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かごめ封印  作者: 月音


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第7話 ③ ーー深夜の祈り、夜明けの決意ーー

しばらく池を眺めていたが――

桃矢が、何か思い出したようにハッとした。


「舞鳳さんに会いに行ってくる!」


ハクが桃矢の肩に飛び乗ると、桃矢は晴明神社へ駆け出した。


風花が、ぼんやりとその姿を見つめた。


「風花様は、舞鳳と会うのは初めてなのでしょう」

結が、優しく微笑んだ。

「桃矢様にとって、舞鳳は特別な存在」

「風花様も早く、いってらっしゃい」


「私などが行って……お邪魔ではないでしょうか」

風花は、不安そうに言った。


「大丈夫ですよ」

結は、風花の背中を押した。

「舞鳳も、桃矢様も、きっと喜びます」


「……はい」

風花は、頷いた。

「では、行ってまいります」


結は、風花の背に深くお辞儀をした。

「今日は、本当にありがとうございました」


その時――

ゴォーーーン

鐘の音が、京都の夜空に響いた。


除夜の鐘。

百八つ、鳴り止むまで。


風花が晴明神社に着くと――

桃矢と舞鳳の、楽しそうな声が聞こえてきた。


「――だから、ハクが必死に怨霊を倒してさ」


「ハクは、桃矢に似てるな」

低く、落ち着いた男性の声。


風花が近づくと――

桃矢の隣に、一人の男性が立っていた。

――舞鳳。


風花に気づいた桃矢が、舞鳳に紹介する。

「あ、今話した風花さんだよ」


風花は――慌てて頭を下げた。

「初めまして風花と申しますよろしくお願い致します」

早口だった。


舞鳳は――少し驚いた顔をして、それから優しく微笑んだ。

「舞鳳だ。風花さん、桃矢をよろしく頼む」


「はい!」

風花は、また頭を下げた。


舞鳳が――クスッと笑った。

「舞鳳さん、風花さんに失礼だろ」


桃矢が、困ったように言った。

「いや、すまない」

舞鳳は、笑いながら言った。

「風花さん、随分と早口だから、つい」


「すみません」

風花は、真っ赤になって俯いた。

「貴重なお時間なのでつい……」


「ほらな」

舞鳳が、桃矢を見て笑った。

桃矢と舞鳳は――目を見合わせて、笑った。



その間も――

ゴォーーン、ゴォーーン

鐘の音が、響いている。


風花も――二人を見て、微笑んだ。

温かい時間。

短いけれど、大切な時間。


そして――

最後の鐘の音が、鳴り止んだ。

舞鳳の姿が――少しずつ、薄くなっていく。


「またな、桃矢」

「はい」

桃矢は、手を振った。


「風花さんもまたな」

「はい!」

風花も、手を振った。


舞鳳は――穏やかに微笑んで。

消えていった。



【十二支堂】


店に戻ると薫が待っていた。

「桃矢先輩、ハク、風花さん、お帰りなさい」

薫が嬉しそうに駆け寄った。


「ただいま、薫」

桃矢はいつも通りの顔で笑った。

「無事に封鎖できたよ」


「知ってます、この街が無事ですから」

薫はハクの頭を撫でながら

「良かった」

と、心底嬉しそうな顔をした。


薫は風花を見た。

「風花さんもお疲れさまでした」


「ん?ーーちょっと待って

私、風花さんが見える!」


ハクと桃矢が交互に2人を見つめた。

「風花さんの霊力が上がったからだと思う」


「なっ、ハク」

「あぁ、霊道が封鎖出来たのも風花の力が大きかったしな」


「その話は後でゆっくりするから…」

「その前に何か食わせてくれー」


「はいはい、そうだろうと思って用意しときましたよ」

薫が台所から天ざるを運ぶ。


「おー!海老の天麩羅じゃないか」

「大好物だ」

ハクが嬉しそうに跳ねた。


「風花さんの分もあるんですけど……食べられますか」


「私の分まで…」


「大晦日は過ぎちゃったけど、一緒に厄を落としましょう」


「身を清めて、初詣です」


「私、食べてみたいです…食べられる気がします」

「いえ、いただきます!」


風花が箸を持ち、蕎麦を口に運んだ。


そっと、蕎麦をすする音がした――


「……!」


風花の目が、見開かれた。

「美味しい!」


涙が、溢れた。

七百年ぶりの、味。


温かくて、優しくて――

生きている証のような、味。


「よかった……」

薫も、涙を浮かべて笑った。


桃矢とハクは――その光景を、温かく見守っていた。


「風花さん」

桃矢が、優しく声をかけた。

「もっと食べて。たくさんあるから」


「はい……」

風花は、涙を拭いながら――また、蕎麦を口に運んだ。

一口、一口。

七百年分の、想いを噛みしめるように。


蕎麦を食べ終えると――

薫が、立ち上がった。


「せっかくの元旦ですし」

薫は、嬉しそうに言った。

「初詣に行きませんか?」


「初詣……」

風花は、目を輝かせた。

「行ってみたいです!」


桃矢は――少し考えて、頷いた。

「じゃあ、晴明神社に行こう」


「晴明神社、行きましょう!」

薫が嬉しそうに言った。


「私も次回は、舞鳳さんに会いたいです」


「ああ、そうだな」

桃矢は、微笑んだ。


「それに――」

桃矢の目が、少し真剣になる。

「神泉苑にも寄って、結さんに新年の挨拶をしたい」


「結様に……」

風花が、嬉しそうに頷いた。

「私も、お礼を言いたいです」


「よし、じゃあ行くか」

ハクが、桃矢の肩に飛び乗った。



【深夜の京都】


四人は――静かな京都の街を歩いた。


大晦日の喧騒は去り――

元旦の静けさが、街を包んでいる。


「静かですね」

薫が、小さく呟いた。


「ああ」

桃矢は、空を見上げた。


星が、瞬いている。

風花は――京都の街を、じっと見つめていた。


「七百年……」

風花の声が、小さく震える。

「この街で、ずっと一人でした」


「でも――」

風花は、桃矢を、ハクを、薫を見た。


「今は、違います」

「一緒に歩いてくれる人が、いる」

「それが、こんなに心地が良いなんて…」


薫は――風花の方を向いて、微笑んだ。

「風花さん」


「はい」


「これから、ずっと一緒にいてくださいね」


風花は――涙を浮かべて、頷いた。



【晴明神社】


晴明神社に着くと――

境内は、静かだった。


深夜参りの人は、まばら。


「さっき、舞鳳さんがいた場所だ」


桃矢が、境内を見回した。


風花は――手を合わせた。


七百年ぶりの、初詣。


「何をお願いしたの?」

桃矢が、優しく聞いた。


「……内緒です」

風花は、照れたように笑った。


「でも――」

風花は、桃矢を見た。

「とても、幸せなお願いでした」


桃矢は――微笑んだ。

薫も、手を合わせた。


ハクも、小さく頭を下げた。

静かな、でも温かい時間。


「さて」

桃矢は、時計を見た。

「神泉苑に行こう」


「結さんに、新年の挨拶を」


四人は――晴明神社を後にした。

神泉苑へと、向かう。



【神泉苑】


神泉苑に着くと――

池のほとりに、結が立っていた。

まるで、待っていたかのように。


「桃矢様」

結は、振り返って微笑んだ。


「明けまして、おめでとうございます」


「おめでとうございます、結さん」

桃矢は、頭を下げた。

「今年も、よろしくお願いします」


「こちらこそ」

結は、優しく微笑んだ。


そして――結の視線が、薫に向いた。

「……この方は?」


「俺の後輩です」

桃矢は、薫を紹介した。


「藤原 薫。十二支堂を、よく手伝ってくれているんです」


「初めまして」

薫は、丁寧に頭を下げた。

「藤原 薫と申します」



結は――じっと、薫を見つめた。

その目が――少し、鋭くなる。


桃矢は――その様子を、じっと観察していた。

(結さん……何か、感じるか?)


桃矢の心の中に――疑問が渦巻く。

薫の家系が、陰陽師だということ。

霊道を開いた者がいるということ。


そして――

風花の思い人が、呼ばれたということ。


それは、風花のことを知る者でなければ、できない。

薫は、風花のことを知っている。


でも――

(薫が、やったとは思えない)

(薫には、霊が見えなかったはずだ)

(となると……)


桃矢の脳裏に――一つの名前が浮かんだ。

薫の、祖父。


でも――

(なぜ、霊道を開ける?)

(なぜ、薫の祖父が風花のことを知っているんだ?)


桃矢は――混乱していた。

疑いたくない。


でも、疑わざるを得ない。


「薫様」

結が、口を開いた。


「あなた――」

結の目が、真剣になる。

「陰陽師の、血を引いていますね」


薫は――驚いた顔をした。

「え……」

「どうして、それを……」


結は――静かに微笑んだ。

「私には、わかります」


「あなたの中に、眠っている力が」

「強い霊力の、血筋」


薫は――俯いた。

「……はい」

「実家は、代々陰陽師の家系です」


「でも――」

薫は、自分の手を見た。


「残念ながら私には、力がありません」

「霊も、見えません」

「今日、初めて風花さんが見えるようになったくらいで」


結は――薫の手を取った。


「いいえ」

結の声が、優しくなる。

「あなたには、力があります」

「ただ、眠っているだけ」

「いつか、目覚める時が来るでしょう」


薫は――結を見上げた。

「……本当ですか?」


「ええ」

結は、頷いた。


桃矢は――その会話を、じっと聞いていた。


薫の反応。

何も隠している様子はない。


純粋に、驚いている。

(薫は……知らないんだ)

桃矢は――確信した。


薫は、霊道のことを知らない。


でも――

(薫の家族が、関わっている可能性は……)


桃矢の心に――重い影が落ちた。


「結様」

風花が、前に出た。

「今日は、本当にありがとうございました」


「いいえ」

結は、風花を見て微笑んだ。

「風花様こそ、素晴らしかった」


「これからも――」

結は、四人を見回した。

「どうか、お幸せに」


「はい」

四人は――頭を下げた。


神泉苑を後にして――

十二支堂へと、帰る道。


桃矢は――黙って歩いていた。


「先輩?」

薫が、心配そうに声をかけた。

「大丈夫ですか?」


「ああ」

桃矢は、無理に笑顔を作った。

「ちょっと、疲れただけだ」


薫は――少し不安そうに、桃矢を見つめた。



【十二支堂・元旦の明け方】


店に戻ると――

薫は、あくびをした。


「そろそろ、帰りますね」


「ああ、気をつけて」

桃矢は、玄関まで薫を見送った。


「先輩」

薫は、振り返った。

「今年も、よろしくお願いします」


「こちらこそ」

桃矢は――薫の頭を、軽く撫でた。

「ありがとう、薫」


薫は――嬉しそうに笑って、帰っていった。


桃矢は――その背中を、じっと見つめていた。


そして――

扉を閉めた。



【桃矢の部屋・明け方】


桃矢は――一人、部屋で考えていた。


霊道を、開いた者。


薫の家系が、陰陽師だということ。


風花の思い人が、呼ばれたこと。


全てが――繋がっているような、いないような。


「……調べないと」

桃矢は、立ち上がった。


「薫の家のこと」

「もっと、詳しく」

桃矢は――地下室へと、向かった。


古い資料を、探すために。


そして――

明日、結そんに相談しよう。


薫の家系について。


安倍晴明との繋がりについて。


桃矢の心は――重かった。


でも――

真実を、知らなければならない。


窓の外――

空が、少しずつ明るくなり始めていた。



新しい年の始まり。


それは同時に、

真実を探す年の始まりでもあった。



【翌日 ― 神泉苑】


冬の朝の光が、神泉苑の池に淡く揺れていた。

昨日の騒ぎが嘘のように、静かな水面。

桃矢は、池を前に立っていた。


「……やはり、来られましたか」

背後から、結の声がした。


振り返ると、

結がいつもの場所に、穏やかに立っている。


「おはようございます、結さん」

桃矢は、軽く頭を下げた。


「昨夜のこと……」

「少し、気になりまして」


結は、何も言わずに池を見つめた。


しばらくして、静かに口を開く。

「“気になる”という感覚は」

「陰の世界では、とても大切なものです」


風が吹き、

池の水面が、かすかに波立った。


「薫様のことですね」

結は、振り返らずに言った。


桃矢は、答えなかった。


だが、その沈黙が、肯定だった。

「薫さんの家系について……」


桃矢は、慎重に言葉を選んだ。

「何か、ご存知ですか」


結は――ほんの一瞬、目を伏せた。


「……遠い昔」

結の声が、少し遠くなる。


「まがつひを封印した時」

「晴明様に、力を貸してくださった陰陽師がおりました」


桃矢は、息を呑んだ。


「藤原一門」

結は、静かに続けた。


「代々、強い霊力を持つ一族」

「京の陰陽道を、支えてきた名家です」


「薫さんは……」


桃矢の声が、震えた。


「その、藤原一門の……」


結は、頷いた。


桃矢の頭の中で――

全てが、繋がり始めた。

藤原一門。

強い霊力を持つ家系。


そして――

「今は、まだ」

結は、桃矢を見た。

「知らぬ方がよいことも、あります」


桃矢の胸が、少しだけざわつく。


「……それでも」

桃矢は、低く言った。

「知るべき時は、来ますか」


結は、桃矢を見た。

その目は、いつになく真剣だった。

「ええ」

「必ず」

「ただし――」

結は、言葉を区切る。


「その時は」

「選ばねばなりません」


「何を、ですか」

桃矢が問う。


結は、答えなかった。


代わりに、池に視線を戻す。


「今年は」

結は、淡く微笑んだ。

「“縁”が、動きやすい年です」


それだけを告げて、

それ以上は、何も語らなかった。


桃矢は、それ以上聞かなかった。


聞かない、という選択もまた――

守るための覚悟だと、知っていたから。


「ありがとうございました」

桃矢は、深く頭を下げた。


結は、静かに頷いた。


「どうか」

「大切な方々を、お守りください」


神泉苑を離れる時、

桃矢は一度だけ、池を振り返った。


水面には――

空と、木々と、何もない静けさだけが映っている。


だが、その奥に

“何か”が沈んでいることだけは、確かだった。


桃矢は、何も言わずに歩き出した。




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