5(微訂正)
体が重い。同じように瞼も重く、開けるのが億劫だ。
「レイル様!レイル様!」
私の目蓋の痙攣を見たのか、私を女が呼ぶ。鬱陶しげに、私は目を開けた。
「あぁ、レイル様!」
召使いが涙を流していた。一体、何があったというのか。私は寝ていただけなのに。
「アーロン様にもお伝えしなければ!少し、お待ちになって」
召使いが部屋を飛び出していった。私の睡眠は大事なのか。何が起こっているのか理解が出来ず、私は眉を寄せた。
「入るぞ」
「どうぞ」
ノックの後にアーロン王子が部屋に入ってきた。いつも着ているベストを脱ぎ、第一ボタンが開けられたシャツを着たアーロン王子は精錬された美を感じさせた。
「体調はどうだ?頭は痛くないか?」
眉を下げ気遣うような素振りを見せるアーロン王子に私は表情には出さないが戸惑った。
「なんともありません」
「そうか。レイは丸一日眠ったままだったのだ。倒れた時に頭を打ったのが悪かったのだろうな」
「はぁ」
頭をぶつけた記憶はないので、曖昧に返事を返す。
「心配した」
アーロン王子が私の金髪をその手で梳いた。
困惑した。理解ができなかった。なぜ王子が私の心配をするのか。私を嫌っているはずのアーロン王子が安堵の表情を浮かべているのか。これは夢なのだろうか。
感情を捨てようとしていたのに、温かな情に触れて本当に人形になっていいのか戸惑ってしまう。不幸しか無いはずの未来に希望を持ってしまう。
私はアーロン王子の手を払っていた。
驚いたアーロン王子の顔を見て私はその無礼に気づいた。
「あ、申し訳ありません」
私の謝罪にアーロン王子はますます眉を下げ、寂しげな表情を浮かべる。
「最近のお前は謝ってばかりだな。距離を置いていた私が悪いのか?」
「いえ、そんなことはありません」
「……ゆっくりと休むといい」
去り際に、アーロン王子は私の手の甲へキスを落としていった。
カッと頬が熱くなり、体の中心から幸福な熱が湧き上がってきた。
口付けられた手の甲に、熱に浮かされた私は自分の唇を落とした。
「好きですわ……」
あなたに愛されない私の人生なんて要らないと思うぐらいに深く。
それでも私は、あなたが他の女性と幸せになることを許せない。それはきっと、この恋心が真っ白で美しいものではないから。
愛する人の幸せを願う。ただ、その隣にいるのが私ではないのが耐えられない。
ーー私は自分勝手なのね。
段々と暗くなる思考を振り払うために、ベットの天蓋に描かれた星を眺めながら夢へ思いを馳せることにした。
はっきりとは思い出せないが、確かに幸せな夢だった。現実の刺すような胸の痛みではなく、幸せに胸が高鳴る素敵な夢。
夢の中の私は、憧れの人の姿をしていた。万人に褒め称えられる金髪にパープルの瞳なんかではなく、赤毛に緑の瞳。そうまるでリーシアのような……。
……私は夢の中でリーシアになっていたのかもしれない。夢の中で叶った私の願い。現実でリーシアになれたら。
「やめましょう」
自分の考えていることがとても醜いことだと私は気づき、思考を止めた。