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十二章「同人誌派閥対決」

 テスト明けにして、ひさびさの投稿です。今回は、熱いですよー(笑) その分変な会話もありますが(笑)


 俺は、目の前に立つ魔王と名乗る人物を見た。

 黒目に逆立てた黒髪のイケメン。年齢は20代前半、身長は170~180と言ったところだろうか?

 格好は、赤黒いシャツに黒いコートを羽織っている。正直、玉座にいなければ魔王とは思わない。どこぞのギルドの強者かな? って感じだ。

 その背後の女は、えらい美少女だが、黒髪黒目とこちらも魔王の幹部という感じがしない。

 だが、そんな見た目よりも俺が気になるのが、奴らの雰囲気というか奴らそのものの違和感。

 俺は言った。

「お前ら、日本人だろ!」

 その一言に、魔王は待ってましたとばかりに答える。

「ああ! そうだ。俺達は、バリバリの東京都民だったぜ」

 すぐさま返って来た返事に、俺は驚く。自分以外にも転生者がいたことにも驚いたが、それ以上にソイツが魔王をやっていることにだ。 つか、東京なんだ……羨ましい。オラなんて本州の端のあたりですぜ?

 っていうか、転生者二人して何してんだよ……。

「あんた、どういうつもりだ? なんで魔王なんざ……あ。いや待て……」

 魔王たる青年に問いかけた俺だったが、すぐに訂正すると考える。

 転生者である以上、奴らも俺同様に何かしらのチート能力を持ってるはずだ。俺は考えもしなかったが、世にはチート能力を手にしたら、魔王になってやるぜ! って考える奴が割といる。近年の中二病が影響しているのか、ひねくれ思考が増えたせいか、どちらにせよ。この質問は、愚問だ。

 というか、俺が平和過ぎたのかなぁ? もしかして、みんなチート能力手にしたら、魔王とか悪者やりたいの? 俺みたいに悪者倒して金稼いで美女探しとか、考えないの?

 あー。でも、魔王とかちょっと悪ぶる方がカッコいいとか思っちゃうのかなぁ?

 そういえば、昔好きだったAちゃんが友達と「晴島くんいい人だけど、いい人で止まるよねぇ」とか言って、クラスの運動部エースのチョイ不良と付き合い始めたことがあった。……チョイ不良の方がウケんの? 違うよね!? マジメがいいよね!?

 過去の忌々しい記憶に、つい涙目になる俺は、魔王をにらむ。

「ワリィが魔王さんよ。本当ならいろいろ語らいたいとこなんだが、こちとら仕事なんでね。問答無用で、ぶちのめさせてもらうぜ!」

 言うなり飛び出そうすりと、不意に魔王が無言で手を突きだし、それを制した。

「まぁ待て、それよかガキ……テメェに聞きたいことがある」

「聞きたいこと?」

 俺が復唱すると、魔王は鋭い視線をこちらに向けると低い声音で言った。


「二次創作のエロ同人……どう思う?」


 暫しの静寂が空間を包む。

 本来、こういう状況で変なことを聞かれた場合、俺は問答無用で攻撃しただろう。

 しかし! 今問われているのは我らが聖書[同人誌]! しかも、奴は真剣な眼差しで問いかけて来ていると来た。無碍になど出来ない!!

 俺は、魔王と暫しの間にらみ合う。

 確かに難しい問いである。ただの二次創作同人誌ではない。二次創作でエロ同人と来た。ノーマル二次創作の良し悪し、その奥深さについては常日頃から討論が繰り広げられる世間(※コウヤの妄想です。)。ただでさえ、判断およびその素晴らしさと深さの謎多き同人誌について、エロを付与した質問を投げかけて来るとは…………こいつやるな。

 俺はたっぷりと時間をかけると答えた。


「神」


 神。そう。その一言につきる。無駄に理由や素晴らしさを語る必要など無い。ただこの言葉さえあれば、十分だ。

 奴ほどの人間なら、例え共感できなくともその内に込められた意味を理解するはずだ。いや、はずでは無い。絶対だ!

 俺の回答に魔王は、深く息を吐く。

 そして、

「残念だが……俺は、そうは思わねぇ。でも理解したぜ。お前の二次エロ同人にかける思い。だからこそ、オリエロ同人の素晴らしさを教えてやる!!! そして、そのまま地獄に送ってやるぜぇえええ!!!!!」

 言うなり奴は、飛び出した。

 俺は、ハーフバーストで地を蹴った。

 迫る魔王が空中に文字を綴る。

〈斬撃〉

 直後、空間から斬撃が飛翔し俺を襲う。

「うおっ!?」

 すれすれで回避する俺の頬が、斬撃をかすり一筋の鮮血を散らす。

 俺は、慌てて後退すると拳を握る。風圧で吹き飛ばしてやる!

 が、顔を上げた俺は、奴が次に書いた文字に目をむく。

〈肉体強化〉〈ガドリングガン〉

 直後、機械音と共に無数弾丸が飛来した。

 飛び上がった俺は、弾丸を回避。ガドリングガンは相当の重量だ。流石に上に持ち上げて撃つことは――――。

 魔王は、軽くガドリングガンを持ち上げると空中の俺めがけて発砲して来た。

「そのための強化かぁぁあああ!!!!」

 悲鳴をあげる俺は、パンチを繰り出し、弾丸を吹き飛ばすと、着壁し一気に壁を走った。

 背後を弾丸が追いかけて来る。こぇぇえええ!!!!!

 走りながら俺は、天井に向かってパンチを繰り返す。

 すると、パンチの風圧で崩壊した天井が降下して来た。

「マジかよっ!?」

 今度は魔王が声を上げる。

 魔王はガドリングガンを投げ出すと、素早く文字を書く。

〈シールド〉

 出現したシールドが魔王と女を守る。

 魔王は、すぐさま新たな文字を描くと女に向かって飛ばした。

〈転移〉

 女にその文字が触れた瞬間、女がその場から姿を消した。

「逃がしたってか?」

「あいつの能力は、戦闘向きじゃないんでな」

 魔王の言葉を聞くなり、俺は地を叩いた。

 その直後、フロアの床が完全崩壊する。崩壊したのは、その下何階にも渡っており、魔王と俺は下の階へと落ちていく。

〈炎球連射〉

 四方から襲いかかって来る炎球を瓦礫と瓦礫を飛び渡ることで交わす。

 俺は一気に瓦礫を蹴ると、魔王に接戦し拳を振った。

〈身代わり〉

 俺の拳が瓦礫を叩く。粉々になる瓦礫を後目に、俺は魔王を目で追う。

 瓦礫を身代わりにした魔王は、俺同様に落下する瓦礫を飛び渡り、距離をあけていく。

 俺は、瓦礫を蹴ると、一気に地面まで飛び、最下フロアに着地した。

 降下して来る瓦礫と魔王目掛けて、俺は、拳を突き出した。

「ハーフバースト! オーバー15%!!! 暴砕拳!!」

 高出力のパンチが炸裂し、轟音と爆風が大気を震わせる。

 迫るパンチのエネルギーに魔王は素早く文字を書く。

〈シールド〉

 しかし、出現したシールドはパンチの風圧で一瞬にして砕かれた。

「馬鹿な!?」

 声を上げた魔王がパンチの爆風を受ける。

「ぐぉおおおおお!?」

 魔王は、そのまま天高く投げあげられると、一気に降下する。

 が、意識はあるようで空中に文字を書く。

〈転移〉

 すぐさま、フロアの少し離れたことに魔王が現れる。

 魔王は、ボロボロのコートを脱ぎ捨てると笑った。

「いやぁ……ははは。体中に防御用の文字書いてなかったらヤバかったな。って言っても、今ので大半がオシャカになったがな……」

 そう言うと、魔王はコキリと首を鳴らす。

 俺は言った。

「ヤバいとか言うわりに降参はしないんだな」

「あ゛? そりゃ、まだこっちも手が残ってるからな。全部出し切るまでは、負けた気にはならねぇなぁ。それともなんだ? 一発当てただけで勝った気かよ。え?」

「はっ! まさか。こっからが燃えるってヤツだろ!」

 俺は魔王の言葉にそう答えると、気合いを込めて拳を打ち合わせた。

 すると、突然魔王が目を閉じ、両手の平を広げる。

 刹那。

 魔王の肉体から目に見えるほど濃厚な魔力が流れ出す。

「あんたっ!? 魔力があるのか!?」

 驚く俺に、魔王は言った。

「第二ラウンドだ」

 直後、魔王が目を見開き、手の平を振り上げた。

 それにあわせて、フロアが一瞬で氷結する。

 俺は足場が凍りついき、僅かに反応に遅れた。

 その僅かな間に、魔王は巨大な氷塊を飛ばして来る。

「がぁっ!!」

 氷塊が直撃し、吹き飛ばされる俺に、魔王は、氷の礫を連射した。

 壁に激突した俺を無数氷礫が襲う。

 息つく暇もない怒涛の連続攻撃に、俺は呻きを漏らす。……これが、奴の魔法……何つぅ威力、あの文字の能力+この魔法はチート過ぎるだろ!?

 しかし嘆いたところで現状は打開出来ない。

 俺は、踏ん張ると一気に横に飛び退いた。

 土煙から飛び出した俺は、ワンステップで切り返すと魔王に向かって飛び出す。

「だから?」

 そう呟いた魔王がパチンと指を鳴らすと、俺の足元から氷の塔が出現し、俺を突き上げた。

「ぐぅっ!!」

 歯を食いしばった俺は、空中で魔王目掛けて拳を振る。

 爆風と共に塔が消し飛ぶ。魔王は回避したようだが、代わりにその空間に大穴が空いた。

「チート野郎が!!」

 吐き捨てるように叫んだ魔王に、俺は怒鳴る。

「その言葉、まんま返すぜっ!!」

 向かって来る氷塊を砕いた俺に、魔王が叫ぶ。

「オリエロ同人は、いいぞ!!!」

 すかさず俺も叫び返す。

「んなこと分かってる! でも、二次エロ同人だって素晴らしいんだああ!!」

 俺の拳が発動直前の魔法陣を砕く。魔王は、舌打ちすると氷を生成しつつフロアを滑って行く。

「いいかガキっ!! もともとエロ目的でかかれてないキャラクターってのはなぁ! そのキャラクター独特の良さってもんがある! 真にそのキャラクターを愛するなら、その良さこそを愛するってもんが粋だろうが!!」

「ざっけんな魔王!! そういう独特性の中に、もしかしたらこんな意外な一面があるかもしれないって胸膨らませるから楽しいんだろうがぁあ!!」

 地面から次々に突き出す氷塔を交わし、俺は魔王に迫る。

「ガキっ!! テメェ全然分かってねぇぞ! 確かにそういう一面が見れる分、同人誌は素晴らしい! でも! 意外な一面とエロい一面は、別もんだろぉがああああ!!!!」

「んなもん。書く奴の自由だろぉがあああああ!!!! 嫌なら、見なけりゃいいだろぉおおお!!」

 俺の蹴りが氷の世界を砕き、魔王を弾き飛ばした。

「がぁああああ!!!」

 魔王が壁を何層にも渡って突き破り、飛ばされていく。

 俺は、拳を構えて地を蹴り、その後を追う。

〈減速〉

 魔王は、空中で文字を綴ると同時に氷でブレーキをかける。

 最下にして最奥のフロアで漸く止まった魔王は、向かって来る俺目掛けて氷のドラゴンを作り出した。

 氷竜が俺を丸呑みにする。

「ぐぅっ!! なっめんなコラァアアアア!!!」

 氷竜の口内で体を縮めた俺は、一気に四肢を突き出し伸び上がる。

 爆音と共に氷竜の大顎が爆散し、氷竜そのものが崩壊した。

 着地した俺は、口元を拭うと、同じくして土埃を払う魔王とにらみ合う。

 と、不意に俺は、そのフロアにある何かに気が付いた。


「…………おい。何だよ……これは」


 そこには、全長五十メートルはあるであろう筒状の装置。無数の配線で繋がれたそれには、数多の人間や魔物が埋め込まれており、苦しげな呻きを漏らしている。

 唖然とする俺に魔王は、あちゃーと言った様子で、頭を掻く。

「あぁ。こいつは、魔導源よ。…………俺を本当の魔王にするためのなぁ」

「……どういうことだ」

 俺が魔王を睨むと、魔王は二ヘラと笑みを浮かべると、続けた。

「こいつの名は[アテルマス・アリス]。この世界にかつて存在した偉大な魔王魔導士クレイヤ・マーシルファに近づくための礎! 伝承によれば、クレイヤは数多の生命を体内に蓄積しその力を糧として偉大な魔法を司ったとされる。この装置は、いくつもの人間や魔物の生命を蓄積し純度を上げることでより俺が取り込みやすいものにするものだ!」

 クレイヤ・マーシルファ? その名を聞いた時、不意にどこか頭の奥が痛み、俺は顔をしかめた。

 俺は、違和感を無視して呟く。

「……テメェ、そんな私欲の為にこれだけの命を犠牲にすんのか」

 沸々の湧き上がる怒りを込めた口調に、魔王が冷ややかな目になる。

 俺は、魔王の次の言葉を待ち、真っ直ぐにその目を見つめた。


 交差する二人の視線。張り詰めた空間に響くのは、装置から漏れる呻きと、その不気味なこだまだけであった。





 最近、新たにブックマークして下さった方、ポイント付けて下さった方、本当にありがとうございます! 皆様の応援のおかげで最新話を書く元気が湧きます!

 これからも、よろしくお願いします!(≧∇≦)

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