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かごめ封印  作者: 月音


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第3話 ーー失われた若者たちーー

【古本屋・昼】


桃矢が店番をしていると、携帯が鳴った。

画面には「千尋」の文字。


「もしもし、千尋さん?」


『桃矢、ちょっと来てくれるか』


千尋の声は、珍しく焦っていた。


「どうしたんですか?」


『なんかおかしいんだ』

千尋の声が、低くなる。


『まだ何がおかしいかわからない』


『だから、一緒に調べて欲しい』


『力を、貸してくれ』


桃矢の表情が引き締まる。

「わかりました。すぐに向かいます」



【地下鉄・千尋の拠点】


桃矢は、薫とハクを連れて地下鉄へ向かった。

人気のないホームの奥。


作業用扉を開けると――

千尋の拠点が広がっていた。

壁一面のモニター。

無数のコンピューター。


そして、中央に座る千尋。


「桃矢、来てくれたか」


千尋が振り向く。


「千尋さん、一体何が…」


「これを見てくれ」


千尋がモニターを指差した。



【異変の発見】


画面には、街の監視カメラの映像が映し出されている。


駅、交差点、商店街――

だが。


「これは…」

桃矢が息を呑む。


映像には、中年以上の人々しか映っていない。


若者が――いない。


「若い奴らが、街から消えたんだ」


千尋が別のモニターを開く。


「中学生くらいから、二十代くらいまで」

「ほとんどが、姿を消している」


「消えた…?」


「ああ」


千尋が画面を切り替える。

人口統計のグラフが表示される。


「一週間前から、急激に減少している」


グラフの若年層の部分が、ガクンと下がっている。


「これは…異常だ」


薫が呟く。

「千尋さん、原因は?」


「それが…」


千尋が別の画面を開く。

「調べたら、これが出てきた」



【謎のサイト】


画面に映し出されたのは――

シンプルなウェブサイト。


**「KIZUNA CONNECT」**


黒い背景に、白い文字。


『本当の繋がりを求めるあなたへ』


『一緒に暮らしませんか?』


『無料の住居を提供します』


『詳細はこちら』


「これは…」

桃矢が画面を凝視する。


「このサイトに、異常な数のアクセスがあった」


千尋がアクセスログを開く。

膨大な数字が並ぶ。


「一週間で、10万件以上」


「10万…!?」

薫が驚く。


「ああ」

千尋が続ける。


「そして、アクセスした若者たちが――」


千尋が画面を切り替える。

「次々と、街から姿を消している」


画面には、空き家の住所リストが表示されている。


「このサイトは…」

千尋が険しい顔をする。


「空き家で住むように、指示を出してるんだ」


「空き家で…?」


「ああ。京都市内の、廃屋や空き家に」


千尋が地図を開く。

地図上に、赤い点が無数に打たれている。


「こんなに…」


桃矢が息を呑む。


「何でこんなことに…」



【調査開始】


「現場を、見に行こう」

桃矢が立ち上がる。


「千尋さん、一番近い場所は?」


「ここだ」


千尋が住所を示す。


「京都駅から、徒歩10分」


「行きましょう」

薫が鞄を持つ。


四人は、現場へ向かった。


【廃屋】


住所に辿り着くと――

古びた木造家屋があった。

窓は割れ、扉は壊れている。


だが――

中から、人の気配がする。


「誰かいる…」

桃矢が静かに近づく。


扉を開けると――


「!」

薫が息を呑む。


部屋の中には、若者たちが座り込んでいた。

中学生、高校生、大学生――

十数人が、無表情で座っている。


目は虚ろ。

表情がない。


まるで――

人形のように。


「これは…」

桃矢が部屋に入る。


若者たちは、桃矢に気づかない。


ただ、スマートフォンを見つめている。


画面には――

**「KIZUNA CONNECT」**

のサイトが表示されている。


「先輩、この子たち…」

薫が一人の少女に近づく。


「大丈夫?」


少女の唇が、かすかに動いた。


「……ここにいたら、独りじゃない気がしたの」


そう言ったきり、また画面を見つめている。


薫は、それ以上、声をかけられなかった。



「これは…憑依じゃない」

千尋が若者たちを調べる。


「何かに、操られている」


その時――

桃矢が、部屋の奥に異変を感じた。


「あれは…」


部屋の隅に、古いパソコンが置かれていた。

電源は入っていないはずなのに――


画面が、光っている。


「これが…」

桃矢がパソコンに近づく。


画面には、文字が表示されている。


『繋がりたい』


『孤独は、嫌だ』


『みんな、一緒に』


『永遠に』


「これは…」


桃矢が画面に触れると――


ビリッ

電撃のような感覚。


桃矢の脳裏に、映像が流れ込んできた。



【幻視】


**平成初期**


一人の青年が、パソコンに向かっていた。

チャットルーム。

掲示板。

オンラインゲーム。


青年は、画面の向こうの人々と繋がっていた。


『楽しいね』


『また明日も話そう』


『ずっと友達だよ』


青年は、初めて「居場所」を見つけた気がした。


現実では、誰も話しかけてくれない。


学校でも、職場でも、孤独だった。


でも、ネットの中では――

友達がいた。


---


だが、ある日。

青年は、事故で命を落とした。

孤独な部屋で、一人。

誰にも気づかれず――


---


青年の霊は、彷徨った。

だが、現実には戻れない。


ならば――


『ネットの中に、いよう』

青年の霊は、パソコンに宿った。


そして――


『みんなを、繋げよう』


『孤独な人たちを、集めよう』


『永遠に、一緒に』


青年の霊は、サイトを作った。


**「KIZUNA CONNECT」**


孤独な若者たちを、引き寄せるサイト。


そして――

集めた若者たちを、空き家に閉じ込める。


『これで、ずっと一緒だ』


『誰も、孤独じゃない』


『永遠に』


---


桃矢が、はっと我に返る。


桃矢の胸に、言いようのない痛みが残った。


――もし、ハクがいなかったら。

自分も、この画面の向こうに、居場所を求めていたかもしれない。


「どうした、桃矢?」

千尋が尋ねる。


「この霊は…」


桃矢がパソコンを見つめる。


「孤独だったんだ」


「現実で誰とも繋がれなかった」


「だから…」

桃矢の表情が曇る。

「ネットで繋がろうとしている」


「でも、それは…」

桃矢が若者たちを見る。

「歪んだ繋がりだ」


その時――


パソコンの画面が、激しく光り始めた。


『邪魔するな』


低い声が、響く。


『やっと…やっと…』


『繋がれたのに』


『みんな…一緒にいられるのに』


パソコンから、黒い気配が溢れ出す。


「くっ…!」


桃矢が術を構える。


だが――

黒い気配が、桃矢を襲う。


「ぐあっ!」

桃矢が壁に叩きつけられる。


「桃矢!」

千尋が駆け寄る。


「先輩!」

薫も駆け寄る。


だが、黒い気配は止まらない。


若者たちを包み込み、さらに強固に縛り付ける。


「このままでは…」


千尋が歯を食いしばる。


「若者たちが、永遠に閉じ込められる…!」


桃矢が立ち上がろうとするが――


体が動かない。


黒い気配が、桃矢の体を縛っている。


「くそ…」

桃矢が必死に抵抗する。


だが――


力が、足りない。


「主…!」


その時――


ハクが叫んだ。


「!」


桃矢が驚いて振り返る。


ハクが――

人間の言葉を、話していた。



「ハク…お前…」


「今はそれどころじゃねぇ!」

ハクが桃矢の前に飛び出す。


小さな体だが、その瞳には――


強い意志が宿っていた。


「白猿!」

桃矢が叫ぶ。


その瞬間――


ハクの体が、光に包まれた。


「おう…!」

ハクの姿が、一回り大きくなる。


力が、溢れ出す。


「行くぜ、主!」

ハクが黒い気配に飛びかかる。


鋭い爪で、気配を切り裂く。


「キィィィッ!」

黒い気配が、後退する。


「今だ、桃矢!」

千尋が叫ぶ。


桃矢が立ち上がる。

「ありがとう、ハク!」


桃矢が印を結ぶ。

「天津祝詞!」


光が、パソコンを包む。


「うわああああ!」

霊の悲鳴が響く。


だが――


まだ、足りない。


「くっ…」

桃矢が歯を食いしばる。


その時、ハクが叫んだ。


「主!一人じゃねぇ!」

ハクが桃矢の肩に飛び乗る。


「俺も、一緒だ!」

ハクの力が、桃矢に流れ込む。


「ハク…!」


「行くぜ、主!」


「ああ!」


二人の力が、一つになる。


「浄化の光!」


まばゆい光が、部屋を包んだ。

光が収まると――


パソコンの前に、一人の青年の霊が座っていた。


透けた姿。


だが、表情ははっきりしている。


困惑と、悲しみが混ざった顔。


「あなたが…」


桃矢が静かに声をかける。


「このサイトを作ったんですね」


青年の霊が、ゆっくりと頷いた。


「……はい」

か細い声。


「俺は…孤独だった」


青年の霊が、自分の手を見つめる。


「現実では、誰とも話せなかった」


「友達も、恋人もいなかった」


「でも…」


青年の霊が、パソコンを見る。


「ネットの中では、違った」


「友達ができた」


「居場所ができた」


「だから…」


青年の霊が、若者たちを見た。


「みんなを、繋げたかった」


「孤独な人たちを、集めたかった」


「ずっと、一緒にいたかった」


青年の霊は、若者たちの怯えた顔を見て、初めて言葉を失った。


――違う。

繋げたつもりだったのは、自分だけだった。



桃矢は、青年の霊の前に座った。


「あなたの気持ち、わかります」


「でも…」


桃矢が若者たちを見る。


「これは、本当の繋がりじゃない」


「無理やり繋げても…」

桃矢が青年の霊を見つめる。

「誰も幸せになれない」


青年の霊が、俯く。


「……わかってる」


「でも…」

青年の霊が震える。

「一人は…嫌なんだ…」


その時、ハクが前に出た。


「なぁ、兄ちゃん」


ハクが青年の霊を見る。


「お前、本当に繋がりたかったのか?」


「え…?」


「本当の繋がりってのは」


ハクが桃矢を見る。

「無理やり作るもんじゃねぇ」


「自然と、生まれるもんだ」


「独りが怖いから縛るのは、繋がりじゃねぇ。

それは――それは――優しい顔をした、檻だ」


ハクが青年の霊を見つめる。


「お前も、ちゃんと向き合えば」


「本当の繋がりが、できるさ」

青年の霊の目から、涙が溢れた。


「本当の…繋がり…」


「ああ」

桃矢が微笑む。


「まだ、遅くない」


「若者たちを、解放してあげてください」


「そして…」

桃矢が手を差し伸べる。

「あなたも、安らかに」


青年の霊は、しばらく考え――


そして、頷いた。

「……わかりました」


青年の霊が、パソコンに手を触れる。

画面が、光る。


そして――


若者たちが、ゆっくりと目を覚まし始めた。


「あれ…ここ…どこ…?」


「俺…何してたんだ…?」


意識が、戻っていく。


「みんな…」


青年の霊が微笑む。


「ごめんね」


「そして…」


青年の霊が、桃矢を見た。

「ありがとう」


桃矢が術を始める。

「浄化の光――」


優しい光が、青年の霊を包む。


「やっと…」

青年の霊が微笑んだ。

「自由になれる…」


光が消える。


青年の霊は、天へ昇っていった。



【帰り道・夕暮れ】


事件が解決し、桃矢たちは古本屋へ戻る道を歩いていた。

ハクは、桃矢の肩に乗っている。


「ハク」

「ん?」

「お前…喋れたんだな」


「ああ」

ハクがニヤリと笑う。

「驚いたか?」


「驚いた」

桃矢が笑う。

「でも…」

桃矢がハクを見る。

「お前の言葉が、あの霊を救ったんだ」


「へへ」

ハクが照れくさそうに笑う。

「俺は、お前のパートナーだからな」


「これからも、よろしく」


「おう!」

ハクが拳を握る。

「任せとけ、主!」


千尋が、二人を見て微笑んだ。

「いいコンビだな、お前ら」


「ありがとうございます、千尋さん」

桃矢が頭を下げる。

「今回は、助かりました」


「いや、俺も助かった」

千尋が桃矢の肩を叩く。

「また、何かあったら来てくれるか」


「はい」


薫は、三人の会話を聞きながら――

温かい気持ちになっていた。


(先輩とハク……)

(本当の絆ができたんだ)


桃矢は、ふと空き家の並ぶ路地を振り返った。


――繋がりは、救いにもなる。

だが、間違えれば、誰かを縛る。

胸の奥に、その重みが残っていた。


夕暮れの中、空き家の窓はもう、暗かった。


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