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かごめ封印  作者: 月音


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11/19

第11話 九州の山里 ― 別れを生きる者たち ―

【千年前の約束】


――千年前、京の都――

安倍晴明の屋敷。


約束の時を待つ者。

舞鳳は晴明の言葉を胸に刻んだ。

「晴明様…」

「舞鳳、お前は十二妖の中で最も人に近い心を持つ」

晴明が振り返る。

「だからこそ、お前にしか託せない」


「その方は…私のことを受け入れてくださるでしょうか」

舞鳳の声が僅かに震えた。

晴明は穏やかに微笑んだ。

「お前が心配するようなことは起こらない」

「その者は、お前を家族のように想うだろう」

「家族…」

舞鳳が小さく呟く。


「そうだ。だが、忘れるな」

晴明の表情が真剣になる。

「お前の本当の役目は、その者を守ることだ」

「共に笑い、共に泣き、そして…」

晴明が言葉を切った。


「そして?」


「共に、最後の封印に臨め」


晴明が舞鳳の目を見つめる。

「それが、千年後の運命だ」


舞鳳は深く息を吸った。


「はい。この身に代えても」


晴明が優しく言った。

「お前は、ただその者の傍にいればいい」

「それだけで、全てが変わる」


月明かりが二人を照らす。


「晴明様…もし、私が役目を果たせなかったら」


「お前なら大丈夫だ」

晴明が断言した。


舞鳳は静かに頷いた。

「では、私も参ります」

「ああ。」

舞鳳が炎に包まれ、消えていく。


晴明は一人、夜空を見上げた。

「舞鳳…すまない」

小さな呟きが、夜に溶けた。


「お前が背負う痛みは、誰よりも重い」

晴明の姿が、月光の中に消えていった。


――回想終わり――


【現代・九州の山里の平和】


緑深い山々、清らかな渓流、ゆっくりと流れる時間。

九州の山奥、熊本と大分の県境に近い小さな集落。

広大な棚田の中に、一軒の古民家が建っていた。

茅葺き屋根、石垣に囲まれた敷地。


畑では、一人の大男が汗を流していた。

がっしりとした体格、日焼けした肌、豪快な笑顔――豪だ。

「よし、今年も良い出来だ!」

豪が里芋を収穫しながら、満足そうに笑う。


「豪おじさーん!」

子どもたちが駆けてくる。

「おう、来たか! 今日も手伝ってくれるのか?」

「うん!」

子どもたちは元気いっぱいだ。


豪は子どもたちと一緒に、畑仕事をする。

「豪おじさん、力持ちだね!」

「当たり前だ! 俺は亥の妖、猪の化身だからな!」

豪が笑うと、子どもたちも笑った。


【山里の守り神】


夕方、仕事を終えた豪は、集落の小さな祠へ向かった。

「よっ、今日も無事だったぜ」

祠の奥には、封印の石がある。

豪が手を当てると、石は淡く光った。

「封印も、問題なし。この集落は平和だ」

豪は満足そうに頷いた。

「このまま、ずっと平和であってくれ」


【舞鳳と桃矢の到着】


翌日、バスが山道を登ってきた。

桃矢と舞鳳が降り立つ。

「最後の封印地だな」

舞鳳が集落を見渡す。

「ああ。亥の豪が守る、九州の山里」


桃矢が深呼吸をする。

「豪さんに会えるんですね」

「ああ」

舞鳳が頷く。

「そして…」

舞鳳の表情が、わずかに曇った。


「舞鳳さん?」

桃矢が気づく。


「いや、何でもない」

舞鳳は笑顔を作った。

「さあ、豪に会いに行こう」


だが、桃矢は気づいていた。

舞鳳の笑顔が、少し寂しそうだったことを。


【豪との再会】


「よっ、舞鳳!」

畑で、豪が手を振っていた。

「豪!」

舞鳳が駆け寄る。

「久しぶりだな! 元気そうじゃないか!」


「ああ、お前もな!」

二人は抱き合った。


豪が桃矢を見た。

「で、こっちが星川桃矢か。噂は聞いてるぜ」

「はい。桃矢です」

「俺は豪。亥の妖だ。よろしくな!」

豪は豪快に笑った。

「さあ、飯を食おう! 腹が減っては戦はできねぇ!」


【豪の家】


古民家の囲炉裏端。

豪が作った料理が並ぶ。猪鍋、山菜の天ぷら、地酒。

「うまそうだな」

「食え食え! 俺の料理は絶品だぞ!」


三人は食事を楽しんだ。

「豪、お前…一人で暮らしているのか?」

舞鳳が尋ねた。

豪の笑顔が、わずかに翳った。

「ああ…まあな」

「昔は…誰かと?」

豪は箸を置いた。


「…昔、女がいた」


【豪の過去】


豪が静かに語り始めた。

「50年前、この集落に一人の女性が住んでいた。名は、ユリ」



――50年前――

若き日の豪が、山道を走っていた。

そこに、一人の女性が立っていた。

長い黒髪、優しい笑顔。

「あなた、豪さん?」

「ああ。お前は?」

「ユリです」

ユリは集落の診療所の看護師だった。

病人の世話をし、子どもたちに慕われ、豪も彼女に惹かれた。


二人は恋に落ちた。

「豪、一緒に暮らさない?」

「ああ!」

幸せな日々が続いた。


だが――

ある日、集落に豪雨が来た。

記録的な大雨が、山を襲おうとしていた。

「逃げろ! みんな高台に!」

豪が叫ぶ。


だが、ユリが言った。

「待って、豪! 診療所に寝たきりのおばあさんがいるの!」

「何!?」

「助けに行かなきゃ!」

「待て、ユリ! 俺が行く!」

だが、ユリは走り出した。

豪も追いかけた。

診療所に着くと、確かにおばあさんが一人、ベッドに横たわっていた。

「よし、助かった!」

豪がおばあさんを背負い、ユリと一緒に走り始めた。


だが――

その時、山から土砂が崩れてきた。

土石流だ。

「ユリ!」

豪が手を伸ばす。

だが、間に合わなかった。

ユリは土砂に飲まれた。

「ユリぃぃぃぃ!」

豪は必死にユリを探した。

だが、見つからなかった。



――回想終わり――

「俺は…ユリを守れなかった」

豪は拳を握りしめた。

「俺が、もっと早く動いていれば」

「俺が、もっと冷静に判断していれば」

「ユリは…死ななかった」

豪の目に、涙が浮かんだ。

「俺は猪だ。突進するのが得意だ」

「だが、突進しすぎて…大切なものを失った」


舞鳳は少し黙った後、静かに口を開いた。

「豪…お前は、間違っていない」


豪が顔を上げる。

「お前の『突進』は、誰かを守るためのものだ」

舞鳳が豪の目を見つめる。

「ユリさんが走り出した時、お前は迷わず追いかけた」

「それは、お前が彼女を愛していたからだ」

豪の目が揺れる。

「もし、お前が躊躇していたら…」

舞鳳が続ける。

「あのおばあさんは、確実に死んでいた」

「お前とユリさんが突進したから、一つの命が救われたんだ」

豪が息を呑む。


舞鳳は遠くを見つめた。

「なあ、豪。長く生きる俺たちは…大切な人との別れは、宿命だよな」


豪が舞鳳を見る。

「俺も…何百年も前になるが、別れを引きずった時があった」

舞鳳が小さく笑う。


「その時、小さなお寺の住職が言っていたんだ」

「『人は死に方を、生まれてくる時に自分で決めてくるんだ』って」

豪の目が見開かれる。


「そんなの眉唾かもしれない」


舞鳳が首を振る。

「その和尚は一度死んだわけじゃないし、生まれてくる前のことを覚えているわけでもない」

「何気なく言っただけかもしれない」


舞鳳が豪を見た。

「でも…俺は、救われたんだ」

「本人が決めたんなら、仕方ないって」

豪は黙って、舞鳳の言葉を噛みしめていた。

「ユリさんは…」

舞鳳が続ける。

「あの時、自分の意志で走り出した」

「誰かを救うために」

「それが、彼女が選んだ道だったんだ」

豪の目から、また涙が溢れた。


だが、今度は少し違う涙だった。

「そうか…ユリは…自分で決めたんだな」

「ああ」

舞鳳が頷く。

「だから、お前が自分を責める必要はない」

「お前は、彼女の選択を尊重すればいい」


豪は深く息を吸った。

「ありがとう…舞鳳」


桃矢も、胸が熱くなった。

舞鳳の言葉には、千年の重みがあった。



【舞鳳の様子】


その夜、桃矢は舞鳳が一人、山の展望台にいるのを見つけた。


「舞鳳さん」

舞鳳が振り返る。

月明かりの中、その表情は穏やかだった。


「桃矢か。どうした?」

「いえ…舞鳳さん、さっきから少し元気がないように見えて」


桃矢が隣に座る。

「何か、心配事ですか?」


舞鳳は少し黙った。


そして、小さく笑った。

「…わかるか」

「だって、もう何ヶ月も一緒にいますから」

桃矢が舞鳳を見る。

「教えてください」


舞鳳は夜空を見つめた。

「…なあ、桃矢」

「はい」

「もし、大切な人と別れなければならない時が来たら…お前、どうする?」


桃矢は驚いた。

「別れ…ですか?」

「ああ」

舞鳳が続ける。

「その別れが、誰かを守るためだとしたら」

「お前は、受け入れられるか?」


桃矢は少し考えた。

「…正直、わかりません」

桃矢が俯く。

「でも…」

桃矢が舞鳳を見た。

「その人が望むなら、俺は受け入れます」

「辛くても」

「そうか」

舞鳳が微笑む。

「お前は、強いな」

「舞鳳さん…」

「いや、何でもない」

舞鳳が立ち上がる。

「さあ、戻ろう。明日は封印の確認だ」

舞鳳が歩き出す。


桃矢は、その背中を見つめた。

(舞鳳さん…何か、隠してる…)



【異変の兆し】


翌朝、豪が目を覚ました。

「…何だ?」

外から、異様な気配がする。


豪が外に出ると――

空が、赤く染まっていた。

「これは…」

遠くから、地鳴りが聞こえる。


地面が揺れ始めた。

「地震か!?」

だが、これは普通の地震ではなかった。


山が、黒く染まっていく。

「まずい…!」

豪が走り出した。



【黄泉軍の襲来】


山道から、黒い影が這い上がってきた。

人の形をしているが、腐敗した肉体、虚ろな目。


屍兵だ。

「黄泉の軍勢…!」

豪が叫んだ。


無数の屍兵が、集落に迫ってくる。

「させるか!」

豪が地面を蹴った。


猪の妖の本性が現れる。


巨大な牙、鋭い目、獣の咆哮。

「うおおおおお!」

豪が突進する。


屍兵たちを、次々と吹き飛ばす。


だが――

「多すぎる…!」

倒しても、倒しても、次々と現れる。


「豪!」

舞鳳と桃矢が駆けつけた。

「舞鳳! 桃矢!」

「何が起きている!?」

「黄泉の軍勢が攻めてきた!」

舞鳳が屍兵を見た。

「これは…まずい。ただの禍津日神の眷属じゃない」

「何?」

「黄泉の国から、直接来ている!」


桃矢が結界を張る。

「とりあえず、集落の人々を避難させます!」

「ああ! 頼む!」

桃矢が村を走り、人々に叫んだ。

「みんな、公民館に避難してください!」

「何が起きてるんだ!?」

「説明は後です! 今すぐ!」

人々が走り出す。

子どもたちも、必死に逃げる。

「豪おじさん!」

子どもが叫んだ。

「大丈夫だ! 俺が守る!」

豪が笑顔を見せた。

「お前らは、逃げろ!」



【八雷神の登場】


豪は一人、山道で戦い続けた。

屍兵を何十体も倒した。

だが、傷だらけになっている。

「くそ…まだ来るのか…」


その時――

山から、さらに巨大な影が現れた。

黒い鎧を纏った、巨大な武者。


八雷神の一体だ。


「小さき妖よ、よくぞ戦った」

雷神が剣を構えた。

「だが、ここで終わりだ」

雷が降り注ぐ。


豪が避けようとするが――

「ぐあっ!」

雷に打たれ、豪が倒れた。

「豪!」

舞鳳が駆けつける。


だが、雷神が立ちはだかる。


「次は貴様だ」



【大禍津日神降臨】


その時――

空が裂けた。

巨大な黒い裂け目が、空に開く。

そこから、巨大な影が現れた。


「ようやく、会えたな」

低く、重い声。


影が地上に降り立つと、その姿が見えた。

黒い着物、角のような冠、巨大な体躯。

そして――無数の目が、全身に浮かんでいる。

「私は、大禍津日神」

その声に、全員が震えた。


「禍津日神の…親…!」

桃矢が息を呑む。


「そうだ。私の息子を、千年も封じてくれたな」

大禍津日神が、桃矢たちを見下ろした。

「礼を言わねばならぬな」


「何が礼だ!」

桃矢が叫ぶ。


「お前が、災害を起こしたのか! 地震も、土砂崩れも!」


「そうだ」

大禍津日神は躊躇なく答えた。

「ここ最近の地震、大雨、多種に渡る災害は我らが起こしたもの」


「なぜそんなことを!」


「一度、人の世を一掃しなければならぬ」

大禍津日神の声が冷たく響く。


「人間は傲慢だ。神を忘れ、自然を壊し、欲望のままに生きている」


「この者たちの傲慢さは、言葉では伝わらぬ」


「ならば、力で示すしかない」


大禍津日神が手を上げると、空から雷が降り注いだ。

舞鳳が防御するが、その力は圧倒的だった。


「くっ…強い…!」


「これが…神の力か…!」


大禍津日神が笑った。

「お前たちでは、私に勝てぬ」

「だが、楽しませてもらおう」



【京都への誘い】


大禍津日神が桃矢を見た。

「聞け」

桃矢が息を呑む。


「十三番目の封印…京都で決着をつける」

「京都…?」

「そうだ。安倍晴明が眠る地。全ての封印の中心」

「そこで、最後の封印を――破る」


桃矢の顔色が変わった。


「お前たちが来るなら、正々堂々と戦おう」


「来ないなら…」

大禍津日神が集落を見渡した。

「今ここで、この山里は崩す」


「待て!」

桃矢が叫んだ。

「わかった。俺たちは行く。京都へ」


「桃矢!」

舞鳳が止めようとする。


だが、桃矢は首を振った。

「舞鳳さん、このままじゃこの集落が…」


大禍津日神が満足そうに笑った。

「よい返事だ」

「では、京都で待っている」

「全力で来い。安倍晴明と共に」


舞鳳の表情が変わった。

「…晴明様を、知っているのか」


「当然だ」

大禍津日神が舞鳳を見た。

「そして、舞鳳…お前の運命も知っている」


舞鳳が息を呑む。


「十三番目の封印…お前が、その鍵だ」


桃矢が驚いて舞鳳を見る。

「舞鳳さん…?」


だが、舞鳳は何も言わなかった。


大禍津日神が消えていく。

「待っているぞ。全力で来い」


黄泉軍も、雷神も、全て消えた。



【集落に静けさが戻って】


集落に静けさが戻った。

豪は山道に座り込んでいた。

傷だらけの体。血が流れ、息が荒い。


「豪!」

舞鳳が駆け寄る。

「大丈夫か!」


桃矢も治癒の術をかける。

「ああ…なんとか…」

豪が立ち上がろうとするが、膝から崩れた。


「無理するな」

舞鳳が豪を支える。

「くそ…俺は…」

豪が拳を握りしめた。

「また、守れなかった…」

「何を言ってる。お前は戦った」

「だが、あの神には…全く歯が立たなかった」

豪の目に、悔しさが滲む。

「俺は…やっぱり、ダメなんだ」

「突進するしか能がない」

「ユリを守れなかったように…今日も、集落を守りきれなかった」


桃矢が豪の前に座った。

「豪さん、あなたがいなかったら、この集落はもっと酷いことになっていました」


「でも…」


「黄泉軍を何十体も倒した」

「雷神と戦った」

「その間に、集落の人々は逃げられた」

桃矢が豪の手を握る。

「あなたは、守ったんです」

「集落の人々を」


豪は目を見開いた。

「俺が…守った…?」


舞鳳が頷く。

「ああ。お前がいたから、誰も死ななかった」

「お前の『猪突猛進』は、武器だ」

「時には代償もあるが…今日は、それが集落を救った」


豪の目から、涙が溢れた。

「そうか…俺は…」

「ああ」

舞鳳が豪の肩を叩いた。

「お前は、十分に戦った」



【集落の人々との別れ】


翌朝、集落の人々が公民館前に集まっていた。

「豪さん!」

子どもたちが駆け寄ってくる。

「おお、みんな無事だったか!」

豪が笑顔を見せた。


「豪さん、ありがとう!」

「あなたがいたから、私たちは助かったわ」


老人たちも頭を下げた。

「豪さん、これからどうするんですか?」

一人の女性が尋ねた。


豪が山を見た。

「俺は、京都へ行く」

「京都?」

「ああ。最後の戦いがある」

豪が集落の人々を見渡した。


「でも、必ず帰ってくる」

「この集落を、永遠に守ると約束する」


子どもたちが泣き出した。

「豪おじさん、行かないで!」


「ごめんな」

豪が子どもたちを抱きしめた。

「でも、これは俺の使命なんだ」

「この集落を、日本を、守るために」


老人の一人が前に出た。

「豪さん、私たちも何かできることは?」

「ああ」

豪が頷く。

「かごめかごめを、歌い続けてくれ」

「封印を支えるために」

「わかりました」

人々が頷いた。

「豪さん、気をつけて」

「必ず、帰ってきてください」

豪は深く頭を下げた。

「ありがとう。みんな」



【バスの中で ― 舞鳳の秘密】


三人は、山里を離れるバスに乗っていた。

窓際で、桃矢が舞鳳に尋ねた。

「舞鳳さん」

「ん?」

「さっき、大禍津日神が言っていたこと…」


桃矢が舞鳳を見つめる。

「『十三番目の封印、お前がその鍵だ』って」


舞鳳は黙っていた。


「舞鳳さん、それって…」



「桃矢」

舞鳳が桃矢の言葉を遮った。


「今は、まだ話せない」


「でも…」


「京都に着いたら、全て話す」

舞鳳が桃矢の肩に手を置いた。

「約束する」


桃矢は不安そうな顔をした。

「舞鳳さん…何か、悪いことが起きるんですか?」


舞鳳は少し黙った。


そして、優しく微笑んだ。

「お前と旅ができて、本当に良かった」


「え…?」


「この一年、俺は幸せだった」


舞鳳が山々を見つめる。

「千年、一人で生きてきた」

「だが、お前と出会って…初めて、『仲間』ができた」


舞鳳が桃矢を見た。

「ありがとうな、桃矢」


桃矢の目に、涙が浮かんだ。

「舞鳳さん…まるで、お別れみたいなこと言わないでください」


「ごめん」

舞鳳が桃矢の頭を撫でた。

「でも、覚えておいてくれ」

「俺は、お前のことを誇りに思っている」


豪が二人の隣に立った。

「舞鳳、お前…」


豪も気づいていた。

舞鳳の覚悟を。


「豪」

「ああ」

「お前も、一緒に来てくれるか? 京都へ」

「当たり前だ」

豪が拳を握る。

「最後まで、戦うさ」


三人は、京都へ向かうバスの中で、それぞれの想いを胸に秘めた。



【安倍晴明の声】


その夜、桃矢の夢に晴明が現れた。

「桃矢」

「晴明様…」


「ついに、大禍津日神が動いた」

晴明の表情が厳しい。

「次は、結に会え」

「結が、全ての真実を教えてくれる」


「舞鳳さんのことも…ですか?」


晴明は少し黙った。


「ああ」

「そして…お前自身の、秘密も」


桃矢が驚く。

「俺の…秘密?」

「なぜ、お前が選ばれたのか」

「なぜ、継承の勾玉を持って生まれたのか」


晴明の姿が消えていく。

「全ては、京都で明らかになる」


桃矢は目を覚ました。

窓の外には、朝日が昇っていた。


(京都で…全てがわかる…)


桃矢は不安と期待が入り混じった気持ちで、京都へ向かうバスの揺れを感じていた。




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