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蒟蒻彼女

「道善もこれ気になってたんだ!?」


「このB級っぽさが良いんだよな」


「んだんだ!」


その前売り券を手に入れるまでに一人の少女の涙が流れたことなど露知らず、涼はキラキラと目の中に星を輝かせながら道善と映画談義をしている――と思いきや、梶原にすぐ不穏な目を向けた。


「おい、下僕。てめぇも前売り券買って来いや。私を映画館に連れてけや」


「映画館まで行く気なの!?」


人混みで空気は悪いし、空調もきつい。行くだけで涼の体に負担がかかるから、円盤になってから観る気だと思っていたのである。B級だったら苦しいが。


「当たり前田のクラッカー! 映画館一回も行ったことないじゃん。体の調子良いからいいじゃんじゃん」


「俺に隠してるつもりだったのかは知らないけどさ、この頃毎晩誰かさんの部屋から何回も何回もひどい咳が聞こえてるんですけど!」


これを言うと、心配をかけたくないという涼のくだらないやせ我慢に拍車をかけてしまうから、無理矢理長者原先生のところへ連れて行きたい欲求を必死で抑えて見てみぬふりをしていたのだが(仕返しが怖かったのもある)、流石に梶原は突いた。涼は少し黙り、汗を流しつつ、目を逸らして言い訳を始めた。


「そ、それは森の仲間達の狐くんだよ。コンコン! ウサギのミーちゃんと遊んでたんだね〜」


「そんなんで言い逃れられると思ってんの!?もっとマシな嘘をつけ!」


「ミーちゃんとられたからって嫉妬しないぴょん!」


「してない!」


「おいおい、そろそろケンカはやめろよ」


「あんちゃんは口出さんといて!」


「「誰だよ」」


梶原と道善が同時に頭をはたくと、軽い力だったはずなのに涼は潰れたカエルのような声を出してよろける。


「ちょっと! 涼様はか弱いんだからもっと塗れ半紙のように丁寧に扱えや!」


塗れ半紙をいつ扱うのかは定かではない。が、とっても破れやすそうななのは分かった。


「兎に角、絶対に前売り券は買わないよ。映画館にだって行かない」


梶原がここまで反対するのには涼の体のことだけでなくもう一つ理由がある。頭のいい涼に言うのははばかられたが、実はこの映画、公開期間がちょうど中間テスト前に被るのである。成績が心許ない梶原にとってテスト前の勉強は運命を分ける大切なものなので、映画に行くことは絶対に避けたいのだ。


「観晴のくせにオトン気取りかよ」


「涼が心配かけるようなことするからだろ!」


「だからそろそろやめろって!」


部室に置いてあるはずの木刀をどこからか取り出した道善は、不敵に睨み合っていた涼と梶原の間を一閃。木刀はびゅんと風を切り、梶原の足に当たって止まった。本気でで痛かった。

あまりの痛みに声も出ない梶原に、道善は笑顔で言った。


「焼きそばパン」


「……他に何かないのかよ! ちゃんと言葉を探せよ! 良心付近にきっとあるはず!」


キレる梶原を尻目に、涼は鼻歌を歌いながら梶原の鞄から弁当箱を取り出した。大小ふたつ。涼と梶原のものだ。


「お弁当お弁当楽しいな~」


「涼もなかったことにすんなよ! 俺は断固認めないよ!」


「しつこい男ってやーね」


「こういう粘着質な奴が将来ストーカーになるらしいぜ」


「まじでか。五郎丸と一緒に童貞こじらせてんのか〜。ミーちゃんのこと好きだからって兎小屋に張り付くなよ」


「しねーよ!」


吠える梶原。まあ飯食べて落ち着きなと言う道善の手には、先程涼が出した弁当箱があった――おかずが半分以上減ったものが。そして道善の頬にはごはんつぶがぺとり。


「……道善くん、弁当早食い記録でギネスとれるね」


「焼きそばパンもちゃんと買って来いよ。ギネスとるには何秒で食べりゃいいだろうな」


「代金!」


「へーへー」


また財布を取り出す道善。ふりだしに戻る。代金を出すついでに、涼がずっと握って少ししわくちゃになった前売り券をしまっている。その手を、涼は物欲しそうに追っていた。それに気付いた道善は、瞬きを続けて二回して、パーの手をグーの手で叩くひらめきのポーズを器用にも財布を持ったままやってのける。そしていつもの内面を悟らせないポーカーフェイスで悪びれずに言うのだった。


「涼ちゃん、俺とデートしようぜ」


「ゴホッ!……今の狐だから。コンコン!」

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