35 絶体絶命リリアン
(…弟?)
ラファールの言葉に、フォンテは呆然と二人を見比べた。
言われてみればどちらも金髪碧眼。
しかしリリアンはしなやかに鍛えられた麗人だが、ラファールは軍人らしく鍛えられた身体をしている。リリアンは中性的な美貌で、ラファールは柔和だが男性的だ。
一見すると似ていないが、かといって全く似ていないわけでもない。
兄弟と言われたら、あり得るかもしれないと考える程度には、似ている。
(…つまりリリアン様は、ヴォルティチェ国の…王族関係者!?)
あんなに、ヴォルティチェ国を嫌っていたのに。
奴隷商人でありながら、奴隷公認のヴォルティチェ国を避けていた。むしろヴォルティチェ国へ奴隷が流れていかないよう調整までしていたのに。
ヴォルティチェ国に襲われたスキューマの民であるフォンテを、何も言わずに拾い上げてくれたのに。
それなのに、ヴォルティチェ国の者だったのか。
一瞬裏切られたような気持ちになったフォンテだが、思い返せばリリアンはヴォルティチェ国をとことん嫌っていた。
リリアンはヴォルティチェ国の関係者だが、ヴォルティチェ国は大嫌い。
ラファールも弟と呼びながら、愚かななどと呼ぶのだ。仲がいいとは思えない。
その証拠に、二人のやりとりはとても殺伐としていた。
「不審船が港にいると聞いて来てみれば、まさかお前だったとは」
「よく言うわ。しっかりアタシを探していたじゃない。こんな予定外の入港でも飛び出してくるなんて、身分のわりに暇人なのね」
「いいや、お前はついでだ。トッレンテ国から不審船と共にいなくなった少女の捜索依頼がメインだ。少女が行方を眩ませるのと出航が同時だったから乗船したと思われているようだが、いくら方向音痴でも攫われでもしない限り丸腰で船に乗ることはないだろう」
「…あぁそうなの…」
「なんでそんなげっそりした顔をしている?」
頭の中でアニタが元気いっぱい跳ね回っていた所為だと思う。
どうやらアニタの保護者…姉が見付からないアニタの行方を妄想して同日に出港した船に乗り込んだのではと思い至ったらしい。それがそのまま国外に通達されて、現在入港する船では迷子が紛れていないか検問が敷かれているようだ。
そうはならんだろ。
なっとるだろがい。
船員達の脳裏で常識が異を唱え、しかしアニタの存在が現実を見せつけてくる。
他人は心配性故の妄想と言うが、姉の思考は妹の行動力をよくわかっていた。
(国外にまで探される影響力の理由は不明だけど、探していたのがアニタとリリアン様だってのはわかった…)
自分が探されているのではと思っていたフォンテは安堵して肩の力が抜けた。探していたのは亡国の王子ではなく、自国の…。
(…何も安心できない)
迷子(?)のアニタはともかく、リリアンが探されていた理由は…聞こえてくる断片的な過去からして、とても不穏だ。
しかしリリアンは堂々と、濡れた髪を払いながら前に出る。水滴が足跡のように、リリアンの歩む軌跡を描いた。
「言っておくけど、奴隷商人としては合法だから命乞いも何もするつもりないわよ。悪いことは数え切れない程してきたけれど、アンタに捕まるようなことはしていないわ」
「確かにこの国で奴隷は合法だけれど、国に貢献しない奴隷商人はただの人買いだ。そうだろう一度も我が国へ貢献したことのない人買い。お前が地道に、我が国の労働力を他国へ流出していたのは気付いているぞ」
「人買いだなんて、奴隷に人権を与えてから言ってくれないかしら。それに商人だもの。より高く売れる国と商売して何が悪いの?」
バッチバッチに仲が悪い。
「人としての尊厳が守られていないからこの国は奴隷を安く買い叩く。どんなキズモノでも売れるから、在庫処理には優れているでしょうね。だけど奴隷を消耗品としか考えていない国に、アタシの可愛い奴隷ちゃん達を売ることはできないわ。だって値段が見合わないんだもの」
「その可愛い奴隷ちゃん達にお前が売られることになるとはな。ずぶ濡れになってまで隠れていたのに精一杯の詐称も通らず可哀想なことだ」
「別に隠れようと思って濡れたわけじゃないわよ」
フォンテは知らなかったが、リリアンがずぶ濡れなのはヴォルティチェの国軍が近付いてくるのを察知した三人衆に海へ突き落とされた結果らしい。
彼らはリリアンの出自を知っていて、出航するよりリリアンを隠した方が早いと判断し、海に突き落としたらしい。問答無用で落とされたリリアンはぶち切れて、必ずあの考えなし三人衆に鉄槌を下すと息巻いていた。
その為には、この危機を回避しなければならない。
だから。
リリアンは不敵に微笑み、片手で濡れた金髪を靡かせた。
「ちょっと仕掛けを起動させるのに、手間取っただけよ」
ガッコン。
歯車が動き出す音がして、船が大きく揺れた。
ガッコン。
船内から悲鳴が響く。くまなく探索していた軍人達が、通路を迫り来る突起に押し出され海へと放り投げられた。
ガッコン。
甲板が軋んで碇が外れ、気が付いたら…。
船に手足のような物が生えていた。
「「そうはならんだろ!?」」
奇しくもフォンテと軍人達の気持ちが一致した瞬間だった。
海に突き落とされてぶち切れながらとあるスイッチを押しにいったリリアン。起動まで時間が掛かるのが難点。




