類を見ない関係
私とイナズマさんが一体化して、もう数日が過ぎた。あれから、特に異常な事は無かった。いつも通りに学校に行き、授業を受け、適当にクラスメイトたちと雑談して…唯一、一般的ではないのは…
「魅菜、授業中にボーッとするな」
彼の声が聞こえる事だ。
「ちょっとぐらいは良いじゃん…」
「例えば、1分、お前が授業中にボーっとするとしよう。それを50回繰り返すとするだろ?そしたら、お前が授業一時間をボーっとして過ごした事と同じだぞ。常に100%集中する事はできないだろうが、50分だけ10%集中するのは、流石のお前でもできるだろ?」
「小うるさい先生じゃん…」
「俺は教員じゃない」
「あなたが好きな『たとえ話』ですよ」
「言うようになったな、魅菜」
「私だって、あなたに言われっぱなしは嫌だもん」
「なら一つ言わせてもらう」
「何?」
「俺と話してる余裕があるなら授業を真面目に受けろよ」
「それはそれ、これはこれ」
それを堺に、彼は話すのをやめてしまった。せっかくの暇つぶしなのに…
少し時間が経ち、授業が全て終了し、放課後になった。私は一人で帰路を辿っていた。一人と言っても、はたから見たら一人と言うだけで、イナズマさんと話しながら実質二人だ。
「イナズマさん」
「なんだ?」
「イナズマさんって、どれくらいの星を守ってきたんですか?」
「軽く100は越えてると思うぞ」
「そんなに?!てっきり10個くらいだと思っていました」
「地球に来るまでに2、3個ぐらい助けてはいる」
「1000とか言ってそうですね!」
「流石にそこまで…」
「まさか…」
「明確に数えてないから分からない…だが、下手したらそれぐらい救ってるかもな」
「すご…」
「今はお前の中で回復してるだけの弱い地球外知的生命体だがな。昔話はこれぐらいでやめよう」
私は家に帰ってきた。私の親は、少し前に事故死してしまったから、今は私の一人暮らしのようなものだ。イナズマさんが居ても、少し寂しい…
「あっ…そうだそうだ」
イナズマさんがいきなり声を出した。
「どうかしたんですか?」
「俺がこんな状態だろ?まともに戦えるか分からないからよ、俺の仲間を呼んでおいた」
「いつの間に?!」
「お前が寝てる間に逆転させてもらった。その時にメッセージを送った。地球時間で…後一ヶ月から半年までのどこかで来る」
「結構あやふやですね…」
「超天才な鏡野郎と、超馬鹿な炎野郎なんだ。侵略されかけている星を救いながら来ると思うから」
「その人たちも、イナズマさんと故郷は同じなんですか?」
「いや?全員母星が全く違うぞ」
「異星人同士でも仲良くなれるんですね!」
「日本人がアメリカ人とかと仲良くなれる奴も居れば仲良くなれない奴も居るだろ?感覚としてはそれに近い。他の星ってだけで、侵略目的とか、そういう邪な心が無いなら俺らだって争いたくないしな」
「宇宙人にも色々あるんですね〜」
「人間にだって色々あるだろ?規模が宇宙規模だったりするだけで、お前のような平和主義の奴だって居るし、ヴァバウみたいに破壊主義の奴だって居る。だから、そんな奴ら全員をまとめる事のできる奴を探しているんだ。そいつが死んだら困るから星を守る」
「イナズマさんじゃダメなの?」
「…言い方を変えると、俺はヒーローって奴を探してるんだよ。俺がヒーローに思えるか?」
「うん!」
「馬鹿か?」
「え?」
「俺のどこにヒーロー要素があるんだよ?」
「私を守ってくれるところ!私、今まで誰かに守ってもらえるなんて事、一度も無かったから…イナズマさんは、私にとっての唯一のヒーローなんだよ!」
「はぁ…良いか?俺はヒーローになる器じゃないんだよ」
「嘘だ〜」
「嘘じゃない。俺にだって、届かない手もあれば、届かない思いもある…救えない星だって、守れない命だってある。そんなのは、ヒーローなんかじゃないさ」
「…そうかな?」
「なんだと?」
「どんな人だって、手が届く範囲には限界があるじゃん?だから、全てを抱きしめる事はできないでしょ?少し残酷かもだけど、救えない星があって、守れない命があるのは、当たり前の事なんじゃないかな?」
「…俺の仲間と同じ事を言うんだな、お前」
「え?」
「超天才の鏡野郎…日本語にすると、名前は『未来』。超馬鹿な炎野郎…日本語にすると、名前は『霊火』。そいつらも、同じようなニュアンスの事を言っていた。俺の仲間になる奴は、みんな同じ思考回路になるのか?」
「え?私…仲間…?」
「当たり前だろ?お前も、俺らの仲間だ」
「仲間か〜えへへ///」
「なんだその反応…少し気持ち悪いぞ?」
「辛辣〜…」
「冗談だ。真に受けるな。気にするな」
「了解〜」
彼が私の中に入ってくれた日から、私は孤独を感じることはとても少なく感じた。いや、少なくなった。私は友達を作るのは苦手だったから。一生、この関係が続けばいいのに…そんな事を冗談半分、本音半分で思うくらいに、私はこの生活が気に入っていた。その時だった。
「魅菜、外に出ろ」
「え?学校から帰ってきたばかりだよ?」
「服装が気になるさっさと着替えろ」
「う、うん!わかった!」
イナズマさんの真面目な声色に、私は正直に言う事を聞くことしかできなかった。私は制服から私服に急いで着替えた。そして、私が外に出ると、イナズマさんが進むべき方向を言い、私はそれに沿って走り始めた。そして、私が到着した場所には…今まで見たことのない生物が人を襲っていた。
赤色の大きな眼球、命を刈り取る形の赤色の三本の鉤爪、猫背になった背中、体のところどころにある赤紫色の小さい棘、焦げ茶色の体表…地球に、こんな生き物はいない!
「懐かしい奴が来たもんだな」
「やっぱり…地球外生命体?」
「日本語で言うとするなら『アルネブ星生命体』…地球ではアルネブって呼ばれている星から来た生物だ。地球では、うさぎ座の中で最も明るい星だな」
「…危険、だよね?」
「あぁ…とにかく食べるのが好きな奴らだ。自分で殺した獲物は勿論、死んだ仲間を食う共食い、老いた同族は食わずに獲物を誘き寄せる罠にする…本能のまま動いている、邪悪な獣だ」
その時、アルネブ星生命体が私の方に振り向いた。そして、私を殺そうと、私に
「魅菜、俺と代われ!!!」
「倒せるの?」
「当たり前だろ?アルネブに行ったことがあるしな…」
「頑張って!」
私はイナズマさんと代わった。
俺は魅菜と代わった。頑張って、か…頑張らなくても、勝てるに決まってるだろ、バーカ…俺の心は、何故か少し温かくなった。
「さぁ…来いよ、俺が相手をしてやる」
俺は腰を少し下げ、両手を拳にして、右拳を右少し上、左拳を左にあり右拳より拳一つ下ぐらいの高さにした。アルネブ星生命体が俺の方に襲いかかってきた。戦いの火蓋は今切って落とされた。俺は上に跳び、アルネブ星生命体の顔を横から蹴った。そいつが横に倒れる。俺は着地して、少し距離を取る。そいつが起き上がる。
その時、アルネブ星生命体は鳴き声を上げた。この鳴き声に、俺は聞き覚えがあった。アルネブ星に行った時、二度と行かないと決めたのには理由があった。アルネブ星生命体のこの鳴き声。それは…仲間を呼ぶ鳴き声だ。地面の中から、アルネブ星生命体が四匹現れた。合計五匹。アルネブ星生命体は、少しでも自分がピンチだと感じると、仲間を呼ぶ。そして、それは連鎖する。だから嫌なんだよ…
「仲間を呼ぶのは知っていたが、まさかお仲間さんが来ているとは思っていなかったぜ…」
アルネブ星生命体は、勝利を確信したような鳴き声を出し合った。
「調子に乗るなよ、単体雑魚が5匹程度なら楽勝なんだよ」
俺はブレスレットに左手を翳した。そして、左手を左肩の方にスライドさせた。ブレスレットの青い宝石は、青白い光を出した。
「お前らに付き合ってやるよ…5秒間だけ、な…」
次の瞬間、俺以外の全ての物の動きが0.002倍になった…正確に言うなれば、俺の体の機能全てが500倍になった。唯一変わっていないのは、ブレスレットが示す残り時間だ。俺はゆっくりと、アルネブ星生命体に近づく。そして、一匹は拳で猛攻撃をして、殴り飛ばした。残り4秒…一匹は脚で猛攻撃をして、蹴り飛ばした。残り3秒…一匹は手刀で猛攻撃をして、切り飛ばした。残り2秒…一匹は持ち上げ何度も地面に叩きつけ、投げ飛ばした。残り1秒…一匹はこいつらが出てきた時に壊れた地面の一部だった物を何度も投げ当て、吹っ飛ばした。
「5秒経過。タイムアップ」
俺がそう言うと同時に、俺の超加速が止まる。それと同時に、アルネブ星生命体は一秒差で飛んでいく。万が一、まだ仲間が居たとしても、鳴き声が出ないように喉を攻撃して潰しておいた。鳴き声を出すことも、何かを食うことも、生き残ることすらも不可能にさせた。見た感じ、こいつらは人間を何匹か食っているようだしな…
「お前ら五匹のこれからの未来は、俺の500倍の5秒に敗れたんだ。自分の罪を悔い改めながら、地獄へと落ちろ。稲妻の覇者が、地獄への扉を開いたぞ」
そいつらは息を止めた。これが正しい行動かどうかは俺には分からない。だが、こいつらが増殖したら地球は占領されかねない。そう考えると、これが妥当だ。第一に、アルネブ星生命体は他の星への移動は禁止されている。最後に、ブレスレットの癒しの光をそいつらにかけた。そいつらは地に還った。この光は、優しさをもたらす。生きている生命には再生を、死んでいる生命には弔いを、与える。優しい無慈悲だな、本当に…
「魅菜、終わったぞ。元に戻るぞ」
俺と魅菜は元に戻った。
一瞬だった。本当に一瞬だった。一瞬で、イナズマさんは勝った。彼は本当に何者なのだろうか。少しだけ怖いと感じた。けど、私は確信した。絶対に、イナズマさんは良い人だ!!!
「イナズマさんって恋人居ますか?!」
「いきなりどうした?」
「イナズマさんに惚れました!」
「えぇ…(困惑)」
「やっぱり、私のヒーローはイナズマさんです!!!」
「気は確かか?恐怖でおかしくなったか?」
「なんですかその言い草!!!」
「とりあえず言っておくが、俺は恋なんかしない」
「仕方ありませんね…でも!いつか絶対!あなたを!私の!恋人に!してみせます!惚れさせます!!!」
「はいはい…期待しないで待っとくよ」
「期待してください!」
それから数日が経った。今日は土曜日。私はデパートに来ていた。
「そういえばイナズマさん」
「ん?なんだ?」
「あの速かった奴はなんですか?」
「俺の超加速の事か?」
「はい!」
「1時間に5秒間だけできる俺の技だ」
「私、全く何が起きたか分からなかったんですけど…」
「お前も着いて来れないんだな」
「はい」
「俺の全ての速度を500倍にしてんだよ。俺からしたら、体に変化が無いからお前のウゴっきが0.02倍になったように感じるけどな」
「何そのチート技」
「弱点はある」
「あるんだ」
「使用中は体の一部が必ず地面についている必要がある、体が五体満足でなければいけない、あくまで俺だけが速くなるだけでブレスレットを使うには超加速前に使う必要がある、とかな」
「なるほど」
「他にも技はあるが、お前の体が適応しなさそうなのが多いから戦うのは大変なんだからな?だから、俺が体を使っていない時間はいつも以上に気を使ってくれよ?」
「了解です!」
「ところで、こんな所に来て何の用なんだ?」
「欲しい物を売ってる場所で一番近いのはここってだけです」
「なるほどな。詮索はしない方が良いか?」
「してもいいよ?」
「何を買うんだ?」
「料理用品です!イナズマさんのお仲間さんが来た時にご馳走したいので!」
「そうか…あいつらが来る時が待ち遠しいな」
「はい!」
その時だった。デパート内に、危険を知らせるアラートが鳴り響いた。そして、デパートの中央には…明らかに人間ではない、人型の何かが立っていた。山羊のような角が目から生えており、肌には紫色と黒色の爬虫類の鱗のような物がびっしり着いていた。間違いなく分かる…あれは地球外生命体…今まで見た地球外生命体と比べても、圧倒的な存在感があった。そして、その人の近くには、もう息をしていないだろう、弱々しく床に倒れ込んでいる人々が居た。
「魅菜、今すぐに代われ…あれは、俺が本気で戦わないといけない相手だ」
「あれが何か知ってるの?」
「知ってるさ。地球の見方で言ってやる。δ(デルタ)星デネブ・アルゲディの、抹殺宇宙人だ」
「抹殺宇宙人?」
「あぁ…宇宙人の中でも、結構強い奴らだ。今まで何回か戦ってきたことがあった。その度に思い知らされたよ…こいつは、侮ったり手を抜いたりしたら、一瞬にして首を切ってくる奴だよ」




