【間話】①
本編とは関係ない番外編として、考えて下さい
今日、現実世界では2月14日。
世間でいう所のバレンタインディの日だ。
魔族の世界になったここにも、バレンタインディというものは存在しているのだろうか?
魔王に殺されていなければ……
いや、MMORPG《剣と魔法と魔王》が大型アップデートしていなければ、今日という日を俺はハグと共に幸せな一日を送る事が出来たはずだ。
でも、俺とハグは別に付き合っている訳ではなかった。
ただの隣近所の幼馴染で、一つ年上の何でも出来るお姉さん。
よく、俺の父親はハグの事をベタ褒めしていた。
運動神経抜群、成績優秀……
「お前もゲームばかりしていないで少しは見習え!!」
などと俺の気持ちもわかろうとせずに、無責任な事ばかり言って怒られていた。
まぁ、勉強しないで毎日ゲーム三昧していた俺も悪いといえば悪いけど……
あの時の俺は、そこまで大人には慣れきれなかった。
一つしか違わない赤の他人と比べられ、あまつさえ父親に怒られてしまう。
その事だけが無性に腹立った。
だから、顔を合わせればいつも俺は一方的にハグに喧嘩を売っていた。
小学校、中学校がこれまた同じ学校で登校時間も一緒……
喧嘩しながら学校に行くと、ありがちな『今日も夫婦喧嘩か?』と良くからかわられていたものだ。
うん……懐かしい。
年齢的に行けば当たり前のようにハグは俺よりも先に学校を卒業する。
俺は一年間寂しい登下校を繰り返していた。
そして、高校受験……
ハグは女子校に行った。
有名な、なんとか高等学校だ。
俺には行けない所に、ハグは進学してしまった……
その事が、きっかけに隣近所だというのに顔を合わせない年月だけが過ぎ去って行った……
再会を果たしたのは、別々の大学に進んだ時だった。
ある日の朝、俺はバッタリとハグと出会ってしまった。
何気ない日常会話だった……
久しぶりに会ったハグは、美人に成長を遂げていたのだ……
俺はと言うと、何処にでもいる平凡な大学生。
ちょっと顔が良く産まれたお陰で、女の子にはモテてはいたけどそれだけだ。
付き合ってと言われた女の子も結構いたのだが、俺と趣味の合う女の子はいなく長続きしなかった。
例えるなら……
「日曜日デートしましょ?」
と付き合っていた彼女に、誘われても……
「その日はPTで、大事な狩場に行く予定が入っているから無理だね」
「PT……? 狩場?? なにそれ??」
「ゲームの話だけど、わからないならいいよ」
と断っていた。
三回ぐらい断ったら彼女の方から俺を振ってきた……
更にメールを送信しまくったり、電話しまくる彼女もいたな。
ゲームをしながら、電話で受け答えをそれなりに器用にこなしていても、たまにクリックミスしてイラつき舌打ちしてしまったりしていた。
更にゲームをするのを我慢して彼女との電話を一時間付き合い、やっと終わりゲームを起動。
狩場中に、大量のメールを俺は無視した……
一、二軒ぐらいなら見て、返事は遅くはなるがキチンと返信をしていたつもりだ。
だが、大量のメールに俺は嫌気を指してしまった。
電話で一時間話したというのに、なぜ大量のメールを送信する必要がある!?
寝る前に、『おやすみ、また明日〜』と返事を送ると『さよなら……』と返事が来て次の日、彼女は別な男と腕を組んで歩いていた。
まぁ、その他にも付き合っていた彼女はいたが長続きしなかった。
それでも、たまにPTもなく何も用事がない時には、ふと俺から珍しくデートに誘った事もあったが、すぐに別れた。
女という者は、一度デートをするとずっとデートを出来ると思うらしい。
俺はそんなに暇じゃないって……
だから、彼女が出来ても一方的に振られていた。
俺が悪いのか???
そんな時、ハグと出会った。
「ひっ久しぶり……」
「相変わらずゲーム三昧?」
「うっうん……」
俺には久しぶりすぎて、何を話したらいいのかわからなかった。
でもハグは違った……
久しぶりの俺との再会に喜んでいてくれたみたいだ。
「実は私も最近なんだけど、ゲームしているのよね」
「えっ!?」
意外だった。
真面目なハグが、ゲームをしているなんて……
なんでも、両親がインターネットで出来る対戦オセロとか将棋とかにはまっていたらしい。
ハグは俺が昔っからゲーム好きって事を何となく思い出し、MMORPGをやり始めたら思いの他面白いと感じたとの事だ。
「何のゲームやっているの?」
「まだ、やり始めたばかりでログインもまちまちだし、どこをどういったらいいのかわからないんだけど……
剣と魔法と魔王って言うオンラインゲームよ」
「!?」
そのタイトルを聞いた時、マジ!? と思ってしまった。
MMORPG絶世紀の今色んなオンラインゲームは存在している。
女の子向けのゲームだってあるはずだ。
なのにその中で、俺の今やっている剣と魔法と魔王をハグがやっているとは……
これは一緒にやるべきだろ?
と普通に思ってしまった。
「じっ……実は俺もやっているんだよね」
「なにを?」
「剣と魔法と魔王……」
「!?」
ハグも驚いていた。
お互いのキャラクター名を伝え合い、ゲームの中で会う事にした。
その後からは、一緒にゲームをするようになり次第にリアルでも会うようになっていた。
そして、魔王復活が行わられた大型アップデートの日……
三時間ぐらいかけ掃除した俺の部屋で、俺たちはゲームが現実世界になってしまった。
ハグはクリスタルの中に今も尚いる。
俺は、ハグを救い出したい……
そして、願わくはハグの方から俺に……
いやいや、ハグが俺の事なんとも思っていなかったら……
………
マイナス思考は辞めよう。
俺の事、気にも留めていなかったら俺の部屋に来るはずはない。
うん、嫌いではないだろう!!
「リュウイたん?」
「!!」
俺がハグの事を考えているとウォルガフは、不思議そうな顔をして俺を見上げていた。
「どっ……どうした?」
「リュウイたんは。今日なんの日か知っていまちゅか?」
「……バレンタインディ?」
「そう!! そうでちゅ!! 流石リュウイたん!!」
「……」
「というわけで、ぼくからチョコレートあげまちゅ!」
「!!?」
男からチョコレートを貰うって……
困惑しているとウォルガフは、モジモジと身体を動かし始めた。
誤解する態度はやめろよ!?
「うっ……うんとぉ……これは?」
「日頃のお礼でちゅ! リュウイたんは、ぼくにいつも優しくしてくれまちゅから! 感謝の意味を込めて、手作りでちゅ!!」
「あっ……ありがとう。ウォルガフ」
手作りとは言え、ウォルガフの気持ちを俺は無下に扱う事は出来ない。
感謝の気持ちと言うのだ。
ありがたく頂戴しよう。
「えへへへへ♩」
と喜ぶウォルガフの顔は、何か企んでいるようなそんな顔にも見えた。
どうせホワイトディのお返しを期待しているだろう。
3倍にして返返すか。
などと俺はウォルガフの作ってくれたチョコレートを頬張りながら、そんな事を考えていた。
だが、ウォルガフは違った。
俺に聞こえないように、ウォルガフはボソリと呟いていた。
「ホワイトディには、百倍返しでちゅ。イヒィ……イヒヒヒヒヒ……」
今から楽しみなウォルガフであった。