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かごめ封印  作者: 月音


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第14話 ーー 頭首、来た!」ーー

薫は、すぐに桃矢へ電話をかけた。


「桃矢先輩、おじいさまとの対話

無事に終わりました」


「どうだった」


「……伝わったかは、わかりませんけど。

 言いたいことは、言えました」


「そうか。良かったな」


「はい。私にとっても、藤原家にとっても……

 大きな一歩になりました」


「今日はゆっくり休め。

 また、落ち着いたら話してくれ」


「ありがとうございます」


通話を終えた薫は、

胸の奥に残るざわめきを、そっと押し込めた。




【次の日・十二支堂】


「先輩! 桃矢先輩、大変です!」


薫が、息を切らしながら店の扉を押し開けた。


「はぁ……はぁ……っ」


肩で息をし、そのまま店の中央まで駆け込む。


「どうしたんだ、薫」


ハクと風花が、驚いて振り向いた。


奥から、桃矢が姿を現す。


「先輩、すみません!

 ……昨日、おじいさまに……

 先輩の話をしたら……」


言葉が続かない。


薫は一度、大きく息を吸った。


「……さっき電話があって、会いたいって」


「これから十二支堂に来るって」


「そっか」


桃矢は、特に動じた様子もなく言った。


「何の用だろうな」


薫は思わず桃矢に背を向ける。


(どうしよう……

 藤原家の問題に、がっつり巻き込んだこと、

 言わなくちゃ……)


意を決して振り返る。


「……あの、桃矢先輩」


「ん?」


「実は……」


その声にかぶさるように、


カラン、コロン、カラン――


店の扉が開いた。


着物姿の若い男性が、一歩、店内に入る。


「失礼いたします」


低く、よく通る声。


 「星川様は、いらっしゃいますでしょうか

藤原家頭首・道雅様がお見えです。」


「はい。私が星川です」


若い男性は、店内を一瞥した。


「では、頭首の御座席の準備を!

 整い次第、お迎えいたします」


「……なんだか、物々しいなー」


ハクは、そう呟きながら、二階へ上がっていく。


風花は、何も言わず、いそいそと頭首の御座席を整え始めた。


十二支堂の空気が、ほんのわずかに――張り詰める。


【藤原道雅、登場/改訂版】


若い男性が先に入り、道を空ける。

その後ろから――ゆっくりと、一人の老人が現れた。


藤原道雅。


背筋はまっすぐ。

深い紺の着物。

整えられた白髪と、鋭い眼差し。


その存在が、店内の空気を一変させる。


桃矢は――その瞬間、背筋に冷たいものが走った。


(……強い)


霊力ではない。

それ以上の、何か。

千年を背負ってきた者の、重み。


道雅は、ゆっくりと店内を見回す。

風花が息を呑み、ハクが警戒するように尻尾を立てた。


そして――

道雅の視線が、桃矢で止まった。


「……星川桃矢君」


低く、静かな声。


「初めて、お目にかかる」


桃矢は一歩前に出て、頭を下げる。


「藤原家の御頭首。

お越しいただき、ありがとうございます」


道雅は答えず、ただ桃矢を見つめる。

値踏みするような視線。


長い沈黙。


やがて――

道雅が口を開く。


「……座ろう」


全員が席に着く。

空気は、張りつめたままだ。


道雅は、桃矢から目を離さず、ゆっくりと言った。


「率直に聞こう」


一拍、置く。


「君は――

 今の禍津日神の封印が、完全だと思っているか」


桃矢は即座に首を振った。


「いいえ」


迷いのない声だった。


「要石に依存した封印は、

 均衡が崩れた瞬間に破綻します」


道雅の目が、わずかに細くなる。


「……ほう」


そのまま、低く続けた。


「では聞こう」


「禍津日神の封印を――

 やり直すことについて、どう思う」


店内の空気が、さらに張りつめる。

風花が息を呑み、ハクの耳がぴんと立った。


桃矢は、視線を逸らさない。


「要石がなくても、

 禍津日神を封印する方法を、ずっと探しています」


道雅の声が、低く落ちる。


「お前は、その方法を知っているか?」


一瞬の間。


「……完全な方法は、まだわかりません」



道雅は淡々と続ける。

「藤原一門も――

 名を取り戻すために、同じことを考えている」


その言葉に、薫が小さく息を呑む。


「共にやらぬか」


誘いではない。

事実の提示だった。


桃矢は少し考えた素振りを見せてから答える。


「是非、お願いします」

「独学だけでは、限界がありますから」



その言葉に――道雅の表情が、ほんの一瞬だけ動いた。


「……ほう」


すぐに、鋭さが戻る。


「手を組む前に――」


少し間を置く。

桃矢が覚悟を示すのを、じっと待つ。


「お前の力を、試させてもらう」


桃矢は肩の力を抜いたまま言った。

「霊道を封鎖した時、済んだと思っていましたが…」


店内が、静まり返る。

風花が息を呑み、ハクの尾がわずかに揺れた。


「お前一人の力を、見せて欲しい」


道雅は淡々と告げる。


「藤原家には、霊力を引き上げるための“山”がある」


わずかに口角が上がる。


「そこで一週間、過ごしてみないか」


「結果次第では――

 この話は、なかったことになるが」


桃矢にはすぐにわかった、それがただの山ではないことを。


「分かりました!伺います」


「では、行くぞ」


道雅が、短く告げた。


「外に、お前の車を用意してある」


「……はい」


そのとき、ハクが一歩前に出る。


「おれも一緒に行かせろ」


道雅が、ちらりと視線を向ける。


「封印のとき、役に立つぞ」


一拍の沈黙。


「……猿一匹だけだぞ」


「上等だ」


ハクは、満足そうに尻尾を揺らした。


風花が奥へ下がり、手早く荷をまとめて戻ってくる。


「着替えです。

 山ですから、念のため」


「ありがとう」


桃矢は、素直に受け取った。


「風花さん、薫……

 店のこと、お願いします」


「はい。お気をつけて」


風花は、いつも通りの穏やかな声で答える。


薫は、少しだけ視線を伏せた。


「……すみません、先輩」


「気にするな」


桃矢は、軽く笑った。

「この展開は、願ったりだよ」


ハクも、すぐに反応するように尻尾を揺らした。


――――――――――


店の外。


黒塗りの車が二台、静かに停まっていた。


無言で開かれる後部座席。桃矢は、一度山の方角を見てから車に乗り込む。


扉が閉まる。


エンジン音が低く響き、車はゆっくりと走り出す。


桃矢は窓の外に目を向け、竹林を抜ける景色を眺める。


(――ついに、本格的な修行か。どんな山なのか、楽しみだな)


ハクは、車内で前足を揃え、落ち着かない様子で周囲を見回す。


「……ま、楽しみにしてるのはお前も同じか」


桃矢は小さく笑みを浮かべる。


(少し緊張するけど、やっぱりワクワクする。このチャンス、逃したくない)


車は山の入り口に到着し、黒塗りの車から降りる。


空気が一気に変わった。風が冷たく、霊気のような重みが肌に感じられる。


「……よし。まずはここからか」


桃矢は、深呼吸をして肩の力を抜き、案内される山道をゆっくりと歩き始めた。


ハクもすぐに後ろに続く。



【十二支堂・残された二人】


店に戻った薫と風花は、しばらく黙っていた。


「……風花さん」

「はい」

「先輩……大丈夫でしょうか」


風花は、優しく微笑んだ。

「桃矢様なら、大丈夫です」


「それに――」


風花は、窓の外を見る。


「ハク様も、一緒ですから」

薫は、少しだけ安心したように息を吐いた。


「……そうですね」

二人は、静かに店番を続けた。










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