みち
男の視界にはいつも、道があった。
それはどこまでも続く一本道で、整理されたきれいな道で、そして、意味がないほど、果てのない道だった。
男が生まれた時からあった道。
結局、その道がなんであるかも考えぬまま、男は歩を進めた。
あるときは、黄色い帽子かぶりながら。
あるときは、黒びかりするランドセルを振り回しながら。
あるときは、少し大きめの学ランに意味もなく胸を張り、身を包んで。
あるときは、戦争の冠をかぶった、受験戦争に明け暮れながら、道を歩んだ。
男は、ただただ歩を進めた。なぜなら、そこに道があったから。
男は、もくもくと、前に進んだ。なぜなら、男には選択肢がなかったから。
そうして長いあいだ、男は前に進み続けた。
一度も後ろを振り返ることなく。
一度も考えることなく。
そしてたった一度の後悔もなく、歩を進め、そして。
男は、後悔した。
道が、一本道ではなかったことに、気づいてしまったから。
自分が信じた道の脇には、無数の未知が枝分かれしていたのだと、気づいてしまったから。
『yes』ーーーそれが、答えだったのだ。
虫眼鏡の向こう側にある、とても小さな答え。
階段を上り、天井を見上げ、そして、虫眼鏡をこらさないと気づけない、そんな、大切な何か。
◇
男は今、自身に問いかけている。
たぶん、それはーーー『問い』という名の、『答え』を探すようなもの。
答えなき問い。
答えである問い。
男は今も、『それ』を探している。