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かごめ封印  作者: 月音


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20/33

第7話 ① ーー年の瀬、神泉苑の異変ーー

今年もよろしくお願いします!


年越しのお話を今頃投稿…季節外れですが、

どうぞ温かい目で読んでいただけたら嬉しいです

【12月30日・朝】


「主、今年ももう終わりだな」


ハクが、店内を飛び回りながら埃を払っている。

「ああ、そうだな」

桃矢は、店の大掃除をしながら答える。


「風花さん、そっちの棚終わった?」


「はい、桃矢様」


「ありがとう風花さん、おかげで棚掃除は全部終わったよ」


風花が、本棚の隅から顔を出した。


「はい、ご苦労さまでした」


風花は休まず床掃除を始めた、その手つきには、七百年の時を経ても変わらない、花街で培った所作の美しさがあった。


「この時期の京都は、独特の雰囲気がありますね」

風花は、窓の外を見た。

師走の空気。

人々が慌ただしく行き交う、年の瀬の京都。


「ああ、みんな忙しそうだな」


桃矢も外を眺めながら、ふと口元を緩めた。

「俺、京都で迎える年越しが好きなんだ」

桃矢の声が、少し遠くなる。


「除夜の鐘が鳴り始めてから鳴り終わるまでの間だけ――」

「十二妖の一人、舞鳳と会って話すことができるんだよ」


「舞鳳様と……」


「ああ」

桃矢の表情が、ふと柔らかくなる。


懐かしむような、でもどこか切ないような。


「一年に一度だけ」

「でも――」

桃矢は、微笑んだ。


「だからこそ、大切な時間なんだ」


「今年は家族が増えたから」

桃矢は、ハクと風花を見た。


「舞鳳にも紹介したいな」

「賑やかな正月になりそうだ」


風花の目が――

優しくなった。


桃矢様には、大切な人がいる。

一年に一度しか会えない、特別な人。


「……素敵ですね」

風花は、小さく呟いた。


「今年は、私もこちらで年を越せるんですね」


桃矢は――

その言葉に、少し胸が温かくなった。

「ああ」


「一緒に、年を越そう」


その時――

カランと、店の扉が開いた。


冬の冷たい空気と一緒に、明るい声が飛び込んでくる。

「桃矢先輩、おはようございます!」

薫だった。


頬を赤くして、息を弾ませながら――

手には大きな紙袋を抱えている。


「薫。それ、何?」

「お正月飾りです!」

薫は、嬉しそうに紙袋を開けた。

「しめ縄に、門松に、鏡餅!」

「昨日、実家からもらって来たんです」


一つ一つ取り出しながら、薫は笑顔で続ける。

「せっかくだから、十二支堂もお正月らしくしましょうよ!」


「……ありがとう、薫」

桃矢の声が、少し温かくなった。


「いえいえ」

薫は笑顔で手を振った。


「あ、それと――」

薫は、バッグの中からもう一つ、小さな袋を取り出した。


「風花さんにも、お正月のお供え、用意してきました」


桃矢は――

薫の優しさに、胸がいっぱいになった。

「薫には、見えないのに…ありがとう」


「雰囲気でわかりますから」

薫は、少し照れたように笑って――


店の奥に向かって、丁寧に言った。

「風花さん、いらっしゃるんですよね?」


風花は――

薫の姿を見つめていた。

自分を思ってくれる人がいる。

目が合わないのに。

声も届かないのに。


それなのに――

その暖かい思いに涙が溢れた。


「……はい!」

風花は、震える声で答えた。


「います、薫様ありがとうございます」


桃矢が、優しく風花の言葉を伝える。

「風花さん、とても喜んでるよ」



【正午】

三人とハクは、店の飾り付けを始めた。

桃矢が門松を、玄関の両脇に据える。

薫がしめ縄を、丁寧に飾っていく。


風花が――霊力で、鏡餅をそっと整える。

見えない手が、静かに橙を乗せ、三方を正面に向ける。


「おお、風花、器用だな」

ハクが感心した。


「大昔、習ったのを思い出しました」

風花は、少し照れたように笑った。


飾り付けが終わると――

三人は、一息ついた。

「綺麗になりましたね」

薫が、店を見回して微笑む。


「ああ」

桃矢が、頷いた。

「これで、いい年が迎えられそうだ」


その時――

ジリリリリ――

黒電話が、鳴った。


桃矢は、受話器を取った。

「はい、十二支堂です」


『桃矢様ですか――私です』

女性の声だった。


落ち着いていて、どこか神秘的な響き。


桃矢の顔が、ぱっと明るくなった。

「結さん!」


桃矢は、嬉しそうに声のトーンを上げた。

「お久しぶりです。元気でしたか」


『ええ、おかげさまで』

結の声が、少し和らぐ。


桃矢は、少し笑った。

「結さんこそ、いつも忙しそうですね」


『相変わらず、賑やかです』

結は、ふっと息をついた。


『近所の方が――“龍神様、龍神様”と、毎日のように訪ねてまいります』


「それだけ、慕われてるってことですよ」


『それなら嬉しいです』

結は、少し照れたように言った。


ですがーー、

すぐに、声のトーンが変わった。


空気が、張り詰める。


『実は――桃矢様、気になることがございます』


桃矢は――

姿勢を正した。

結がこういう口調の時は、何か重要な話がある。


「何があったんですか?」

結の声が、真剣になる。


『今年の神泉苑の霊道――少し、様子がおかしいのです』

「霊道が?」

『ええ』


結は、少し間を置いた。


『いつもより、霊気が強いのです』


『このままだと――年越しの夜、大きく開く可能性がございます』


結の声が、さらに低くなる。


『三十一日は特別な時間』

『あの世とこの世の境が薄くなり――』

『空間が、大きく歪みやすいのです』


桃矢は――

窓の外を見た。

神泉苑の方角。

確かに、この数日――

あの辺りの霊気が、濃くなっている気がしていた。


「わかりました」

桃矢は、即答した。

「もちろん、お手伝いします」


『申し訳ありませんが、よろしくお願いします』

結の声が、少し柔らかくなった。


安堵が、滲んでいる。

『本当は、一人で何とかしたかったのですが』


「何でも相談してくれた方が嬉しいです」

桃矢は、優しく言った。

「俺たち、仲間でしょう?」


結は――

少し沈黙した後。

『……ありがとうございます、桃矢様』


その声には――

確かな、感謝があった。

『では――明日の夜、神泉苑で』

『大晦日の、午後十一時にお待ちしております』


「わかりました」


『それと――』

結は、少し躊躇うように言った。


『ハク様と……風花様も、一緒に来て頂けますか』


「風花さんを?」

桃矢は、少し驚いた顔をした。


『ええ』

結の声が、真剣になる。


『神泉苑の霊道を完全に封じるには――』

『四方からの封印が必要です』

『風花様ほどの霊力があれば』

『四方から封じることができるはずです』


「なるほど……」

桃矢は、風花を見た。


風花は――

不安そうな顔で、こちらを見ている。


「わかりました」

「風花さんにも、話してみます」


『お願いします』


結の声が――

少し、小さくなった。

『……気になることもございますので』


「気になること、ですか?」

桃矢は、眉をひそめた。


『それはまだ……確かではございませんので……』

結には珍しく、歯切れが悪い。


何か――

言いづらいことがあるのか。


『では……明日、お待ちしております』


電話が、切れた。


「主……」

ハクが、桃矢の肩で言った。


「聞いてたぞ」


「ああ」

桃矢は、受話器を置いて――

風花の方を向いた。


「風花さん」


「はい……」

風花は、少し緊張した顔で答えた。


「明日の夜――」

桃矢は、風花の目を見た。

真っ直ぐに。

「結さんと一緒に、神泉苑の霊道を封じるのを手伝ってほしい」


風花は――

目を丸くした。

「私が……ですか?」


「ああ」


「でも……」

風花は、自分の手を見た。


震えている。

「私なんかで、役に立てるでしょうか」


「大丈夫だよ」

桃矢は、優しく言った。


「風花さんには、強い霊力がある」


桃矢は、風花の肩に手を置いた。


「風花さんはまだ気づいていないかもしれないけど――霊力が強いんだ」

「元々なのか、七百年の間に宿ったものなのかは分からない」


桃矢の目が、温かくなる。

「その力を、貸してくれませんか」


風花は――

桃矢の目を見た。

優しく、強い目。

信じてくれている目。


「……はい」

風花は、小さく頷いた。


「頑張ります」


「ありがとう」


ハクが、尻尾を揺らした。

「じゃあ、明日は四人で頑張ろう!」


薫は――

三人のやり取りを見ていた。


少し、寂しそうに。


でも――

笑顔で。

「先輩たち、頑張ってくださいね」


「薫も――」

桃矢は、薫の方を向いた。


「いや、薫は」


「ここで、待っててくれるか」


「薫を危険な場所につれて行きたくないんだ、わかってくれ」


「もちろんです」

薫は、力強く頷いた。

「無事に帰ってくるまで、ちゃんと待ってます!」


その目には、涙が滲んでいた。

薫は――

必死に、涙を堪えている。

そして――

精一杯の笑顔を、見せた。


桃矢は――

そんな薫の頭を、軽く撫でた。


「ありがとう」


「必ず、帰ってくるから」


薫は――

もう、言葉にならなかった。



【12月30日・夜】


店を閉めた後、桃矢は風花と二階の居間で向かい合っていた。

「風花さん」


「はい」

風花は、緊張した顔で桃矢を見ている。


「明日のこと、不安?」

桃矢の問いに、風花は少し俯いた。


「……はい」

「私、こんなに大事なことに関わるの、初めてで」

「もし失敗したら、って思うと……」

風花の声が、小さくなっていく。


「風花さんは、十分強いよ」

桃矢は、まっすぐに風花を見つめた。


「七百年、この京都で一途に想い続けてきたんだから」

桃矢は、風花の目を見つめた。

「その想いは、本物だ。それが風花さんの力になる」


風花は――

桃矢の言葉を、じっと受け止めていた。


やがて、小さく頷く。

「……はい」


その顔には――不安だけではない、何かが浮かんでいた。

「ありがとうございます、桃矢様」


桃矢は、立ち上がりかけて――ふと、足を止めた。

「風花さん」


「はい」

「俺も、ハクも、結も――みんな、そばにいるから」


風花は、その言葉に目を見開いた。

そして――ゆっくりと、微笑んだ。

「……はい」


ハクが、二人の間に飛び込んできた。

「よーし、じゃあ明日はみんなで頑張るぞ!」


「ああ」

桃矢は、ハクの頭を撫でた。


「みんなで、京都を守ろう」


窓の外――星が、静かに瞬いていた。


明日の大晦日。神泉苑で、何かが起ころうとしている。


「さて」

桃矢は、立ち上がった。

「明日に備えて、早く寝るか」


「はい」

風花が、微笑んだ。

「おやすみなさい、桃矢様」


「おやすみ、風花さん」


桃矢は、明日の準備のために地下室へと向かった。

封印の札を作り、ハクが霊力を溜める。

二人の作業は、深夜まで続いた。


そして――大晦日が、やってくる。



【12月31日・午後9時30分】


大晦日の夜。


霊気が急に強くなった。


「もう行った方が良さそうだ……」

「はい」

「ああ」

桃矢とハク、そして風花は、十二支堂を出た。


「いってらっしゃい!」

薫が、店の前で手を振っている。

「必ず、無事に帰ってきてくださいね!」


桃矢は、振り返って微笑んだ。

「薫、店を頼むぞ」


三人は――夜の京都を走った。

神泉苑へ。結のところへ。そして、霊道封鎖へ。


神泉苑は、静けさに包まれていた。


池のほとりに――一人の女性が立っていた。


長く艶やかな黒髪。透き通るような肌に、七色に煌めく着物。

月明かりに照らされて、その姿はまるで幻のよう。


「結さん」

桃矢が、声をかけた。


結は、振り返った。

「桃矢様」

結の顔が、柔らかくなる。


「様子は?」

桃矢は、結に歩み寄った。


「はい、少し早まるようです」

結は池の中心を見つめた。


「やはり…そう思って、早く来ました」


桃矢も池を見た。水面が、微かに揺れている。

結は、まだ異変がないことを確認すると、ハクを見て微笑んだ。

「ハク様、お久しぶりです。元気でしたか」


「ああ、まあな」

ハクは、少し照れたように尻尾を揺らした。

「結こそ、相変わらず綺麗だな」


「まあ、ハク様、お上手になられましたね」

結は少し笑った。


そして――結の視線が、風花に向いた。

「……あなたが、風花様ですね」


風花は――結の美しさと、その佇まいに圧倒されていた。


「は、はい……!」


風花は、慌てて頭を下げた。

「風花と申します」


「初めまして、風花様」

結は、優しく微笑んだ。


「私は、結と申します。神泉苑に住む、辰の妖です」

「近所の者たちからは――」

結は、少し照れたように言った。

「“龍神様”などと呼ばれておりますが、気になさらず、結と呼んでくださいませ」


風花は――結の優しさに、少しほっとした。

「結様……」


「桃矢様から、風花様のことは伺っています」


結は、風花の手に自分の手を重ねた。


「七百年――」

結の目が、優しくなる。


「よく、耐えられましたね」

風花の目から、涙が零れた。


「……結様」


「でも、もう大丈夫」

結は、風花の手を握った。


「あなたには、帰る場所がある」


風花は――涙を拭って、頷いた。

「はい……ありがとうございます」



「さて」

結は、池の方を向いた。


「そろそろ、時間のようです」

結の表情が、真剣になる。


「皆様、配置につきましょう」

結は、池の周りを指差した。


「桃矢様は、東を」

「ハク様は、西を」

「風花様は、南を」

「そして私は、北を」

「四方から、霊道を封じます」


四人は――それぞれの位置についた。池を囲むように。


「まもなく――」


結の声が、響く。

「霊道が、開きます」


「皆様、気を引き締めて」


桃矢は――札を手に、池を見つめた。

風花は――自分の位置で、両手を合わせた。

ハクは――霊力を全身に纏った。

結は――静かに、池に向かって手を伸ばした。


すると――

池の中心が、ボコボコと泡立った。



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