『ようこそ、超常現象部へ』
一夜明け、真司は昨日と同じように通学路を歩いていた。誰もが元気に通学する中、真司はいつもより眠そうに歩いている。
「…………眠い」
「おいおい、いつもに増して寝むそうだな」
肩を落としながら歩く真司に、後ろから近づいてきた隆二が声をかける。
「…………昨日は色々あったからな」
「そんなに大変だったのか?」
真司は昨日起こったことを思い出し、隆二は授業中によそ見をしていた罰がそんなに大変だったのかと誤解している。
あの後、聞きたいことはたくさんあったが、時間が遅くなっていたこともあり、詳しい事情は翌日に持ち越された。
「さて、色々説明してあげたいところだけど、もう時間も遅いわ。今日は帰って、ゆっくり休みなさい」
「え、あ、はい」
白莉に優しく微笑みかけられ、真司は戸惑ってしまう。
先ほどまで雹也と殺し合いをしていたのだ。突然の展開に頭がついていかない。説明が欲しかったが、それを主張できるほど落ち着いていなかった。
「大丈夫。明日にはちゃんと説明してあげるから」
(あい、あれは誰だ?)
(白莉ちゃんだよ。信じられないのは分かるけどね)
「そこ!! 何をこそこそ話しているのかしら?」
「「いえ、なんでもありません!!」」
いつもと違う白莉の態度に雹也と志穂が裏で小さく話しをする。それに対して、白莉は笑顔で二人に尋ねるが、その笑顔が逆に怖い。
雹也と志穂は直立姿勢で何でもないと答える。但し、志穂は怒られても楽しそうな顔をしているが。
しばらくの間二人に小言を言った後、真司のことに気付くと慌てて駆け寄ってきた。
「ご、ごめんなさいね。直ぐに返してあげるから」
「よろしくお願いいたします!!」
「ちょ、待って。なんでそんなに恐縮してるの!?」
先ほどまでのやりとりを見て、真司もついつい直立姿勢になってしまう。
いきなり真司が雹也たちと同じように直立姿勢になったことに驚く白莉。逆に白莉が慌ててしまう。
こうして、どたばたのまま元の世界に戻っていった。
(…………あれは夢だったんじゃないのか?)
昨日の出来事を思い出して、全て夢だったのではないかと思ってしまう。
あの世界で感じた痛みは本物だった。手に持っていたバットの感触も確かにあった。
それでも、あれが現実のものだったと確信があるわけではない。夢である可能性は十分にある。
いつもの通学路を歩いていると、いつも通りの日常が始まっているように思える。
しかし、次の瞬間にいつも通りの日常ではなくなる。
「おはよう、須藤真司君」
「あ…………おはよう、ございます」
後ろから声をかけられる。振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべている志穂の姿があった。
小さな体を一生懸命動かしながら近づいてくる。
「またね」
志穂は真司達に並ぶことなく、横を通り過ぎていく。その際に声をかけられ、隆二は呆然と二人の様子を眺めていた。
「…………おい」
「ん、どうした?」
「どうして三倉先輩がお前に声をかけてるんだ!! 昨日何があった!!」
「ええい、何を言ってやがる!! 離せ!!」
「どうしてお前だけーー!!」
隆二は涙を流しながら真司の襟を掴みあげる。いきなりのことに真司は隆二の手を離そうとするが、いつもの隆二とは思えないほどの力で振りほどけない。
通学路の途中でいきなり喧嘩を始めた二人に、周りの学生の視線が集まる。だが、すぐに興味を無くし、学校へと向かっていった。
「疲れた…………」
授業が終了すると同時に、真司は机に突っ伏した。
真司が志穂に挨拶されたことは隆二を通じてクラス中に伝わり、クラス中の男子が休み時間の度に詰め寄ってきた。
詳しい説明も出来ず、かといってだんまりでは納得しない。
午後になって何とか落ち着きを見せたものの、視線だけは常に付きまとっていた。
しかし、その苦痛の時間も終わりを迎えた。もうこのまま帰ってしまおうと考えていた。
ザワザワ。
「…………ん?」
机に突っ伏していると、耳にクラスの中がざわついている声が聞こえてきた。どうしたのかと顔を上げると、教室の入り口近くに先日知り合った女子生徒、白莉の姿があった。
「須藤真司君はいるかしら?」
「須藤ーー!!」
「どうしてこうなるんだーー!!」
結局放課後になっても、真司の身体と心が休まることはなかった。
「ごめんなさいね、騒がしてしまったようで」
「…………いえ、大丈夫です」
苦笑しながら白莉が真司の方を見ると、真司はクラスメイトから受けた洗礼によってボロボロになった身体を引き摺るように歩いていた。
あの後、美少女である白莉が真司を呼び出したことで、クラスの男子は爆発した。次々と真司に攻撃を加え、抜け出せたのは数分後のことだった。
さすがに血が出たり、致命傷になる様な攻撃ではなかったが、真司の顔には疲労の色が滲んでいた。
(しかし……どうして生徒会長が横を歩いているんだろう)
真司は自分の横を歩いている女生徒、如月白莉に視線を向けた。
如月白莉。この学校の3年生で、生徒会長。成績優秀、スポーツ万能、男女ともに分け隔てなく優しく接し、ファンクラブが存在するほどに人気がある。
まるで漫画や小説の中のヒロインみたいだ。
そんな人物が真司の横を一緒に歩いている。周りの生徒からは睨まれ続けている。
「ん、どうしたの?」
「……いえ、何処に連れて行かれるのかと思って」
「ふふ、そんなに怖がらなくても大丈夫」
そう言って白莉が連れていったのは、クラブの部室が並ぶ部室棟だった。
「ここよ」
「…………超常現象部」
真司達が到着ししたのは、超常現象部と書かれた札の掛かった部屋だった。白莉は鍵を開け、遠慮することなくどんどん中に入っていく。真司も恐る恐る部屋の中に進んでいく。
部屋に入るとそこは、真司の予想をあっさりと裏切った。
超常現象部などと名乗っているのならば、部屋の中には超常現象に関する資料や物で溢れていると真司は考えていた。
しかし、そこにあったのは机と椅子、そして本棚程度で、珍しいものは一つとしてなかった。部屋の奥にホワイトボードが置いてあるが、特に何も書かれていない。
その中でも部室に不釣り合いなソファが置いてある。ソファの上には漫画が置かれていて、妙に生活感がある。
拍子抜けしながら本棚を眺めていると、そこには武器の写真が載っている本や戦術・戦略について書かれた本、果ては何が書かれているのか分からない様な海外の本まで納められていた。
「…………」
「ごめんなさいね。このようなものしかなくて」
真司を椅子に座らせ、白莉はその前にお茶の入った湯呑を置いた。湯呑の中からは緑茶の良い匂いが立ち上っている。
ガラガラ。
「ウィーッす」
「こんにちわー」
周りに視線を向けながらお茶を啜っていると、部屋の扉が開いた。視線をそちらに向けると、そこには適当な挨拶をしながら入ってくる雹也とニコニコしながら嬉しそうに挨拶する志穂の姿があった。
雹也の姿を確認した真司は、身体が硬直してしまう。昨日のことを思い出すと、どうしても緊張してしまうようだ。
「お、ちゃんと連れてきたみたいだな」
「今朝ぶりだね」
「…………どうも」
借りてきた猫のように大人しく椅子に座っていると真司を発見し、二人はそれぞれ自分のいつもの定位置に座る。雹也は窓際に置いてある椅子に座って買ってきた缶コーヒーを飲み始める。志穂はソファに寝っ転がり、置いてある漫画を読み始めた。
「あんた達は…………」
あまりにもいつも通りな二人に白莉は溜息を洩らす。これから真面目な話をするのに、これでは緊張感が無くなってしまう。
二人のことは諦め、白莉は真司に向き合った。
「二人のことは放っておいて――――」
「え、あの、いいんですか?」
「放っておいて、話しを始めましょう」
「…………はい」
雹也と志穂が話しに入らなくていいのかと尋ねる真司に、白莉は無視をするよう強引に話を続けていく。
締まらない雰囲気の中、真司は世界の真実を知ろうとしていた。
「白莉ー、お茶」
「志穂、あんたはちょっと黙ってなさい!!」
説明まで書くつもりが、他の部分で書けなかったorz
第五話では必ず世界の説明を書きたいと思います。
後、急いで執筆したので、連休に見直します。
感想等お待ちしております。