14 「なんですか、エシって?」
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さっそく幸一は、先ほど志郎から訊いた話しを薫たちに説明した。
「有名な“エシ”に描いて貰う? なんですか、エシって?」
馴染みの無い言葉に薫が首を傾げつつ訊ねた。
「つまり、有名なイラストレーターや漫画家とかに、伊河市をモデルにしたオリジナルキャラクターを描いて貰う、という事だよ」
「ああ、なるほど。キャラクターが使用できないのなら、私たちでオリジナルのキャラクターを創る訳ですか。それは面白いですね。でも、有名なイラストレーターか……。その有名なイラストレーターって、どんな人がいるんですか? 私、その辺は疎くて」
「んー、それは、これから……」
幸一たちがこれからの方針を決めようとしていると、
「そ、そうだね。今だったら、TOMYさんや夕顔さん、それにからあげさんとかも人気があるね」
平岡が話しに割って入る。
「と、とみー? ゆうがお? からあげ?」
話しに出てきた珍妙な名前を薫が復唱した。
「ペンネームだよ。そういったペンネームで活動しているんだよ。最近だと、からあげさんの人気が出てきているね」
「へ、へぇ~……」
普段と違う平岡の饒舌に語る様に、幸一と薫は意外そうな視線を返した。
「平岡さんって、こういうの詳しいんですか?」
「いや、まぁ……その。な、なんて言うかね……」
薫に問われると、いつものの平岡に戻ってしまった。そして幸一が、平岡の話しに付け加える形で続ける。
「そういったイラストレーターでも良いし、有名な漫画家とかにも依頼するのもアリだよね。とりあえず、この方向で計画書を書き直さないとな……」
袋小路にハマりかけていた幸一たちだったが、今後の方針が決まった。
「それで先輩。私たちはどうしたら良いんですか?」
「そうだね。今度は出版社じゃなくて、プロやアマチュアの絵師さんに直接依頼する方向だな」
「でも、どこに。それに、誰に依頼すれば良いんですか?」
「それは、え~と……」幸一が返答に悩んでいると、代わりに平岡が答える。
「そ、それだったら、直接本人に依頼すれば、い、良いんだよ。絵描きさん達は、ブログとかで自分のサイトを持っている人が多いんだよ。そ、そこに大抵はメールとかの連絡先が記載されているから、そこから連絡が出来ると思うよ」
「へ~、そうなんですか。それで、そういった絵師さん達は、何処で探すんですか?」
「そ、それなら、ピクシブとかを、利用すれば良いよ」
「ピクシブ?」
「う、うん。そういった絵師が、たくさん集まっているイラスト投稿サイトだよ」
薫、そして幸一も首をひねると、平岡はおもむろにパソコンのマウスを操作して、自分のディスプレイを幸一たちに向けた。そこには、色とりどりのイラストが表示されていた。
「へー、こういうのがあるんですか」
興味津々にそれらを眺める薫と幸一。
「なるほど、ここで絵師さんの目星を付けられますね」
世の中には自分が知らないことが一杯有るものだと、自分の無知を少し恥いてしまう。それと薫の疑問に、平岡が次々と答えていくことに、初めて平岡が頼もしく思えた。
「それで、た、高野くん。絵師さんの選考も大切だけど、伊河市のイメージキャラクターを描いて貰うのなら、そのモチーフを決める必要になるよ」
「モチーフですか?」
「た、単純に、伊河市をモデルに描いてもらうのは、ざっくばらんし過ぎているから、ある程度、描いてもらうものを絞った方が良いかと思うよ」
「そうですよね……わかりました。今回の結果とそれに対する対応策をまとめて、今度の報告会にて話します。その後に伊河市のモチーフを決めたり、各自で依頼する絵師さんを決めましょう」
まだ手探りの状態ではあるのが、今後の方針と方向性が一通り見えてきたことに、幸一は一歩ずつ進んでいると実感したのであった。




