【03】
「どこからって、アイテムボッ……むごっ!?」
俺はウォルガフの変わりに教えてやろうと思って口を開いたのだが、ウォルガフは慌てて俺の口を塞いだのだ。
「ウォルガフ?」
ウォルガフの慌てた行動に聞きに来た者たちも、更に俺に対する不信感を強めてしまったようだ。
「えっとでちゅね…… この子は生まれたての魔族でちゅ!」
「ほぉ?」
「魔王ちゃまは魔力注入時に新たな種族を生み出そうと、考えたみたいでちゅ!」
「それがこの子なの?」
「そうでちゅ! のっ能力はアイテムボックスでちゅ!」
「アイテムボックスゥ……!?」
「はいでちゅ! リュウイたんは今は亡きアイテムボックスを扱える種族でちゅ」
「でっ? 種族の名前は……?」
「えっえっとですね……『ティンシミング』といいまちゅ!」
「変わった種族なのね、それでなんでも出せるの?」
「はいでちゅ!」
おいっ! ウォルガフ!?
この展開でその返答やばいぞ!?
「じゃあ、試しにドラゴンの鱗出せる?」
ウォルガフはじとぉーと俺を見ている。
あるよね?
あるよね?
リュウイたん!!
そんな目をしている。
あったかな……
システムメニューを開きながら素材アイテムの中からドラゴンの鱗を探し出す。
沢山あったよ……
アイテムボックスから一個のドラゴンの鱗を取り出す。
「おぉ〜」
「すげぇ〜」
「その鱗売ってくれないかしら?」
「いや……あげますよ」
「本当?? いいの??」
「えぇ、どうぞです」
ドラゴンの鱗は、MAXまで溜まっていたしね……
「やったぁ〜これで依頼完了出来るわ! ありがとう!」
「みまちゃま、あのでちゅね……」
「んっ?」
「実は、まだリュウイたんの能力ははっきりと安定していないのでちゅよ。
だから、ぼくは魔王ちゃまに他言無用と言われていたんでちゅよね……?」
「あっ……」
「ぼくはこのままじゃ、魔王ちゃまに怒られてちまいまちゅ……」
ウォルガフは、ウルウルと目に涙を沢山貯め今にも泣き出しそうになっていた。
「ウォルガフ、大丈夫。安心して、誰にも言わないわ」
「ほんとぉ?」
「あぁ、約束するよ。だから泣くな」
「うん!」
やはり、嘘泣きか……
劇団嘘つきだな……ウォルガフは……
その後、俺たちに不思議に思っていた二人と別れ冒険者ギルドを後にした。
「……で? なんであんな嘘を……?」
「アイテムボックスは、ヒューマンが唯一持っていたものでちゅ。
でも滅亡と共に今は誰も持っていまちぇん」
「えっ? そうなの?」
「はいでちゅ。だから、あの人たちはリュウイたんの行動に不思議に思ったのでちゅ」
「へぇ〜ウォルガフは転生を果たしたのに、アイテムボックス使えないの?」
「ぼくは転生を果たちまちたが、ヒューマンではなくフォスとして生を受けまちた。
だから、使えまちぇんでちた……」
「そうか……」
「アイテムボックスを使う時はわからないように気をつけるよ」
「そうちてくれると助かるでちゅ」
ふぅやれやれ、先が思いやられるな……
「んっ? ちょっと待て!!
ウォルガフお前、アイテムボックスを使えないと言う事は、記憶のみで後は何も持っていないのか?」
「……そうでちゅ。最初は大変でちた……お金もなく、アイテムも買えず……」
「……」
「でも今は、リュウイたんが沢山お金を持っているから大丈夫でちゅ!」
金かよ!?
まぁいいか……
ウォルガフは今まで頑張ってくれたんだ……
少しぐらい、協力するかな……
「それで、これからどうするんだ? 武器も防具も、冒険者カードも全て明日何だけど」
「じゃ、宿屋にいきまちょ! 住宅区に食事のおいちぃ宿屋があるんでちゅよ。
こっちでちゅ!!」
奢るハメになるんだろうなぁと思いつつ、まだ食べるのか!!
とウォルガフにツッコミを入れつつ俺は後を歩いて行くのであった。
冒険者ギルドを出て歩く事20分。
ウォルガフの言う通り美味しそうな匂いがしてきた……
「ここでちゅ!! お腹空いたでちゅ〜〜!!」
ウォルガフはドアを思いっきり開け中へと入って行ったのである。
「やれやれ……」
宿屋汐音の中は、カウンター席と多人数用のテーブル席が十席。
テーブル席はもう既に全部埋まっており、カウンター席ぐらいが僅かに残っていた。
色々な種族たちの集団が、テーブルを囲いながらビールジョッキ片手に大騒ぎしている。
「ウォルガフはどこに行ったのかな……」
ウォルガフを探しつつ辺りを眺めていると、背後に立たれたそんな気配を感じた。
「いらっしゃいませ……お一人様ですか?」
声は俺の頭上から聞こえてきた。
目線を上げると俺よりも遥かに高く、厳つく無愛想……
そして頬には斬り傷が残り如何にも凶悪!
としか思えなかった。
「つ……連れが……先に中に入っています……」
「ウォルガフか?」
「そうです……」
「………」
睨み続けられると怖すぎて、別な場所に行きたくなる……
でもウォルガフがいるし……
「……こっちだ」
男はドスドスと足音を立てながら俺をウォルガフの元へと案内してくれた。
「リュウイたん! 遅いでちゅよ!」
そう言いながらウォルガフはもう大皿を三皿平らげていた。
あんな小さな身体のどこに入るのだろうか??
不思議だ……
「ぼぉ〜としていにゃいで、座るといいでちゅ」
「あっあぁ……」
「ご注文は……?」
だから、怖いって!!
「適当に一人前お願いします」
「……かしこまりました」
男は一礼し、厨房の方へと入って行くのであった。
ウォルガフは実に美味しそうに食べている。
食べ方は下手で、やはり口の周りにソースをつけていたが……
「ウォルガフ、美味しいかい?」
「はいでちゅ!!」
ウォルガフの満面の笑みに、俺は騙されたのかもしれない……
一杯食べるといいよと言うとウォルガフは遠慮なく平らげた……
「おかわりでちゅ〜〜〜!!」
その言葉と共に厨房にある食材がなくなった事を告げ、ウォルガフはショボンとしていた。
どんだけ食べるんだよ!!
「銀貨30枚になります」
隣でウォルガフは腹八分でちゅ〜
などとふざけた事を言っているが、食材がないのだ。
諦めてもらおう。
えっと〜銀貨一枚で1Gだから……30Gか安いな……
俺にしては安いけど、この世界ではどうなんだろうか?
大金なのかな?
ウォルガフは俺の足元で何故か踊っている。
喜びのダンスか……?
まぁお金の価値はそのうち聞く事にするか。
「あっそだ。宿の手続きもここで?」
お金を払い終えた俺は、今夜の宿に着いて聞いて見た。
「ご宿泊は、朝食付きで一泊銀貨三枚でございます」
「二人分で銀貨六枚と……」
「それでは、宿帳にご記入を……」
ウォルガフは変わらず踊っている……
暇なのか……?
まぁいい、代わりに書いてやるか……
「これでいいですか?」
「リュウイさんとウォルガフと……部屋は二階の二〇五号室でございます」
「わかりました。ウォルガフ行くよ」
「はーいでちゅ」
鍵を受け取り二階へと歩いて行く。
「おっ泊まり、おっ泊まり〜ルンルンルン」
「階段で、はしゃぐと転ぶよ……」
ドテッ!!
言わんこっちゃない……
階段に躓きウォルガフは鼻を押さえながら泣きそうな顔をしている。
「ぶったでちゅ……」
「はいはい……すぐに治るから大丈夫だよ」
うん、まさに息子をあやす親だな……これは……
二〇五号室は二階の一番奥にあった。
どこにでもあるツインのビシネスホテルぐらいの大きさだろうか?
ベット二つにクローゼット……
二人で泊まるには十分過ぎる程の広さであった。
「わーい♪ ベットだぁ〜ふかふかぁ〜」
タタタタタッとベットにダイブしながら、小さい身体で転がり回るウォルガフ。
ふむ、喜んでいる事だしまぁいっか。
「さて、そろそろ寝る?」
「まだ寝ないでちゅ! やる事が残ってまちゅ!!」
「ほぉ? それは?」
「お風呂に入っていないでちゅ!!」
「風呂ぉぉぉぉぉぉ??」
「今日はいっぱい動き回りまちぃたから、身体が汗だらけでちゅ!
このままじゃ、寝られまちぇん!!」
「わっーたよ。じゃ、お風呂の事聞きに行こうか」
「はーーい。わーい、わーい♪ お風呂でちゅ〜♪」
俺は再び、下に降り先ほどの男に話しかける。
「あの……お風呂に入りたいのですが……」
「風呂場は、バスタオル付きで一人一時間銅貨50枚でございます」
「じゃ二人で入りたいのですが、銀貨1枚で……いいです?」
「お預かりしました。風呂場は、こちらの奥にあります。ごゆっくりどうぞ」
「どうも……」
色々な意味で風呂は凄まじかった……
風呂場は立派で、大理石みたいな石で出来ていた。
この世界では大理石とは言わないのかもしれないが……
風呂場に入った瞬間、ウォルガフのテンションはマックスまでに上がったのだろう……
身体も洗わずに風呂の湯の中に飛び込み、犬かきしながら泳ぎまくるし。
俺がウォルガフの身体を無理矢理洗うとすると、思いっきり暴れまわって抵抗するし……
あまつさえ、石鹸を使ってスケートみたいにはしゃぎ回るっていた。
トドメは風呂から上がった時だ。
俺はゆっくりと湯につかり、疲れを取る……
そんな事を期待していたのにウォルガフのおかげでそれは出来なかった。
逆に疲れていた。
脱衣場では、金髪の逆毛を拭かせてくれないし。
「きっもち良かったでちゅゅゅゅゅっ!!」
と言いながら、走り回っていた。
「ウォルガフ!!!!! いい加減にしろ!!」
俺の我慢は、限界を超えてしまった。
気がつけば……ウォルガフに怒鳴り散らしていた。
その後、ウォルガフは肩を落とし何も言わなくなってしまった。
少し言い過ぎたのだろうか……?
ウォルガフは凄く楽しそうにしていたのに……
悪い事をしてしまったかも。
部屋に戻ってもウォルガフは俺に背を向け、ベットでションボリと落ち込んでいる。
「ウォルガフ……俺が悪かったよ……少し言い過ぎたね。ごめん」
頭を下げそっぽを向いているウォルガフに俺は頭を下げた。
トコトコトコトコ……
と足音が聞こえてきた。
ウォルガフの手が俺の頭にある。
「ゆるちゅでちゅ!!」
ニコッと笑うウォルガフに俺は……何か違うぞ!?
と思いながらも、ウォルガフの笑いに俺は負けたみたいだ……
それ以上何も言えなかった。
ウォルガフはその後、椅子に座りながらカクッン、カックンと眠たそうに過ごしていた。
「眠いなら、ベットに入って寝た方がいいぞ?」
「う〜ん……でもぉ……」
眠たい瞼を擦りながらもウォルガフは俺が寝るまで頑張って起きていようとしていた。
「ウォルガフ、明日武器と防具、そしてカードを受け取ったらLevel上げに行こうと思うんだ。
協力してくれるか?」
「僕にまかちぇてくだちゃい!!」
ウォルガフは張り切っていた。
「じゃぼくは、明日の為にもそろそろ寝るでちゅ!」
「あぁおやすみ、ウォルガフ」
おこちゃまだから眠くなるのが早いのだろうか?
俺は、まだ全然眠たくなかった。
特にやる事もなく、ベットに寝転がりながらシステムメニューを開き出す。
ログアウトボタンは予想通り押せなかった。
「ふむ、やはり無理だよなぁ〜」
独り言を言いつつ、膨大なアイテムの整理を行い、次に武器や防具といった物の整理を行い始めた。
あった装備のその殆どはLevel.99からの物であった。
次にフレンドリストを選択する。
相変わらず『フレンドはいません』と表示されていた。
ウォルガフは、フレンドに入らないのだろうか??
まぁこれもそのうちだな……
と思いつつ次は、運営報告欄を選択……
当然、選択出来る物は何一つなかった。
よくある質問。
これは、一つだけ選択できた。
『強くてニューゲームについて』。
を俺は発見したのである。
早速、選択してみると……
『強くてニューゲームは、魔王に最初に殺された者のみになれる種族です。
[基本]
種族は転生ハイヒューマンと言い職業は、本来一つしか選択できませんが、転生ハイヒューマンは三つ選ぶ事が出来ます。
その為、スキルも職業によって取得でき、様々な組み合わせを行う事が可能になり戦闘において幅が広がります。
[戦闘]
転生ハイヒューマン用に新たに追加された、固定スキルとして『ラグナロク』が用意されています。
『ラグナロク』は、武器を持った状態でのみ発動が出来ます。
通常の能力の二倍から最大十倍までにランダムに能力値は強化され、回避不可能の高速五連撃を繰り返す事が出来ます。
しかし、『ラグナロク』直後は三十秒間の硬直時間があります。
この間動く事は出来ませんので、反撃には十分に注意が必要てす。
再び使用する為には半日必要です。
これは、Levelが上がる毎に再使用時間は減っていき、最終的には硬直時間終了後に再使用する事が出来る様になります』
そもそもスキルとは……
その職業の専用スキルで俺は剣士だったから溜め攻撃短縮1%とか、攻撃力アップのパッシブ系から始まり、二回斬り、燕返しと言った攻撃スキルもあった。
職業が三つ選べる俺は、魔法系と剣士系……
そしてあと一つの職業を選ぶ事で、三つの職業専用スキルを覚える事が出来るみたいだ。
例えるなら、ファイアーボールを剣にまとわせながら、火炎斬りとか出来るはずだ!
多分……
やった事ないからなんとも言えないが……
しかし、固定スキルの『ラグナロク』硬直時間があるとは言え……
「回避不可能の五連撃……いいねっ!」
ふぁ〜と眠気が襲ってきた。気がつけば大分夜も更けてきたようだ。
ウォルガフは既に寝息を立て気持ち良さそうに寝ている。
「……ソロソロ寝るかな」
『強くてニューゲームについて』の説明書きはまだ続きがあった。
だが、システムメニューを全て閉じ、ふかふかのベットに潜り込み睡魔に身を委ねつつ、俺は眠りに着いたのであった。
よしっ! 明日はウォルガフと共にLevel上げだっ!!