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プロローグ「魔力0の奇跡」

どうも 新作です。楽しんでいただけると幸せです。

「すごいです!有り得ません!魔力……0です!」

「……は?」

 女性スタッフの言葉を、俺はしばしの間理解出来なかった。

「えっと……それって、どういうことすか?」

 つい引きつった表情を浮かべる俺に彼女も、どこか哀れみを含んだ曖昧な表情で答える。

「……魔力が0ということです」

「つまり?」

「魔導師には、なれません」

「マジ?」

「はい」


 え………………マジかいな。この世界で魔法使えないとか、ゴミじゃん。


「ぐあああああああああああああああああああ!!!!!!」

 俺はその衝撃的事実を前に、周囲の目も気にせず絶叫した。

「まっ……まぁ。魔導師になれなくても、一般向けクエストなら受けられますし、ギルドメンバーにもなれますから、どうか気を落とさず……」

 声をかけてくれるスタッフさんの優しさが逆につらい。

 

 何があったのか説明しよう。


 俺の名前は、晴島紅哉。もともと別の世界で一般的に高校に通って、ゲームして、アニメ見るような、ありふれた学生だった。

 しかし、どういうわけか突然に異世界に飛ばされてしまい、とりあえず食いぶちを、と思いギルドに来た。


 で、結果はこれだ。


 どこぞのアニメや、某「小説家になろう」では、異世界に飛ばされた主人公が神様から貰った特別な力でチートしまくって、かわいいあの子とよろしくやって、幸せワッショイしてる。なのに…………なのに俺は、転生原因すら記憶を喪失し、特別な力どころか、基本的な魔力すら無い。なんだよコレ!ゴミじゃん!!

 どう考えたってゴミじゃん! 魔法ファンタジーの世界で魔力0ってなんだよ!魔法が全てなんだぜ? なのに0てオマ…………。


 俺は、うわごとの如く「魔力0」を繰り返しつつ、ギルド加入申請を済ませた。

 スタッフさんは、苦笑いでカウンターを去る俺を見送る。

「……はぁ。マジかいな」

 服はおもいっきり、ファンタジー来たぜみたいな服装になってるのに、こりゃねぇぜ。

 俺は、ため息をつきつつ空いてる席に腰かけると、自分のまとう黒いローブ風の衣服をつまんでみる。一見ローブかと思うが、しっかりと戦闘魔導師用の動きやすい作りの衣服となっていてカッコいい。でもなぁ……着てる俺、魔力0だしなぁ…………。

 そんなことを考えつつ、右手甲にいれて貰ったギルド紋章を眺める。

 [闘龍の古証]か。なかなかイカしたギルド名だ。まぁ。こうしてても、飯は食えん。せっかく入ったんだ。仕事でも、してみるか。

 そう考えた俺は、魔力については諦めて、クエスト依頼書の貼ってある掲示板の前に行く。

 けっこう凄い枚数の依頼書が貼ってある。よく見れば、どれもいかにもファンタジーな内容ばかりだ。どこぞのモンスターやっつけろとか、盗賊団の討伐、魔法草の採集などなど。でも、まぁ。そんな中にもポツポツと一般人でも出来そうな仕事が入っている。

「とりあえず、こいつやってみるか」

 そう呟いた俺は、一枚の依頼書を手に取る。

 内容は、こうだ。【ギルド屋根の修理。報酬額1500ディア。依頼者、[闘龍の古証]】。

 うちのギルドじゃんよ。

 まっ。いいんだよ。初めはこれくらい軽い奴で。それに1500ディアなら、今夜分の飯と馬倉程度の寝床確保は余裕だ。

 さっそく、あらかじめ脳内にあった異世界知識で、今日分の予定を立てた俺は、依頼書をカウンターに持っていった。



 数分後。


「足場わりぃーなぁー」

  修理の材料と小道具諸々を手にギルドの屋根に上がった俺は、そこから見える。遥かに広がる異世界を見た。

 火山に天を舞う竜、城に謎の塔、その先には海と船、どれも元いた世界のものは違う。全てが誰もが思い浮かべる異世界のイメージにしっくりくるものばかりだった。

「こんだけ壮大だと、尚更自分が矮小に感じちまうじゃんかよ……」

 俺は、「はぁ」と息をつくと、穴の空いている屋根の修理作業に取りかかった。


 が、この時、俺は気づいていなかったのだ。 自分が無意識の内にとんでもないことをしていたことに…………。



  ×××



 作業開始から、一時間半程度経ち、とりあえず修理を終えた俺は、屋根の上でゆっくりと伸びをした。


 その時、足元から悲鳴に似た驚くような声が聞こえた。

 見ると、屋根の下からこちらを見ている女の子がいる。

 年齢は、自分くらいだろうか?水色の髪をアップ気味のポニーテールにまとめ、青色の瞳、ふわっとした感じのフリル付きの衣服。ミニスカートに黒いニーソックス。ここにいるということは、彼女もこのギルドの一員なのだろう。というか、めっちゃ可愛い。

 俺は、とりあえずこちらを驚きの表情で凝視している少女に声をかけた。

「えっと……なんすか?」

 すると、彼女は震える指で俺のすぐ横にある屋根取り付けられた材料を指す。

「あ……あなた。それ全部一人で運んだの!?」

「……そうすけど、なんすか?」

 そう答えた俺は、少し考える。量はあったが大した重量ではなかったし、運んだことであそこまで驚かれるものだろうか? ましてや、1500ディア程度の仕事だし……。

 俺が首を傾げていると、彼女が顔を青くして言った。

「その材料、ギルドの魔導加工が施された材料なのよ?一枚十トンはするわよ?一人で運べる量じゃないわ。魔導加工品だから、魔法で移動も出来ないし……どうやって……」


………………は?


 いや、待て。それは無い。だってよ。俺あの材料、片手に十枚づつ持って上がったぞ?つか、あんな平たい木製板が一枚十トンとかあり得んわ。

「ちょっと、お嬢さん。そりゃねぇぜ。多分なにか別の材料と間違ってないか?俺、片手に十枚づつ運んだぞ?一枚十トンはねぇよ。マジで」

 俺は何かの勘違いと思い、そう言ったが、彼女は逆に益々青ざめて、ギルドの中に駆け込んでいった。


 しばらくして、カウンターにいた女性が彼女と一緒に戻って来た。

 カウンターのスタッフさんは、俺の様子を見てギョッとした顔になる。


…………え。マジ?

 俺が顔を引きつらせると、スタッフさんが言った。

「あの……晴島さん。先ほどこの仕事受注された時、倉庫のクレーン使って下さいとお伝えしませんでしたっけ?」

「あぁ。覚えてますよ。でも、これそんな重くねぇでしょ?」

 俺は、仕方なく余った三枚の板をまとめて掴むと、持ち上げて見せる。

 二人がギョッと目を見開く。……だからよ。なぜそんなに驚く。

 驚いている二人をよそに、俺はそのまま、小道具諸々をケースにおさめて反対の手に持つと、屋根を降りた。

 

 屋根を降りた俺を待っていたのは、巨大な筋肉隆々のスキンヘッドの男だった。


「え?……だれ?」

 え?え?何?あの二人フュージョンして男になったの?怖っ。

 そんなバカなことを考えていると、その男の背後から二人が出て来る。

「フラックさん。あの板何枚まで片手で持てます?」

 そう言って筋肉男に聞くのは、先ほどの少女。

 すると、筋肉男は俺を見て眉をひそめる。

「……一枚だな」

 嘘だー。だって明らかお前の方がマッチョやん。俺なんて前の世界でも痩せてる部類の人間ですぜ?筋肉?そんなもん鍛えてねぇよ。


 と、そこで俺はある仮説に至った。

 

 これは、さっきのスタッフさんのサプライズなのだろう。こうやって、俺をその気にさせて元気づけようとしてくれているのかもしれん。……くっ。なんていい人なんだ……。それにそのサプライズに付き合ってくれる。あの子と筋肉さんもいい人だ。泣けてくるぜ。

 そう思って、俺が微かに涙ぐんだ時、筋肉男が言った。


「少年。あの木。殴ってみろ」

 そう言って、筋肉男の指す巨木を見て、俺はフッと笑ってしまう。ギルド横の林とギルドの境界にあるそれは、とても人間の拳でどうにかなるものでは無い。

 まさか。これを倒せってか?無理だわ。いや……もしかしたら、もう根は抜けているが敢えて俺が倒したように見せてくれるのかも……。いや、例え根が抜けててもこの重量を横倒しにはできん。

「あの……流石にこれは――」

「なら、俺が先にやる。次にお前だ」

 断ろうとする俺の言葉を遮り、筋肉男は、俺達の前で上着を脱ぎ捨てると拳を構えた。

「砕岩憑腕!ガンドアーム!」

 男が声を上げると、地が盛り上がり、そこから現れた岩が一斉に男の構えた拳に集まり、巨大な岩の拳を作り出した。こいつは、魔法だ!!

「ふぅうううんん!!!!!!!!!!」

 男は、気合い十分に拳を巨木に突き出した。

 直後、とてつもない轟音が響き、衝撃波に俺は顔をしかめる。

 風がやみ、顔を上げた俺は、全くもってビクともしていない巨木を見た。

 

 いや……そりゃねぇぜ。


 今の一撃を見て、はっきりしたことがある。あの筋肉男、今のはガチパンチだった。つまり、あいつガチで俺に言ってやがる。

 振り返ると、衝撃波で吹き飛ばされたのか。少女とスタッフさんが折り重なって倒れていた。

 スタッフさんが呟く。

「今の衝撃波で、微動だにしないなんて……晴島さん。何者ですか?」

 言われてみたらそうだ。よく見れば、林の木々もいくつか倒れているし、地も少しえぐれている。これだけの衝撃波に俺が耐えられたことが不思議だ。 …………もしかして、


 そう思った途端に身体が動いた。

 俺は、息をつく筋肉男の横をかすめると、左拳を握りしめると有らん限りの全力で木に向かって振り抜いた。


 刹那。


 先ほどとは、比べものにならないほどの激音が響き、視界が開けた。

 確かな感触と、どこまでも突き抜けていくようなイメージが全身を駆け巡る。


 

 全てがおさまり、振り抜いた拳を下ろした俺は、その先に広がるものを見た。

 

 開けた更地だった。


 先ほどまで目の前にあった巨木も林も跡形も無く消し飛んでいた。大地は完全にえぐり取られ、草の一本も残っていない。

 そんな光景が数百メートル、いや数キロに渡り続いている。そして、それは俺の立つポイントを中心に起こっている。


 振り返った先では、ひっくり返ったまま目を剥く筋肉男と開いた口が塞がらない少女、気絶しているスタッフさんがいる。


 ここでようやく俺は気が付いた。


 俺は、魔力を完全に失っている代わりに完璧なまでの絶対的膂力を手に入れたのだと。


 そう気づくなり、俺は強くガッツポーズをする。


 そして、


「異世界サイコーだぜぇええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 魔法こそ全ての世界。その夕焼け空に一人の歓喜の砲口が一つ。


 こうして、俺の異世界冒険譚は幕を開けた。

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