表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/35

1 発進アニタ!

新連載始まります!

本日の更新

1/2

「アニタ! アニタはどこ!?」


 金色の髪を振り乱し、エプロン姿の女性が顔色をなくしてリビングに飛び込んできた。


「君の妹なら、まだ夢の中じゃないか?」


 愛する妻を抱き留めた夫は、今朝はまだ見ていないなと闊達に笑った。

 ここは平穏の国と噂の小さな島国、トッレンテ国にある港町。

 港町の小さな一軒家。そこには一組の夫婦と、年の離れた妻の妹の三人が暮している。

 漁師の夫は日に焼けて、無精髭がよく似合う厳つい男だ。海の男は力仕事のためよく鍛えられており、慌てる妻を抱き留める腕も太く逞しい。

 そんな男の妻は細身で、お前は海の女神を得たのだと仲間に羨まれるくらい美しい。

 真珠のように輝く白い肌。珊瑚のように赤い唇に、海のように青い瞳。日だまりのように輝く金髪は波のようにうねり、後頭部で括られて揺れている。

 海の女神と囁かれる妻の悩み事は、新参者だからご近所さん達に遠巻きにされること…もそうだが、それ以上に。


「寝室はもう確認してきたわ。だけどどこにもいないのよ」

「おや、僕たちの可愛い妹は珍しく早起きだね。でもおかしいな。僕はまだおはようを言っていないんだが…」


 年の離れた妹だった。

 神秘的に美しい妻の妹は、生命力に溢れたお転婆娘だ。

 姉が心配性になるのも頷ける、幼い娘。

 そんな彼女は朝に弱くて、いつも姉に起こされるまで寝ている。しかし今日はどこにもいない。

 珍しく早起きだったのだろうと考えた夫と違い、妹をよく知る妻は眉根を下げながらリビングを歩き回る。「まさかまさか」と繰り返しながら、積み上げられた本の隙間や棚に並んだインテリアの隙間を探していく。


「奥さん、君の妹でも流石にそこは…」

「ああ! やっぱり!」


 無理があると言いかけた夫の声は、妻の悲痛な声に遮られた。

 植木鉢の下から見付かった、ちょっと汚れた手紙。

 白い封筒にはよれた文字で【おねえちゃんへ】と書かれており、差出人が誰なのかは明白だった。

 悲鳴のような声を上げて封を開けた彼女は、手紙の内容に目を通して意識を失いかけた。

 そんな妻を慌てて支えた夫も横から覗き込み、手紙の内容に目を見張る。

 手紙は簡潔に、二行だけだった。


『冒険に行ってきます! お土産に期待していてね!』

「い、いやぁああ~!」


 金の髪を掻き乱し、破天荒な妹を持つ姉は半泣きで叫んだ。


「冒険だなんて…冒険だなんてぇ~!」


 滂沱の涙を流しながら、夫に泣きすがる。そんな妻を支えながら、夫も天を仰いだ。

 何故って。


「近所の商店街にも辿り着けない子なのに~!」


 十歳のじゃじゃ馬娘、アニタ。

 家を出て三秒で迷子になる、姉を心配させる特技の持ち主。

 そんな少女は。


「潮風が気持ちいいわぁ~」


 船の上にいた。

 簀巻きで。




冒険に出て簀巻きになるアニタをよろしくお願い致します。

初日の本日だけ、二話更新。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ