第1話 「はじめのいっぽ」
綺麗な大自然だ…
ビルと人で埋め尽くされた東京とは全く違うな。
じゃあ元の世界と全く違うかと言われればそうではない。
むしろ立ち並ぶ木や流れる川、鳥の囀り。
ここが元の世界と言われても、まあ信じるだろう。
とはいえあの少年はなんでこんなところに1人でいたんだ?
見たところ周りには誰もいないが…。
まぁ、何はともあれまずは人と会うことからだな!
俺は川の流れに沿って、下流に向かって下り始めた。
しばらく歩くと、ちらほらとレンガ造りの建物が見え始めた。
「立派だなぁ。」
さらに進むとようやく都市内に入ったのか、先ほどまでの大自然とはまた違う、本やテレビで見た西洋の街並みに似た洒落た景色が周囲を覆い尽くす。
歩いている人もちらほらいるが、やはり見たところ日本人ではなさそうだ。
「はーい!いらっしゃいませ!」
「これとー、あとこれ、これも2つください。」
「はい!500ラペね!まいどありー!!」
聞こえてくる言語も明らかに日本語ではない。
聞いたことのない言語のようだが、脳内で瞬時に変換されて意味だけは伝わる。
なんとも不思議な感覚だ…。
コロコロコロ…。
「おーい!飛ばしすぎだよ!!」
「ごめんごめーん!!」
小学生くらいの子供たちが蹴って遊んでいたボールが俺の方へと転がってきた。
「仕方ない、拾ってやるか。」
そう思い手を差し伸べた次の瞬間だった。
──────遠隔操作【サイコキネシス】!!
「うわっぁっ!!!?」
ボールがいきなり宙に浮いたのだ。
詠唱のような言葉を放った男の子は、不思議そうな顔をして俺のことを見ている。
そして同時に、ボールは男の子の方へと宙を浮いて移動している。
「どうしたー?早く出せよー」
「ん?うん、分かってるよー!」
これが…少年が言っていた異能…ってやつか…?
見たところさっきの一連の行為を見て驚いていたのは俺だけ。
それどころか周りは俺のことを見て逆に不思議がっているようにすら見える。
つまりこの世界において異能は特別なんかじゃない。ごく普通の概念、当たり前ということか?
とりあえず異能という存在があることは分かった。
さっきの男の子は遠くにあるボールをなんらかの力で持ち上げて自分の方へ引き寄せた…。
創作物でしか見たことないぞ…こんなの。
ん。いや、待てよ…?
創作物…ラノベ…異世界……異能……????
つまり、異能×転生…
うわ!!最強で無双のお約束展開じゃねぇか!!!!
とはいえ異能の使い方もなにも知らないんじゃ意味がないな…。よし、こうなったらさっさと誰かに声をかけてハーレム作るぞーっ!!よっしゃ!!
…
…ん…まてよ、誰かに声をかける…?
いやいやいや…俺に出来るのか…!?そんなこと!
そもそも俺は現地の言語なんて話せないぞ?
人と話すこと自体が最高難易度だってのに…!あまりにも詰んでないか??
とはいえどっかの店の店員にならいきなり声をかけても不自然さはないか…。
とりあえず日本語しか話せないし日本語で試してみよう。
「あ、あ、あの…」
「はい、どうされました?」
……つ、伝わった!?
なるほど…なら第一の壁はクリアだ。
「え、っと…」
あれ?俺って何聞こうとしたんだっけ?
異能の使い方?
いや、いきなりそんなこと聞いてどうする!
こういうとき現世なら?
何を聞くんだ?世界について?
いやそれはそれでおかしくないか?
転生者ってバレるのでは?
いや、バレたらまずいなんてルールは?
でもなんとなく暗黙の了解とかなんとかあるよな??
「け、警察署ってどこにありますか!?」
おおおおおぉぉぉい!!!!!!
何を聞いてるんだ!いきなり警察署って!!
「けいさつ、しょ?というのは…?」
そりゃ異世界で警察なんてラノベヲタクの俺でも聞いたことないわ!!
いや、ならなんだ???
よく異世界もののラノベで見たのは…
「あ、えっと、ギルドです!ギルド!」
ギルド…!!
そうそう!異世界といえばこれだ!さあどうだ!?
「ギルドですね!ギルドならここを真っ直ぐ進んだ先を左に曲がると大きな建物がありますので!そちらを尋ねてみてください!」
あったぁ!!!!
でかした!でかしたぞ橘 黒夢!お前もやれるときはやれる男じゃないか!
母ちゃん以外の女性と話すのなんてもう何年振りか……ふっ…ちっとばかし緊張したぜ。
あれ、そういやさっき女神紛いの何かと話したような…。いや、あの謎個体を女性と呼ぶのは他の一般女性に失礼だな。
さて、とりあえず教えてもらった通り行ってみるか!何かこの世界のルールが分かるかもしれないしな。
そうして俺は教えてもらった通り、ギルドへと向かった。




