ネジ-運命の螺旋
50年後くらいに、この話書いてそう。
私が、生きてればの話ですが。
TiPs-ネジー運命の螺旋
時の魔法使いーーーイツキは、因果の収束点たる青年に向けて、穏やかな笑みを浮かべた。
その微笑みには、ただの個人には受け止められないほどの愛と思いやりが詰まっていたが、しかし、いかんせんそこには一切の容赦というものが感じられなかった。
故に、青年は苦悶の表情を浮かべ、自身が操縦する人形戦車の銃口を引き下げたのだ。自身の眼下にて退治する敵へと、銃口を引き下げた。青年は、敵である前に、命の恩人でもあった女性にーーー時の魔法使いに、銃口を向けた。その意味を彼女は理解していたし、だからこそ、彼女は微笑んだのだ。
ーーー彼女は、微笑む。
そして、対の動作で、青年に語りかけた。
「ネジはね、人類が発明した偉大な技術の一つなの。ただの回転運動だけで、それ単独では意味を成さないもの同士を接合し、一つの意味を作り上げる。あるいは、一つの大きな意味を、手のひらサイズの細かいパーツに分けることを可能にする技術だといっても過言じゃないわ。
それはまるで、収束点である、あなたそのものだとーーー思わない?」
問いかける魔法使いに、青年は答えない。それがある意味では完全な拒絶の意思を孕んだ答えであること知るが故に、魔法使いはその微笑みに儚さをにじませた。
「たぶんだけどね、霞君。私は、ネジが発明されていなければ、こんな悲劇は起こらなかったと思うんだ。
人類の科学技術はそれこそ程々のところで止まってて、その日暮らしが精一杯って感じで。あなたの祖国である日本だって、未だに刀で切り合う時代から抜け出せていないはずだもの」
一人語る魔法使いに、青年は黙して語らない。
そして、それを当然のこととして、魔法使いは受け止めていた。
「あなたの祖国はかつて、とある姫君を対価にして「ネジ」の技術を外様の国から取り込んだの。あまり知られていないことだけれど、そのことが、武将たちが己が身技一つで渡り合う、原書の戦国乱世を終わらせる一因となった。
ーーーそう、国内での、銃火機の生産よ。
歴史にその名を轟かせる有名な織田信長の鉄砲隊は、「ネジ」がなければ生まれなかったの。そして、それより続く、この世界も、もちろん生まれることはなかった」
魔法使いの左手にはまった、白銀のリングが輝きを増す。
それを期として、青年は銃の引き金を引き絞った。銃口から吐き出されるのは、白銀の光。
そのきらびやかな光は、触れたものを原始レベルで分解する、エネルギーの固まりであった。
しかし、彼の白銀は魔法使いまで届くことなく、その身を粉として世界散らせていた。
リングの輝きが、いっそうに鮮やかに燃え上がる。
「・・・・・運命の螺旋は、既に駆動した。そのきっかけは、多分、わたし。でも、螺旋をまわし続けているのは他でもない、この世界にきるものたちの意思。そして、その本体は、ネジであるーーーあなた。
同世界系統樹に点在する運命はあなたに収束するわ。そして、終息する。この世界は、終わるの。気の毒なことだけれど」
白銀の光の散る中、異色の蒼が魔法使いを包み込む。
それを少年は、じっと戦車に取り付けられたセンサー越しに見つめていた。
彼がトリガーを引き絞って、30秒。
魔法使いが、青年に微笑みを浮かべてから180秒後に。
女性は、自身が放つ光の中へと身を投げ、世界をわたった。最後に、青年に一言、言い残して。
「あなたは、誰も救えやしない」ーーーーそう、言い残して、魔法使いは、世界を渡ったのだった。