九章「剛岩の魂」
投稿遅くなってすみません。次回から週一から週二投稿にしたいです。一応ツイッターでアンケートしますので、よろしくお願いします。
「流石に、強いな……」
そう漏らし、地に這いつくばるフラックは、前方で腕を組んで立つウォーゼンを睨んだ。
魔王の下部[死海の四従士]ウォーゼン。彼の背後には無数の魔法陣が展開されており、その一つ一つから真っ白な細い腕が伸びている。
あの腕は、攻撃防御拘束とさまざまなことができるほか、魔力を発散させながら攻撃してくるため予想以上にダメージを与えて来る。リーチも長く、数が多いためなかなか全てを捌けない。
「……闇に落ちるとは、多くの喪失の代償にそれだけの力を得ること。失い奪われたことで得た力に、何も失わぬ光がかなうはずもない」
ウォーゼンは、冷ややかな声音でそう告げると、じっとフラックの目を見た。
有無も言わせぬ迫力に、ゾクリと悪寒を覚える。しかし、そこでフラックは敢えて言い返して見せた。
「……そうか。なら、全て捨てて解決した気になってるような奴に、現実から逃げずに真っ直ぐ走る奴が負けるわけには……いかねぇな」
その一言にウォーゼンの眉間が僅かに反応する。フラックは、立ち上がると岩の拳を構えた。
「ウォーゼン。あんた、どういう訳か知らんが逃げたんだろ? 正直サッパリな話だが、少なくとも俺は、理論上勝てないどころか下手すりゃ死ぬ相手と戦うようなことになったとしても逃げない。あんたが戦いから逃げたのか、世界から逃げたのかは知らねーが、そんなアンタに俺は負けたくはねぇ!! 逃げたことを強さと宣う野郎に負けたくはねぇんだよ!」
そう言ったフラックは、岩拳を振りかぶり駆け出した。ウォーゼンは、慌てて白手達を伸ばし迎撃を試みる。
次々に四方から襲い来る手に、フラックは岩拳のみで突入していく。もともと魔力は濃いが、許容量に自信の無いフラックに取って消耗戦は不利。必然的に扱う魔法も岩拳と言った魔力消費の少ないものになってくる。
「うおおおおおおおおお!!!」
無数の白手を次々に捌き、ウォーゼンに迫る。
ウォーゼンは焦りを露わにし、自らを白手の壁で防御した。
フラックの岩拳が白手の壁に激突する。しかし、数本の白手が吹き飛んだだけで、壁は壊れない。
悔しげに一歩さがるフラック。すると、壁を作っていた白手達が今度は一斉に攻撃を仕掛けてきた。
その時、フラックは自らの内で何かが空回りしたのを感じる。
ブシュッ
空のスプレーを吹かしたような音の直後、フラックの岩拳が消えた。魔力切れである。
「……っ!!」
襲い来る白手を前にフラックは、魔力をひねり出そうと踏ん張る。しかし、再び岩拳を作れるほどは溜まらない。
白手の拳がフラックを捉えた。弾けた敵の魔力が四方で爆散し、フラックにダメージを与える。
「このっ!」
フラックは、魔力充填を諦め白手をくぐり抜けた。まだ追ってくるはずの白手対策を考えるフラックだったが、ダメージによる負傷箇所が痛み、距離をとるのが精一杯となる。
しかし、白手は追って来なかった。
「?」
フラックは顔をあげ、白手とウォーゼンを見る。白手は、先ほどまで俺のいた位置を向いたまま静止しており、ウォーゼンは周囲をキョロキョロと見回していた。フラックの周りには、これといった障害物もなく隠れる場所はない。
「何してやがる……?」
フラックは、一瞬迷うがすぐに魔力充填を再開する。
すると、
「そこか!」
ウォーゼンが声をあげ、静止していた白手が一斉に動く。
慌てて充填を中断したフラックが飛び退くと、その空間を白手達が一気に貫いた。が、再びその場で静止する白手。
ウォーゼンも再び、周囲をキョロキョロと見回し始めた。
そこでフラックは、気が付いた。ウォーゼンは、目が見えていないのだということに。
一般的に世界のあらゆる物体物質は、魔力を帯びており、目が見えなくても魔導師である限りその魔力を把握して行動することが可能である。おそらくウォーゼンも相手の放つ魔力を感じ取って行動していたのだろう。奴ほどの魔導師なら、もはや視覚同様に見えているはずだ。だから、フラックの容姿から名まで把握することができたのだ。
「……そうとわかればっ!!」
言うなり、フラックは敢えて全力を振り絞って魔力充填を行った。
動き出す相手と、圧縮される魔力。
フラックは、集まった微量な魔力で簡易制の収納魔法を展開する。
そして、飛び退きざまに魔法陣から一本の大剣を取り出した。
魔力を切ったフラックは、体力消費にふらつく体に鞭を打ち、大剣を構える。
[真鉄剣]。あえて剣本来の性能を生かすために、魔力を完全に剥ぎ取る精錬技術を用いて作成された大剣。これは、フラックがとある盗賊団を討伐した際に報酬品として依頼者から受け取った一品だ。儀式用に作られた真鉄剣なため、刃は無いが、これほどの重量なら打撃でも充分に無防備な老人一人くらい軽く失神させられる。
生憎、魔力を使わずに攻撃してくるとは、相手は考えるはずも無い。
フラックは、両手で構えた大剣を振りかぶると駆け出した。
出来るだけ近くで、出来るだけ強く。
ウォーゼンは、足音を聞きこちらに振り返る。白手も動き出すが、フラックの正確な位置を把握できず明後日の方角を貫いていく。
フラックは、飛び上がると、有らん限りの全力でウォーゼンの脳天目掛けて大剣を振り下ろした。
「うるあっ!!」
ゴウン! という金属の響く音と同時に確かな感触がある。
大剣を地に突き立てたフラックは、頭部からの大量出血を起こし失神したウォーゼンを見下ろした。
「ほらな。逃げない方が勝ったろ?」
消えていく白手を後目に、そう呟いたフラックは収納魔法にしまってある医療具を取り出すと、出血し続ける老人の頭部の治療を始めたのだった。
「…………アマいな。俺は」
×××
「俺は、ガルグイユ・クレストの紅哉だ。お嬢さん、お名前は?」
そう言った俺は、ニヤリとニヒルに笑って見せる。
すると、目の前の女騎士は赤面した顔のままこちらを睨みつけ、名を答える。
「わっ……私は、あ、アルス! アルス・スカイノア。[死海の四従士]の一人だっ!」
ずいぶんと取り乱した様子の彼女に、俺は「へぇ」と呟く。なんか下着見られて、取り乱すってラブコメの王道過ぎてテンション上がるわ。
すると、アルファスが言った。
「スカイノア……か。なるほど。そんでその鎧か…………」
アルファスは、そう言って、彼女の鎧の胸部を指す。
俺は、そこにある紋章に片眉を持ち上げた。
「……うちの紋章」
口にした俺にアルファスは頷く。
彼女の鎧の胸部には、確かに我らが[闘龍の古証]の紋章が刻まれていた。
「サレンの野郎。娘がいるのは知ってたが、まぁさか魔王の手下とはなぁ」
「どういう意味だ?」
俺の問いにアルファスは、正面で剣を構える女騎士をじっと見た。
「サレン・スカイノア。昔ウチにいた天才的な女騎士魔導師だよ。強化系の魔法を使って自身を強化。あとは、純粋なる剣術で勝負するスタイルのバカ強い女だ。……そんで。あいつは、その娘だな。あの鎧、サレンが昔使ってた奴だ」
「なら、強いってことか……」
「さぁね。そりゃやってみねぇと分からんねーよ」
そう言ってアルファスは、火炎の拳を打ち合わせた。
俺も身構えると、彼女は無言で剣に魔力を集中させ始めた。
「……私の下着を見た罪は…………重いわっ」
不意にそう漏らした彼女に、俺は渋い顔をする。
「いや待て。見せて来たのお前だろ? あんな真上に陣取ったら、下から丸見――――――――――――――――――」
剣が煌めいた。
俺は、とっさに拳を突き出すと目前に迫った斬撃風を打ち消した。
ぶつかり合った二つの力が衝撃を呼び、周囲に爆風をもたらす。
飛び退いた俺とアルファスは、冷や汗を流した。
「こいつ……ヤバいんじゃね?」
「……あぁ。下手すりゃサレンよりも……」
苦笑いをこぼしつつも、アルファスはすぐに詠唱する。
「フレイム・メイル! スティングランサー!!」
出現した火炎の槍が一斉に飛び出し、アルスを襲う。
しかし、アルスは一太刀でその全てを破壊した。
「まだっ!!」
そう叫んだアルファスは、自ら火炎の槍に変身するとアルス目掛けて飛び出した。
激しい接触音が響き、大火炎槍をアルスの剣が受け止める。
「アマいわ」
「そりゃ、どうかな?」
アルファスがそう呟いた直後、俺がその影から現れ一気に彼女の懐に入る。
「ハーフバースト!」
俺は拳に力を集中させて、振り抜いた。
が、寸でのところで彼女は身を引き一撃を交わし、素早くアルファスを受け止めなおすと、振り抜かれた俺の拳を平手打ちで横にそらした。
「「マジで!?」」
流石にヒットしたと思っただけに驚く俺達。これを読みじゃ無く、目視で捌くって、女の業じゃねぇ。
彼女は、アルファスを押し返し、俺に牽制攻撃を仕掛ける。っぶねぇ!
飛び退いた俺達は、流石に真顔になってしまう。
「こりゃ……シャレならねぇな。アルファス」
「あぁ。笑ってるどころじゃぁねぇみてぇだ」
そんな俺達に、アルスは真剣な眼差しでこう言った。
「さぁ。断罪の時間よ?」
これからもよろしくお願いします。




