星の願いを
ー星の願いをー
ーセントラルにてー
生の象徴である太陽が沈み、死の象徴である月が顔を出す夜。
「ねぇ、あなたの望みは何?」
夜色の髪の魔法使いが、宇宙に浮かぶ三日月に問いかけています。
「あるんでしょう?あなたにも、叶えたい「願い」が」
しかし問いかけられた月が、その問いに答えることはありません。
「あなたの持つ「願い」は、ホントウの意味でカタチだけのもの。それらの根源は、あなたに「願い」をかけたモノたちが所有している・・・でも、そうであったとしても、あなたはが「願い」を持つモノであることに変わりはない・・・でしょう?」
でも、それは月が意地悪だからというわけではありません。月とは元来、そういうものなのです。そして、そのようにあるべくしてある月も、思考することはできるのです。
だから、答えることのできない月は思います。この、人の形をしたモノは、孤独なのだと。
「自分から生まれでたわけじゃない「願い」を想うなんて、私には考えられない。でも、あなたは確かにそれが出来るモノのはず」
故郷を捨て、時を渡り。
「どんな気持ちなの?あなたは、どうしてそんなことをしているの?」
世界を壊し、世界を救い、意志あるモノ達を踏みにじり、意志あるモノたちを救い。
「ねえ、答えて」
罪を祓い、罪を償い、罪を背負い。
「おねがい・・・」
そんなことを繰り返すだけの、救われないモノ。
「————————って、答えてくれる分けないか。絶対矛盾の一柱だしね。そもそも、私たちなんて眼中に無いよね」
幸せになってほしい。
ただただ、幸せになってほしい。君にも。君の大切な彼にも。
そして、
僕に「願い」をかける、すべての”願いを持つモノたち”に。
「じゃあ私、もういくわ。この時空を壊しにね。止めるんなら止めていいよ。できるものならね」
それが、僕の「願い」。他の誰から借り受けたわけじゃない、僕自身の、「願い」のカタチ。
「バイバイ」
願いを持たない僕の「願い」。たしかにそれは、矛盾している。けれど、それは確かに此処にある。
だから。
『———————————』
僕も「願い」をかけよう。
僕に「願い」をかけるモノ達と同じように、かれらに「願い」をかけよう。
『たーーてーげー』
声にならないこの声で。
伝わらないかもしれないこの「願い」を叫ぼう。
『ーー娘をーーけてーげー』
このとき。
月がその「願い」を叫んだその瞬間に、世界は涙を流しました。
それは世界の終焉を意味する災厄の前触れ。
可能性あるモノに、”世界をすてろ”と告げるための、世界の断末魔。
だから、その意味を汲み取ることができるモノならば、悲鳴を聞いた瞬間迷うこと無く自身の故郷を捨て、別の世界へ旅立ちます・・・本来は。
ー姉妹世界αにてー
「だれだよ、こんな真夜中に!『あの娘を助けてあげて』だ!?ふざけんな!いつもいきなり不意打ちで意味分かんないだよ!今、夜中!おれ、明日試験!だから、絶対ムリ!てか、泣くな!もう勘弁してくれよ!ああもう!そんな悲しそうに、泣くなよ・・・」
これは、とある物語の序曲の序曲。語られることすらその異議を問われる、なんでもない、始まりの始まりの話。
語られる価値もなく、しかし、それでも語られた、そんな、とある月夜の話。
ーThis is a story of the moon. And this is also the story of the beginning of the beginning of the happy end ー