【09】
「結局、ジィジィは何しに来ちゃの?」
ウォルガフは俺の疑問を理解してくれてるかのように、先に質問してくれた。
ありがたい事だ。
「勿論、ウォルガフ。お前に用があって参った」
「聞きたくないでちゅ……」
そう言いながら両手で耳を塞いで行くウォルガフの姿は、実に可愛かった。
「そう言うな、ウォルガフよ。そろそろ我の後継者となる事を決断し、魔王様に挨拶に行かぬか?」
「また、その話ちぃでちゅか? その話ちぃは、前に断った筈でちゅよ?」
「そうは言うがな。ウォルガフよ、お主しか我の後を継ぐ者はおらぬ。それは理解しておろう」
「ほくじゃない別な人にどぉ〜じょ!!」
「ならぬ!!」
「……むうっ。なんででちゅか?」
「魔王様もお前にと期待しておられる」
「………」
話がサッパリ見えないな……
あっ、そう言えば……
以前冒険者ギルドのお姉さんが話してくれたっけ。
ウォルガフの力は、魔族四天王であるフォスの種族王であるミクロスを既に超えている。
そして、ミクロスは高齢の為そろそろ跡継ぎを……と考えており、その候補者がウォルガフ。
でもウォルガフは、種族王になる事を拒み続けているって言っていたな。
ウォルガフが拒み続けるのは、やはり俺のせいなのかな?
俺がいるせいで……ウォルガフは種族王になるのを拒んでいるのでは?
「あの人たちぃの話ちぃは、難ちぃ事ばかりですし。ぼくがあの人たちぃに会ったら馬鹿にされるのは目に見えまちゅ」
「そんな事はないぞ」
「嘘ちゅかないで下ちゃい。
ジィジィがいつもガルヴァルデ族のペディ何とかって人に虐められて、耐えている事ぼくは知っていまちゅ」
「………」
「ぼくは、ジィジィみたいに我慢なんて出来まちぇん。 絶対攻撃仕掛けてしまいまちゅもん!」
「……ふむ」
「そうなったら、どうなるか。ぼくにでも分かりまちゅ」
俺はわからんぞ? どうなるんだ?
「その通りじゃな。そうなれば、我らフォス族とガルヴァルデ族で種族間での争いになってしまう」
ほぉ〜なるほど……
「そうなれば、我らに勝ち目はない」
小さいフォス族が、倍以上もある背丈を持つガルヴァルデ族との戦闘……
蟻が人間に立ち向かうのと一緒だな。
でも、蟻だって一人に対して大量にかかれば……
……辞めよう。
俺には首を突っ込む話ではないしな。
「ぼくは、ぜっちゃい我慢出来まちぇん。だからジィジィ諦めて」
「……だが、ウォルガフ……そう我儘を言っている時間は、我にもお前にも残されてはおらんのだ」
「ふんっ! 絶対嫌でちゅよぉ〜だ」
ミクロスは深いため息をつき、渋々諦めたように俺には見えた。
それにしても、時間は残されてはいないか……
確かに、ミクロスさんは高齢に俺にも見えるしな……
「では、今回も失敗には終わったと言う事で、皆が心配するそろそろ我は帰るかの」
「ジィジィは、さっさと帰れ、帰れっ!!」
諦めも速いな……
これもフォス族、特有なのか??
ミクロスは、椅子から飛び降りテトテトとドアの方へと歩き始めた。
あれ?
そういえば、俺なんか忘れているよな?
あっ!!
お願いしたい事があったんだ!!
「ミクロスさん、待って下さい!」
「なんじゃ?」
あっぶねぇ〜大事な事、忘れる所だった。
「あの、俺にかかっている魔王の呪い……ミクロスさん解除出来ますか?」
「……確かに我は、魔王様の呪いを解く事は出来る」
「解いてはもらえませんか?」
「ふむ……呪いを解けばお主の存在を魔王様を始めとし、他の魔族四天王は感づく事じゃろう。それでも良いのか?」
「えっ!?」
「今のお主は魔王様の呪いで、ヒューマンと言う存在は隠されておる。それを解除するとなれば、存在が明らかにされるのは当然じゃろて……」
うわぁ……折角のチャンスだと思ったのに………
「魔王様の呪いを解けばお主がヒューマンという事は直ちに勘付かれ、この街におるぺディリヴァは真っ先にここに来る事じゃろうな」
「……そうなれば、捕まって魔王の所に……?」
「その通りじゃな」
まだ、魔王の所に行っても俺は何も出来ない……
倒す事も、傷を付ける事も立つ事すら出来ないかもしれない。
そして、無抵抗なまま何も出来ずにクリスタルの仲間入りになってしまう。
そんなのダメだ。
ハグを……
皆を助け出さないと……
でも……
「ミクロスさんは、なぜ俺をそうしないの?」
「お主を捕らえれば、確かに魔王様から感謝される事じゃろうな。だが、それと同時に我はウォルガフに一生恨まれる。そうなれば、後継者にもなってはもらえぬだろう……」
「当たり前でちゅ! そんな事はちぃたら、ぼくはジィジィを一生恨みまくって恨みまくりまちゅぅ〜」
「なるほど……」
「今の我の目の前におるのは、ウォルガフの大事な友人に会ったのだょ。リュウイ殿」
「ミクロスさん……」
ミクロスさんから俺の事が、バレる事は今の所ないようだ。
それはそれでいい事なんだけど……
しかし、魔王の呪いが俺のヒューマンと言う種族を隠しているとなると……
呪い解除なんて到底出来ないぞ……
でも呪いを解かないと俺はずっとLevel.1のままだし……
どうにかならないかな……
「でも、ミクロスさん。俺いつまでもLevel.1のままじゃいられないんです。Level上げたいのです。どうにかなりませんか?」
「なぜじゃ?」
「このままじゃ俺はずっとウォルガフに負んぶに抱っこの状態です。せめて自分の身は自分で守りたいです」
「……ヒューマンは」
「?」
「魔王様をいつしか倒す者とされておる」
いつかはね……そりゃ倒したいよ。
「リュウイ殿は、そうお考えか?」
「……」
「どうなのじゃ?」
「ジィジィ?」
明らかにミクロスから俺に向けられる気配は変わった。
ここで返答を間違えれば、ミクロスさんはウォルガフに恨まれたとしても俺を魔王の元へと連れて行くだろうな……
「俺は……魔王の呪いが解けた暁には、力をつけいつしか魔王を倒したいと思っています」
「魔王様は、とてつもなく強いぞ?」
「えぇ、そうでしょうね。でもそれでも俺はクリスタルに封印されている皆を助け出したいのです」
「クリスタル?? あぁ、封印されておるヒューマンたちか?」
「そうです。あの中には俺の大切な人がいます」
「……」
「ミクロスさん、魔王にとって俺は敵です。その敵に塩を送るという事になる事重々承知の上でお願いです! 魔王の呪い、どうにかして解除して下さい! お願いします」
俺はミクロスに土下座した。
もう、こんなチャンス二度とないと思ったから……
そんな俺の姿を見ていたウォルガフはトコトコと俺の側へと歩いてくる。
「ジィジィ、頼むよぉ」
ウォルガフ……それは人に物を頼む態度じゃないよ……
「おっと忘れておった! そういえば我はリュウイ殿に、一宿一飯の恩義返しておらんかった」
「えっ?」
「我らフォス族は受けた恩義は必ず返すようにしておる」
「はぁ?」
「リュウイ殿、そしてウォルガフ、冒険者カードを出しなさい」
「??」
ミクロスに言われるがまま冒険者カードを渡すと、二つのカードを触りながら何やらブツブツと言い始めた。
「我れフォス族種族王、ミクロス也。我の名においてウォルガフとリュウイの間に契約を交わす事とする」
「ほれっ、これで一先ずはLevelは10まで上がる事じゃろ」
「えっぇ?」
投げて寄こされた冒険者カードを受け取りながらビックリしてしまった。
だって、そんな簡単に……?
と言うか、ウォルガフいいミクロスさんといい……
フォス族というのは、結果しか言ってくれないのだろうか?
なぜそうなったのか……過程をお願いします……よ。
「まず、リュウイ殿の魔王様の呪いは、今はまだ解かぬ方が良いじゃろ」
「はい、俺もそう思います」
「うおぉぉぉおおおっ!!」
ミクロスと真面目な話をしていると言うのに、冒険者カードを手にしたウォルガフはいきなり大声を上げミクロスの両手を握りしめ始めた。
「ありがとでちゅ!! ジィジィ!!」
「うむ、うむ」
なんでウォルガフが感謝しているんだ?
そして、なんでミクロスさんも満足そうな笑顔なんだよ!?
「話を戻そう」
そうして頂けると嬉しいです……
「まず、リュウイ殿とウォルガフの間に一つ契約を交わした」
「?」
「その内容は、ウォルガフを喜ばす事!」
「はぁいぃ?」
「ウォルガフが喜べば、リュウイ殿の冒険者カードにも記載されておる、シャイターン・ポイントと言う物が少しずつ溜まっていく」
「はぁ?」
「このゲージ一杯までに溜まる毎に魔王様の呪いの一部が、解放されLevelが10ずつ上がる事が出来るようになる」
「……」
「サービスとして、Level.10まで上がるようにはしておいた。
Level.20にする為には、ウォルガフを喜ばせるのじゃ!!」
「どっどうやって??」
「なに、簡単な事じゃよ。リュウイ殿が今までウォルガフに接していた事を、やり続けておればシャイターン・ポイントは自然と溜まるじゃろ」
「減る事は……?」
「無論ある。ウォルガフがリュウイ殿に対して悲しいなどと思った負の感情を抱いた時、シャイターン・ポイントは減って行く」
「……」
「この方法を持ちいれば、魔王様の呪いを解かずにLevel上げる事が出来るじゃろう。我にはこれしか思いつかぬかった。許せリュウイ殿……」
「……最終的には解除して頂けるんですよね?」
「無論じゃ、今は力を付け負けぬ力を宿した時……魔王様の呪いは解いてやろう」
「分かりました……」
「でも、こんな事してミクロスさん大丈夫なのですか?」
「我は、行き倒れの恩義を返したまでだ」
「……」
「では、我はもう行く。ウォルガフ、我儘も程々にいたせよ」
「ほーい」
ミクロスはそう言って俺たちの目の前から消えて行った。
ウォルガフを喜ばせば、シャイターン・ポイントは上がっていく……
何をどうやって喜ばされるだ??
「わーいわーい♪ 契約しちゃったぁ〜」
ウォルガフ特有の喜びのダンスを見ながら、どうすればいいのか俺は途方に暮れていた……
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ミクロスと別れてから三日経った。
あの時、ミクロスが行なってくれた契約について色々と分かった事がある。
ウォルガフを喜ばせる事は、以外と簡単だった。
まずはウォルガフを褒める!!
これだけでシャイターン・ポイントは少しだけ上昇する。
更にご飯、フカフカのベットを提供する!!
これで更にシャイターン・ポイントは上昇する。
後、ウォルガフがたまにやる踊り。
あれは踊っている間ずっとシャイターン・ポイントは増え続けてくれる。いわばボーナスタイム状態だな。
って、今まで俺がウォルガフにしてきた事ばかりじゃねぇか!!
というわけで、ウォルガフとの契約について俺は対して気にしない事にした。
まずは、Levelが上げられる事に感謝しようと思った。
10までだけどね………
俺たちは……正確には俺だけなのだが、Dランクの依頼を受けてみた。
経験値報酬が、どれくらい上がるのか実に楽しみである。
Dランクの依頼は主に魔物を倒して稀に出てくるレア物の採取が多かった。
代表的なのは北の森に生息する、獣系モンスター『バファローウォルフ』Level.90
名前の通り牛系と狼系が混じり合った魔物だ。
頭部の両脇には立派な湾曲した角があり、狼並みの瞬発力を持っている為そう呼ばれている。
中でも、バファローウォルフから採取する事が出来るのは鋭い角は、武器や防具の材料にもなる事から、依頼数は結構多かった。
「フレアボール!!!」
魔法攻撃を二倍までに高めてくれると言う宝石が埋め込まれている俺専用の木の杖から、火の球がバファローウォルフに直撃した。
ジーーン!!
思わず感動してしまう。
俺が待っていたのはこれだよ! これ!!
魔物を倒して、経験値やアイテムを手に入れる達成感……
この世界に来て、漸く味わう事が出来たよ。
「リュウイたん、ぼぉ〜としてまちぃたら危ないでちゅよ?」
「うおっ!!」
当然今の俺に倒せる筈もなく、いつもトドメはウォルガフがしてくれる。
情けねぇ〜!!
いつか、ウォルガフの力を借りなくても倒せるようになってやる!!
などと考えていると、Levelアップ音が聞こえてきた。
よっしゃぁーー!!
早速システムメニューを開きステータスを確認してみる。
まず、Level.2になってた。
それだけで感動だ。
さよならLevel.1……実に長かったよ……
ステータスも少しずつ強化されており、HPは10からから15に増えMPに至っては28から50とかなり増えていた。
フレアボール8発分のMPを俺は手に入れる事が出来た。
攻撃力、防御力、素早さは8から10になり、魔法力は20から40と増えていた。
「リュウイたん?」
不思議そうにウォルガフは見つめていた。
「あっごめん。ウォルガフ、遂にLevelが上がったよ」
「おぉ〜〜!! 良かったでちゅね!!」
「うんうん、本当良かったよ」
「バファローウォルフからの鋭い角もこれで集め終わったし、そろそろ街に戻ろうか?」
「はーい」
冒険者ギルドへと戻り依頼品を渡すと、またまたLevelアップ音が聞こえてきた。
おぉぉぉぉぉぉぉっ!!
順調じゃないか!!
次はLevel.10になるまでに火炎系の魔法である『フレアストリーム』を発動できるようになろう。
そして、冷気系と雷撃系覚える方法探そう。
後は、いい加減サブ職業のあと一つ……何にするか考えないとな。
待っていろよ、ハグ!
取り敢えず俺はLevel.50を目指すよ!!
やっとLevelが上がりました。
現在のステータスはこんな感じです。
名前:リュウイ
種族:転生ハイヒューマン
Level.:3
冒険者ランク:D
メイン職業:魔法使い
サブ職業:①剣士 ②選択可
武器:木の杖『魔法攻撃力二倍』
防具:灰色のローブ『経験値アップX』『防御力アップX』
スキル:
『転生者』HP7より発動可
『ラグナロク』使用可能
魔法:フレアボール I
HP:22
MP:70
SP:0
攻撃力: 20
防御力: 15
素早さ: 13
魔法力: 65