十三章「紅の継承者」
そろそろ魔王篇終盤ですね。頑張って書きます。現在、私の書いたこの作品のイラスト線画に、友人が色を付けてくれています。近々公開できると思いますので、見て下さいね?
「フレイム・メイル! ネザー・ウィプス!!!」
ストルクの作り出した火炎の鞭がアルファスに迫る。
「ふっ」
アルファスは手をかざすと、迫る炎鞭を炎に戻し、手の内におさめた。
「炎砕連裂球」
詠唱の直後、アルファスが受け止めた炎が流星の如く飛び出す。無数の炎星は、四方から一斉にストルクを襲う。
「があああああ!!」
声を上げ、吹き飛ぶストルク。
アルファスは、全身に纏う炎を青色に変える。
「蒼炎龍の焔」
刹那。
アルファスの背後に青炎のドラゴンが現れる。アルファスの炎より生まれしドラゴンは、その大顎より放たれし灼熱でストルクを灼く。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
全身を灼かれ、黒煙をあげるストルク。
アルファスは、今度は炎を黄金に変えた。
「金剛鬼の轟炎拳」
黄金の炎が螺旋を描き、爆炎の拳がストルクを捉えた。
爆音が響き、ストルクが城壁を砕き、城外に弾き出される。
「……カッ……かはっ…………」
地に這うストルクは、呼吸するのが精一杯で、既に目が虚ろだった。
アルファスは言った。
「まだ、やるのか?」
すると、ストルクは呟く。
「……コロ……ス。…………ぜっ……たい…………コロ……」
朦朧とした意識の中、まだヘイトな感情が残っているとは…………。
アルファスは、冷ややかな目でかつての兄弟子を睨むと、炎を通常の色に戻す。
「お前には、弟子仲間を全員殺したこと、師匠を殺したことと沢山の罪がある」
そう言ってアルファスは、炎を構える。
「炎に裁かれよ! フレイム・メイル!!――――――」
その時、不意にアルファスは何かが肩に触れた気がして魔法を中断する。
振り返ったが、そこには何もいない。
ストルクに向き直ったアルファスは、目を見開いた。
「師匠!?」
気が付けば、周囲は光に包まれており、横たわるストルクの隣に、今は亡き炎魔王サイラがいた。
それどころか、その周りには、かつての弟子仲間達がいる。
「……どうして?」
呟くアルファスに、サイラは言った。
「もういいさ。お前、このガキと同じ罪を背負いたいのか?」
「っ!」
息を呑むアルファスに、サイラはあの頃のようにニヤッと笑ってみせる。
「お前は、皇の炎を継ぐ者だ。復讐に捕らわれるな。そんなことしなくても、お前はもう立派に歩いて行ける。ただ前を見ろ。何の為に生きるのか。確かに折り合いは、付けられないさ。でもよ。ストルクの坊主を殺しても、俺達は真の意味じゃ喜ばねぇ。俺達が望むのは、炎が光であること。そして――――――――」
そこでサイラは、アルファスに近づくとその頭をガシガシと撫でる。
「――お前が一生懸命生きることだ」
アルファスは、その言葉に炎を消した。
とても懐かしかった。がさつなのに温かい。昔何度もこのようにして、沢山のことを教わったんだ。
「……そろそろ時間だ。…………またな、アルファス」
そう言って、サイラと弟子仲間達は、消えていく。
アルファスは、震える声で行った。
「待ってくれよ師匠……。俺だって話したいこと……沢山あるんだ。仲間も出来たし、強くもなった。――だから……行かないでくれよ――オヤジ!!!!」
しかし、消えていくサイラはかぶりを振った。
「炎に光をさせアルファス。……俺達は、お前をずっと見てる」
その言葉を最後に周囲の光とサイラ達が完全に消える。
残されたアルファスは涙を拭い、その場で気絶しているストルクを一瞥し踵を返した。
アルファスは、城に戻りながら呟いた。
「炎に光か。悪いな師匠。あんた間違ってるぜ? 炎が〈光〉なんだよ」
×××
「お前、もう一回言ってみろ!!!!!」
怒声を上げた俺に、魔王は凄みのある表情で言った。
「ああ!! 何度でも言ってやる!! 他人の命なんざクソ食らえだ! 捕まる奴が悪い。そもそもこの世界の命なんざ、全部俺の駒でしかないんだよぉお!!!!!!」
「てめぇえええ!!!!!」
俺は、怒りを爆発させる。
一直線に飛び出した俺は、拳を握り叫んだ。
「ハーフバースト! オーバー50%!! 波爆拳!!!!」
高速で打ち出した二連撃パンチがフロアを隆起させる。一発目の爆風に二発目の爆風と威力を上乗せする一撃。
魔王は、歯を剥き出して笑い、氷壁を作る。
〈強化〉〈風圧耐性〉〈衝撃耐性〉〈弾力〉〈衝撃吸収〉
氷壁に上乗せされた文字の力が、壁を完全強化する。
しかし、爆風と接触するなり氷壁は完全に粉砕した。
「マジかよっ!?」
「魔王ぉおおおお!!!!!」
俺は、魔王がすぐさま作り出した巨大な氷腕に拳をぶつける。
衝撃波が広がり、魔王が後退した。
氷腕は、一瞬にして亀裂が入り破壊される。
俺は、魔王目掛けて回し蹴りをお見舞いする。しかし、魔王は初期モーションを予測し緊急回避。
俺の猛烈な蹴りから斬撃のようなものが飛び出し、フロアの壁を砕く。
〈百丁火縄銃〉〈剣聖乱舞〉
刹那、俺を取り巻くように無数の剣と火縄銃が出現し、一斉に火を噴いた。
俺は、弾道予測を反射的に行い、その間を縫う。その間、飛来する剣を次々に弾き破壊していく。
「死ねやガキィィイ!!!!」
回避行動と防御に集中する俺に、魔王はフロアから次々と氷槍を出現させた。
「うっせんだよ! エロ同人マニアがあああ!」
「お前もだろぉがああああ!」
俺は、魔王の怒声をかき消すが如く、拳を振り抜いた。
火縄銃、剣、氷槍が消し飛び、魔王が余波で壁に叩きつけられる。
今がチャンス! そう思った直後、頭上から氷塊が落下し俺に直撃。
「ぐあっ!?」
氷塊を破壊し、立ち上がった俺は、同様に立ち上がる魔王と対峙する。
俺は、ひさびさに上がる息に肩を上下させる。魔王の方も息がかなり上がっている。ダメージは、あちらの方が大きいが、攻撃バラエティーは向こうが勝る。今の形勢がいつまで続くか分からない分、早期決着が望ましい。
俺は、フロアの奥にそびえる[アテルマス・アリス]を一瞥する。……早いとこあれを止めなくてはならない。多分あの人達は助からないだろうが、一秒でも早く苦しみから解放してやりたい。
「そろそろ……終わりにしようぜ……魔王」
そう言った俺は、ハーフバーストを解除し、全身に力を込めた。
その言葉に魔王もハハッと嬉しげな笑いを漏らす。
俺は、拳を強く握ると弓を弾くようなモーションで拳を構えた。
魔王も詠唱を始める。
「万物の始祖開闢の氷精よ。我が氷魔に応え、その真髄たる大いなる氷結をここに示せ――――」
魔王を中心にフロアの気温がぐっと下がるのが分かる。魔力の質と量からして、これが奴の必殺魔法。半端な一撃ではダメだ。100%で決めてやる!!
俺は、有らん限りの全力で地を蹴った。同時に魔王が詠唱の最後を唱え、俺の怒声と交差する。
「フルバースト・スマッシュ!!!!」
「氷華絶対零葬!!!!」
次の瞬間、突き出しかけた俺の拳が先端から一気に氷結する。
「なっ!? なんだ!?」
声をあげる間にも氷結は進み、俺の全身を凍りつかせる。力も入らず芯から凍りついていくように感じる。
「こんっのっ――――――」
俺はそれ以上声をあげられず、全身が完全に氷結してしまった。
周囲には、俺を中心に氷が花の弁のように咲き、フロアは厚い氷の世界に閉ざされた。
白んでいく視界、遠のいていく意識。俺が最後に聞いたのは、フロアに響く魔王の勝ち誇ったような高笑いだった。
そん……な――――――――。
×××
魔王は笑った。
「はっはぁあー!!! 勝ったぁああ!! クソガキがぁ!! 危うく死ぬとこだったぜクソ野郎!! ははははは!!!!」
魔王は、フロアの中心にそびえる氷柱を眺めた。
氷柱の中には、先ほどまで戦っていた少年が完全に凍りつき眠っている。
[氷華絶対零葬]。一度の使用に莫大な魔力を消費する大魔法だ。世界では禁忌の魔法と言われているらしが、んなこと知るかよ。
しかしまぁ、体中に〈魔力増強〉の文字をいくつも書いていなければ、発動出来なかった。あらかじめ書いておいて正解だった。
「しっかしよぅ。この際だ。もう使っちまおう」
そう呟いた魔王は、[アテルマス・アリス]に歩み寄る。
現在、このフロアの気温は急激に下がっている。これ以上下がれば、装置に埋め込んだ命達が死んでしまう。生きている命を取り込まねば意味がないため、急がねばならない。
「さぁて、少しまってくれよぅ? 愛しのアリスちゃーん?」
おどけた調子でそう漏らす魔王は、ふらつく足取りでようやく装置にたどり着く。
?
魔王は、不意にどこからか濃い魔力を感じて、動きを止めた。
慌てて周囲を見回すが何もいない。しかし、魔力の反応はどんどん大きくなっていく。
「……なっ、なんだこの魔力? こんな大魔力ありえねぇ」
魔王は、動揺しその場に腰を抜かした。
「誰だ!? どこにいる?」
返事は無い。
ビリビリと肌にひりつくような魔力に怯えた魔王は、キョロキョロと辺りを見回す。
そして、見つけた。
「ば…………馬鹿な…………」
魔王の見つめる先、そこには一本の氷柱。もちろんその中には、先ほどの少年がいる。
おかしい。奴は完全に眠っている。体組織全てを凍結させているのに何故魔力が溢れている? しかもなんだこの馬鹿げた魔力は……。先ほどまで微塵も魔力を見せなかったにも関わらず、これほどの魔力。おかしい。…………おかしい。おかしい。おかしい。おかしい!!
その時だ。
突然、氷柱に亀裂が走る。
「ひっ!?」
怯える魔王の前で、氷の中の少年がピクリと動く。
次の瞬間。
破砕音とともに氷が四散する。
魔王の前でフワリと着地した少年に黒い高濃度の魔力が集まって来る。
少年の様子を見た魔王は、呟いた。
「……気絶してんのか? なのに、何故……」
目を閉じうなだれる少年は、フラフラと数歩前に出ると、正面に手をかざす。
そして、先ほどとはまるで別人の声でこう言った。
「これより、貴様に裁きを下そう」
その声は、何人もの老若男女の声を重ねたようなもので、そこからは何の感情も感じない。
無機質さが返って不気味に響き、魔王はフロアの気温が更にぐっと下がるのを感じていた。
次回辺りに忘れかけてたあの人が登場予定です(※予定です)
新たにブックマークしてくださったお二方、ありがとうございます!!
次回も頑張って書きますので、よろしくお願いします。




