【01】
Level上げとギルドの依頼を兼ね、俺とウォルガフはドラゴンとゴブリンを掃討する為、山道を歩いていた。
「ゴッブリ〜ン退治ぃ〜♪ ぼくの剣が冴えわたるぅ〜」
そんな歌を歌いながらウォルガフは、自分の身長よりも遥かに大きい大剣を軽々と振り回していた。
そんな歌を歌っていると、ゴブリンが一匹……
俺たちの目の前に現れた。
「リュウイたん、ぼくから離れないでくだちゃいね」
「うっうん……」
凝視する事、三秒……モンスターの名が表示されてきた。
『ゴブリン』Level.85
以外とLevel高い……等と思っているとパァ〜と光の粒となって消えて行った。
一撃ですか!!?
初めての戦闘は、あっという間に終わってしまった……
「Level、あがりまちぃたか?」
「んっ……」
そういえば、Levelアップ音は聞こえてこなかったな……
ステータス画面を開き確認してみる。
だが、Levelは1のままだった。
「上がっていないね……」
「了解でちゅ。もう少しした所に大きな広場がありまちゅ。そこに行けば、ゴブリン一杯いまちゅ」
「わかった……」
後ろを取られて攻撃されないように注意しないとな……
再び、ウォルガフは歌い出した。
「リュウイたぁ〜んのLevel上げぇ〜、ぼくがぁ〜いっぱいたおちぃまちゅ〜ララランランッ!」
クルクルと時折回りながら、ウォルガフは先へと進む。
すると、突然ウォルガフの歌が暗くなった……
「ゴブリン〜たおちぃまちゅ〜、でもぉ〜お腹がすいたでちゅ〜♪」
えっ!? お腹すくの早くない!!
一旦停止し、俺の方へに顔だけ振り向いてくる……
「リュウイたん……」
「んっ?」
「お腹すいたでちゅ……何がないでちゅか?」
「何かって……」
「ぼく……お腹すき過ぎてもう動けないでちゅ……」
「……」
そう言って、その場に座り込むウォルガフ……
食べ物なんてあったかな〜
そう思いながら、システムメニューを開き出しアイテムボックスを選択する。
うーん……食べ物、食べ物と……
「はやくぅ〜」
「大根ならあるぞ?」
「生でちゅよね?」
「もち」
「そんなの食べられないでちゅ〜おいちぃ物が食べたいでちゅ〜」
ウォルガフは大の字に寝転がり、両手両足をジタバタと動かし始めた……
我儘な奴だなぁ……
うーん……
「回復ポッドならあるけど……?」
「そんなの、美味ちくないから嫌でちゅ〜」
困ったな……
ウォルガフが満足するような物なんてないぞ……
「うぅ……お腹ちゅいたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
遂にウォルガフは泣き出してしまった。
オロオロ……
こんな時、親ならどうするんだ……?
って言うか俺は親になった事がないから対処の仕方がわからん……
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
慌てながら更に探し続ける。
「おっ……干し肉ならあるよ」
「ひっく……それでいいでちゅ……ひっく……」
渋々かよっ!?
干し肉を受け取ったウォルガフは、涙目になりながら一口食べた途端……
「おいちくなぁぁぁい〜!!」
グルメ過ぎだろ……
また、泣き出してしまった………
「ウォルガフ……あのさっ、この依頼終わったら美味しいご飯いっぱい食べに行こう」
「ひっく……」
「なんでも食べていいぞ…」
「……ひっく」
「……」
「…ひっく…」
「俺のおごりだ!」
「干し肉で頑張るでちゅ!!」
うわぁ〜単純……
「じゃ茶々と終わらせまちゅ!!
リュウイたんは、次からちゃんと食料の確保お願いちまちゅねっ!
旅の必需品でちゅよ!!」
「はい……わかりました……」
用意しなかった俺が悪いみたいな言い方だな……
泣き出したら、うるさいし……
我慢……するかぁ。
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「ぎぃゃぁーーっ!!」
ウォルガフの攻撃を喰らい叫び声を挙げながら散って行くゴブリンたち……
やはり、Levelアップの音は……鳴り響かなかった。
「どうでちゅか?」
「ダメ……Level.1のまま」
「じゃ、もっと倒すでちゅね」
目指せご馳走♪ そんな語尾が聞こえる中、ウォルガフは容赦なくゴブリンたちを倒し続けてくれた。
既にゴブリン自体の討伐数を達成しているのだが……
ウォルガフは俺の為に、湧き出るゴブリンたちを倒し続けてくれた。
あっ因みゴブリンは話が出来なかった。
なぜ? とウォルガフに聞いたら、ちらなーいと返事されてしまった。
興味がないんだろうな。
後、ウォルガフの剣捌きは、元剣士の俺からみても凄かった……
Level.99だった俺と、Level.200の剣捌きは当然違うだろうと言えば、それまでなんだけど……
『ぼくがそんな暇、与えまちぇんから』依頼を受けた時に言った、この自信満々の言葉。
今なら俺にもわかる。
幼稚園児みたいな身体のくせに、ウォルガフ……お前、強すぎ!!
しかし、ウォルガフがどんなに倒しても、Levelが上がる気配は全くなかった……
「なぁ、ウォルガフ……」
「なんでちゅか?」
「疲れただろ? そろそろ行こう」
「でも、まだLevel上がっていないでちゅよ?」
「まぁそれは明日に伸ばそうかな? と思って……ドラゴン退治して、報告に行こう」
「ほーい」
「ドラゴン退治ぃ〜♪ ドラゴン退治〜♪」
歌は歌っているが、ウォルガフの特有の踊りはしていなかった。
だが、気分は遠足気分だな……
山頂を目指し歩きつつ、道行く途中に出て来たゴブリンを余裕でウォルガフは倒すも、やはり俺のLevelが上がる事はなかった。
「じゃリュウイたんは、ここで待っててくだちゃいね」
どうやらこの先に、ドラゴンがいるらしい。
「俺は行けないの?」
「リュウイたんが行ったら、ドラゴンと会った瞬間しんでちまいまちゅ」
「なんとっ!?」
やはりLevel.1ではダメらしい。
「ぱっぱっと終わらちぇてきまちゅ〜」
そう言ってウォルガフはタッタッタッタッと走って行くのであった。
しかし、なぜLevelは上がらないのだろう……?
『クエストは完了しました』そんなシステムメッセージが流れてきたのだ。
「はやっ!!!」
五分……いや三分も経っていないぞ……?
「お待たせちぃまちぃた。倒して来まちぃたよ」
「……どうやって?」
「う〜んと、でちゅね……
ドラゴンが先にブァ〜〜〜と炎を吐き出してきたんでちゅよ。
それをぼくが、ヒョイッと避けてそのまま、ドーーーーンッと倒ちまちぃた」
うん! さっぱりわからん!!
「Level……上がりまちぃたか?」
「いや、1のままだよ」
「そうでちゅか……」
ショボンとウォルガフはなってしまい、それをなんとかなだめる事に成功した俺は、再び街へと帰る事にしたのである。
何故……Levelが上がらない……
ちょっと運営出て来いやぁ〜〜!!
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冒険者ギルドの受付のお姉さんは、流石に呆れていた……
普通なら一週間ぐらいかけて達成出来る依頼を僅か、一日でやり遂げたのだから……
ウォルガフが強すぎなのか……
それともドラゴンが弱すぎたのか……
いやいや、きっと前者の方なんだろうな……
「はぁ〜ねぇ、どうやって倒したの?」
「うんとでちゅね……」
再びウォルガフは、わけのわからない説明をお姉さんにしている。
「へぇ〜ウォルガフは強いわね〜」
「えへっ、褒められちゃった♪」
いっ今の説明で分かったの!?
ウォルガフの話を、お姉さんは俺にも分かるように話してくれた。要するに……
タッタッタッタッとウォルガフが走って行くと、ドラゴンは先制攻撃に炎を吐き出して来たらしい。
それを、ひらりっと飛び上がりながら回避してグルグルグルと回転しながら真っ二つに切り裂いた。
との事だ。
ドラゴンを一撃で倒したウォルガフも凄いが、ウォルガフの言っていた事を分かったお姉さんも凄いや……
「じゃ二人とも冒険者カード出して」
「はーいでちゅ!」
「はい」
同時に答え、ウォルガフの分も一緒に渡す事にした。
すると、お姉さんは依頼達成の手続きをしてくれた。
「はい、出来たわよ」
そう言われ受け取ったギルドカードには、文字が刻まれていた。
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名前:リュウイ
ランク:F
Level :1
バーティー名:剣と魔法と魔王
パーティリーダー:ウォルガフ
依頼:報告済み
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名前:ウォルガフ
ランク:S
Level :201
バーティー名:剣と魔法と魔王
パーティリーダー:ウォルガフ
依頼:報告済み
=================
「Levelあがっちぃったぁ〜♪ わーい♪ わーい♪
やったでちゅ〜いえぃ〜いえぃ!」
ウォルガフはLevelが上がった時にのみにしか踊らない踊りを踊りだしている。
「いいなっ……」
「えっ? Level上がっていないの?」
「はい……」
「あらあら……」
「なんで上がらないかわかります?」
「Level差……かしら??」
やはりそうなのかな……
でも、Level差があっても強い敵の場合……
少しは経験値くれたはずなんだよなぁ〜
「でも規定数以上のゴブリンをウォルガフは、倒してくれましたよ」
「楽して上げちゃダメよって事ね」
「うっ……」
見透かされていた……
「取り敢えず、依頼達成報酬の一人銀貨5枚なんだけど、ウォルガフの分もリュウイさん持っている?」
「あぁ、そうですね。渡したら一回で全部お腹の中に、入ってしまいそうだから……」
「わかったわ」
銀貨十枚を懐の中に入れるような素振りを見せながら、アイテムボックスの中へとしまいこむ。
「ねぇ、俺だけでも出来る依頼ありますか?」
「そうね〜リュウイさんの今のランクはFランクだから……採取系が殆どね」
「なるほど〜」
「じゃあ適当に採取系の依頼お願いします」
そう言って冒険者カードを渡すと、お姉さんはわかったわ。と言いながら手続きをしてくれた。
お姉さんが手続きしてくれたのは『癒し草二十枚、経験値5 報酬銅貨5枚』と言うなんともショボい依頼だった。
最初は、地道に反復してLevelとランクを上げて行くしかないらしい。
いつウォルガフの強さの恩恵に俺は預けられるのだろうか……
まぁ……しゃあないよな……
「因みに癒し草は、回復ポットの材料になっているから、いつでも癒し草があれば達成出来るわよ」
「なるほどね〜」
「いえぃ〜いえぃ〜いえぃいぇぃ〜……いえーーーーーい!!」
踊り終わったウォルガフは決めのポーズをしていた。
あははははっ……
お子ちゃまだな。
「さて、ウォルガフ。そろそろお腹空いていないかい?」
「ちゅいたでちゅ!!!」
「じゃ、ご飯でも食べに行こうか」
「!!!!」
目の輝きが違う……
その瞳に待ってましたぁ〜と言わんばかり……
更に、頑張ったご褒美♪
そんな期待感に満ち溢れていた。
お姉さんに頭を下げながら、食事する場所へと歩き出す。
今日は、量が多くて味はそこそこ……
更に安い所! と、お姉さんに相談したら教えてくれた。
しかし、食べ終えたウォルガフは一言……
「確かにお腹は一杯になったでちゅ………でも、あまり美味しくなかったでちゅ……」
そう呟いていた……
因みに今日も、店の食材全てウォルガフは食べ尽くしていた。
掛かった金額は銀貨十枚……
予想通り依頼の報酬金全額、ウォルガフの胃の中へと収まったのであった。
今はまだお金に余裕があるからいいような物の、なにか手を考えないとな……