【02】
魔王を倒し、クリスタルに封印されているプレイヤーたちを助け出す。
これが最終目標である。
しかし、どれ位Levelを上げたら魔王は倒す事が出来るのだろうか……?
魔王を倒せるまでのLevelを上げるのは別に苦じゃない。
むしろリベンジしたいと思っていた所だ。
だが、俺は魔王を直接この目で見て肌でそのLevelの差を感じたかった。
ウォルガフの話し曰く、遠巻きで魔王を見る為にはLevel50でならなければならないらしい。
取り敢えず、Level.50を目指す事にしよう。
まず、俺の装備の充実。
そして、冒険者ギルドに登録した方がLevel.50になるのには手っ取り早いとウォルガフは教えてくれた。
魔族しかいない世界に、冒険者ギルドがある事に俺は驚きはしたが……どうやら、五百年の年月で色々と変わってしまったようだ。
魔族たちは魔王城で生活をしているのかと思っていたらそうではなかった。
ヒューマンであったプレイヤーたちがいなくなった事で、魔族たちはヒューマンと同じく街を建て、商売を行う者や、魔王の魔力を受け止めきれずに我を忘れ反抗する魔族の討伐。
そんな生活をしているらしい……
基本魔族四天王は、四つの大陸を一つずつ魔王からもらい支配していた。
月に一回魔王城に行き、戦略とかの話をしているとの事だ。
ウォルガフは中の下ぐらいの実力らしく、重要会議に呼ばれた事はないので詳しい事はわからないと話していた。
Level.200のウォルガフで中の下って……
俺はどんだけ強くなればいいんだ……?
というわけでマイホームを後にした俺たちは、冒険者ギルドのある街『ムーンフェイズ』という街に来ていた。
ムーンフェイズは、ガルヴァルデの種族王ぺディリヴァがいる街だ。
だからと言ってガルヴァルデばかりいるのではなく、街全体は活気に満ち溢れ様々な種族たちが行き来していた。
そんな中、俺たちに対する道ゆく人たちの視線が妙に痛い……
ウォルガフが小さいから、俺が誘拐したとでも思われているのだろうか?
それともウォルガフが珍しいのだろうか?
「やばいでちゅね……」
「なにが?」
「リュウイたん、目立ちすぎでちゅ!!」
俺かよ!!
確かに俺の身なりは、他の種族たちより確かに逸脱しているけど……
「よしっ、まずはリュウイたんの服を買うでちゅ!」
「おっおうっ!!」
ウォルガフの後を歩いていると、大きな盾を掲げている建物が見えてきた。
すぐにそこが防具屋というのがわかった。
「おっ? ウォルガフじゃねぇか? 珍しいな?」
「こんにちわでちゅ〜」
地面スレスレまでに深々と頭を下げているウォルガフは二つ折りになっていた。
そんな姿が妙に俺のツボに入ってしまった……
「何がおかしいんでちゅか?」
「……いや、何でもない」
口元を押さえ、笑うのに必死に耐えていた。
「リュウイたんは、魔法使いでちゅよね?」
「うんうん」
「おっちゃん、ローブをおくれ!」
カウンターに向かって背伸びしながら顔を半分だけ出しながらウォルガフはそう言っていた。
ダメだ……
幼稚園児のお使いにしか見えん!!
「リュウイたん……!?」
ウォルガフの怒りが爆発しそうだ……
やばっ!
真面目にやらねば……
「わっ悪い……」
「兄ちゃん、Levelは幾つだ?」
ウォルガフに言われ、防具屋の亭主は魔法使い用のローブを何点か持ってきながら俺にそう聞いてきたのである。
「………です」
「あぁん? 聞こえねぇよ、なんだって……?」
「……」
「Levelは……1です……」
「……」
亭主のおっちゃんはウォルガフをポカリっと殴ったのである。
「なにちゅんだょぉ〜」
「俺は、お前が連れてきた奴だからさぞかし高Levelの奴かと思って期待していたんだぞ!?
なのに、なんでLevel.1なんて馬鹿げた奴を連れてくる!!」
「リュウイたんは、これから強くなるんでちゅ!!」
「はぁ……」
おっちゃんは呆れていた……
「兄ちゃん、金はあるのか?」
「はい、それなりに……」
ゲームの世界のままの通貨ならね……
結構あるぞ。
「ウォルガフ!」
「なんでちゅか?」
「Level.1で装備出来る服なんてこのご時世……はっきり言ってないぞ!」
「なんとぉ!!」
「そこの兄ちゃん金だけはあるみたいだから、オーダーメイドにしろ」
「オーダーメイドでちゅか?」
「そうだ、このカタログから好きなの選べ! 割りましにはなるが、ないよりはマシだろう?」
「わかったでちゅ、ちょっと待ってくだちゃいね」
ウォルガフはカウンターから離れ、トコトコトコと俺の側へと歩み持ってきた。
「リュウイたん、本当にお金あるんでちゅか?」
「ゲーム時代のお金でいいのなら沢山あるよ」
「なんとっ! リュウイたんは、お金持ちでちゅね!」
どうやらこの世界のお金は、前の《剣と魔法と魔王》時代のお金も使えるらしい。
ただし価値が、かなり変わっていた。
俺の持っているお金は、億単位を超えている。
ゲーム時代では1G1円相当であった。
しかし、魔族のこの世界は違っていた。
Gから白金貨、金貨、銀貨、銅貨と、名称が変わり価格も大幅に変更されていた。
1Gが銀貨1枚の価値があるらしい。
という事は一気に金持ちじゃん!!
「でっ? どうすんだ? オーダーメイドするのか?」
「するでちゅ!」
「そうか、ならばここから選べ」
おっちゃんから本を受け取ったウォルガフは、床に座り込みカタログを置き見始め出したのである。
「リュウイたん、どれがいいでちゅか?」
「……ウォルガフ、俺にはどれが良いのか全くわからないょ。選んでくれるかい?」
「わかりまちた!」
ウォルガフが、あれもいいな。これもいいなっ。と言いながら選ぶ事三十分……
漸く選んだのは、魔力を溜め込む事が出来る特殊加工が施されている布であった。
「おっちゃん、これにする!」
カタログを手に取りウォルガフはトコトコトコとおっちゃんの方へと歩いていく……
「ほお、中々いい物を選んだな」
「うん、後ね。これとこれ……オプションでつけれまちゅよね?」
「つけれるが……これだとかなり高くなるがいいのか?」
「大丈夫でちゅよ」
「そうか、わかった。よし兄ちゃん寸法図るからこっち来い」
「はぁ?」
言われるがまま、寸法を測ってもらい明日には出来上がるとの事で防具屋を後にしたのであった。
つっ……疲れた……
「次は武器屋でちゅね!」
ウォルガフは張り切っていた。
しかし、武器屋でも同様にLevel.1である俺が装備出来る杖は一つもなかった。
ならば、剣でもいいやと思っていたら、絶対杖!
とウォルガフに言われてしまった。
結局杖も、オーダーメイドになってしまった……
「次は冒険者ギルドでちゅよ!」
「はいはい」
なんだろう……
息子にあれも買って、これも買って!
とせがまれている親の気分になりそうだ……
俺の武器と防具を選んでもらっているだけなのにな……
「なぁウォルガフ……俺が転生を果たして嬉しいかい?」
クルクルと回りながら器用に動き回っているウォルガフはピタリと回転を止め……
ニコッ
と満面の笑みを浮かべていた。
どうやら、嬉しいらしい……
300年間……
あの小さな身体で……
ウォルガフはたった一人で、生き延び俺の転生を待っていたのか……
途中で諦めようとは思わなかったのかな?
あっ身体が小さい分、脳みそも小さいのかな?
突然ウォルガフは、歩みを止め俺の方へと睨みながら振り返ってきたのである。
「リュウイたん……今のぼくの事、バカにしていませんでしたか?」
「しっしてないよ……ウォルガフはずっと俺の事を待っていてくれたんだな。と思っていただけだよ」
「そうでちゅか?」
「うん、うん」
俺がウォルガフの頭をくしゃくしゃと撫で回すと機嫌が戻ったみたいだ。
今度はスキップなのか?
飛び跳ねながら嬉しそうにウォルガフは歩いていた。
「わーい♪ 撫でてもらっちゃたぁ〜」
「ここでちゅ」
そう言いウォルガフは、石造りで出来た綺麗な冒険者ギルドの中へと入って行くのであった。
ギルド内は、入り口のドアを中心に右側が受付、左側が酒場になっていた。
中央はホールになっており、掲示板には大量にベタベタと貼り付けられた巨大な掲示板が設置されていた。
ウォルガフは迷わず右側にある受付の方へと歩いて行く。
奥にも部屋が続いているドアがあるのだが、この先は何があるんだろう??
しかし……背が短いのか……?
カウンターが高すぎなのかわからないが、ウォルガフはジャンプしながら受付の職員に挨拶をしていた。
「お姉ちゃま、ヤッホー!」
「あらあら、ウォルガフじゃない。今日はどうしたの?」
「うんとねー」
ピョン……
「今日は……」
ピョン……
思わず俺は、ウォルガフを持ち上げていた……
「ありがとう、リュウイたん」
「おっおう……」
ウォルガフのせいで俺は魔王を倒す前に笑い死にされそうだ……
「あのねぇ〜リュウイたんを登録したいんでちゅ」
「冒険者登録ね、わかったわ。
じゃウォルガフは酒場の方で待ってて、リュウイさんの登録が完了したらそちらに行かせるから」
「はーい。よろちくでちゅ〜」
そう言い俺の手から離れたウォルガフは、トコトコトコ……と酒場の方へと行くのであった。
ウォルガフの後ろ姿は、後ろから突つきたくなる……
「ウォルガフは、相変わらず可愛いわ♪」
「いつも落ち着きがないのですか?」
「そこが、可愛いんじゃない♪」
愛おしそうに女性はウォルガフを見つめていた。
コホン……
女性は我に返ったかのように、気取り直し仕事モードへと気分を切り替えていた。
「冒険者ギルドへようこそ、本日は冒険者登録でよろしいでしょうか?」
「はい」
「わかりました。ではこちらの契約書にご記入お願いします」
契約書を受け取り、まずは一安心した。
文章は俺にでもわかる文章だった。
魔族語とかミミズみたいな字だとどうしょうかと思っていた。
契約書にはこう書かれていた。
=========================
1.冒険者ギルドについて
冒険者ギルドに登録する事により、依頼の報酬以外にもにランク毎に経験値やスキル強化のサービスを受ける事が出来る。
2.ランク
最初はFランクからスタートし、依頼を達成して行く事によりランクは上がっていく。
原則として、同ランクの依頼のみ受ける事が出来る。
但し、パーティを結成している場合、一番高いランクに合わせて依頼を受ける事が出来る。
=========================
真面目に契約書に目を通していると、ウォルガフの歌が聞こえてきた………
「今日〜のごはんはぁ〜なにぃかぁなぁ〜
美味しい、ごはんはぁ〜なにがぁ〜いいかなぁ〜」
ウォルガフ………
お前の歌……
どうでもいいが、音程外れているぞ………
俺はウォルガフの歌を聞きつつ再び、契約書に目を通し始める……
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3.ランクアップ
ランクに応じた規定の回数の依頼を成功するとランクアップする事が可能。
ランクアップ試験はなく、受付にギルドカードを提出すればランクアップは出来る。
4.違約金の発生
依頼を失敗すると、違約金として報酬の五割自己負担する義務がある。
半年間以内に支払えなければ、冒険者資格は剥奪となり再登録時にはランクはFからとなる。
=========================
他にも脱退の方法とか、義務とか色々と難しいのが書かれていたが長いので読み飛ばしてしまった。
ふむふむ、なるほど……
だから、ウォルガフは冒険者ギルドに登録した方が手っ取り早いと言っていたのか……
契約書の最後のページには名前と職業を書く欄があった。
そこには、
『依頼の途中で不慮の死が起きたとしても、当冒険者ギルドは一切責任はとりません』
同意しますか?と書かれていた。
「書きました」
「では、契約書を受け取ります」
「リュウイさん、これで冒険者ギルド登録の手続きは終了でございます。
冒険者カードの加工には1日程かかりますので、明日受け取りに来てくださいませ」
「わかりました」
どうやらすぐに渡されるわけではないらしい。
防具も明日、武器も明日……カードも明日かよ!!
受付嬢に頭を下げ、左側にある酒場の方へと歩いて行く。
あの特徴的な体型と逆立った金髪はどこにいても見つけられるだろう……
ウォルガフは、すぐに見つけられた。
足が床につかない椅子に座り上下に交互に揺らしている。
身体も横に少し揺れていた。
「ウォルガフ、お待たせ終わったよ」
ウォルガフの隣に座りながら、俺は話しかける。
俺の方へと振り向いたウォルガフの口の周りには、ケチャップソースみたいなものがこびりついていた。
「!?」
「ぷっ……!!」
ダメだ……こいつ面白すぎる……
テーブルにうつ伏せになりながら、お腹を抱えながら笑ってしまった。
「何がおかちぃんでちゅか!?」
「すまん、すまん」
そう言いつつアイテムボックスからハンカチを取り出し、ウォルガフの口の周りを拭いていく。
「ありがとうでちゅ!」
「綺麗に食べなよ……」
ハンカチを再びアイテムボックスの中へとしまいこむ。
そんな一連の動作を不思議そうな目で見ている者たちがいた。
「ウォルガフ……ちょっといいか?」
「なんでちゅか?」
格闘家らしきガルヴァルデ族と、杖を持つムーンサン族が話しかけてきたのである。
「隣にいるのお前の連れか?」
「はいでちゅ」
「あのさっ………ウォルガフの口の周りを拭いたハンカチ……どこから出したんだ??」
「!!」
「それにね、その人……どの種族にも当てはまらないわよね?」
ウォルガフの顔は、しまったでちゅ!!!
と、誰が見てもすぐにわかるそんな顔をしていた。