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かごめ封印  作者: 月音


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13/19

第13話 ーー六芒星と要石ーー

神泉苑の地下空間。

舞鳳が六芒星の真実を語り終えた、その瞬間――

地上から、複数の足音が重なって響いた。


「舞鳳!」


石段を駆け下りてきたのは、十の妖気。

千尋、巌、小雪、澪、時雨、颯、和葉、朱音、真琴、そして風牙。


「みなさん……来てくれたんですか!?」


思わず声を上げた桃矢に、颯が肩をすくめて笑う。


「当たり前だろ」


「最後の戦いだ」

巌が拳を握りしめ、千尋が静かに頷いた。


「俺たちが守ってきたものを、

 ここで失うわけにはいかない」


その言葉に、桃矢の視界が滲む。

「……みんな……ありがとう……」


一歩、舞鳳が前へ出た。


「よく集まってくれたな」


十の視線が、舞鳳に集まる。


「今から――最後の戦いが始まる」


その表情が、鋼のように引き締まる。


「大禍津日神は、晴明神社へ向かう」

「十三番目の封印を破壊するためだ」


ざわり、と空気が震えた。


「あそこには――

 禍津日神の“本体”が封じられている」


「急ぐぞ。戦場を移す」


舞鳳は拳を強く握りしめる。


「だが――必ず止める」

「俺たちの手でな」


「ああ」

豪が短く応え、


真琴が一歩踏み出し、決意を込めて言った。


「一緒に戦おう」

「この国を――守り抜くために」


【黒い雲 】


夜明け前の京都。

地上へ出た瞬間、空はすでに黒と紫に穢されていた。

雷鳴が轟き、大地が低く呻くように揺れる。


「……来るな」

舞鳳が、喉の奥で呟いた。


その時――

空が、裂けた。


まるで天そのものが引き裂かれたかのように、

巨大な黒い亀裂が開き、そこから――


大禍津日神が、地上へと降り立った。


「よく来たな……星川桃矢」


低く、重く、

神でありながら呪いそのもののような声が、空間を押し潰す。


黒き着物。

角を思わせる冠。

山のような体躯。


そして――

全身に浮かぶ、無数の“目”。


そのすべてが、一斉に桃矢を捉えた。


「そして……十二の妖どもよ」


大禍津日神は、ゆっくりと視線を巡らせる。


「千年もの間ーーよくも我が子を、闇に閉ざしてくれたな」

「だが――終わりだ」


その一言と共に、神が片手を掲げる。


闇が、地を這った。


地の底から這い出るように、黄泉軍が姿を現す。

無数の屍兵が音もなく周囲を埋め尽くしていく。

空には、雷を纏った八雷神が次々と顕現した。


「……絶望的な数だな」

颯が、乾いた笑みを浮かべる。


「でもさ」

「だからって、退く理由にはならない」


妖たちの身体から、次々と力が解き放たれる。

妖気、神気、想い――

それぞれが、静かに燃え始めた。


だが――


「待て」


舞鳳が、静かに手を上げる。


「……まだだ」


「舞鳳?」

桃矢が戸惑いを浮かべる。


舞鳳は答えず、

ただ、裂けた空のさらに向こうを見つめた。


「もうすぐ……来る」

「流れが、変わる」


黒雲の奥で、

何かが――目覚めようとしていた。



【安倍晴明降臨】


その瞬間――

天が開いた。


まばゆい光の柱が、空から降り注ぐ。黒い雲が裂け、青空が見えた。


そして、光の中から――

「……よく、ここまで持ちこたえたな」


優しく、力強い声。


光の中から、一人の男が降り立った。

白い狩衣、穏やかな顔立ち、だが目には強い意志が宿っている。


「安倍…晴明様…!」


妖たちが一斉に膝をついた。


晴明が地上に立つと、辺り一面に温かい光が広がった。


黄泉軍の屍兵たちが、光に触れて消えていく。


結が、晴明を見つめた。

ーー千年ぶりの再会。


結の目から、涙が溢れる。

「…晴明様…」


晴明が結を見て、優しく微笑んだ。


「結、よく守ってくれた。皆で繋いだ千年だ。

本当によく頑張ったな」


結は言葉が出なかった。


ただ、涙を流すだけ。


「晴明…!」

大禍津日神が歯ぎしりをする。


「ついに、姿を現したか」


「ああ」


晴明が大禍津日神を見た。

「千年ぶりだな、大禍津日神」


「貴様のせいで、我が息子は千年も封じられた」


「それは、お前の息子が人々を苦しめたからだ」

晴明が静かに答える。

「災厄をまき散らし、命を奪い、絶望を与えた。だから、封じた」


「黙れ!」

大禍津日神が咆哮を上げる。


「人間こそが、災厄だ!自然を壊し、命を軽んじ、神を忘れた!だから、我らが正す!」

大禍津日神が黒い波動を放つ。


だが、晴明が手を振ると、光の結界がそれを防いだ。

「お前の言うことも、一理ある」

晴明が認める。

「人間は、確かに愚かだ」


晴明が桃矢を見た。

「だが――」


晴明の声が、静かに響く。

「それでも、守る価値がある」


「人間の『想う心』は、美しい」

「家族を想い、友を想い、未来を想う」

「その心を、私は守りたい」


晴明が大禍津日神を見た。

「だから、お前を倒す」



【大決戦の始まり】


大禍津日神が、愉しげに笑った。

「ならば来い。――全力で、かかってこい!」


その号令に呼応するように、

八雷神が一斉に動き出す。


「みんな、行くぞ!」

舞鳳の声が戦場に響いた。


妖たちは迷いなく、それぞれの敵へと駆け出す。



北の戦線――千尋と巌


千尋が素早く音波装置を設置する。


高周波が空気を震わせ、

屍兵たちの動きが一斉に鈍った。


次々と崩れ落ちる屍兵。


巌が地面を叩きつけると、

大地が唸り、巨大な岩壁が立ち上がる。


「千尋、後は任せた!」

「ああ。巌も、気をつけろ!」



東の戦線――小雪と風牙


小雪が両手を広げる。

渦を巻く水が、雷神を包み込んだ。


そこへ――

風牙が風を解き放つ。


水と風が絡み合い、

巨大な竜巻となって雷神を呑み込む。


「私たちの力、見せてあげるわ!」

「ああ。一緒に!」



中部・西の戦線――澪、時雨、颯、豪


澪が月の薬を投げ放つ。

淡い光が弾け、傷ついた仲間たちの傷が塞がっていく。


「ありがとう、澪!」

颯は感謝の声を上げ、炎を纏って再び突進した。


時雨はその身を蛇へと変え、

雷神の身体に絡みつく。


「……動くな」


そこへ――

豪が巨体を活かし、巨大な拳を振り下ろす。


雷神は地面へと叩きつけられた。



京都防衛線――和葉、朱音、真琴


和葉の精神攻撃が放たれると、

屍兵たちの動きが乱れ始めた。


混乱した屍兵たちは、

互いを敵と誤認し、同士討ちを始める。


朱音が音波を解き放つ。

黄泉軍全体が揺さぶられ、地面が大きく割れた。


屍兵たちが、次々と飲み込まれていく。


真琴は一歩前に出て、桃矢の前に立った。


「桃矢様。――私がお守りします」


「ありがとう、真琴!」


桃矢もまた術を放ち、

屍兵を一体ずつ浄化していった。



妖たちの連携は、寸分の狂いもなかった。

千年を共に過ごしてきた仲間たち――

その絆が生み出す、完璧な連携だった。


妖たちの連携が戦場を制圧していく、その最中――

大禍津日神は、ゆっくりと戦況を見渡した。


八雷神が押し返され、

黄泉軍の屍兵が次々と消えていく。


大禍津日神の目が、細められる。


(封印など、すでに破ったはずだ)


神泉苑の地下。

砕いたはずの結界。

千年の時など、意味はないはずだった。


(それなのに――)


胸の奥で、

認めがたい感情が蠢く。


(なぜ、押し返されている?)


黒い雲が、わずかに乱れた。


――その瞬間。



【六芒星の発動】


その時――

京都の空に、異変が起きた。


六つの方角から、光の柱が天へ突き上がった。


「何だ!?」

大禍津日神が驚く。


北から――千尋の青い光

東北から――巌の茶色の光

関東から――小雪の白い光

中部から――澪の緑の光

北陸から――朱音の赤い光

九州から――豪の黄色の光


六つの光の柱が、天で交差した。



そして――

巨大な六芒星が、京都の空に浮かび上がった。


「これは…」

桃矢が見上げる。


光の線が、京都を中心に六芒星を描いていく。


上向きの三角形――火・陽・天

下向きの三角形――水・陰・地


二つの三角形が重なり合い、完璧な六芒星となった。


「すごい…」

妖たちが見上げる。

「これが、晴明様の封印…」


六芒星は、虹色に輝いていた。


六つの色が混ざり合い、美しい光の結界を作り出している。


「六芒星が、日本全土を守護している…」

結が呟く。


六芒星の光が、京都全体を包み込んだ。

黄泉軍の屍兵たちが、光に触れて次々と消えていく。


八雷神たちも、動きが鈍くなった。

「くそ…この光は…」


大禍津日神が苦しむ。

「六芒星の結界だと…!?」


「ああ」

晴明が前に出た。

「これが、私が千年前に設計した封印だ」

「六つの妖が、六つの頂点を守り、中心が全てを統合する」


晴明が空を見上げる。

「完璧な六芒星――崩すことはできぬ」


大禍津日神が歯ぎしりをする。

「ならば…中心を破壊すれば…!」


大禍津日神が神泉苑に向かって突進する。


「させるか!」

桃矢が飛び出した。


晴明が桃矢を見た。

「桃矢、お前の力を見せろ」


「はい!」

桃矢が勾玉を握りしめると、光が溢れ出した。


晴明と桃矢、二人の光が重なり合う。


「これが…晴明様の力…」

桃矢の体に、膨大なエネルギーが流れ込む。


「桃矢、お前は私の魂の一部だ。私の力は、お前の力だ」

晴明が桃矢の肩に手を置く。

「恐れるな」


「はい!」

桃矢が前に出た。


二人同時に、術を放つ。


「天津祝詞!」


光の槍が、大禍津日神を貫く。


「ぐおおおお!」

大禍津日神が苦しむ。


だが、すぐに再生する。

「無駄だ!私は不死身だ!」


大禍津日神が黒い触手を無数に伸ばす。


触手が、桃矢と晴明に襲いかかる。

「危ない!」

舞鳳が飛び出し、触手を切り裂いた。


「舞鳳!」

「任せろ。俺が、お前たちを守る」

舞鳳が猿の本性を解放する。


素早く動き、触手を次々と切り裂く。


だが、触手は無限に生えてくる。

「くっ…キリがない…」

舞鳳が息を切らす。



【結界の崩壊】


その時――

地下から、激しい揺れが伝わってきた。


「まずい…!」

結が叫ぶ。

「封印が…崩れかけている!禍津日神本体が、目覚めようとしている!」


大禍津日神が笑った。

「そうだ!我が息子が、目覚める!そして、この世界を滅ぼす!」


地面が大きく揺れた。

地下から、黒い瘴気が噴き出す。

「まずい…このままでは…」

晴明が焦る。


結が前に出た。

「私が…」


結の目に、強い決意が宿る。

「私が、要石となります!」


「結!」

晴明が叫ぶ。


だが、結は聞かなかった。


結が走る。



【結の挑戦】



結が結界陣の前に立った。


「晴明様のお役に立ちたい…」

結が呟く。


「千年、待ち続けた。ずっと、晴明様の力になりたかった」

結が龍の姿に変わる。


美しい白銀の龍――だが、鱗はくすみ、所々剥がれている。

それでも、結は結界陣に飛び込んだ。


光が結を包む。


だが――

次の瞬間、結の体が弾かれた。


「うっ…!」

結が地面に叩きつけられる。


「もう一度…!」

結が再び飛び込む。


また、弾かれる。


「もう一度…!」

何度も、何度も。


結の体がぼろぼろになっていく。


鱗が剥がれ、血が滲む。


それでも、結は諦めない。

「晴明様…」


結が泣きながら、また飛び込む。

「私を…使ってください…」


また、弾かれる。


結が膝をついた。


体が震える。


もう、立ち上がる力も残っていない。

「どうして…」

結の目から、涙が溢れる。


「どうして…私では…」

「晴明様のお役に立ちたいだけなのに…」

結が悔しそうに、地面を叩いた。



【舞鳳の決意】


その時――

誰かが、結の肩をそっと叩いた。

「お前じゃないんだ、わかってるだろ」


顔を上げると、舞鳳が立っていた。


舞鳳の後ろには、晴明もいた。


桃矢と妖たちも、地下に降りてきていた。


「…舞鳳…晴明様…」

結が二人を見上げる。


舞鳳は静かに語り始めた。


「結、あの時――『後ろの正面だあれ』で、晴明様の後ろにいたのは、お前だった」


結が息を呑む。


「でもな」

舞鳳は結界陣へ歩き出す。


「その”正面”は――俺だった」


「かごめの唄は、全部が逆説だろ」

舞鳳が空を見上げる。


「夜明けの晩――昼と夜の境界」「鶴と亀が滑った――吉兆の逆転」「後ろの正面――方向の逆説」

舞鳳が振り返り、結と晴明を見た。


「『後ろ』の反対は『正面』」

「つまり――結の後ろにいた俺が、最初から”要石”だった」



沈黙。


妖たちが、息を呑む。


「舞鳳…」

千尋が呟く。

「お前…知っていたのか…」


舞鳳は頷いた。

「ああ」


舞鳳が晴明を見る。


晴明も、静かに頷いた。

「すまない、舞鳳」

晴明の声に、悲しみが滲む。

「私は…お前に黙っていた」


「いえ」

舞鳳は穏やかに笑った。

「千年前のあの夜から…わかっていました」


舞鳳が結を見る。


「『かごめかごめ』の意味を考えたら」


舞鳳が微笑む。

「俺が、“要石”だと」

「覚悟は、できていましたよ」


結が涙を流した。

「舞鳳…ごめんなさい…」


「謝るな」

舞鳳が結の頭を撫でる。

「お前は、何も悪くない」


「これは、俺の役割だ」

舞鳳が妖たちを見た。


舞鳳は、少しだけ間を置いて、微笑んだ。

「……千年、楽しかった」


「舞鳳…」

妖たちが涙を流す。


桃矢が叫んだ。

「待って!」


「舞鳳さん!」


だが、舞鳳は振り返らなかった。


「桃矢、後は頼んだ」


舞鳳が結界陣の中心に立った。



【要石となる舞鳳】


上を見上げると――

天井を透かして、六芒星の光が見えた。


六つの頂点が、結界の中心に向かって光が差し込む。


「みんな…」


舞鳳が微笑む。


「力を、ありがとう」


舞鳳が結界陣の中心に座ると、六つの光が、舞鳳に集中した。


千尋の青い光巌の茶色の光小雪の白い光澪の緑の光朱音の赤い光豪の黄色の光


六つの色が、舞鳳を包み込む。

「これが…みんなの力…」


舞鳳の体が、虹色に輝き始めた。


「六芒星の中心として、俺は、みんなの力を受け継ぐ」

舞鳳が目を閉じる。


桃矢の顔が、浮かぶ。

初めて会った日。一緒に旅をした日々。桃矢の笑顔。桃矢の涙。桃矢の成長。

全てが、愛おしかった。


(桃矢…)

舞鳳が心の中で呟く。


(俺がどんなにお前を愛していたか)(どれだけお前と一緒にいたかったか)(でも、これが俺の使命だ)(お前を守るための)


舞鳳が目を開ける。

「そして、要石となる」


六つの光が、一つになった。


まばゆい虹色の光が、舞鳳を包む。


「晴明様…見ていてください」

「六芒星の封印――完成させます」


舞鳳の体が、石に変わり始めた。

足から、徐々に。


「舞鳳さん…!」

桃矢が叫ぶ。


舞鳳が最後に、桃矢を見た。

そして、微笑んだ。


「ありがとうな、桃矢」


「お前と旅ができて、本当に幸せだった」


石化が、胸まで達する。


「みんな…ありがとう…」

舞鳳の最後の言葉が、地下に響いた。


そして――

完全に石となった。

虹色に輝く、丸い形をした要石。


六つの妖の力を受け継いだ、美しい要石。


「舞鳳ぉぉぉ!」

桃矢が叫んだ。


妖たちも、涙を流した。


結も、晴明も、静かに要石に手を合わせた。


その瞬間――

地上では、六芒星が完全な形となった。


六つの頂点と、中心が――完璧に結ばれた。

光の柱が天へ伸びる。


禍津日神本体が、完全に封印された。


六芒星の結界が、永遠に禍津日神を封じ続ける。



ーーー


大禍津日神が苦しんでいる。


「何…!?」


「息子が…封印された…!?」


大禍津日神の体が、揺らぎ始める。

「まずい…このままでは…我も…」


晴明が前に出た。


「大禍津日神、終わりだ」


「お前の野望は、ここで潰える」


晴明が桃矢を見た。

「桃矢、最後の術を放て」


桃矢は涙を拭った。

「はい…!」


桃矢が勾玉を掲げる。

「みなさん、力を貸してください!」


妖たちが、桃矢の周りに集まった。

十一の妖が、それぞれの力を桃矢に注ぐ。


「桃矢様、我らの力を!」


「使ってください!」


光が桃矢を包む。


十一の光が、一つになる。


そして、晴明の力も加わる。


結も、残った力を桃矢に注ぐ。


「舞鳳さんが守ってくれた世界を…」

桃矢が叫ぶ。

「俺が、守る!」


「行け、桃矢!」

晴明が叫ぶ。


「浄化の光!」


巨大な光の柱が、大禍津日神を包み込んだ。

「ぐあああああああ!」

大禍津日神が悲鳴を上げる。


「貴様ら…よくも…!」


「人間を…守るというのか…!」


「あんな愚かな生き物を…!」


桃矢が叫び返した。

「愚かでも、弱くても!」

「人間は、『想う心』を持っている!」

「家族を想い、友を想い、未来を想う!」

「その心は、美しい!」

「だから、俺も守る!」


光が、さらに強まる。


大禍津日神の体が、消えていく。

「くそ…くそぉぉぉ!」


最後の叫びと共に、大禍津日神は完全に消滅した。



【戦いの終わり】


空の六芒星が、ゆっくりと光を弱めていった。


だが、消えることはなかった。


薄く、透明に――

でも、確かにそこに存在している。


「六芒星が…残っている…」

桃矢が見上げる。


「ええ」

結が頷く。


「舞鳳が要石となったことで、六芒星は永遠に機能し続ける」


「この結界が、日本を守り続ける」


妖たちも、空を見上げた。


薄く輝く六芒星。


その中心に――舞鳳がいる。


「舞鳳…」

豪が呟く。

「お前は、この国の守護神になったんだな」


「ああ」

巌が頷く。


「永遠に、この国を守る存在に」


桃矢は涙を流しながらも、微笑んだ。

「舞鳳さん…ありがとうございます」


「おれは、強くなります…いつかきっと要石がなくても

封印出来るくらい」


空の六芒星が、優しく輝いた。


まるで、舞鳳が答えているかのように。


黒い雲が消え、青空が広がった。


太陽の光が、京都を照らす。


人々が、家から出てきた。


空の六芒星を見上げる。

「龍神様…」

老婆が涙を流す。


「守ってくださったんやなぁ…」


若夫婦が手を合わせる。

「ありがとうございます…」


子どもたちが、空を見上げる。

「きれい…」


京都の人々が、一斉に六芒星に祈りを捧げた。

千年、守り続けてきた龍神様への感謝。

そして、新たな守護神となった舞鳳への感謝。


「終わった…」

桃矢が膝をついた。


妖たちも、力尽きて座り込む。

「勝った…のか…」

颯が呟く。


「ああ」

巌が頷く。


「俺たちの勝ちだ」

妖たちは、静かに抱き合った。



【晴明との別れ】


晴明の体が、透け始めていた。


「晴明様…」

桃矢が駆け寄る。


「桃矢、よくやった」

晴明が微笑む。


「お前は、私の誇りだ」


「晴明様、もう…」


「ああ」

晴明が頷く。

「私は、天界に戻らなければならない」


晴明が結を見た。

「結」


「はい…」

結が前に出る。


晴明が結の手を取った。

「ありがとう」

「よく、守ってくれた」


結の目から、涙が溢れる。


「晴明様…私…」


「わかっている」

晴明が優しく微笑む。

「お前の想い、ずっと気づいていた」


「だが…」

晴明が空を見上げる。


「私は、天界に戻らなければならない」


「お前を連れて行くことは、できない」


結は首を振った。

「いいんです」

結が微笑む。

「晴明様のお役に立てただけで…」


結が涙を拭う。

「それだけで、幸せでした」


晴明が結を抱きしめた。

「ありがとう、結」

「お前は、私の誇りだ」


結は晴明の胸で泣いた。

千年の想いが、溢れ出す。


晴明が結を離し、妖たちを見た。

「みんな、千年ありがとう」

「よく、守ってくれた」


妖たちが深く頭を下げる。

「晴明様、こちらこそ…」


「お前たちのおかげで、私は安心して眠れる」


晴明が微笑む。

「これからも、この国を頼む」


「はい!」

妖たちが答える。


晴明が桃矢の前に来た。

「桃矢」


「はい」


「お前の中に、私の魂がある」

晴明が桃矢の胸に手を置く。

「私は、いつもお前と共にいる」


桃矢が涙を流す。

「はい…」


「もう少し、一緒にいてください…」

桃矢が懇願する。


だが、晴明は首を振った。

「これが、定めだ」


晴明が桃矢の頭を撫でる。

「だが、忘れるな」


「お前は一人じゃない」

「仲間がいる。舞鳳がいる」


晴明が空を見上げる。

「そして、私もいる」


晴明の体が、光の粒子となって消えていく。


「さらばだ、みんな」

「また、いつか会おう」

光が消え、晴明は天界へ帰っていった。



【舞鳳との別れ】


結界陣の中心に、虹色に輝く美しい要石があった。


桃矢が駆け寄る。

「舞鳳さん…」

桃矢が要石に触れる。


温かかった。

まるで、生きているかのように。


「舞鳳さん…ありがとうございました…」


桃矢が涙を流す。

「あなたのおかげで、俺は強くなれました」


「あなたのおかげで、みんなを守れました」


桃矢が要石を抱きしめる。


「でも…寂しいです…」


「もっと、一緒にいたかった…」


その時――

要石が、淡く光った。

そして、桃矢の耳に声が聞こえた。


『泣くなよ、桃矢』


「舞鳳さん…!?」


『俺は、ここにいる』


『いつも、お前を見守っている』


『だから、泣くな』


『笑顔で、生きろ』


桃矢は涙を拭った。

「はい…」


『お前なら、大丈夫だ』


『強く、優しく、生きていけ』

『そして…』


舞鳳の声が、優しく響く。

『ありがとうな、桃矢』


『お前と旅ができて、本当に幸せだった』


光が消える。

声も、聞こえなくなった。


だが、桃矢は微笑んだ。

「はい、舞鳳さん」

「俺、頑張ります」

「舞鳳さんが守ってくれたこの世界で」

「笑顔で、生きていきます」

桃矢が立ち上がる。



「桃矢様…」

真琴が声をかける。


「大丈夫です」

桃矢が微笑む。


「舞鳳さんは、ここにいます」


「俺たちを、見守ってくれています」


妖たちも、要石に手を合わせた。

「舞鳳…ありがとう」


千尋が呟く。

「お前のおかげで、この国は守られた」


巌が続ける。

「ゆっくり、休んでくれ」


颯が微笑む。


妖たちは、しばらく要石の前で祈り続けた。



プロローグ終わり。

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