『……これ、武器じゃないだろう』
すみません、前話のあとがきに書いたタイトルとは違います。
本当なら第二話で戦闘が行われる予定だったので、
ああいったタイトルにしました。
ただ、第一話を少し切って、第二話を書いてたら、
戦闘に入ることが出来ませんでした。
宣言するかのような志穂の言葉が響いた瞬間、真司の後ろに光が現れた。
真っ白い光は、見ているとなぜか懐かしさを感じさせる。これまでの人生でこのような光を見たことが無いのに。
「これは?」
「ゲームの参加者全員に与えられるアイテム。その種類は千差万別で、手にする人によってその姿を変える。さて、君のはどんなのかな」
わくわくしながら見つめている志穂を半分無視して、真司はゆっくりと光に手を近付けていった。
手を入れる。何も感じない。光の先には何もなかった。
「!?」
だが、暫くすると右手が何かを掴んだ。
ひんやりとして、それでいて堅い、棒の様なものが手の中に納まる。手触りからして金属であることだけが分かった。
そしてゆっくりと光の中から引き抜いた。
「はっ?」
「へっ?」
引き抜かれたそれを見て、真司も志穂も間抜けな声がついつい出てしまった。
なぜなら、真司の手に握られていたものは――――何の変哲もない金属バットだった。
「あっはっは!! 何が出てくるかと期待してたら、金属バットかよ!!」
「!?」
呆然と金属バットを眺めていると、何処からか笑い声が聞こえてきた。聞こえてきた方向に視線を向けると、そこには真司と同じ学生服を着た青年が屋上に立っていた。
学生服の前を開け、中にはプリントが書かれたTシャツを着ている。茶髪で、何処にでもいる不良の様に見えるが、右手に持っている日本刀がとてつもなく不自然だ。
街中で立っていたら、明らかに捕まってしまいそうな格好だ。
「…………」
「じゃあ、さっそくだが――――脱落してくれ」
「ッ!?」
ギィィン!!
突然青年が真司の眼の前に移動すると同時に、右手に持っていた日本刀が横薙ぎに振り抜かれる。
普通の人ならこの攻撃だけで終わりだろう。
勿論真司も回避するほどの反射神経も運動能力も持っていない。
しかし、攻撃は真司にヒットしなかった。
先ほど手に入れた金属バットが偶然にも日本刀に当たり、真司への直撃が回避されたのだ。
ドン!!
だが、衝撃は殺すことが出来なかった。
激しい衝撃が真司を後方へと吹き飛ばし、屋上の出入り口のドアから校舎内へと落ちていった。
その光景を見ながら、茶髪の青年はゆっくりと出入り口に近づいていく。
「やり過ぎちゃ駄目だよ」
「…………そいつは、あいつ次第だ」
楽しそうに笑いながら注意する志穂に対して、茶髪の青年も笑顔で応える。
刀の峰で肩をトントンと叩きながら、誰もいない校舎へと茶髪の青年は入っていった。
「う…………あ…………」
背中を壁に強打し、肺にあった空気が吐き出される。呼吸困難に陥り、思考が停止していく。
全身が痛い。打ち付けたのは背中だけだが、衝撃が全身にダメージを与えた。
それでも真司は生きていた。
「はあ……はあ……」
しばらくして空気が肺を満たし、少しだけ思考能力が戻ってきた。痛みはあるものの、身体も何とか動くまでには回復した。
(なんだ!! 一体、何なんだ!!)
考えることは出来る様になった。しかし、それで状況が分かるわけではない。
頭の中では混乱が支配していた。疑問ばかりが浮かび、その疑問に答える者はいない。そのまま疑問がループしていく。
それでも、自分自身が危機に陥っていることだけは理解できたようだ。
「はあ、はあ…………逃げ、なきゃ」
痛む身体にむち打ち、立ち上がる。少しでも身体を動かすたびに痛みが増していく。出来ることなら動きたくない。
だが、動かなければ殺されてしまう。
屋上に通ずる階段の上、屋上の出入り口に微かに光る何かを見た。直観的にそれが日本刀の刃が光っているのだと感じた。
「おいおい、あんまり手間を取らせるなよ」
「う、うわああああ!!」
好戦的な笑みを浮かべた茶髪の青年が、日本刀を真司に向ける。
向けられた真司は慌てて逃げ出した。先ほどの攻撃が頭をよぎったのだ。
さっきは運が良かったのだと真司は理解している。たまたま持っていた金属バットが刃に当たり、死なずに済んだ。
もう一度同じことをやれと言われても出来る筈がない。
真司は痛みなど忘れて、必死になって逃げ出した。
「どう、なってるんだ……」
真司は全力で廊下を走り抜け、適当な教室へと転がりこんだ。全力とはいっても、痛みが引いていない身体では高が知れているが。
「どうして、誰もいないんだ……」
入った教室には誰もいなかった。
本来なら放課後であっても、それなりに人はいる。部活で居残っている者もいるし、勉強に励む者もいる。真司が屋上に辿り着いた時間は、まだ人がいなくなる様な時間ではなかった。
それなのに、教室には誰もいない。
更には音も聞こえない。
グラウンドでスポーツに勤しむ少年たち、学内のあちこちで楽器を演奏する少女たち。いつも放課後はどこにいても何かしらの音が聞こえてきていた。
その音が真司の耳に一切聞こえてこなかった。
「…………」
身体が震える。まるで自分一人が世界に取り残され、一人ぼっちになった気分だ。
右手に視線を向ける。真司の右手には金属バットが握られている。気付かぬうちにしっかりと握っていたようだ。
『よう、相棒』
「ッ!?」
突然頭に響く様な声が聞こえてきた。慌てて辺りを見渡してみるが、誰もいない。
姿なき声に恐怖する。誰もいない世界の中で聞こえてくることで恐ろしさが増していく。どれだけ探しても、声の主は見つけられない。
「だ、誰だ!? 何処にいる!!」
立ち上がり、右手に持っていた金属バットを両手で構える。
『おいおい、何言ってんだ? 相棒の目の前にいるだろう?』
言葉使いの荒い男の声が、呆れた様に答える。まるで肩をすくめて、やれやれといった感じに首を振る仕草が思い浮かぶようだ。
言われた様に正面を見るが、誰もいない。上を見ても、下を見ても、何もなかった。
「何処だって言ってるんだ!!」
『全く、鈍い相棒だぜ。今、相棒が手にしているのが俺だよ』
「…………は?」
数秒間理解できなかった。頭の中で言葉を反芻し、理解が広がっていくとともに信じられないものを見るかのように、真司は持っていたものを凝視した。
真司に語りかけていたもの、それはこの世界で手に入れた『金属バット』だった。
どうだったでしょうか?
次回こそは戦闘シーンに入りたいと思います。
そして必ずあのタイトルをつけてみせます!!