【05】
ちょっと職業説明が多くなってしまいました。
俺たちは、再び冒険者ギルドへと足を運んでいた。
「あら、また来たのね? どうしたの?」
「依頼ちゅるでちゅ!」
「……」
お姉さんは、沈黙したままウォルガフではなく俺の方を見てきた。
まぁ言いたい事はわかるけどさっ。
依頼を受けないでウォルガフと共にムーンフェイズから旅立ち、魔王の呪いを解ける人を探し出す……
本当はそうした方が、いいのかもしれない……
でも、俺的にはLevelも上げたいが冒険者ランクをAぐらいにはしたかった。
だから、ゆっくり見つけようと思ったんだ。
「依頼しながら、見つけますよ」
「……そう、わかったわ」
お姉さんはそれ以上何も言わなかった。
「じゃ今、あなたたちに頼みたい依頼は護衛と討伐があるんだけど、どちらがいいかしら?」
「討伐!! 討伐がいいでちゅ〜」
ウォルガフの性格上そう言うと思ったよ……
「討伐は、合同討伐になるんだけどいいかしら?」
「合同討伐?」
「えぇ」
「お姉たん、どんなのでちゅか?」
「えっと……『ムーンフェイズ』の北の森に正体不明のモンスターが出現した模様。
名前、Levelなどは全て不明。
昨日未明冒険者Cランクの者三名が帰らなかった為、Sランク冒険者に探索を依頼した所、その者よりSランク冒険者五名必要と判断され直ちに討伐依頼を作成、集合後北の森に赴き壊滅、討伐とする」
「こんな感じね。実は、既に四名決まっていたのよね。
それであと一名探していた所だったの。ウォルガフ、行く?」
「もちろん、行くでちゅ〜」
戦い戦い〜と言いながらウォルガフは、嬉しそうに両手をバタバタと動かしながら喜んでいる。
本当に戦い好きなんだな〜
「ってか俺、行ってもいいの?」
「いいんじゃない?」
「いいんじゃない……って」
「まぁ、直接会って説得してね♪」
そんな他人事のように……
「大丈夫でちゅよ。行きまちゅよ〜リュウイたん!」
「いっ行くってどこに……?」
「決まってまちゅ、待ち合わせ場所でちゅ」
「待ち合わせ場所……?」
ウォルガフは、受付の隣にあるドアを開け中へと入って行く事にした。
どうやら受付の奥は、パーティを組みたいと思っていた者が集まる場所だった。
中央には、円形状の大きな部屋になっておりテーブルを囲いながら、話し合いを行っている者たちが何組かいた。
更に円形状の広場を囲うように部屋が十個程あり、ドアの前には入って来る者がわかるように『来たれっ! 西の森、モンスター討伐!』とか、『期日本日まで、暇な人手伝って下さい』などと言った紙がドア越しに貼られていた。
某掲示板で良く見る、仲間募集中みたいな物だ。
「あっ、あったここでちゅね!」
ウォルガフが立ち止まったドアの前には『北の森に正体不明のモンスター討伐』と貼られていた。
ドキドキと心臓が高鳴る中、ウォルガフは勢い良くドアを開けた。
当然、視線は俺に集まりギロリと睨まれてしまった。
うぅ……ウォルガフ……
「なんだ? 貴様は? 参加者か?」
「いっいや、俺じゃなくて……」
「僕でちゅよっ!」
「ガルシアたん、お久しぶりです!」
ウォルガフはタタタタッと中に入り!ガルシアと名乗る男の方へと駆け寄って行くのであった。
ガルシアは、ウォルガフの突進を片手で頭を押さえつけながら動きを止めていた。
「ウォルガフよ……お前は、ちっちゃくて可愛いと言われ続けモテモテなのは俺は知っている。
だがな、ヤローに抱きつかれる趣味は俺にはねぇっよ!」
「ガルシアたんは、相変わらずでちゅね〜」
どうやら、ウォルガフはガルシアと知り合いらしい……
「でっ? どうしたんだ?」
「モンスター討伐に参加しまちゅ!」
「おおっ、そうか。ならばこれで五人揃ったな」
「はいでちゅ! って他の皆は?」
「あぁ、待っている間、暇だからと言って今買い出しに出ている」
「そうでちゅか」
「それで……?」
と言いながらガルシアは、俺の方へと再び目を向ける。
「ウォルガフ、こいつはなんだ?」
「リュウイたんでちゅ」
「……はっ……初めまして」
ガルシアは、短髪の綺麗な赤い色をしており、目は水色でつり目の男だ。
体格はごつく俺よりも背が高かった。
「Levelは?」
「……」
そんなの答えられるわけないじゃないか!
言った途端殺されてしまうよっ……
「1でちゅよ」
「はぁ〜」
ガルシアは、ウォルガフの頭を上下に揺らし始めた。
「あのょ〜ウォルガフ……
俺たちは、これから未確認モンスターを討伐しに行くのに、なんで足手まといをつれていかなきゃならないんだぁ?」
「いっ痛いでちゅ……」
「お前の小さな頭には、きちんと脳みそ入っているかぁ?」
「頭が揺れるでちゅ……」
「リュウイたんはこれから、強くなるんでちゅよ」
「なら、強くなってから出直してこいよ」
「今は無理でちゅ」
「なんで?」
「だって魔王ちゃまの呪いが発動中なんですもの」
「!?」
その言葉にガルシアは、一瞬顔を曇らし始めた。
そして、少し俺の見る目が変わっ多様な気がした。
一体、魔王の呪いってなんなんだよ……
「あのよ……ウォルガフ」
「はいでちゅ?」
「その事、他の誰かに言ったか?」
「受付のお姉たんには、言いましたよ」
「今後、他の者には言うなよ」
「?」
ガルシアの話し曰く、魔王の呪いはLevel.1との制約が課せられていると言うのは、どうやら表向きの事らしい。
本来の目的は別にあるようだ。
魔王の呪いを受けし者……
その者は今は無き、ヒューマンの可能性が高い……
「ヒューマンとわかると、どうなるのでちゅか?」
「殺される」
「!!」
「……何故……ですか?」
俺は黙って話を聞いていたのだが、遂……聞いてしまった。
「ヒューマンは、大昔に魔王様と戦った反逆者だ。
当然今は、全てのヒューマンはクリスタルに封印されているから一人もいやしない」
「……」
「だが、魔王様はたった一人のヒューマンを封印しそこね、眠りにつかせてしまったらしい」
うわぁ〜バレたら俺、殺されるなぁ〜
「だから、いつか必ず目覚めるヒューマンに対して魔王様は呪いをかけたんだ」
「それが、魔王様の呪い……なんですね」
「……そうだ」
「そして、極たま〜〜に魔王様の呪いを受けて誕生する者がいる。お前のようにな」
「……はい」
「まぁ、魔王様の呪いを受けて誕生しても、魔族四天王様の誰かに調べてもらってヒューマンではない。
と言う事が分かれば呪いは簡単に解除してもらえるぞ」
……ガルシアの話は確かに俺には唯一の手がかりだと思うよ……
でも……
俺は調べられたら、ヒューマンとわかってしまう……
そうなれば、あっさりと殺されるのは明白だ。
「ガルシアさんは、どうしてそんなに詳しいのですか?」
「あぁ、俺も魔王様の呪いを受けて誕生したしな」
「えっ!?」
「そうなんでちゅか!?」
意外だ……
もっと詳しく話を聞きたいな……
「あの、ガルシアさん……」
「ただいま〜」
ドアが開き、買い物に出かけていたと言う三人が戻ってきた。
「あっウォルガフさんだ〜」
「ウォルガフちゃん、久しぶりねぇ〜相変わらずのプニプニね〜触らせて」
「うむ……」
三種三用様々な言葉がウォルガフに向けられている。
意外と顔、広いんだな……
等と思っていると三人の目線が俺を見つめ始めた。
なにこいつ? みたいな感じで……
今度はガルシアが、三人に俺の事を話し始めた。
コソコソと話はしているが、大体の想像は着く……
足手まとい俺を連れて行くか行かないか……そんな所だろう。
俺だって、悔しいけど行かない方がいいって事ぐらい理解出来るよ……
でもさ、せっかくなら本格的な戦闘を見て見たいな?
とも思ってしまうな。
……俺が、この人たちと同じ強さを持っていたとしたら、何と言うかな……
やはり、危険だからここに残って自分に合った依頼をこなせ。と偉そうに言うんだろうなぁ……
諦めるか……
諦めようと決心した俺の気も知らないで、ウォルガフは嬉しそうに椅子に座りながら話が終わるのを、ひたすら待っていた。
難しい話には興味がないらしい……
「ウォルガフ……俺、やっぱり残るよ……」
「えぇぇぇぇぇぇぇっ!! 何言っているんでちゅか!
リュウイたんも一緒に行くんでちゅよ!!」
「いや、でもさ……どう考えても足手まといでしょ」
「行くのぉ〜〜〜!!」
ウォルガフは、両手両足をジタバタ動かしながら言い出している。
相変わらず我儘な奴だな……
俺だって行きたいけど……やはり、どう考えても無理だよ。
「うっ……うっ……」
遂にウォルガフは、両目一杯に涙を浮かべながら俺を見つめ始めた。
泣き寝入りされても……
はぁ〜〜
俺は、ウォルガフのこの目に弱いようだ。
諦めようと思っていたのに、ウォルガフの為に何とかしたいと思ってしまう。
深いため息をつきウォルガフの頭を撫でた後、ガルシアを始め四人に頭を下げた。
駄目元で言って見た。
「足手まといなのは、重々承知しています。ですが、お願いです。俺も一緒に連れて行って下さい」
「お願いちまちゅ」
ウォルガフも俺に釣られて四人に頭を下げてくれた。
お前は、下げなくてもいいのに……
結局、俺は一緒に着いて行く事が出来た。
ガルシアと他の三人もウォルガフとの付き合いはかなり長いらしいが、ウォルガフが他人の為に頭を下げる光景等今まで一度も見た事がないらしい。
珍しい物を見せてくれた。とガルシアは大層喜んでいた。
「まぁまずは自己紹介でもするか……」
ガルシアは、リーダーなのだろう。場を仕切ってくれている。
これが、ウォルガフだったら俺たちは遠足の引率なんだろうな……
自己紹介してもらうのと同時に俺は、ステータス画面を表示させて行く事にした。
「俺はガルシア。盾の使い手だ」
ガルシアは典型的なガルヴァルデ族だと思う。
背は高くがっしりとした体型で筋肉質。
そして、赤い目だった。
稀に左右違う色の者も誕生するらしいが、ガルシアは両目とも赤い目をしていた。
『ガルヴァルデ族ガルシア。Level.180、守護剣士』
ゲームだった頃……
つまり《剣と魔法と魔王》がバージョンアップする前は、守護剣士であるガードファイターは不人気職だった。
前衛職には三種類あり、一番人気があったのは定番中の定番……剣士。
剣士は、剣を得意とし破壊力抜群の攻撃力を持ち、動きが大きく派手なものばかりのスキルがある。
種類も豊富で防御力の高い防具を持ち、大剣持ちや双剣持ち、盾と片手剣を持つ者など様々いた。
因みに俺は大剣使い。
次に、武器を持たず己の肉体のみ攻撃を繰り出す武道家。
武道家は、最大HPは高いがすごく軽い鎧のみしか装備出来ない為、防御面では前衛職の中で最低である。
だが、高い回避能力を持っている為、攻撃を交わし、その隙に強力な攻撃を叩き込む事が出来る。
最後は、一番防御力とHPが高い守護剣士。
守護剣士は極めれば剣士より高い防御力。そして、武道家よりも高いHPを持つ事が出来るようになるのだが、スキルが剣士や武道家たちと違って全くもって派手さがなく、攻撃力も弱かった。
更に、剣士や武道家はソロでもLevel上げが比較的簡単にできる一方、守護剣士はLevel.50以上からになると、パーティを組まないとLevel上げが困難というのが最大のネックでもある。
剣士をやっていた俺は、守護剣士の苦労を沢山見てきた。
だから、そんな守護剣士をLevel.180まで上げるとは、凄いな……
と普通に感心してしまっていた。
「ぼくは、ウォルガフ! 剣の使い手でちゅ!」
挙手しながらそう答えている姿は、場を和ませてくれていた。
「私は、ミラージュ。魔導師よ、よろしく」
ミラージュは、俺の着ている灰色のローブなんかよりも遥かに優れているだろうと思えるぐらいの、黒のローブを見にまとい薄い緑色の目に、腰まで伸び切っている綺麗な銀髪だった。
んっ? 魔法使いと魔導師は違うのか?
まっ深く考えるのは、辞めよう。
『ムーンサン族ミラージュ。Level.172、火系統の魔導師』
魔導師なんて職業は俺は知らない。だが、基本魔法使いと同じだと思う。
魔法使いには、火炎、冷気、雷撃などがありその系統のみを極める者。二系統使える者など様々いる。
一系統極めるれば、剣士や武道家を凌ぐ最大級の火力を手に入れる事が出来るも、詠唱時間が長いと言うデメリットを持っていた。
威力は弱くなるが、二系統の魔法を交互に使った方が戦力の幅が広がるとの事で二系統が人気だった。
他にも魔法使いにはデメリットを持っていた。
まずは、魔法使いは全職業中最も高いMPを持ってはいるが、破壊力の高い物になるに連れMP消費が激しくなりMP回復ポットの世話になる事が多くある。
更に、ロープ系しか装備出来ず防御力も弱く、HPも低い為敵の的になると死にやすい職である。
ミラージュさんは、火系統のみだから……
火力抜群だな。
よしっ、MPポット用意しておこう……
「グゥと言います。私は、僧侶を嗜なんでおりますわ」
グゥは、僧侶らしく白色のローブに身を包まれながら、俺に深々と頭を下げてくれた。
ミラージュと同じ色の目をしており髪は銀髪なんだが、少し青色が混じっていた。
『ムーンサン族グゥ。Level.175、僧侶』
回復と多数の戦闘補助を持つ、支援のエキスパートと呼べる僧侶。
僧侶は、HPを回復したり、ダメージ遮断、能力の上乗せ補助魔法など様々あり、パーティ全員の命を預かっている為、咄嗟の状況判断を強く強いられる局面が多くある。
また、僧侶は攻撃手段を持たなかった為、守護剣士と同様にパーティプレイが基本である。
ソロではLevel.上がらず、固定パーティを組めない者は途中で諦めキャラを一から作り直す者などが多く、更にプレイヤースキルというものがなければ、臨時パーティを組む事すら出来なくなり、ある意味一番過酷な職とも言えた。
僧侶程の回復力はないが、不死・悪魔属性のモンスターを専門に攻撃出来る神官。
神官は、僧侶の持つ能力を引き継いではいるが、回復量は僧侶の半分しかない。
その代わり不死・悪魔属性のモンスターを一撃で葬り去る魔法を幾つも持っており、この分野においては剣士や魔法使いよりも優れているとされている。
僧侶は、戦闘において必ず一人いなければならなく、大人気職であった。
そして、大事なクエストになればなるほど僧侶の需要は高く、僧侶がいなかった場合、神官を……
と言う事はあまり見られなかった。
グゥさんもLevel.175まで上げるのに苦労していたんだろうな……
二人ともムーンサン族で色白で身体は細くエルフみたいなとんがった耳をしていた。
だが、ムーンサン族はエルフと典型的に違っているのだ。
それは、元々高い魔力を持っているのだが、更に瞳の色の左右少しだけ違った色は緑色に濃いほど魔力を秘めている。と言われていた。
「エクレウス……念動力士。よろしく」
素っ気なくエクレウスは、俺に頭を下げてくれた。
水色の目はビー玉のように透き通り綺麗な色をしていた。
エクレウスはデューンキーパー族だな。
見た目はエルフと似ているが、エルフにはない背中に小さな透明な羽を生やしていた。因みにその羽根を使って飛ぶ事は出来ない。
左右色違いの瞳が違う者は誕生する事はなく、青い目の色が濃いほど魔力は高いと言われている。
『デューンキーパー族エクレウス、Level.178の念動力士』
杖を使い魔法陣を描きながら、使役したモンスターや魔王軍を召還する事が出来る召喚士。
召喚士は、五十種類以上あるモンスターを使役する事が出来、戦闘におけるバリエーションは豊富である。
前衛職程の攻撃力や、魔法使い並みの火力、僧侶以上の回復力はないが、彼らが居れば時間をかけてLevel上げが出来、パーティプレイを苦手とするソロプレイヤーには人気であった。
遠くの物を動かずに動かす事が出来る念動力士。
念動力士は、その名の通りの遠くの物を動かしたり、動きを封じ込める事が出来、高Levelになればなる程ボスモンスターでさえ一時的にその動きを止める事が出来る。
その一方、自らの攻撃手段を持たない為、パーティプレイが必須であるが、その性能を発揮する前に頓挫し高Levelプレイヤーは数が少なく、いたとしても楽してLevelを上げた者が多く、プレイヤースキルが低い者たちばかりいた、というのも事実であった。
だが、高Levelでプレイヤースキルが高い念動力士と組む事が一回でもあれば、念動力士の素晴らしさを知る事が出来る。
僧侶以上の補助魔法を持ち自らの身や、他人を守る事が出来る結界士。
結界士は、自ら結界を作る事で敵のLevelに合わせて敵の攻撃を防ぐ事が出来る。
また補助魔法も僧侶より強力でボスモンスター戦では、重要視されている。
だが、念動力士と同様に攻撃を持たない為、中々Levelが上がらず高Levelプレイヤーは数が少ないのが現状であった。
念動力士か……
俺は一度ゲームの時に外れ念動力士と組んだ事があるけど、大変な目にあったな。
Level178まで上げるのは確かに大変な苦労があったんだろうけと、外れじゃない事を祈ろう。
……って俺が一番の足手まといなんだけどね。
四人共、勿論冒険者ランクはSだった。
「リュウイと言います。一応魔法使い志望です。足手まといですが、よろしくお願いします」
少し緊張気味に俺も頭を下げた。
ウォルガフも機嫌良さそうだ。
無理をしてまで、お願いしたかいがあったよ。
一通りの確認が終わり俺はステータス画面を閉じた。
役に立たないけど、なんかワクワクしてきたぞっ!