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十章「剣に拳で挑むのは、無謀なのだろうか?」


 腹部に紙一重で振り抜かれた剣の切っ先。

 俺は、回避すべく引いた足を一歩踏み込むと、牽制の拳を振る。拳の風圧にアルスは、後退を余儀なくされた。

「フレイム・メイル!ブレイクハンマー!!」

 アルファスの変身した火炎の大槌が、体勢を立て直すアルスを襲う。

 爆音と共に大槌が大地に叩きつけられ、地に放射状の亀裂を走らせた。

「決まったか!?」

 その直後、爆炎の中からアルスが飛び出してくる。彼女は、剣を上段に構え一気にアルファスとの距離を詰めた。

「フレイム・メイル!ソルスソード!!」

 アルファスの顕現させた紅蓮の炎直剣が、アルスの剣を受け止める。が、つまぜりあいに耐えられず、アルファスは押しとばされてしまう。

 吹き飛ぶ、アルファスを飛び越えた俺は、膝蹴りの体勢で彼女に突進する。

 アルスは、それを難なく回避。続いて突き出された俺の拳を剣で受け流し、斬撃を放つ。

 俺は、右肩を引いて斬撃を交わし、続く第二撃を剣鍔を弾くことで抑える。

「やるわねっ」

「どうもっ!」

 剣と拳がぶつかり合い、周囲に激しい接触音が響く。

「伏せろっ!」

 アルファスの声に身を伏せた直後、頭上を火炎の渦が通過、アルスを直撃した。

 螺旋回転した彼女は、火炎に焼かれ激しく地面に叩きつけられた。

 が、すぐに立ち上がった彼女は口元を拭うと、すぐに剣を構えなおす。

 俺も「はっ!」と苦笑いを浮かべ立ち上がる。アルファスも、荒い呼吸でゆっくりと体勢を立て直す。

 戦闘が始まって三十分、双方一歩も譲らず、時間だけが過ぎていく。互いに消費と怪我が見られ出し、ここからが佳境なのだと実感させられる。しかし、二対一な分、こちらに少し分があるように感じる。

 正直なところ、美少女騎士相手に男二人がかりとかズルに思えて仕方ないが、そうでもしなけりゃこっちが殺されてしまう。……転生して分かったが、戦闘においてズルいとかそんなもんは関係ない。向こうがどんなにズルい手を使おうと審判など居なければ、訴えることも出来ない。そしてそれは、逆にも言えたこと。つまり――――

「どんな手だろうと、勝てばいいっ!」

 俺は叫び、拳を構えて飛び出した。


 その時、


「星刻呪、解放!!」

 アルスが叫び、途端に彼女から光が解き放たれる。

 放たれた無数の光珠は、一斉に俺に向かって襲いかかり、その強力な星属性魔力をぶつけて来た。

「ぐああっ!?」

 魔法をまともにくらい、吹き飛ばされた俺。なんとか受け身をとるが、ダメージの大きさに膝をつく。……まともに受けるのは、初めてだが……いってぇよ魔法っ!

 俺は、歯を食いしばる。

「星刻呪……星属性の呪い魔法か」

 アルファスはそう呟き、彼女の周りに浮遊する光珠に警戒する。

「……呪い魔法?」

 俺が聞き返すとアルファスは答える。

「聞いたまんまさ。呪いを受ける代わりにその対価に見合った力を得られる古代魔法の一つだ。最近じゃ、その呪い自体を嫌う奴が多くて、使い手は居なくなって来てたんだがな…………珍しいどころじゃねぇな……ましてや、星属性なんてよ。希少中の希少だぜ」

「……とりあえず、つえーってことな」

「ざっくり言えばな」

 アルファスは、そう答えると、アルスに声をかける。

「おい。サレンは、どうした?」

 その一言に、アルスの目が鋭く光る。とっさに俺は、アルファスを突き飛ばし前方にダイブ。

 刹那。

 これまでとは比べものにならないほどの斬撃が地を裂き、俺達を掠めた。

 振り返った俺達に、アルスは怒りの籠もった声で言いはなつ。


「私の母は、ガルグイユ・クレストに殺された!」



×××



「よもや……これほど……カ!!」

 そう言って赤雷によって、黒焦げとなった全身からブスブスと煙を吐くユグトラは、ついに膝をつく。

「はぁ……はぁ……まだ、倒れないの?」

 明らかに大ダメージを与えたのにも関わらず、まだ意識を保つユグトラに、ユリアは焦りを覚える。流石にこれほどタフな魔導師は見たことがない。どう考えても相手はボロボロになってきてはいるが、それでも何だかんだで倒れない。このまま続けば、もしかすると先にこちらが魔力切れで倒れる可能性も否定できない。

「……やっぱり……使うしか……」

 何かを決意すべく、そう呟いたユリア。

 すると、ユグトラがケタケタと笑い出した。

「…………カカカカカカ! いいネいい……ヨ! そういうところもよく似てる……ネ! 分かったヨ君の原点が……ネ!」

 ユリアは、無言で顔をしかめ、ユグトラを見つめる。ユグトラは、フラリと立ち上がるとニンマリ笑った。

「しかし、驚いた……ヨ。あの堅物が人間に魔法を与えるなんて……ネ!」

 全て納得したような様子のユグトラに、ユリアは問う。

「……あなた、あの人を知ってるの?」

 その問いにユグトラは、コクコクと頷く。

「いやぁ。まぁ知ってるも何も……俺も同類? いや。近種だから……ネ!!」

 言うなりユグトラは、ローブを脱ぎ捨て包帯を剥ぎ取った。

 直後、周囲に強烈な魔力が溢れ出す。

「そんな……まさか!」

 ユリアは、絶望したような表情になる。

 目の前のユグトラの体には、おびただしい数の刻印が刻まれている。[とある魔法]を持つ者なら誰もが肉体に持つ刻印。

「デモンズ・スペラー……」

 そう漏らしたユリアに、ユグトラは詠唱した。

「紫士咎の黒煙牙!!!!」

 次の瞬間、

 漆黒の煤煙が巨大な刃へと形を持ち、ユリアに襲いかかった。

 爆音。

 吹き飛ばされたユリアは、激しく地に叩きつけられる。

 呻きながら、ユリアはゆっくりと立ち上がりユグトラを睨んだ。

 ユグトラは、覆面の上からでもはっきりとわかるほどに威圧的な表情で笑う。

「お前も使え……ョ。[雷の悪魔魔法] 」

 その言葉にユリアは、俯いたままゆっくり立ち上がった。

「……ったの」

「?」

 何か呟いたユリアに、ユグトラは首を傾げる。

 ユリアは、言った。

「もう……使いたくはなかったの。…………思い出してしまうから。でも――」

 かすれるような声でそう言ったユリアは、真っ直ぐに顔を上げる。

 そして、強い口調で続けた。

「でも、同じ悪魔の魔法が闇の中にあるのはもっと嫌だ! 私は、この魔法を光に捧げるために戦う!! 死んでいったあの人のためにも、私はあなた達魔王の下部に負けるわけにはいかないっ!」

 爆発的な放電現象が起こり、ユグトラは後ずさる。

 ユグトラの魔力解放同様に、これまでとは段違いの魔力がユリアから溢れ出す。

「魔には、魔を持って制す!」

 ユリアは、そう叫ぶと飛び上がる。雷を纏う彼女は、そのまま天高く舞い上がると、空中で巨大な魔法陣を出現させた。

「なっ!? うっうごけない……ヨ!?」

 放電を受け、肉体に麻痺を起こしたユグトラが悲鳴を上げる。

 ユリアは、怒鳴るように詠唱した。


「雷魔秘伝! 紫士咎の電衝旋撃脚!!!!」


 周囲が光に包まれ、魔法陣に充填された高出力魔力が一斉にユリアの突き出された脚に集中する。

 そのまま落雷の如く猛烈な勢いで降下するユリアは、放電を受け身動きできなくなったユグトラを一気に貫いた。

「ぐあああああああああああああああ!!!!!」

 貫かれた後、追撃の雷撃を受け完全にダウンするユグトラ。

 ドサリと音をたてて地に倒れた彼を確認したユリアは、フゥと息を吐く。

 そして、激しく放電し続ける赤雷を少しずつ抑えていき、その場にペタンと座り込んだ。

 ユリアは、少し残念そうに呟く。

「ごめんねコウヤ。ラストバトルは、手伝えそうにないわ……」

 流石に魔力が魔王戦に回すほど残っていない。ただでさえ魔力消費の激しい[悪魔魔法]でも、超高位魔法[秘伝技]を使ったのだ。下手すれば、しばらくは戦えそうにない。

 しかし、なんにせよ。[死海の四従士]の一人は倒せた。敵戦力を削いだことに違いない。

 ユリアは、砂浜に仰向けになると空を見た。日が落ち始めたことで星がちらつく天に向けて、ユリアは手をかざす。


「私は、あなたの魔法が闇じゃないって証明するわ。……だから、見ててね」


 そう呟いたユリアは、疲れた肉体を休めるべく目を閉じた。



×××



「あ。三人やられたわね」

 目を閉じていた女が、のんびりとした調子で言う。

 その言葉に魔王たる青年は、心底楽しそうに笑った。

「まぁ。仕方ないな。どういう理由かは知らねーが 、どの物語も勇者サイドは、どんな格上にも勝ってしまうってのがお決まりだからな」

 そう言って欠伸を漏らした青年は、ふと女に問う。

「ところでよ。ガルグイユ・クレストってどんくらい強いの?」

 すると、彼女は少し考えると言った。

「この大陸基準で説明してほしい?」

「いや。もっと分かりやすく」

「なら、私達の世界のインターハイとかは?」

「あぁ。それでいいよ」

 魔王の返事に彼女は説明を始める。

「ガルグイユ・クレストは、例えるなら県代表レベルね。確かに県一位をとるだけの実力はあるけど、かと言って地方大会や全国大会で勝てるかと言われたら微妙というのが正しいかしら? ましてや世界大会となったら案外大したことないかもって感じね」

「あー。なるほど。イメージついたわ。サンキュ。そっかーそこそこ強いけど、ピカイチじゃねぇわけねぇ」

 魔王は、カリカリと頬をかく。

「でもまぁ。俺は、ガルグイユ・クレストなんかどうでもよくて、本命はあのガキなわけよ。…………さっさと上がって来ねぇかなぁ?」

「つまり、あの子が負けるって言いたいの?」

 その一言に魔王は、チラリと女を見るとニヤッと笑って見せる。

「そりゃそうだろ? 証拠もない嘘を信じてる馬鹿が、強い信念持ってる連中に勝てるわけねーだろ?」

 そんな魔王の言葉に、女はハァとため息をつく。

「……健気な乙女をあんまりイジメないことよ? 魔王」

「やーだねっ。騙される方が悪い」

 魔王は、そう言うと玉座の肘掛けに頬杖をつくと呑気にも居眠りをはじめる。

 女は、そんな魔王に毛布をかけてやると、城下で戦う女騎士を思い、少し切なくなるのだった。




 感想下さった[阿部高和]さんありがとうございました。

 物語では、そろそろ魔王との接触がありそうです。

 これからもよろしくお願いします!

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