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かごめ封印  作者: 月音


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第17話 ーー 恐れを超えて ーー

【十二支堂】


神泉苑での戦いを終え――

桃矢とハクが十二支堂へ戻ると、店の外に人影が二つあった。


「……」


桃矢は、足を止めた。


薫と風花が、並んで立っている。

どちらも、眠っていたはずの時間だった。


「……やっぱり」


風花が、小さく息を吐く。


「先輩」


薫が一歩前に出る。

静かな声で、問いかけた。


「どこに行ってたんですか」


「……」


桃矢は、言葉に詰まった。


神泉苑での激闘。

全身に残る疲労と、胸の奥に収まった白虎の気配。


「部屋に戻ったと思ったら、窓が開いてて」


薫は、視線を逸らしたまま言う。


「ハクもいなくなってて……」


「嫌な気配が、街の方へ流れていくのが見えました」


風花が続けた。


「……神泉苑の方向です」


声には、不安が滲んでいた。


ハクが頭を掻く。


「鋭すぎだろ、お前ら……」


「ハクは黙っててください」


薫の声が、きっぱりと遮る。

普段の丁寧さの奥に、本気の感情が覗いていた。


桃矢は、息を吐く。


「……ごめん」


静かに、頭を下げる。


「実は――藤原の山から連れてきた白虎が……

完全には、馴染んでなくて」


薫の目が、見開かれた。


「白虎……って、あの……四神の……?」


「ああ」


桃矢は、誤魔化さなかった。


「俺を器にして、山から出てきたんだ」

「……さっき、完全に顕現した」


沈黙が落ちる。


「……もう、大丈夫ですか」


薫の声が、わずかに震えた。


「……ああ」


桃矢は頷く。


「だから、結さんのところへ行った」

「神泉苑で――ちゃんと、話をしてきた」


「……無事で、よかった……」


風花が、胸に手を当てる。


薫は俯いたまま、拳を握った。


「……先輩」


一度、唇を噛む。


「私、心配するの、嫌いじゃありません」

「でも――何も知らされないのは、怖いです」


桃矢は、言葉を失った。


「ああ……」


ゆっくりと頷く。


「……ごめん。次は、必ず」


薫は、まっすぐに見返す。


「……約束です」


 


ハクが、軽く息を吐いて笑う。


「ま、無事だったんだ。結果オーライだろ」


「結果じゃありません」


薫は、はっきり言った。


「ハクのことも、心配したんです」


一瞬、ハクが言葉に詰まる。


「……あー」


頭を掻き、照れたように言う。


「そりゃ、悪かったな」


「違うんです」

「二人を責めたいわけじゃなくて……」


声が、かすれる。


「私のせいで、何かあったらって……」


薫の目が潤んだ。


「薫のせいじゃない」


桃矢が、即座に言った。


「俺の判断だ。巻き込んだのは、俺だ」


「先輩……」


「でもな」


桃矢は、静かに続ける。


「白虎の力を借りられるのは、大きな一歩だ」

「……ちゃんと、向き合う」


 


――だが、その時。


桃矢の胸の奥で、ざわりと何かが動いた。


(……白虎?)


「……っ」


胸を押さえる。


「先輩!?」


薫が駆け寄る。


その瞬間、

影が、わずかに揺らいだ。


白い気配が、空気を研ぎ澄ます。

音のない風が、三人の髪を揺らした。


「……桃矢、制御出来ないのか」


ハクが、低く声を落とす。


「和解はした。だが――制御が追いついていない」


「すまない。俺の力不足だ」


「……気を抜けば、表に滲む」


桃矢は、深く息を整える。


薫と風花には、はっきりとは見えない。

だが――“何か”がいることだけは、伝わっていた。


「……今、ここに」


風花が、静かに言う。


「白虎が」


「察しがいいな」


白虎が、低く笑う。


「貴様の魂――どこか、覚えがある」


「……晴明か」


「ああ」


即答だった。


「人でありながら、理を越えた男だ」


白虎の声が、引き締まる。


「だからこそ――貴様を鍛える」

「力は、扱いを誤れば、守りたいものをも傷つける」


薫が、不安そうに桃矢を見る。


「……先輩」


「大丈夫だ」


桃矢は、微かに笑った。


「必ず、制御してみせる」


白虎が告げる。


「力に呑まれるな」

「力を、聞け」


「それが出来ねば――共存はない」


夜明け前の十二支堂に、

新たな緊張が満ちていった。



【修行の始まり】


中庭に、朝の気配が満ちる。


「……力を、借りる」


桃矢は、一度言葉を切った。


「……違うな」


「俺の力を――引き上げる手伝いをしてほしい」


白虎が、静かに応じる。


「よかろう」


「我は、力を与えぬ」

「貴様の持つものを、正しく引き出す」

「……それが、一番の近道だ」


視線が、薫へ向く。


「藤原の娘」


「……え? はい」


「その力は、封じたままで良いのか」


薫は、胸に手を当てた。


「……私に、力が?」


「まだ、気づいていないのか」

「繋ぎ、支える力だ」


桃矢が、薫を見る。


「……薫」

「良く考えろ。いいことばかりじゃない」


薫は少し考え、微笑んだ。


「でも……人の役に立てるなら、嬉しいです」

「守られるばかりは、辛いですから」


白虎が、頷く。


「ならば、目覚めは近い」


「それまでは――桃矢」

「貴様を、鍛える」


桃矢は、深く頭を下げた。


「……お願いします」


白虎の気配が、脈打つ。


「始めるぞ」


桃矢は、中庭の中央に立った。


目を閉じ、呼吸を整える。


(白虎……聞こえるか)


「聞こえている」


胸の奥から、低く澄んだ声。


「どうしたらいい」


「まず――感じろ」

「我の在処を」


意識を、内側へ。


胸の奥。

心臓の、さらに奥。


――そこに、ある。


白く、鋭く、しかし静かな存在。


「……見えた」


「ならば次だ」


「その在処へ――手を伸ばせ」


「恐れるな。拒むな」

「ただ――触れろ」


桃矢は、意識を伸ばす。


――瞬間。

全身に電流が走った。


「踏み込みが甘い」


「……っ」


「貴様は、恐れている」


図星だった。


「恐れは悪くない」

「だが――恐れたまま触れるな」


桃矢は、拳を握る。


(……もう一度)


「やらせてください」


白虎が、わずかに笑う。


「よかろう」


再び、意識を伸ばす。


――触れた瞬間。


視界が、白く染まった。


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