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5 発進アニタ!!


 気を取り直して、元気にみょんみょん揺れているアニタの傍にしゃがみ込む。

 この少女、簀巻きなのに、とっても元気だ。活きのいい魚みたい。

 というか今更だが、簀巻きで転がっているのがおかしい。


「それで、アニタはなんでここにいるんだ?」

「アニタは冒険しに来たの!」

「はじめて乗った船を探検するチビみたいなことを言う…そうじゃなくて、なんで船に乗っているの」

「リリアンちゃんがお世話してくれるって言ったから!」

「コイツ船長をちゃん付けで呼んでいやがる…」


 フォンテはアニタが活きの良い奴隷の可能性も考えていたが、船長を堂々とちゃん付けで呼ぶことから違うと判断した。

 たとえ出会いが友好的であったとしても、奴隷としてこの船に乗せられて船長をちゃん付けで呼べる奴は早々いない。

 そもそもリリアンちゃんと呼ぶ人間がいない。


(アニタは躊躇いがないけど、アニタだし…)


 出会って三十分も経っていないが、早速毒されているフォンテだった。


「もしかして船長の知り合い…? いや、知り合いだとしてもなんで簀巻き…?」

「そういえば、アニタはなんで縛られているの?」

「え、知らない…」


 真っさらな目で不思議そうに見上げられて、フォンテはとても戸惑った。

 それはこっちが聞きたい。


「誰に縛られたの」

「お名前知らないわ! おっきな子にね、ちょちょいのちょいって縛られたの!」

「全然わかんない…どうしよう、コイツどうしたらいいのか全然わかんない…」


 簀巻きなのに元気に転げ回るアニタがこれ以上転がらないように両手で押さえ付けながら、フォンテは第三者に助けを求めて首を巡らせた。

 残念ながら誰もいない。こんなときに単独行動の弊害が出ている。


「お前「アニタ!」…アニタ、その状態で動き回ったら端から端まで転がっちゃうから、ここで引っかかって待ってろ。掃除を終わらせてから、お前「アニタ!」…しつこいな! アニタの所属を確認するから!」


 お前と言うたびに名前で呼べと声を上げるアニタに、フォンテは思わず大きな声を出した。

 当たり前だが、船は揺れる。普通に立っていても、気を付けないと転ぶのだ。

 簀巻き状態のアニタなど、あっちへこっちへ転がって大変だ。


 …どちらかというと、転がされても逆らわずにどこまでも転がっていきそうな気がして怖い。また扉に挟まられたら堪らない。

 フォンテは倉庫の隙間にアニタを挟んだ。これなら荷物に引っかかって、自由に転がることもないだろう。

 隙間に押し込められたアニタは、きょとんとフォンテを見上げた。


「フォンテお掃除するの? 一人で? できるの?」

「できるよ。いつもしてるし、ちょっと時間は掛かるけど…」

「ならお手伝いするわ! 二人でやったらすぐ終わるのだわ!」

「いやアニタはじっとしてて」


 人手は欲しいが簀巻き状態のアニタを解き放つ方が怖い。

 何故簀巻きなのかもわからないし、言動もおかしいし、解放して一人で対処できる気がしない。

 だからフォンテはやる気に満ちたアニタの手伝いを断った。立ち上がって掃除用具を抱えて踵を返す。


「なるべく早く戻るから、ここで大人しく…」

「大丈夫よお家でもお掃除頑張ってたもの。お風呂掃除とね、トイレ掃除とね、台所の水回りはお姉ちゃん。お花の水やりと絵本の選抜はアニタのお仕事!」

「それ掃除じゃな…!?」


 家族からも純粋に戦力外通告をされているのに気付いておらず、自信満々なアニタに呆れたのは一瞬だった。


 にゅっと伸びた白い手が、フォンテから掃除用具…モップを奪い取る。

 驚いて振り返ろうとしたフォンテは、赤毛の少女が真横を通り過ぎるのを見送ってしまった。


「大冒険のお仲間、どこにでも連れていってくれるお船! 頑張って綺麗にするわー!」

「え、なんで!? お前さっきまで…っ」


 簀巻きだったはずの少女は、元気に倉庫を飛び出し狭い廊下を縦横無尽に駆け抜けた。


「ぐるぐるぐるぐるー!」

「やめ、おい! ちょっと…っ、アニタ! 止まれ! アニタ――――!!」


 フォンテの絶叫は、狭い船内によく響いた。

 が、アニタにブレーキは存在しなかった。




アクセルしかない。

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