第2話「5年後」
ここはアルモワールと呼ばれる世界。
自然と人が調和し、剣と魔法が満ちる豊かな大地。
地、水、火、風、光、闇の属性魔法は人々の生活に溶け込み、村も街もその恩恵を受けていた。
だが、その均衡を破ろうとしている国がある。
バルボルン帝国。
強大な軍事力を持つ帝国は、大陸の大半を支配下に置き、世界の統一を掲げて侵攻を続けていた。
そして、トルーニャ村が焼かれた日から五年の歳月が流れた。
森の中に乾いた銃声が響いた。
轟音のあと、少し遅れて鳥たちが飛び立つ。
倒れたのは巨大な猪だった。
全長は二メートル近い。
牙も太く、普通の狩人では手に負えない魔獣だ。
その巨体の額には、綺麗な穴が空いていた。
リィンは静かにゆっくりと銃口を下げた。
五年前よりも背は伸びている。
暗い紫の長い髪は少し乱れ、片目を隠している。
瞳は暗い緑。
フード付きの黒いコートを羽織り、肩には黒いライフルを掛けていた。
ヘイム『ほう』
低い声が響く。
ヘイム『距離は300m以上はあったぞ』
リィン「……うん」
ヘイム『少しは喜べよ』
リィンは猪の脚を掴み、引きずり始めた。
ヘイム『なあ?まだこんな生活を続けるのか?』
あの日逃げ込んだ狩猟小屋点が住処になっていた。
リィン「…強くならないと」
ヘイム『まだ、復讐とか考えてんのか』
リィンは何も言わない。
狩猟小屋に着き、猪を置く。
リィンは立ち止まった。
ヘイム『リィン?』
リィン「名前を呼ばないで」
リィンは猪を見る。
リィン「……決めた」
ヘイム『へ?』
リィン「…街に行く」
リィンはそう言うと猪をまた引きずり始めた。
ヘイム『おいおい…どうするつもりだよ』
リィン「……これをお金に替える」
ヘイム『へいへーい…』
しばらく森を歩く。
やがて木々が開けた。
小さな街が見える。
石造りの門、人の出入り、荷車。
武器を持った人間。
冒険者の街だった。
リィンは門をくぐる。
ヘイム『ほう…俺が知らない間にこんなにも栄えていたのか』
リィン「……」
街の人間が振り返る。
理由は簡単だった。
160cmくらいの華奢な少女が巨大な猪を引きずって歩いていたからだ。
引きずった跡には血が流れている。
ざわめきが起こる。
「おい、あれ……」
「魔猪じゃないか?」
「一人でやったのか?」
リィンは無言で引きずっていく。
まっすぐ進む。
やがて大きな建物の前に立った。
看板には剣と盾の紋章。
冒険者ギルドだった。
扉を押し開ける。
ギィィ――
中は酒と肉の匂いで満ちていた。
屈強な男たち、魔法使い、旅人。
その空気が一瞬で止まる。
酒を飲んでいた男の手が止まり、賭け事をしていた冒険者が視線を向ける。
全員の視線がリィンに集まった。
少女は何も言わない。
ただ猪をドサッと床に落とした。
リィン「……これ」
受付嬢が目を丸くする。
受付嬢「え?」
リィン「……売りたいんだけど」
沈黙。
そして、ギルド中がざわついた。
受付嬢「買取には冒険者証が必要なんですけど…」
リィン「……ない」
ヘイム『世知辛いな』
こうして、少女リィンの冒険者としての物語が始まる。




