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Tips~  作者: blue birds
7/31

Tips~7,5,3



命は、それが無価値だと分かっていました。

しかし、誰かのココロは、そのことを無意味だとは思えなかったのです。


・・・神様は、声を捧げることにしました。


1823

「七・五・三」:短編:姉妹世界α


第一節:「命」

あるとき命が生まれました。

とてもとても小さな奇跡。

吹けば消えてしまいそうな、そんな弱々しいモノ。

しかし同時にそれは、活力に満ちた純粋無垢でもあったのです。


「うれしや、うれしや」


苦労と苦悩をシワとして、幸福と感謝を優しさとして顔に刻んだ婆が、赤子を産湯に付け、その身体を清めています。


「きっと、この娘はベッピンになるぞ。なんせ、お雪殿によく似ておるからの」


顔を赤らめた爺が酒を煽りながら笑います。


「いいや、この子は勝也殿似じゃよ。ほれ、目元なんかもうそっくりじゃ」


これまた顔を赤らめた別の爺が、先ほどの爺に取って返します。


「うれしや、うれしや」

「めでたや、めでたや」

「よき日じゃ。ほんに、今日はよき日じゃ」


季節は秋。

それは紅の季節にして、実りの季節。


そんな季節に、小さな命が生まれました。

それは、とてもうれしいこと。

それは、とても良きこと。

それは、すこし寒くなり始めた、そんな紅の世界でのこと。


第二節:「髪置きの儀」


あるとき生まれた命は過酷な季節の巡りをすでに三つも生き抜き、ほんの少しだけ強い命になっていました。


「そろそろ髪を伸ばすかの」

「髪置きの儀じゃな」

「おしろいはあるか?」

「白いすが糸のかずらはまだか?」

「はやく十五日は来ぬかの」


季節は実りの季節。

命が生まれた”とき” と、同じ”とき”。


「千歳餅も配らねば」

「めでたいことじゃ」

「紙袋も必要じゃ」

「とてもよきことじゃ」


小さな命より少しだけ強い命達が、めいめい勝手なことを口にしています。

そんな勝手な命よりも強い命達は、弱い命達を守るため、畑と森で野良仕事。


「爺、婆、なにかあるの?」


勝手な声の中に響く小さな声。

その声に答えるようにこだまする、透明な声が一つ。

その声は、君のお祝いだよと、よく分かっていない小さな命に呼びかけます。

でも、聞こえない。届かない。その声は、誰にも、けっして、届かない。


「爺、婆、なにかいいことがあったの?」

声はそれでも小さな命に微笑みかけます。

良いことがあったんだよ、と。

君が変わり目の歳になったんだよ、と。

そんな歳まで君が生きていてくれたんだよ、と。

それは、とてもうれしいことなんだよ、と。


「爺、婆、おなかすいた」

純粋無垢な命に当てられて、かつては強かった、しかし今では弱くなってしまった命達が活気づきます。


「楓はよく腹がすきおるの」

「今ある食い物だけでは一月と保つまい」

「これでは冬が越せぬかも」

「勝也殿にはもっと働いてもらわねばな」

「よきことじゃ」

「ほんに、よきことじゃ」


命が実ります。

声がこだまします。

勝手な声と、小さな声と、透明な声が、紅の世界で。


それは、人の”とき”で3年というときが流れた世界でのこと。

小さな命が変わりゆく世界のこと。

小さな命が消えてしまう、4年前のこと。


第三節:「巡る命」


小さなクスノキの根元に小さな命が眠っています。

このクスノキは、生前に命が大好きだったものの一つ。


「あと五日で「帯解の儀」だったのにの」

「あとすこしで帯を入れられたのに」

「コロリにやられるとはの」

「かなしことじゃ」

「しかたのないことかの」

「かなしいの」

「どうしようもないことじゃ」

「くやしいの」

「かなしいの」


季節は実りの季節。

そんな季節に、小さな命が消えてしまいました。


「くやしいの」

「かなしいの」


かなしいな、くやしいな、透明なモノは思います。

でも、仕方のないこと。

これは、どうしようもない、どうにかしてはいけないこと。


「———」


声が聞こえます。悲しという声が。

「願い」が聞こえます。この子に幸せになって欲しかったという声が。


そして、透明なモノもそう思いました。だから、それは手を伸ばしました。

禁忌に。

決して伸ばしてはいけないモノに。


そして。

この悲しいことから、人の”とき”で約200年が過ぎ去った後の世界。

そこで。

悲しいだけで、ただそれだけで、他に何も意味がなかったこの悲しいことは、それだけでは無くなることになります。


でもそれは、また別の話。

楓という神様の、始まりの物語

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