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5 「伊吹まどか……」

   5


 幸一の妹……美幸が生きていれば、今年で二十二歳。今頃、就職活動にてんやわんやしていただろうか。

 その美幸は四年前、事故で自分の夢を叶えることはなく、この世から去ったのである。


 美幸の夢は“声優”になることだった。


 美幸は幼い頃からアニメやマンガが好きな女の子だった。

 中学生、高校生になっても飽きることなく、アニメを見続けていた。やがて、将来は声優になりたいと言い出し始めたのだ。


 そして進路相談で親の反対を押しのけては説得させて、声優になるためにと高校卒業後は専門学校へ通うために家を出たのだった。


 伊河市には声優養成がある専門学校とかは無く、ましてや県内にも無かった。だから、そういった専門学校がある県外へと行く必要があったのだ。幸一の両親は、渋々と美幸を送り出したのだが―――


 ある日、美幸は一人暮らしをしていた家のロフトへのハシゴから足を滑らせてしまい、頭の強打してしまった。打ちどころが悪かったらしく、脳溢血を起こしてしまい美幸は気を失ったまま、命を落としてしまったのだ。


 妹が亡くなったと聞いた時、幸一は何かの冗談かと思った。だが、冷たくなった美幸と再会した時……あんなに煩く騒がしかった妹(美幸)が二度と起きないのだと実感し、その時、生まれて初めて妹の為に涙を流した。


 母は泣きじゃくり、父は呆然としていた。そこから記憶がハッキリしない。暫くは心が喪失していたのだ。それに辛い思い出だから、早く忘却させようとしているのか。


 時間の流れは、ポッカリ開いた心の穴をそっと埋めては、美幸の事を薄れさせてくれていたのだが、美幸にソックリの声を聞いた瞬間、幸一は鮮やかに美幸を思い出していた。


 もっと美幸に似た声を聞きたかったが―――


「え、もう終わり!」


 アニメのエンディングが放映されてしまっていた。


 幸一は、さっきの声は誰が演じていたのか、キャストの名前がずらっと表記されているスタッフロールを注視したが、ピンク髪の少女の名前が解らない為にキャラクター名の横に表記されている声優名キャストで、妹にソックリの声を出していた声優の見当をつけることは出来なかった。


 とりあえず声優の名前をメモしようとしたが、あっという間にスタッフテロップが消えてしまい、エンディングも終わってしまった。ペンを手に取ったまま、呆然とする幸一。


「さっきのキャラクターの声は、誰だったんだ……」


 しばらくすると、アニメの次回予告が流れた。

 アニメのタイトルは『ドリーミー☆マスター』。


 幸一は直ぐさま、机に置いていた紙にアニメのタイトルをメモ取ると、文明の利器‥‥自分のノートパソコンに向かうと、インターネットに接続し、検索サイトから先ほど知ったアニメの番組名『ドリーミー☆マスター』で検索を行った。


 アニメの公式サイトでキャラクターを調べ、そこからキャストを調べようとしたが、ピンク髪のキャラクターと思わしきキャラクターは何処にも存在しなかった。


「あ、あれ? おかしいな……」


 幸一は、思いつく限りのワード『ドリーミー☆マスター ピンク髪 声 声優』などで検索を行った。


「あのアニメの舞台になった鷲宮に行きました……違う。ドリーミー☆マスターの感想……。違うな……」


 様々なブログやニュースサイトを開いては閉じてを繰り返す。そして、とある掲示板のログに辿り着いた。どうやら、このアニメは既に放送終了されているものだったらしく、幸一が暮らすエリアでは再放送されているアニメだった。


 掲示板の書き込みのログから、ピンク髪のキャラクターは脇役(名前は沙希という名前)だったらしく、さっきの一話だけにしか出演していなかったようだ。そしてついに声優の名前が書き込まれているのを見つけた。


「伊吹まどか……」


 名前が判れば、あとは早かった。その名前で検索を行うと“伊吹まどか”が所属している声優事務所『アイス・フォーティーフォー』のサイトがトップに表示された。


 迷うことなく事務所サイトにアクセスし、所属タレントリストから伊吹まどかの名前が記載されているのを見つけた。


 伊吹まどかの紹介ページを表示させると、そこには伊吹らしき人物の顔写真が掲載されていた。


 伊吹は幸一よりも若く、妹……美幸よりも大人しい感じがする可愛らしい女性だった。


「この人が、伊吹まどか……うん? サンプル?」


 顔写真の下に『ボイスサンプル』ボタンが設置されていた。幸一はおもむろにカーソルをボタンに合わせてクリックすると、


『伊吹まどかです。いつも祈っています。貴方が帰ってくるのを……ずっと……』


 スピーカから音声が流れだす。次々と語るメッセージ内容は、幼い声からオトナっぽい声と色んな声で演じていた。声幅の変化に戸惑うものの、その声は―――


「やっぱり……美幸の声にそっくりだ」


 確信をもって呟いた。


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