蛾人間
あれから数日、今は夜。私はホットココアを飲みながら、テレビを見ていた。私の住む街は、オカルトの現場として少し有名になったらしく、観光客が増えているらしい。オカルトというより、宇宙人とか宇宙生命体とかだけど…同じなのかな?
「ねぇ、イナズマさん」
「なんだ?」
「イナズマさん達って、やっぱり他の人とかに見つかっちゃったりしたらダメなんですか?」
「地球人はお前のように優しい奴らばかりなら良いが、そうじゃない奴だって居るだろ?だから、自分から言うのはあまり良くないな」
「やっぱりそうなんだ…」
「だが、心配はないな」
「え?どうして?」
「俺一人でこの星は壊せる。もし、俺になにか邪な心を持ち接しようものなら、そいつを日本の反対側に吹っ飛ばす」
「怖…」
その時だった。窓から「ゴンッ」という音が鳴った。
「風の音かな?」
「魅菜、外を見るな」
「え?なんで?」
「厄介な奴の気配を感じる」
「なら倒さないと!」
「お前は人間だろ?あいつとは相性が悪い」
「分かった」
俺は魅菜と代わった。外に居るのは間違いなくアイツだ…俺は外に出た。どこに行った…地球に来たことがあるらしいが、まさかこんな所で遭遇するとは思いもしなかったぜ…その時、背後に禍々しい気配を感じた。俺は屋根まで跳んだ。そして、屋根に着地した。そこから、俺の背後に居た奴の方に振り向いた。
高さはだいたい2m半ば…頭は胴体と首が無い状態でくっついている…黒い羽毛のような毛。大きな翼、細い手足…真っ赤に光る二つの目玉…地球人と地球の昆虫の一種の蛾が融合したような姿…
「こんなところで会うなんてな…お仲間さんはどうした?地球で言う所の…モスマン!!!」
地球でモスマンと呼ばれているそいつは、俺も良く知っていた。
「何回、お前らを殺してきたか…地球には何の目的で来た?!答えろ!」
モスマンの目が光った。通常の俺なら何の問題も無かった。そう”通常の”俺なら。今の俺は魅菜と融合している…それが仇となった…モスマンの目には幻術効果があった。その時だった。強制的に、俺の体は魅菜に戻された。
「え?」
イナズマさんの意思でも、私の意思でもない…目の前に居る、蛾と人が合体したような奴のせいで、私は元に戻されてしまった。私は屋根から跳び下りて逃げ始めた。タイムリミットが来ようと来なかろうと、イナズマさんが一度私に戻ると、すぐにはイナズマさんにはなれなくなる。イナズマさんが言うには、私の体に本来地球で経験できないような負担がかかる。
私が街を走って逃げていると、モスマンは空を飛んで追ってきた。イナズマさんが何かを言っているが、私の耳には届いていなかった。喉が、肺が、焼かれそうなほど痛い。でも、私の体はひたすら逃げていた。ひたすら脚を動かしていた。
怖い…怖い…!怖い!今まで感じたことのないほどの恐怖を私は感じていた。嫌だ…死にたくない…死にたくない…!死にたくない!その時、私は転んでしまった。私はモスマンの方を見る。
「助けて…お父さん…お母さん…」
私はそんな事を呟いていた。その時だった。
「危険因子は抹殺する!」
斧を両手に持ったライメイが、モスマンに斬りかかる。モスマンはそれを避ける。
「ライメイさん…?なんでここに…?」
「イナズマからの救難信号を受け取り、飛んできた」
「イナズマさんが?」
「人の話を聞けって…何度ライメイを呼べって言ったか分かるか?」
「ごめん…なさい…」
「お前が謝る事じゃない…モスマンの目は人間には幻術や催眠効果があるって言われてるんだよ」
「そうなんだ」
「イナズマから事情は全て聞いている。モスマンは宇宙全体から見ても危険因子だ。ここで駆除…抹殺をする!」
ライメイは黄緑色の光弾を放った。モスマンは真上に逃げた。ライメイがモスマンを追おうとすると…
「ライメイ、待て。飛ぶな。お前が落とされるぞ」
「それはどういう意味だ?」
「数秒後に分かるさ」
そして数秒後…空から、数え切れないほどのモスマンが飛んできた。
「え…?えぇぇぇぇぇ?!キモ!!!!!」
「虫嫌いにはキツイな、これ…」
「こんなに居たのか…」
「魅菜と代われれば良いが、魅菜の体がバラバラになりかねないからな…魅菜、お前って戦闘は…」
「できると思う?少し前まで普通に女子高校生をしてた人間なんだよ?今も女子高校生だけどさ…」
「仕方ない…なら一つ言う。俺もアシストするから、自分の身は自分で守れ」
「え?」
ブレスレットが盾になる…いや…いやいやいや!!!
「マゼヴォエちゃんと違って、二郎系ラーメン並みに殺意マシマシの相手となんて、無理に決まってるよ〜!」
「やる前から『できる』とか『できない』とか決めつけるな。今までできた事でも、やってみたら急にできなくなったり、今までできなかった事でも、やってみたら急にできたりする事、ものにもよるがあり得ないって話じゃないぜ?『できる』と『できない』は、お前がやってみてから言え。あと一つ。お前は負けない。俺が居るからな」
「イナズマ、奴らが来たぞ!」
私が戦えるかどうかを考える暇を与えないかのように、モスマンたちは急降下してきた。
「この量なら、私だって勝てるかどうかは分からない!イナズマ、何か打開策は無いのか?!」
「それはお前のお得意のデータと計算と予測で乗り越えろ!お前と違って、こっちは防御するかしないかの選択肢しかないんだから!」
「承知した!負けても文句は…いや、言ってもいい。私はお前ほど強くないからな…」
「魅菜、残酷で無慈悲かもしれないが、今、ここで決めろ。俺と戦うか、逃げるか…俺はお前の意見を尊重する」
「私は…私は…!私は!」
戦いたい…でも、怖い…マゼヴォエちゃんは殺意がなかった。だから、防御ができた。けど…殺意がある相手は…怖いよ…
「怖いか…」
「…うん…」
「だろうな…俺も母星を出て初めて戦った時、脚が生まれたての子鹿みたいに震えて、まともに立てなくなったよ…」
「え?イナズマさんでも?」
「誰でも最初は怖いものさ。最初から戦闘を怖がらない奴は、相当訓練した奴か、相当肝が座ってる奴か、相当殺害意欲がある奴か、純粋に恐怖や感情が無い奴だけだ。俺はそれの全てに当てはまらなかった」
「…負けたの?」
「馬鹿言え…勝ったさ」
「え?でも、恐怖で動けなかったんじゃ…」
「俺はこうしたさ。恐怖が強くて頭から離れないなら、守りたい奴らの気持ちで恐怖心を抑え込むってな…」
「守りたい…気持ち…」
「そうだ。今、守りたい奴を心に刻め!」
「心に刻む…」
私は目を瞑る。守りたい、気持ち…
「守りたいもの、見つけました!」
「それでも怖いか?」
「怖いものは怖いです…でも、いつまでもくよくよするのは、私じゃありません!戦います…私も、この星を守りたいです!」
その時、盾がブレスレットに戻った。その時、ブレスレットが大型の弓矢に変化した。それは予想以上に重く、私は両膝を地面につけて、弓矢の片方の端っこが地面に突き刺さる。
「ブレスレットも、お前を認めたようだな」
「どういう事?」
「俺のブレスレットには数多くの力がある。そのうち、形を変形する力は、ブレスレットが俺と関わる者の誰かを認めた時のみ発現する。そこからは永遠と使えるが、発現するまでが難しいんだよ。今までこれができたのは、槍、盾、そして、この弓矢だけだ。後はブレスレットの光の力だ」
「なるほど…」
「魅菜、それを奴らに向けてやれ。そして、奴らを射ろ」
「私にできるかな…」
「お前しかできないんだよ。大丈夫、俺が側に居る」
私は右腕を挙げた。重たい…まるで、片手で戦車を持ち上げるような、そんな感覚だった。大袈裟かもしれない。でも、今の私にはそれぐらい重く感じた。
「魅菜、肩の力を抜け。力みすぎだお前がミスをしても、俺とライメイでカバーする。気軽に、だが身長にやれ」
「分かった!」
その時、弓の端から端にかけて、弓の弦のような光の筋が現れる。私はそれを掴む。そして、引っ張る。その時、青白い淡い光が弓矢を覆う。
「ライメイ!こっちに戻ってこい!」
「承知した!」
イナズマさんが叫ぶと同時に、ライメイさんが私の方に戻ってきた。モスマンが私の方に飛んできた。私は弦を離す。すると、弓矢の形になった光が、弓矢を向けていた方向に…モスマン達の集団の方に飛んでいった。それは、モスマンの一匹とぶつかった。瞬間、波紋のように光が広がり、それはモスマン達を次々に消滅させていく。そして、最後の一匹まで、綺麗に消滅させられた。
その時、私は両手を地面につけた。
「魅菜、良く頑張ったな…偉いぞ」
「ありがとう魅菜、君のおかげで助かった」
「私は…何も…できて…ないよ…」
糸が切れたマリオネットのように弱々しくなっている今の私は、それを言うだけでも一苦労だった。
「お前が、この星を救ったと言っても過言じゃない…誇っていいんだぞ。まぁ、今は帰る方が先か」
「私…動け…ない…」
「私が家まで連れて行こう。魅菜、手を」
ライメイさんが片膝を地面につけて私に手を差し伸べた。私はその手を取る。そして、ライメイさんは飛び始めた。私は、ライメイさんに運ばれ、家に着く。ベランダから家に入れてもらったが、パジャマで外に出たから、この姿でベッドには入りたくなかった。だから私は…リビングの絨毯の上で横にさせてもらった。
「本当に良いのか?」
「はい…これが良いんです…」
「これが地球人の文化…?」
「たまにこういう人間は居るらしいが、全員ではないぞ」
「なるほど…それでは、私は再び定位置についてくる」
ライメイさんは戦闘機の姿になり、外に出ていく。
「風邪引くぞ」
「体が動かないもん…外に出たままベッドには入りたくないし、仕方ないじゃん」
「はぁ…今日はお前も頑張ったし、今日だけだぞ」
その時、ブレスレットから淡い黄色の光の粒子が出てきて、それは私を覆った。それは、お風呂に入っているように温かく、寝ているときのように心地よかった。疲労のせいもあり、私はすぐに寝てしまった。
そして翌朝、私は目を覚ました。光の粒子が常に私を包んでくれていたが、私が体を起こすとそれは消えてしまった。
「おはようございます…ありがとうございます、イナズマさん…」
「俺は寝るからな」
「え?もう朝ですよ?」
「ブレスレットの力は互いのどちらかが意識がある時にしか使えないんだよ。だから、お前が起きるまでの数時間、俺はずっと起きてたんだよ」
「そうなんですか…ありがとうございます!」
「礼は良い」
「そうだ!あの槍とか、盾とか、光の粒子の奴とか、名前って無いんですか?」
「相棒には『フラッシャー』って名前があるが、特に付ける理由も無いから基本的には名前なんて無いぞ」
「なんでですか?」
「仲間が勝手に決めた。ただそれだけだ」
「じゃあ、他の物は私が決めてもいいですか?」
「好きにしろ。勝手にやっとけ。俺は寝る」
そこから、半透明なイナズマさんはブレスレットの中へと戻っていった。私は家事をこなしながら、名前を考えていた。
時計の長針が1を指す頃、眩しい日差しが窓から入っており、私は昼食を食べていた。
「飯、食ってたんだな」
「あっ!イナズマさん!おはようございます!」
「今昼だろ?」
「それでも起きたら言うんですよ!」
「なるほどな。それより、名前は決まったのか?」
「楽しみにしてましたか?」
「まぁまぁ、そこそこって感じだな」
「なるほど!まずブレスレットです!これは『イナズマブレスレット』にしましょう!そして盾です!」
イナズマブレスレットが盾になる。
「『イナズマディフェンスシールド』ってどうですか?」
「良いんじゃないか?」
「ありがとうございます!次に槍です!」
盾がブレスレットに戻り、槍になる。
「これは『イナズマスパークランス』です!」
「なるほどな…」
「後は、ブレスレットから出る光の剣は『イナズマブレイド』、淡い光の粒子は『イナズマコスモス』…弓矢は『イナズマアイギス』です!」
「…二つ、聞いていいか?」
「はい!」
「なんで全部最初がイナズマから始まるんだ?俺の武器だからか?」
「そうです!」
「後さ…お前、もしかして厨二病って奴か?」
「違います!断じて厨二病なんかじゃないです!」
「そうなんだな…まぁ、礼は言っておく。ありがとな」
「お礼を言われるほどではないですよ!」
「そうか?」
「この際ですから『フラッシャー』は『イナズマフラッシャー』にしましょうよ!」
「それはあいつらと相談しろ」
「あいつらって、イナズマさんの仲間の?」
「そうだ。後報告があってな…後少し…地球時間で三日後にここに来れるらしい」
「意外に早かったですね!」
「だな」




