【03】
ドドドドドドドッ……
洞窟内の天井は崩壊し、ルシアを背負っているウォルガフに落盤は容赦なく降り注いでいた。
「うわっ!? うわっ!? やばいでちゅ〜〜〜〜!!」
そう言いながらウォルガフは、岩を避けつつ一階層を目指し飛び跳ねていた。
「いえーーーいっ!! ゴーーーールでちゅ〜」
キョロキョロ……
どうやら一階層は、崩落が始まってはおらず安全な場所である事を確認する事が出来たらしい。
ウォルガフはふうっと一呼吸置きながらルシアを、そっと地面に降ろしたのである。
「よちいっ! 行くじぇ!」
「おっと、ウォルガフ。どこに行くつもりだ?」
ウォルガフの右手を掴み取りながら制止してきたのはルシュガであった。
「おじちゃん……?」
エヘヘヘッとウォルガフは、笑いながらルシュガの方を見ている。
「おじちゃん、ルシアたん。連れてきたよ♪」
「あぁ、ありがとう」
ルシュガは、ウォルガフの頭をクシャクシャと撫でながらお礼を言っていた。
「岩崩れの音が、頻回に聞こえてきたから中に入ってきたのだが、無事で良かったよ」
「まだ、リュウイたんが残ってまちゅ!」
「なに!?」
「だから、助けに行かにゃいと」
「いゃもう………手遅れだ……。殆ど岩に埋まって道なんてないぞ……」
「嫌でちゅ!! 僕は、必ず戻るとリュウイたんと約束したんでちゅから!!」
ウォルガフはそう言い、ルシュガの制止を振り払い崩落し始めている二階層へと再び戻るのであった。
「うおっ! 激ちぃでちゅね!」
そんな事を言いながら、岩を飛び越えたり岩を破壊したりひたすら突き進むウォルガフであった。
「おっ!? リュウイたんっ発見っ!!」
ーーーーーー
俺の意識は再び舞い戻った。
あの時、岩の下敷きになりながらも咄嗟に回復ポットを選択していて良かったようだ。
俺の身体はHP1を残し辛うじて持ち堪えていた。
取り敢えず、もう一個回復ポット使っておくか……
HPが一気に最大値である10まで回復した。
だが、それと同時に一気にHP1になってしまった。
ははははっ……
回復ポットは沢山あるが、どうやら俺の下半身を押しつぶしている岩を避けない限り、回復ポットで回復しても意味はないようだ。
でも、力入らないし。
目を開けてもいられないし……さてさて、どうするかな……
「リュウイたん!! リュウイたん!!」
誰だ……
俺を呼ぶのは……
「リュウイたんっ!!」
あぁ……この声は、ウォルガフだな……
なんで戻ってきた?
ここは、危ないのに……
ってか、よくここまで戻ってこれたな……
「ねぇ……なんで、リュウイたん起きなぁいの………?」
ユサユサッと俺の身体をウォルガフは必死に動かしていた。
ひっくっひっく………
「リュウイたん、目を開けてよ……」
誰だぁ、ウォルガフを泣かせている奴は……
あぁ……俺かっ!!
すまんっウォルガフ。せめてお前だけは、生き埋めになる前に逃げ出せ……
目も開かず、言葉も発する事も出来ず俺はそんな事を思っていた。
「あっ!! この岩がリュウイたんをいじめているんてちゅね!」
「今、この岩退けまちゅね」
ドオーーーンッ!!
ウォルガフの言葉と共に音が鳴り響く。
次第に感覚のなかった下半身が再び軽くなる……そんな感覚がしてきた。
「よいちょ……」
ウォルガフは、俺を背負おうとしている……
ったく、小さい身体で無理するなよ……
「おじちゃんが、一階層で待っていてくれているはずでちゅから、それまで我慢ちて下ちゃいね」
「死んじゃだめでちゅよぉぉぉっ!!」
そう言いながらウォルガフは、猛ダッシュで崩落している二階層から俺を連れ出してくれた。
あのまま、この場にいたら間違いなく生き埋めにされていたんだろうな……
ーーーーーー
「リュウイたん!! リュウイたん!!」
ウォルガフの声に俺はゆっくりと目を開けた。
「くはぁ……」
胸と右足が熱く……違和感を感じる……
暗い暗い洞窟なのはわかるけど、ここはどこだっけ?
「大丈夫でちゅか?」
「……」
あれ?
言葉にならない……
「おじちゃん、リュウイたんが目を開けたよ!?」
ウォルガフ……?
何そんなに慌てている?
「おっ? 気がついたか?」
「……」
「ふむ。どうやらまだ、記憶が混乱しているようだな。ウォルガフ説明してやれ」
「うん」
「うんとね、ぼくが戻った時には、岩がドドドドドドドッとリュウイたんの真上に落ちて来ていたんでちゅ。
それを、ぼくがサササササッと助けだちぃまちぃたっ!」
相変わらず、何言っているのかわかんねぇ〜
身体を動かそうとして見た。
だが、なんでだろう……起き上がれない。
「動かない方がいい、肋骨と右足折れているからな」
なるほど……
そう言いながらルシュガは、折れている右足に添え木を当ててくれた。
「よし、取り敢えず小屋に戻るか」
ルシュガに肩を貸してもらいながら洞窟内を歩き始めた。
HPは相変わらず1のままだが、どうやら俺は助かったらしい。
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崩落事件から三日経った。
俺は、ルシュガの小屋のベットで眠り続けていたらしい。
目が覚めた俺は、アイテムボックスから回復ポットを取り出し使用した。
たちまちHPは最大値でもある10まで回復したが、怪我していた所は回復ポットでは完治しなかった。
ウォルガフ曰く、骨折は回復アイテムでは効果がないらしい。
「自然回復するから、それまで大人なちぃくしているといいでちゅ」
との、事だったが俺には寝込んで静養している暇はないのだ。
痛みを我慢しながら気丈に振る舞いながらも、ルシュガの目の前に立ったのである。
「本当にもう大丈夫なのか?」
「えぇ、お陰様で」
流石にこれには、ルシュガは目を丸くして驚いていた。
「リュウイたんは、特別なんでちゅよ」
「そっそうかっ!?」
ウォルガフの言葉に、無理矢理納得している。そんな感じがした。
「ルシアの件、ありがとな。礼を言っても言い切れんな………」
「いえ、俺の方こそ助かりましたよ。ありがとうございます」
「ねぇねぇ」
クイクイッと俺の服を引っ張るウォルガフだった。
「んっ?」
「お菓子の家は?」
「……」
忘れていなかったのか!!
本当にお菓子の家にしないと、怒りそうだな……
「もっ……勿論、作ってもらおう!」
「わーい♪」
いつもの喜びのダンスをウォルガフは、嬉しそうに踊っていた。
そんなウォルガフのダンスを無視して俺とルシュガは、話を進めた。
「あぁ、家を建てるっていう話だったもんな。それで場所はどこにあるんだ?」
「え〜と……ですね」
ん〜口で説明するより来てもらった方が早いんだよなぁ
「?」
でも、帰還アイテムを使ってマイホームに戻っても、ここに戻ってくるまでに三日はかかる。
材料とか運搬するにしても流石に時間がかかりすぎるよな。
だからと言って、帰還場所をここにするのも勿体無いよな……
一層の事、『ムーンフェイズ』を登録して……
いや、それはやめておこう。
この先、登録場所をリセット出来るかわからないし……
一箇所はマイホーム。
二箇所目は、既に決めてあるし……
やはり、三箇所目はもっと違う場所にしたいな……
「どうした?」
「……土地はあります」
「だから、場所は?」
「行く事は簡単に行けますが、帰りに時間がかかります」
「はぁ?」
「ねぇねぇリュウイたん」
「んっ?」
俺が何に悩んでいるのか、ウォルガフは理解してくれているようだ。
こおいう時は、実に助かる。
ウォルガフは、耳元でゴニョゴニョと俺に話してくれた。
「!?」
「どうでちゅか?」
「おおおおおおおっ!! なるほど!!」
「??」
「ウォルガフ、グットアイディアだっ!」
「えへっ♪ リュウイたんお菓子の家、期待してまちゅね」
ぬごっ!!
「だから、なんなんだよ? 俺にもわかるように説明しろ!!」
「ルシュガさん、俺の土地に案内します」
「おっおぉ……?」
外に出た俺は、アイテムボックスから一枚の葉を取り出す。
「なにが、はじまるんだ? 土地に行くんじゃないのか?」
「まぁまぁ、黙って見てて下ちゃい」
「帰還!」
そう唱えると帰還の葉の周りに光が集まりだし、次第に景色が変わり始めて行く……
再び何もないマイホームへと俺は戻ってきた。
「こっここはっ!!」
ルシュガは、一瞬にして景色が変わった事に驚いていた。
そりゃそうだよな。
森の中に居たはずなのに、何もない場所に連れて来られたんだから。
「ここが、俺の土地です」
「ってか、今、どうやったんだ!?」
「……」
ウォルガフを見習って、俺も劇団嘘つきになるか……
「俺は、魔王様に魔力注入時に産まれた新たな種族『ティンシミング』と言います」
「『ティンシミング』……??」
「はい、今は亡き能力を使える唯一の種族です」
「ほっほぉぉぉ?」
「この帰還の葉も、能力を一部ですね」
「素晴らしいなっ!」
「ですが、実はこの能力はまだ安定していません。無論魔王様にも他言無用と言われています」
「……」
「この事を知っているのはウォルガフだけでした」
俺はルシュガに杖を向けながら脅し始める。
魔法なんて使えないけど、この際もう……はったりだっ!
「ルシュガさん、あなたにも俺の事……他言無用でお願いしたいです」
ルシュガは両手を挙げながら黙って頷いてくれた。
俺が杖を下げると安心したのか、ホッとした顔をしている。
「それで、この土地に家を建てればいいんだな?」
「はい、お願い出来ますか?」
「お菓子の家ねっ!!」
「……」
ウォルガフの奴、お菓子の家に拘るなぁ〜
「それで、ここは地図で言うとどこら辺なんだ?」
「えっとでちゅね。ここは『フェィオン』地区の更に山奥でちゅね」
「はぁぁぁぁ!!? 『ムーンフェイズ』との往復に普通に一ヶ月半かかるぞ!?」
やってられるかっ! とルシュガは、言葉を付け加えていた。
因みに『フェィオン』は、ムーンサンの種族王ルブシューニェがいる街だ。
あれ?
ウォルガフだと『ムーンフェイズ』には三日で着いたのに……
俺は後を着いて来ただけだし……
あぁ、今思えば……かなり無茶苦茶な道のりだったな……
「それでですね。ルシュガさんにこれをお渡しします」
俺は貴重アイテムでもある帰還の葉を、ルシュガに差し出したのである。
「これは、さっき使った葉じゃねぇか?」
「はい、これを使えば、マイホームと『ムーンフェイズ』を行き来する事が出来ます」
「ほぉぉぉぉ?」
ルシュガは俺から葉を受け取ると、念入りに調べ始めた。
どんなに見ても、なんの変哲もない普通の葉だ。
「確かにこれがあれば、作業効率はグッと上がるが本当にいいのか?」
「えぇ、使って下さい」
「わかった……立派な家建ててやる」
「わーい♪ お菓子の家、楽ちみぃでちゅ〜♪」
「………」
クルクルクル……とウォルガフは周り、走り回っていた。
「取り敢えず、俺の家に帰るか」
「えぇ……」
ーーーーーー
再びルシュガの家へと戻った俺たちは、今後の事について話し合いをした。
マイホームが、出来上がるまで三ヶ月程かかるらしい。
ルシュガの息子であるルシアにも協力してらう為、帰還の葉の事は他言無用にと再度お願いしておいた。
それまでの間、依頼をこなしつつ宿屋生活だな。
お金自体はまだまだ余裕ではあるが、ウォルガフの食事量を考えるとどうなるか。
さっぱり検討がつかない。
まぁ、いざとなったら素材アイテムを売るか……
その日の夜、案の定ウォルガフはお腹いっぱいまでに平らげ既に夢の中だ。
本日は、ウォルガフだけの食事料で銀貨50枚。
寝泊まりさせてくれたお礼にのと思い、ルシュガと息子のルシアの分も奢り、俺の分を含めて銀貨10枚かかった。
合計で銀貨60枚、60Gだ……
まぁ、気にする事はないけどさぁ〜
毎日三食と弁当付きで、ウォルガフの食事料は金貨一枚以上かかる。
どう考えても、食べ過ぎだろ?
そして、お菓子の家だろ……?
「ったく幸せそうな顔をして……」
そう呟きながらも、布団からはみ出ているウォルガフの布団を掛け直しつつ、俺は寝室を後にした。
ルシュガは、暖炉の前で図面とにらめっこをしていた。
「ルシュガさん……」
「あぁ……リュウイか、どうした? 眠れないのか?」
「そうじゃなくてウォルガフが拘っている、お菓子の家の事なんですが……」
「あぁ、心配しなさんな。美味しそうな家にしてやるから安心しろ」
「いやいや、美味しそうにされたら……それこそ、一日で無くなってしまいます」
「んっ? なんだ、お菓子の家にしないのか?」
「取り敢えず、俺としてはこんな感じでお願いしたいんですよね」
俺なりに考えた図面をルシュガに渡すと、フッ……と笑い、その後任せろ。と言ってくれた。
頼もしいな……
「後、ルシュガさん」
「んっ?」
「実は俺は 、Level.1なんですよね」
「!?」
「依頼も何度も達成して今はEランクになりました。
ウォルガフに頼んで高ランクの依頼を、一緒にこなす事もしました。
ですが、一向に上がらないんですよね」
「普通に考えれば、依頼の報酬の中に経験値は含まれているはずだ。嫌でも上がるだろう?」
「そうなんですが、上がらないんですよね……」
「……」
「何故かわかりますか?」
「うーん。となると、魔王様からの魔力不足とかか? 一番いいのは、直接魔王様に聞いて見る事なんだろうけど……
一度、魔王城を出てしまえば、ある程度のLevelにならない限り扉は開かれないしな」
「そっそうなんですよ……」
知らなかった。
だから、Level.50にならないと駄目なのか……
「どうしたもんかなぁ〜」
「いや、気長に方法探しますよ」
「んっ? そうか? 力になってやれなくてすまないな」
「いえ、ルシュガさんのお陰でヒント貰いましたよ、ありがとうございます」
「??」
不思議そうな顔をしているルシュガに頭を下げ、俺は寝室へと戻る事にした。
ベットで寝転びながら早速システムメニューを開き出す。
まず、保身システムを開く。
保身システムは、何らかの事情で貴重アイテムが無くなった場合、一度だけ再配布してくれるシステムだ。
つまり、ルシュガに渡した帰還の葉は、貴重アイテム。
申請すれば、帰還の葉を再配布してくれるはず……
「よし、これで行けるはず……」
システムメニューは『受付ました、暫くお待ちください』と表示されていた。
保身システム生きていて良かった……
さて次は、よくある質問『強くてニューゲームについて』
途中までしか見ていなかった事、俺はすっかり忘れていたよ。
ルシュガが『直接、魔王様に聞いて見る事なんだろうけど……』と言ってくれなかったら、思い出す事はなかっただろうな。
えっ〜と、どこまで見たんだっけかな……
説明書きを指で上にスライドさせながら進めていく。
「あぁそうだ、そうだ。思い出した。『ラグナロク』
ここまで見たんだったな。えーと、続きはここからか……」
『戦闘において、敵の攻撃によりHPが三分の一まで減少した際、一時的にゲーム時代の能力が解放され、現在の能力に上乗せされるパッシブスキル『転生者』が発動します』
パッシブスキルとは、俺が発動したいと思わなくても常にその効果が発動し続けてくれる物だ。
例えるなら、常にHP+30とか力+30とかはパッシブスキルと呼ばれている。
ようするに、俺が死にかけると一時的に剣士Level.99になる事が出来るらしい。
だから、あの洞窟内でホワイトスネークを倒す事が出来たのか……
なるほどね。
[アイテムボックス]
『アイテムボックスは、ゲーム時代と同様に出し入れ自由にお使い頂けます。
尚、回復アイテムも使用可能。素材アイテムも使用や売買可能です』
[お金]
『Gから白金貨、白金貨、金貨、銀貨、銅貨に変更され、1Gが銀貨1枚でそのままお使い頂けます』
知っている情報ばかりだな……
と言うか、初めにこれを見れば良かったのか……
[倉庫]
『現在の世界では、NPCは魔王により封印されております。
ある特定のクエストをする事でマイホーム地区にのみ復活する事が出来ます』
へぇ〜特定クエストねぇ〜
[Level]
おっようやく出てきたか。
ピロロロ〜ン
『アイテムが届きました。ご確認下さい』
システムメッセージが流れてきた。
タイミングいいのやら、悪いのやら……
しかし、帰還の葉は届いたようだ。以外と早かったな。
郵便ボックスを開きながら、帰還の葉を貴重アイテムボックスへとしまいこむ。
さて、続き、続きと……
『Level.1の状態では魔王の呪いが濃くかかっています。
このままでは、いくら敵を倒してもLevelが上がる事はありません』
なにっ呪いかよ!!!
『呪いを解ける者が、この世界には存在しています。探し出し呪いを解除してもらいましょう』
まさか……
魔王の呪いのせいだとは思っても見なかったな……
しかし、探し出せってどうやって……?
ウォルガフは、知っているのだろうか……?
と言うわけで、朝起きたウォルガフに早速聞いてみた。
すると、一言。
「ちらなーい」
キョトンとした顔をしながらそう言われた。
はははは……
どうしょう……