【07】
ウォルガフは、俺の攻撃力に感動したようだった。
「リュウイたんっ! 今のちゅごいでちゅねっ!! どうやったのでちゅか??」
などと目を輝かせながら聞いてきた。
「うんとぉ〜、後で詳しく説明するよ」
「えぇ〜なんででちゅかぁ〜」
少しつまらなさそうに、納得出来ないような顔を頬を膨らまさせていた。
そりゃ、グゥさんがバッチリ事の成り行きを見ているからさっ。
絶対俺の事、変に思っている……
俺の予想通り、唯一霧から身を守る事が出来ていたグゥは違っていた。
「なっ何よ……その力……」
俺の能力にグゥは震え上がっていた。
得体の知れない未知の力に恐怖している。
そんな顔をしながら……後ずさりし、今にも逃げ出しそうだった。
「あっあの……グゥさん?」
「こっこないでっ!!」
俺がグゥに近づいていくと、届かない筈なのに払いのけようと自ら勝手にグゥは一回転しバランスを崩していく。
「危ないっ!!」
咄嗟にグゥの手を掴み取り転倒を回避させたのだが、グゥから放たれた言葉は感謝ではなくもっと別な言葉であった……
「離してっ!! この化け物!!」
「ばっ化け物……?」
「そうよ、なんでLevel.1のあなたがそんな力持っているのよ!! どう考えてもおかしいじゃない!!
『ムーンフェイズ』に戻ったら冒険者ギルドに報告……
いえ、ぺディリヴァ様に報告してあなたのその化けの皮、履いでもらうわ!!」
いやいや、それはマズイ……
そんな事をされたら、俺がヒューマンだとバレてしまう。
しかし、化け物か……
……確かにあんな力、目の辺りにされたらそう思うのは仕方がないのかもしれないけど、ちょっと言い過ぎではないだろうか?
「取り敢えず落ち着きましょう、グゥさん?」
「こないでっ!!」
俺に対するグゥの警戒心はMAXまでに高まっているようだ。
近寄らせてくれない……
様々な暴言が俺に飛び交い……流石に聞いちゃいられない。
「いい加減にちゅるでちゅっ!!!」
突然、ウォルガフはグゥに対して怒鳴ったのだ。
「ウォルガフ?」
「ウォルガフちゃん?」
余りにも突然な出来事に、俺とグゥは同時にウォルガフの名前を言っていた。
ウォルガフは、グゥの元へとテトテトテトと歩み寄って行く……そして。
「リュウイたんは、化け物じゃないでちゅ!!」
「ウォルガフちゃん、いえっ絶対化け物ですわよ。魔物が化けているのですわ……
うん、そうに違いありません」
「うぅっ……リュウイたんは化け物じゃないでちゅ!」
「ウォルガフちゃん、騙されているわ……」
「リュウイたんは、立派なヒューマンでちゅ!!」
「えっ??」
ウォルガフさん……?
この状況で俺がヒューマンとバラすのは、マズイのではないで紹介か……?
「ヒューマン……?」
グゥは目を点にさせながら、チラリッと俺の方を見てくる……
「リュウイたんに謝ってくだちゃい!! グゥたんっ!!」
「いや、ちょっと待って、ウォルガフちゃん。そういう問題じゃないわ。
……あなた……ヒューマンなの……?」
「……」
どっどうしょ……
と返答に困っているとウォルガフは、グゥのローブの裾を掴みながらグイグイと引っ張っている。
「グゥたんっ!!」
グゥは、ウォルガフの言葉に耳を傾けず、俺の顔を見ていた。
「……ヒューマンなのね?」
「……」
最悪の場合、俺はグゥさんを口封じしないとダメなのだろうか……?
「ウォルガフが、ずっと探し続けていたヒューマンはあなたなのね?」
「えっ……!?」
「そうでちゅよっ! だからリュウイたんは化け物ではありまちぇん! 謝ってくだちゃい!!」
流石、子供……我儘いい放題だな。
「ぼくの言う事を聞いてくれない、グゥたんなんか……グゥたんなんか……」
グゥはその先の言葉を、ウォルガフの口を押さえ言わせなかった。
そして、
「リュウイさん、ごめんなさい。私が悪かったわ」
「……!?」
なんと、グゥは納得したのだ!
グゥは俺に対して深々と頭を下げ謝ってきた!
あれっ? でもヒューマンとバレると、俺は殺されるのではないのか??
いくら、僧侶が攻撃をもたないとは言え、手に持っている杖で殴りかかれば俺を殺す事は充分可能なのだが……?
「ウォルガフちゃん、ごめんなさいね。許してくれるかしら」
「はいでちゅ!」
グゥは、今にも泣きそうな顔をしながらウォルガフにも頭を下げ始めた。
さっぱりわからないぞっ!
「……ウォルガフ、どういう事?」
「えっとでちゅね……」
ウォルガフのいつも通りの訳の分からない説明を聞きながら、俺なりに解釈してみた。
要するにだ……
ウォルガフは俺と出会うまでの期間、一人でLevel上げをしてきていた。
だが、すぐに飽きてしまうウォルガフはパーティを組みながら冒険者ギルドの依頼もしていたらしい。
その中で出会った様々な人たちにウォルガフと言うキャラは好かれ、固定パーティとして仲間にならないか?
と何度も勧誘を受けていた。
ウォルガフはそれを、断り続け俺を待っていてくれた。
「ぼくは、いつか現れるヒューマンを助けまちゅ。だから仲間にはなれまちぇん」
と言っていたのだ。
しかし、そんなウォルガフの話しを誰一人信じるはずもなかった。
そもそもヒューマンは魔王の手によって、滅亡しクリスタルに今も尚封印されている。と言う事はこの世界に住む者たちなら誰もが知っている常識なのだから……
馬鹿にされ、後ろ指を刺されながらもウォルガフは、俺を待ち続けていてくれた。
そんな中、グゥはウォルガフと運命的な出会いを遂げ、あろう事かグゥは一目惚れしてしまったのだ。
なんでも、グゥが大ピンチの時、颯爽と助け出してくれた時の姿がグゥにはストライクだったらしい……
相変わらずウォルガフの言う事は、誰一人信じてもらえなかった。
だが、グゥだけは違った。
例えそれが、嘘だとしても自分だけは惚れている男の言っている事を信じよう。
もし嘘だとしても笑って許そう……
と、それくらいウォルガフの事をグゥは大好きだなのである。
グゥはウォルガフと共に歩むと言う事は出来なかった。
ウォルガフと出会う前……
グゥは既にガルシアたちと仲間になっており、最愛の人を目の前に泣く泣く諦めざるしか出来なかったのである。
たまに会えば、ウォルガフを付け回し……ある意味ストーカーに近い事までされた事もあるそうだ。
グゥは今、ウォルガフの言う言葉を信じ目の前にいる俺を受け入れてくれた……のだ。
二人の間にそんな関係があったとは……
意外だ。
でも、グゥさんがウォルガフの事を好きでも、ウォルガフの方はその気はあまりないような気がするんだけど……
虚しいな……
などと考えていると、遠くの方でウォルガフの声が聞こえてきた。
ウォルガフはやはり難しい話は、苦手なのだろう。
いつの間にか、ガルシアたちの側に座り込み動かぬガルシアの身体をツンツンと突っついていた。
「グゥたん、そろそろ他の皆ちゃまに解毒魔法かけないとやばそうでちゅ」
「あっそうね」
そう言ってグゥは、ガルシアたちに駆け寄り魔法を発動させようとしていた。
「あの、グゥさん。そして、ウォルガフ……頼みがあるんだ」
「?」
「スモークガーゴイル倒したのは、ウォルガフだと言う事にしてくれないか?」
「なんででちゅか!? 折角リュウイたんが倒したのに?」
「……Level.1のリュウイさんが倒したと言っても誰も信じるわけないし、余計な不信感を抱かせてしまう……
そう言う事ね」
「はい。俺が倒したと言うより、ウォルガフが倒したっていう方が説得力ありますし……」
「わかったわ」
「でもぉ〜」
ウォルガフは納得出来ないようだった。
でも、俺の顔を見て渋々納得したのであった。
◾︎◽︎◾︎◽︎◾︎◽︎◾︎◽︎
それから、三日経った昼下がり……
気絶していた四人はグゥの解毒魔法によって意識を取り戻し、ウォルガフが倒したと言う事で納得していた。
やはり俺が倒したと言うよりは、説得力があったようだ。
疑いもしないでウォルガフを褒め称えていた。
まぁウォルガフは、少し後ろめたいみたいだったけど……
後で、ウォルガフが喜ぶ事をしてあげようかな。
街に戻って冒険者ギルドに報告し依頼は終了と言う事になった。
そして、報酬が俺にも用意されており流石にそれは辞退した。
だって俺……表向きには何もしていないし。
「ガルシアさん。俺の分の報奨金なんですが、皆で分けてもらえませんか?」
「?」
「流石に、俺はついて行っただけなので……」
「そんな事はない……お前は誰よりも先に敵に気がつく事が出来た」
そう言ってきたのはエクレウスだった。
無口なエクレウスにそんな事を言われるとは思ってもいなかった。
見ていないようで、見ていてくれた……
それだけで俺は嬉しかった。
「そうね。あの言葉で皆が皆、敵に対する対応が即座に出来た事は事実ね」
ミラージュもそんな事を言ってきてくれていた。
「いや、あの……その言葉だけで俺には十分です。それに冒険者ランクも上がりましたし、もう俺にはこれで十分です」
俺の冒険者ランクは、EからDランクへとランクアップする事が出来た。
こんな簡単に上がっていいのだろうか……
と思ってしまうぐらい、簡単に上がっていた。
結局、皆は俺の申し出を聞いてくれた。
俺の分を五人で分けていた。
その後、ガルシアたち四人は受付のお姉さんとなにやら次の依頼について話をし始めている。
後ろから眺めていると、ウォルガフが俺の足の裾を引っ張りながら見上げていた。
「リュウイたん」
「んっ? どうした?」
「はい、これ」
そう言いながらウォルガフは、俺に先ほど受け取った報奨金を渡してきたのだ。
「これは、ウォルガフのお金だぞ。大切にとって欲しい物買いなよ」
「ぼくが持っていると全部使ってちぃまいまちゅ」
「……」
まぁ、確かにそうだろうなぁ。
俺のいない間に食べ歩きして、後から支払いに頭を下げながら行った事も何度かあったしな……
「これで、今までの食事代の足しにして下ちゃい」
「!!!」
ウォルガフがそんな殊勝な事を言うなんて……!!
一体何があった!?
思わずウォルガフの額に手を当ててみる。
どうやら熱はないようだ。
不思議な顔をしながらウォルガフは首を傾げていた。
おっと、ウォルガフに感づかれるな……
危ない危ない、怒られてしまう……
「わかった。じゃ食事と宿屋代にするね」
「えへっ♪」
俺が受け取ったのがよっぽど嬉しかったのか、踊りまくっていた。
「おいちぃご飯〜が待っているぅ〜エヘッエヘッ、エヘヘヘヘ〜」
ウォルガフからは、銀貨十枚受け取ったのだが、速攻で無くなりそうだなぁ〜
ガルシア、ミラージュ、グゥ、エクレウスの四人との臨時パーティはこれにて解散となり、彼らはさっさと次の依頼を受け違う街へと旅立とうとしていた。
グゥだけは残りたいと言っていたが、『ムーンフェイズ』より美味しい報酬を求めてガルシアは、別な街に行く事を決めたらしい。
名残惜しそうに、グゥはウォルガフを暫く抱きしめていた。
「グゥたん……くっくるちぃ……でちゅ……」
「パワー補給なの」
ウォルガフが人並みの背だったら、別れを惜しむ恋人同士に思えるんだけどねぇ〜
どうみても、可笑しな光景にしか見えなかった…
チラリッとグゥは、俺の方を見ながら何も言わずに頷いていた。
秘密は守る……そう言っているように俺には思えた。
旅立ちを見送った俺たちは、街の中へと戻る事にした。
メインストリートを歩いていると、ウォルガフは寂しいのかショボンッと何処となく落ち込んでいた。
「二人っきりになったけど、ガルシアさんたちと着いて行きたかった?」
「ほぇ?」
あれ? 寂しいんじゃないのか……?
「ぼくは、リュウイたんがいるから寂しくなんかないでちゅよ?」
「……」
……照れる事、言ってくれるな。
「それよりもリュウイたん、ぼくはお腹がちゅきまちぃたぁ〜」
「……」
俺の感動を返せ!
まぁ……ウォルガフらしいしいっか。
「じゃ、今日は宿屋汐音にしようか」
「わ〜い♪ 美味ちぃご飯に〜ふかっふかっのお布団〜」
スキップなのだろうか? 小さく交互に片足を上げながらジャンプし、ウォルガフは喜んでいる。
ちょっと待て!!
俺は、食事を……と思っていただけだぞっ?
「あっそうだっ!!」
「?」
「お昼時の汐音はコミコミでちゅ!!」
「……」
「ダッシューーーーーーっ!!」
と言いながらウォルガフは、猛スピードで駆け抜けて行ってしまった。
ヤレヤレ……相変わらず食いしん坊だな……
っと言うか、宿は取らないぞ!!
色々な宿屋を泊まった事で分かった事がある。
どうやら宿屋汐音は、高級宿屋らしく朝食付きで一泊銀貨三枚支払わなければならない。
安い宿屋だと二人合わせて銅貨十枚ぐらいで泊まる事が出来る。
流石にそこは安すぎたのだろう、ウォルガフから……
「二度と泊まりたくないでちゅ!!」
と苦情が来てしまった。
まぁ確かに食事は不味く、ベットも硬くて寝心地が悪かったからな……
銅貨五十枚。二人で銀貨一枚の宿で漸くウォルガフは納得してくれたのだが、ウォルガフは宿屋汐音がお気に入りらしい。
ウォルガフの後ろ姿を見ながら、半分呆れながら考えていると何やらガヤガヤと騒がしく人だかりが出来ていた。
なんだろう……?
腹ペコのウォルガフには悪いが、俺は人だかりの方へと気がつけば歩み寄り始めていた。
後ろの方から、背伸びしながら中心を見てみると、一人のフォス族が座り込んでいた。
身のこなしは上品で、着ている服も綺麗な真っ赤と白のローブ。
ショートカットで所々跳ね上がって銀髪、ウォルガフと同じく身長は三歳児ぐらいだった。
「どうしたんですか?」
俺と同じように見ていた隣の男、ガルヴァルデ族に聞いて見た。
「あぁ、腹を空かせて動けないみたいだな」
「なるほど……」
フォス族は大食らいなのか……?
「理由がわかっているのに、なんで誰も何もしないの?」
「あぁん?」
ギロリと睨まれてしまった。
やべっ!
言い方間違えた!!
「食べ物渡したけどよ、足りないんだとよ……貰っている癖に我儘な奴だろ?」
「あははは……そうですね……」
これも何かの縁なのかな。
俺は人だかりの中を抜け、お腹を空かせて困っているフォス族の目の前にしゃがみ込んだ。
「あの、これから食事に相方と行こうと思っているのですが、一緒にどうですか?」
「……」
返答はなかった。
だが、コクンッと頷いてくれた。
動けないフォス族を背負い、汐音に向かう事にしたのである。
俺がなんとかするとわかると、人だかりは見る見る内に散っていった。
なんだかなぁ〜
冷たいのか、それとも俺が甘いのか……わからんなっ
汐音は、ウォルガフの言うとおり大盛況だった。
看板には、一人銀貨一枚・ランチタイム、食べ放題バイキングと書かれていた。
さてと、ウォルガフは何処かな……
辺りを見回すとすぐわかった。
金髪のツンツン頭は、どこにいても目立っていた。
そして、そのテーブルには既に山のように皿が積み重なっていた。
まぁ、これはいつも通りなのだが、経営大丈夫なのかな? と他人事ながら心配してしまう。
「ウォルガフ」
食べるのに夢中になっているウォルガフに声をかけると、ウォルガフは大きな骨付き肉を持ちながらも振り返ってきた。
「リュウイたん! おいちぃ……でちゅ………」
「?」
「よぉぉぉぉおおぉっ!??」
「じっじぃじぃ……」
「へっ?」
ウォルガフは俺が背負っているフォス族に肉を向けながら声を震わせていた。
フォス族はと言うと、肉の匂いに釣られてガブリッと一口で頬張っていた。
「なっなんで連れてきたのでちゅかぁぁぁっ!?」
と叫び二階にある何処かの客室へとあっという間に逃げ出してしまうウォルガフであった。
「どっ……どういう事???」
訳のわからないまま、俺は立ち尽くしていた。