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4 ハラヘリアニタ


 船に乗せてあげると言われたアニタは、簀巻きのまま鉄格子の付いた部屋にぽいっと放り投げられた。


「騒ぐんじゃないわよ。煩いのは嫌いなの」

「逆らったら海に放り投げちまうからな」

「そっちの方が幸せかもしれないけどな」

「なぁ~!」


 ツンとした綺麗な声をかき消すようにゲラゲラ嗤う男達。

 嗤いながら去って行く大人達を見送り、アニタはあれぇと首を傾げていた。

 だって、時間的に。


(そろそろおやつの時間じゃないかな?)


 そう、お腹が空く時間だ。


「育ち盛りだからね、おやつは忘れちゃいけないわ。じゃないとお夕飯前にお腹が鳴っちゃうんだもの!」

「太々しい新入りだなぁ…」


 自らを下っ端と称する少年からおやつを分けて貰いながら、アニタはどうしてここにいるのかを(アニタ的には)丁寧に答えていた。


 ちなみに、簀巻きで床に転がったまま。

 少年は及び腰で、携帯食料の芋を千切ってをアニタの上に落としている。

 パクパク口を開けて芋に食い付く姿は、簀巻きで手足が見えない事もあり、まるで魚のようだった。


 アニタと少年、フォンテが出会ったのは、倉庫の入り口。

 外に出ようと扉を閉めるフォンテの足元に滑り込んだアニタ。違和感に気付いて振り返ったフォンテと、扉に挟まったアニタの目が合った。

 目が合ったので元気よく空腹を訴えたら、フォンテは蒼白になって絶叫した。

 とっても元気。

 フォンテは誰も居なかったはずの倉庫に現れた少女に本気で驚愕し、掃除用具を落として尻餅をついた。幸いだったのは、汚れた水の入ったバケツが垂直に落ちたことだろう。


「生首――――ッ! …アッ違う身体ある! 嘘だろなんだお前、なんだお前どこから来た!」

「お腹すいた! おやつ頂戴!」

「うわなんだこいつ!」

「アニタはアニタ!」

「なんだこいつ!!」


 ちょっと大騒ぎしたが、波間を泳ぐ船は波の音が大きい。人の声はかき消された。

 少しして落ち着きを取り戻したフォンテは、お腹空いたお腹空いたと簀巻きのままジタバタするアニタに呆れ、干した芋を分けてくれた。


 それはフォンテが自分で用意した携帯食。

 フォンテも成長期でお腹が空くので、停泊したときに自分用に購入していたおやつだった。奴隷でないので、働けばその分給金が発生する。微々たる金額だが、空腹を凌ぐための携帯食料を購入する分は捻出できた。

 今回、自分の取り分が減るのはちょっと納得いかないが、このままではお腹空いたと主張する少女と会話ができそうになかったので餌を与え、落ち着かせることにした。


 そう、餌やりの気分。

 簀巻きなので、フォンテが食べさせるしかなかった。

 それにしたって絵面が酷いが、フォンテはこれでも譲歩した。床に芋を放らなかっただけマシだろう。


 …簀巻きのアニタを解放しないのは、アニタの立場がよくわからなかったから。口元まで千切った芋を持って行ってやらないのは、アニタの登場が不気味過ぎて、及び腰になっているからだ。


(だってコイツ…身体が、倉庫の中だった)


 倉庫の中だったのだ。

 外ではなく、中。

 つまり…廊下側ではなく、フォンテが掃除していた倉庫に、アニタもいたということで。


(全然気付かなかった)


 一人だと思っていた空間に実はいたのだと気付いてしまい、背筋がぞっとした。

 怖すぎる。

 怖すぎるが、フォンテが千切った芋を美味しそうにパクパク食べる様子は野生を忘れた魚にしか見えない。

 餌を与えられることに慣れ過ぎて、人が近付けば無防備に口をパクパクさせる魚そのものである。

 女の子に対してしていい扱いじゃないと思うのに、とっても嬉しそうに芋を求めている。

 酷い絵面だと思うが、なんの違和感もなくぱくつくアニタに、フォンテはとても苦い顔をした。


「…で、お前はなんでそんな格好でこんな所に転がっていたわけ」


 フォンテは半分になった芋は自分の口に入れて、アニタを見下ろした。


(簀巻きなら奴隷…? でも今回、女の子の奴隷はいなかったはず…俺が知らないだけで、新入りがいたのかな)


 奴隷か、船員か。

 どちらの新入りなのかわからないけれど、いたのかもしれない。

 そしてその新入りは出向してすぐ簀巻きにされるようなことをしでかしたようだ。

 何をしたんだと思うが、何かしらしそうだ、この子。


 フォンテの問いかけに、アニタは不服そうに首を振った。


「お前じゃなくてアニタはアニタ! …ということは、あなたもアニタ?」

「いや俺はアニタじゃない」

「アニタじゃないあなたはだぁれ? どうしてアニタじゃないの?」

「フォンテ。アニタじゃない。どうしたもこうしたもない」

「えー!? あなたアニタじゃなくてフォンテって言うのね!」

(なんで他人も自分と同じ名前だと思ってんだ?)


 フォンテは呆れながら訂正した。

 名乗らないとアニタにされる気がした。


(アニタにされるってなんだ…?)


 このやりとりだけで脳を破壊された気がして、フォンテは慌てて頭を振った。



お前もアニタにならないか(笑顔)

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