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6 「お兄ちゃん。私、セーラームーンになりたい」


   6


 幸一はある部屋のドアを開けた。


 真っ暗だったためにドア近くの蛍光灯のスイッチを点けて、部屋に進み入る。明るく照らされた部屋で真っ先に目が付くのが、壁の隅々に貼られているポスター。少し色が薄れているアニメや男性アイドルグループのポスターで妹のお気に入りだった。


 そう、ここは美幸の部屋。


 母の意向で、美幸の部屋は彼女がいなくなった後もそのままに残しているのだ。


 父は悲しくなるだけだから、部屋を物置小屋にでもしたらと提案したが、美幸がいた空間だけは残しておきたいという母の我侭だった。


 幸一は久しぶりに‥‥通夜の日以来、美幸の部屋に足を踏み入れたのだ。


 美幸の声にそっくりだった伊吹まどかの声を聴いてから、幸一の脳裏に美幸との思い出が次々と溢れ出していた。


 幼い頃、幸一と美幸は仲良くテレビアニメをよく見ていた。特に美幸はセーラームーンに夢中になっており、いつしか―――


「お兄ちゃん。私、セーラームーンになりたい」


 と、よく言っていたことに、幸一は思わず吹き出してしまった。


 その後、美幸は歳を取るごとに連れて、流石にセーラームーンになりたいとか幼稚な事は言わなくなったが、


「お兄ちゃん。私、セーラームーンの声優さんになるからね」


 少しだけ現実的な夢を語るようになっていた。


 その熱は中学生になっても高校生になっても冷めることはな4く、高校卒業後の進学先を声優養成がある専門学校に決めるほどだった。


 もちろん両親は反対した。声優になりたいが為に訳の分からない専門学校に行ったら後戻りは出来なくなるし、素直に大学に進学した方が将来安定した職業に就けると、何度も説得した。


 だが、夢追い人は将来の安定よりも一瞬の輝きを求めた。



 幸一は美幸との最後の日を思い出した。



 家の玄関。大きな荷物ショルダーバッグを抱えた美幸は見送る幸一に向けて。



『お兄ちゃん。私、絶対声優になって、セーラームーンみたいな可愛いキャラの声を演じるからね!』



 そう宣言して、父と母が乗る自動車へと乗り込んだ。それが最後に見た美幸の姿だった。



 今になって美幸の姿や、その光景が鮮明に蘇る。美幸の声にソックリの声を聞いたからだろうか。胸に込み上げてきた感情は幸一の瞳へと涙となって溢れていた。



「もし、美幸が生きていたら、さっきのアニメとかに出演ていたのかな……」



 机の上に飾られている高校の卒業式の時の美幸が写っている写真立てを見つめ、言葉を漏らした。そして幸一は、美幸と似た声の持ち主の声優に関心と興味を抱いていた。



「伊吹まどか、か……」



 もし会えるのなら一度は会ってみたいなと、ふと思いながら部屋の灯りを消し、美幸の部屋を後にした。


 幸一は眠気に襲われ、真っ直ぐ自分の部屋に向かうと、そのままベッドに倒れこみ、そのまま眠りについたのであった。

 机の上のパソコンの電源を点けたままで。


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