら、瓦礫の中を進む。顔も額から垂れた鮮血で真っ赤に染まっている。
「クソッ……あのガキがっ…………クソッ」
かすれた声でそう呟くと、魔王は血を吐き出す。
その時だった。
「……逃がさんよ。アスカ」
「なっ!?」
どこからか響いた声に魔王は硬直する。
すると、不意に魔王の影が蠢いた。影はそのまま起き上がると、魔王の正面に動くと人の形を形成する。
「……相変わらずの神出鬼没ぶり…………全くもって何がしたいんだアンタは……なぁ? ステイル・ヴェイン」
現れたステイル・ヴェインに、魔王は口から漏れる血を拭う。
ステイル・ヴェインは言った。
「私の目的は変わらんさ。全てはあのお方のため。だが、今は……」
そこでステイル・ヴェインは言葉を切るとマントをはぐり、その下にある紋章を見せる。
龍の顎。
[闘龍の古証]を示す紋章が、そこにはあった。
ステイルは続ける。
「…………だが、今は、ガルグイユ・クレストの一員として、ギルドに不利益となろう分子を排除せねばならない」
言うなり、ステイル・ヴェインの足元に巨大な魔法陣が出現した。
「あんたもガルグイユかよ。…………どうも俺は、闘龍との相性が悪いようだ」
抵抗する力すら無い魔王は、諦めたように笑いを漏らすと目を閉じ、小さく呟いた。
「 」
次の瞬間、ステイルの魔法が発動し、魔王の周囲に黒い波が立つ。
「……俺は終わらない」
その言葉を最後に魔王こと[有御崎 明日加]は、波に飲まれ完全に消滅した。
×××
〈転移〉
魔王の文字によって転移させられた女こと、転生者ユキエは転移先の草原で大きな伸びをした。
「持ってきたわよ。アテルマス・アリスのデータ」
不意にそう漏らしたユキエ。
すると、正面の空間が歪み、そこから一人の少女が現れた。
年は、まだ十に満たないほどの子供で、青と赤の左右で色の異なる瞳を持ち、ゴスロリを思わせるドレスを纏っている。
髪は血のように黒ずんだ赤。アップ気味のツインテールが真っ赤な髪をよりいっそう美しく見せていた。
少女はニッコリ微笑むと会釈し、腰の袋から四つの魔法石を取り出した。
「これが報酬?」
魔法石を受け取ったユキエは、その四つを不思議そうに眺めた。そんなユキエに少女は近寄るとピョンと跳ね、何やらそっと耳打ちをする。
その直後、ユキエは大きく目を見開いた。
「……なるほどね。相棒を失っただけはある報酬ね」
ユキエはそう言って、少女にソフトボールサイズの水晶を手渡した。
「また、依頼してくれるかしら?」
ユキエの言葉に少女は、ただニコリと微笑みドレスの裾を軽く持ち上げて見せる。
そのまま、再び空間に消えていく少女を見送り、ユキエは呟いた。
「あんな道具に魅了されたあなたが悪いのよ?…………アスカ」
広大な草原に消えていくその言葉には、思惑的含みと、強い悲しみが込められていた。
新しくブックマしてくださった方々ありがとうございます!!
次回、魔王篇終結予定です。
これからもよろしくおねがいします!!




