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12 紹介トロ


「今回紹介するのは船に欠かせない愉快な船員達(クルー)だ。覚えなくちゃ損する役職持ちを教えてやるぜ!」


 ノリノリに大砲で威嚇しながら声を張り上げる大男。その足元でイキイキと手拍子するアニタ。アニタが駆け出さないよう羽交い締めにしているフォンテの三人は、見張り台の下にある砲台に居た。

 大砲の足元こそ固定されているが、微調整は人力だ。本来なら数人で動かす大砲を、男は一人で稼働させていた。


「まずは下っ端甲板員達を纏める甲板長のヴェレ! 毛の生えた動物が好きすぎて猫型モンスターを檻に入れて飼育している猛者だ! 顔は怖いが中身も怖いぜ! やらかしたときは甲板長が猫型モンスターに癒され終えたのを狙え! 度が過ぎると怪魚の餌にされる前に猫型モンスターの餌にされるから気を付けろ! 襲ってきたこいつらのことは餌にする気満々だな!」


 そんな紹介と同時に男達が吹っ飛んだ。

 その中心には筋肉隆々な大男。刈り上げた黒髪に鋭い黒い目。体中、至る所にひっかき傷のある男が凶悪な顔で砲台を見上げた。

 目が合った気がしてフォンテは竦み上がったが、アニタは楽しげに手を振った。肝が太すぎる。


「そして船を守る機関長ツァイヒェン! 細部を見過ぎて眼鏡がどんどん分厚くなっていく八十歳だ! 名前が呼びにくいからヘン爺って呼んでるぜ! 普段は腕が枯れ枝のようだがペンチを握った瞬間筋肉が盛り上がる不思議体質だぜ! 船を壊すとその腕で骨を折られるから気を付けろ! 汚すのはセーフだ掃除で綺麗になるからな! 下っ端共は掃除さぼるんじゃないぞ! あんな風に叩き潰されるからな!」


 上半身の筋肉が異様に盛り上がった白髪の老人が、巨大なペンチを両手で握り振り回していた。

 憐れな男が挟まれて、持ち上げられて、別の人間に叩き付けられる。

 分厚い眼鏡と蓄えられた白い口髭で表情が一切見えない。表情が一切見えない中、一度挟んだ人間を淡々と敵にぶつけて回る様子は狂気的だった。


「でもって忘れちゃならない司厨長キューマ! 俺らの胃袋を守るお父ちゃん! 見た目は悪いが栄養バッチリの男飯は航海に欠かせない栄養素だぜ! 刃こぼれした包丁は食材じゃなくてその他をみじん切りするためにあるなんて格言持ちの切り裂き魔だ! 今宵も血に飢えてるぞー! ちなみに甲板長の猫型モンスターは非常食として毎日狙われているな!」


 こちらも眼鏡をかけた、細身の男だ。一目で司厨とわかる灰色の司厨着と黒い腰巻きエプロンを着用している。

 不健康そうな青白い肌に金髪碧眼の痩せた姿は見るからに非戦闘員なのに、血と脂に濡れた包丁を両手でくるくる回している。彼の居る一帯だけ、やけに鮮血が散っていた。

 遠目でわかりにくいが、返り血まみれの口元がとっても笑顔だった。


「そして大事な船の行き先を定める航海士のアン! 女かと思った? ガチムチの大男だよ! 可哀想に女の子を待望する親にお淑やかに育てと願われた我らのアンは今日も筋肉が漲ってるー! 俺の前が道だと言わんばかりに今日も目の前の障害を跳ね飛ばしてるな!」


 漲ってるー! のあたりで乱戦に混じって居たバンダナの男が答えるように筋肉強調ポーズをとった。その際近くに居た味方を撥ねたが、誰も気にしなかった。


「こういうとき大事な見張り員のドワ! 厳つい顔がイカしてるぜ! その鋭い眼光で奴隷達を一人も逃さねぇ! 暗闇だってドワならネズミ一匹遠さねえ! ただし虫が嫌いすぎて蟻一匹見付けても退治できない臆病者だ! みんな、ドワの悲鳴が響いたら虫取りしてやってくれよな!」


 頭上を指差されて見上げれば、見張り台には人が居た。顔に傷のある大男である。

 敵襲を受けた本船に、更に接近する影はないか目を光らせている。そんな中でも大男のふざけたやりとりは聞こえたのか、呻くような威嚇のような濁った高音が響いた。何を言っているのかわからない。


「でもって俺が武器長のトロ! 船に積まれた武器の扱いは俺に一任されている!」


 親指で自分を指差しながらどや顔をする大男、トロ。

 筋肉質な彼はふわふわの茶髪に鳶色の目。アンとドワ、トロの三人は同じ髪質と髪色と目付きをしており、容姿はそっくりじゃないが雰囲気がそっくりなエセ三つ子である。


「いけねぇ。最後に忘れちゃならねぇのが我らが船長…リリアン様だ!」


 金髪を靡かせたリリアンが、敵の船長と思わしき男と対峙している。

 鉤爪を装備した男が飛び出してリリアンを襲う。


「二十歳で先代を蹴落とし、俺たちのトップに登り詰めた下剋上の麗人! 現在二十七歳満開の花! 若くて美しい男は同業者に弱く見られがちだけどなぁ…」


 向かってくる男を鼻で笑ったリリアンは、鞭を振るって男の腕を絡め取った。

 正確に鉤爪のある手を拘束し、強く引いてピンと張った鞭を自ら踏みつける。踏まれることでより強度と引力の増した鞭で引き寄せられた男は、素早く回転したリリアンの回し蹴りを喰らってひっくり返る。顎に入った。

 アニタが拳を握ってわっと歓声を上げた。


「つよつよの化粧としなやかな脚に鋭いヒール。足蹴にされるのはむしろご褒美だよなぁ! 敵ながら羨ましいぜ!」

「遊んでんじゃないわよ」

「ありがとうございます!」


 敵将を討取ったリリアンが、ここでようやくトロへと制裁を下した。

 しなやかに飛んできた鞭がトロの横面を張り飛ばし、イカレタ船員の紹介は終わった。


(本当にイカレタクルーしかいなかった)


 仲間入りして日の浅いフォンテは、役職持ちの顔と名前を一致させるので精一杯。

 為人など知る暇もなく、トロが声高に紹介して回った文章が頭をぐるぐる回っていた。


 ――流石は奴隷商人達の乗る船。まともなヤツが一人も居なかった。



まともな奴が居るわけがない。

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