1 「あ~あ……。どんな企画だったら、良いのか……」
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「ただいま……」
疲れた声を漏らしつつ、重いドアを開けた。庭付き一戸建ての我が家の中に入ると、最近、買い換えたばかりのLED電球を点けて居間へと向かう。
疲れた声の主……高野幸一は、今年で二十八歳になるにも関わらず、実家暮らしをしていた。
この歳で、まだ親の保護のもとで暮らしていて、恥ずかしいというのは無い。一緒に暮らすのは致し方ないことだと思っているからだ。
幸一は地方の大学に進学し、卒業した後、地元にて運良く就職できた。
一人暮らしをするにも同じ地域にいるのに家を借りるのは意味がなく、それに家賃などで無駄遣いをしているようなもの。
だったらと、その家賃分を親に収めたほうが親孝行にもなる。それに、母親の手作り食事を味わえることが出来るのは何事にも変えられないものである。居心地が良いのもあり、実家から離れにくくなっているのだ。
だからなのか、幸一には彼女はいない……というのは元より、こんな話が本題ではない。
「あら、おかえり。今日も遅かったわね」
出迎えてくれたのは母親の――高野さな恵だった。少しばかり白髪が混じり、年相応に顔のしわが目立ち始めていた。
「まぁ、ね……」
「公務員なのに、最近は残業ばかりなのね。ご飯は?」
「ネットカフェで食べたから良いよ」
「そうだと思った」
「風呂入っている? とりあえず、サッパリしたいし」
「もちろん入っているわよ。あっ! ちゃんと美幸にも挨拶しておきなさいよ」
「はいはい、解ってるよ」
幸一は脱いだ背広と鞄を母に預け、ネクタイを解きながら浴室近くの部屋に入った。部屋には仏壇が備えられており、自然な流れで仏具の鈴を鳴らした。
「ただいま」
合掌はせず、仏壇にある遺影に言葉を投げかけただけで幸一は浴室へと向かって行った。
浴槽の三分の二ほどお湯が満たされており、あるがままの姿……裸となっていた幸一はさっそく桶を手に取り、お湯を身体にかけた。
しかし、お湯は適温よりも冷たくなっていたので、幸一はお湯の蛇口を撚って、熱い湯を注ぎこむと、バスタブの中へと身体を沈めた。徐々に熱くなる湯水に心地良さを感じつつ、
「あ~あ……。どんな企画だったら、良いのか……」
今日の“仕事”を振り返った。