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婚約破棄した元許嫁が『聖樹』になったので、水やり担当に任命されました


 私の名前はレネ=ラフィーユ。

 辺境の伯爵家の娘だ。

 そして、かつてはこの国の第二王子シリル=リヴェルの婚約者だった。



 ……そう、かつては。



 彼との婚約が破棄されたときのことは、今でも鮮明に覚えている。


「シリル殿下が、他家の令嬢とご婚約を結ばれるようですわ」


 社交界の噂好きの令嬢が私にそう耳打ちしてきたとき。

 私はまったく信じられなかった。

 王家の同意がなければ、王子との婚約は破棄されようがない。

 ところが――ふたを開けてみれば、あっさりと打ち切られてしまったのだ。



「田舎者のお前とは結婚などできない。もはや必要なくなった」



 その言葉を突きつけられた瞬間、目の前が真っ暗になった。

 優しく私に微笑んでいたシリル殿下が、なぜこんなにも冷酷な態度をとるのか。

 いまだによく分からない。


 そして私は――当然のように王都中の噂や嘲笑にさらされた。

 気丈に振る舞おうと思ったけれど、悪意や嘲笑は、なかなかに心を削る。

 幸いにも私の父は優しく、激怒しながら私を故郷へ連れ帰ってくれた。

 以来、私は辺境の伯爵領で、王都の喧騒から離れて慎ましく過ごしていた。


 ……それから、およそ一年。


 そんな静かな生活が、ある知らせによって突如として打ち破られた。


「お嬢様、大変です! 大神殿からの急報です!」


 メイドのマリアが急ぎ駆け込んできたのは、朝の紅茶を飲んでいたときのことだった。



「第二王子殿下が――禁呪に触れて『聖樹』と化してしまったそうです!」



 あまりにも衝撃的な内容に、私は思わずカップを落としそうになった。


「…………え?」


 まったく飲み込めない。

 禁呪? 聖樹? 

 そんな呪いのようなものが現実にあるのだろうか。

 混乱したまま、さらにマリアから告げられた言葉は、もっと突飛なものだった。


「古文書によると、その聖樹を癒やすことができるのは『捨て去った元許嫁』だけだと……」


「……え?」


 私の頭は真っ白だった。

 捨て去った元許嫁って、どう考えても私のことでは……?

 そんな馬鹿な、という思いもあったが、どこか嫌な予感が胸を満たす。

 少なくとも、私が関わる話なのは間違いない。


「そ、それ本当なの?」


「ええ。既に王宮からも正式な命令書が届いています。レネお嬢様に『聖樹に聖水を与える役目』を担ってほしいと……」


「…………はぁ」


 正直、呆れるしかなかった。

 捨て去られた元許嫁が、今さら『水やり当番』って……

 しかもその理由が「禁呪で木になった殿下を癒せるのは元許嫁だけ」ですって?

 あまりにピンポイントすぎる呪いではないだろうか。

 王子と別れて田舎にこもった令嬢がぴったり該当、なんて出来すぎた話だ。


 だけど――それが王命だとしたら、私には逆らう術はない。


「……分かりました。行くしか、ないのね」


 渋々と従うしかなかった。

 もちろん、行ったところで何ができるのか分からない。

 けれど、私は伯爵家の娘だ。

 国の命に背くわけにもいかない。


 こうして、私の平穏はたった一年で終わりを告げ、再び王都へ赴くことになったのだった。


◇◇◇◇


 王都に戻ってみると、人々の私を見る目は好奇心と揶揄。

 そしてわずかな同情の混ざった複雑なものになっていた。


 王子との婚約破棄で笑い者にされた私。

 その私が、またしても王宮に呼び戻された。

 呪いを解くための『必要な道具』として。


(まったく……人を便利な道具扱いしちゃって……)


 自虐的なため息をつきながら、私は王宮の奥にある温室へ案内された。

 先に訪れた大神殿の高位神官は、すべてを淡々と説明してくれた。


 ――王子殿下は白銀の幹に、翡翠の葉をたたえた聖樹となっている。

 ――通常の植物とは異なり、聖水を与える必要がある。

 ――そして、その聖水を与えられるのは、王子殿下の『元許嫁』のみ。


「お嬢様、準備はよろしいでしょうか」


 控えめに声をかけてきたのは、ファウストという神官だった。

 厳かな雰囲気を漂わせているが、どこか悲しげにも見える。

 私はこくりと頷き、温室の扉を開けた。


 そこには――噂に聞いたとおり、白銀の幹を持つ大きな木があった。

 幹にはきらきらとした不思議な光が走る。

 根元には美しいガラスの器が設えられている。

 どうやらそこに聖水を注ぎ、幹の根に行き渡らせる仕組みらしい。


「……これが、シリル殿下……なんだよね?」


 そっと近づき、幹に触れようと手を伸ばした。


 その瞬間、幹の表面がかすかに光を帯び、私の指先を受け入れた。


「っ……!」


 不思議な温もりが伝わってくる。

 木でありながら、確かに生きている感触があった。

 私がそっと手を離し、用意された聖水を器に注ぐ。

 すると――白銀の幹がさっと淡く輝き、そして……


「レネお嬢様、上を……!」


 ファウストの声で見上げると、温室の天井付近に、何かが映し出されている。


 それは――もやの中から浮かび上がるように始まった『幻』だった。

 映像の中にいたのは、若かりし日……少し前の私と、シリル殿下。


「わあ……」


 驚きのあまり言葉を失う。

 いや、それだけではない。

 その幻を、なんと……温室の外にも大きく映し出しているらしい。

 外の庭で待機していた騎士や侍女も皆、一様に驚いているのがガラス越しに見えた。

 あれはいったい何?

 思う間もなく、さらに衝撃的なことが起こった。


 幻の中で、私はまだ子供っぽさの残る顔立ちでシリル殿下に会っていた。

 そのとき、殿下の視点が――まるで心の声のように、私へ向けられる。


「(……初めて会ったけれど、彼女……笑顔が眩しい。こんなに小さな手をしてるんだな)」


「…………は?」


 私の頭が真っ白になる。

 幻の中に流れているのは、シリル殿下から見た『私への好意』だった。

 殿下が心の声を漏らしているかのような……

 何ともいえない、慈しむ気配が伝わってくる。


「ちょっと、待って……嘘、そんなわけないよね……?」


 私の戸惑いをよそに、周囲の人々は騒ぎ立てる。

 ファウストも目を丸くしていた。


「ど、どうやら王子殿下の……その、心中の記憶が投影されているようです。これほど鮮明に出るとは……」


 彼も予想外のことだったらしく、額に汗を浮かべていた。

 そして、映し出される幻は、さらに続いていく――


◇◇◇


 私は毎朝、温室に通い、幹の根に聖水を注ぐ。

 そのたびに『幻』が空に映し出されるようになった。

 しかも毎日少しずつ時系列が進んでいるらしい。

 幼少期の出会いから、ある程度大きくなった頃の記憶まで。

 順番に映し出されていくのだ。


 最初は王都中が驚きと混乱に溢れていた。

 けれど、やがて国民たちはこの『幻』を見ようと王宮の周りに集まるようになった。

 空に大きく映し出される映像は王都のいろいろな場所から見える。

 そして、一種の日課のように楽しまれているのだという。


「うぅ、もう恥ずかしい……」


 私は自室のベッドに突っ伏しながら、必死に今日の幻を思い返して耐えていた。

 そこに映っていたのは、私がドレスを着た姿。

 シリル殿下と社交界の舞踏会に出席したときの光景で……。


「『ドレス姿、すごく……レネに似合ってる。たまらなく愛おしい……』なんて声、まる聞こえだったじゃない……!」


 あのときは穏やかな笑みを浮かべるだけのシリル殿下だった。

 しかし、心の中でそんなことを思っていただなんて……

 私はまるで想像もしなかった。

 それほどまでにシリル殿下は私を好いてくれていたのだろうか。


 国民たちも、あの心の声を聞いたわけだ。

 つまり、王子殿下がどれだけ私を――田舎伯爵令嬢のレネを大事に思っていたか。

 みんなが見てしまったということになる。

 なんだか、嘘みたい……



 ――だけど、どうして婚約破棄なんてしたの?



 疑問は深まるばかりだ。

 何か、からくりがあるのではないか。

 もやもやとした気持ちを抱えつつも、翌日もまた、私は水やりをする。


◇◇◇◇


 あれから、何日目になるだろうか。

 聖水を注ぐと、今日もまた、幻が空に広がった。

 私は恐る恐る見上げる。

 今日は――どんな記憶が映し出されるのだろう。


 やがて浮かんだのは、シリル殿下が書類らしきものを見つめるシーンだ。

 そこには、不穏な文字が並んでいた。


「……これは……暗殺計画?」


 幻の中、シリル殿下は硬い表情で呟いている。


「(まさか、レネを狙っているのか……? どこかの派閥が、彼女を排除しようとしているようだ。早く何とかしないと……)」


 思わず私は息を呑む。私が暗殺対象……?

 そんな計画があったなんて知らなかった。

 シリル殿下は真剣な面持ちで書類を破り捨て、自分の執事と対策を相談している。


「(……これ以上、彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかない。何とかして、彼女の存在を遠ざけないと。レネなら辺境伯爵家に戻れば、比較的安全だろう。こんなことはしたくないけど……)」


 私への暗殺計画を察知し、危険を避けるため、私を遠ざける手段を模索しているのだ。


「(……例えば婚約破棄を装えば、王宮中がレネを嘲笑して、彼女がこの場から離れる道理になるはずだ。これは苦渋の決断だが、彼女に命の危険が迫るよりはましだ。……レネ、ごめん……本当に、ごめん……)」


 その思考の声は、切実な苦しさがにじんでいた。

 幻のシリル殿下は拳を握り締める。

 涙をこぼす寸前というほどの表情でうつむいている。


「(……だから、僕がすべての汚名を被ってでも、レネを遠ざけよう。彼女を守れるのは、僕しかいないのだから……)」


 ――バッ……。


 私は思わず、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けていた。


 婚約破棄は、私を守るための芝居だった。

 私は国中の嘲笑を浴び、傷ついたけれど……

 シリル殿下もまた、それ以上の苦悩の中にいたのだ。


「そんな……どうして、一言も言ってくれなかったの……?」


 目頭が熱くなる。

 彼なりのやり方で守ってくれていた。

 私はあまりにも何も知らず、ただ傷ついていただけだ。

 だけど、彼が私を思ってくれていたことを知った今――

 胸にこみ上げるものがある。


 そして、幻の中の場面が切り替わる。

 今度は、シリル殿下がどこかの書庫のような場所で、古文書を調べていた。


 そこへ――野心家で名高い公爵令嬢、アードラ=ヴェルトリンが現れる。


「殿下、そのような難しい書物を読んでおられるのですか? お力になれることがあれば、何でもいたしますわ」


 猫をかぶったような優雅な笑みを浮かべるアードラ。

 だが、シリル殿下はあからさまに警戒している様子だった。


「貴女に頼ることなど何もありません。……失礼ですが、放っておいてください」

「まあ、冷たいのですね。ですが、私も殿下のお役に立ちたいのですわ。殿下は……王の座を狙うお気持ちは、ないのですか?」


 殿下の耳元で囁き、怪しげな瓶を取り出すアードラ。

 そこには忌まわしい文様が浮かび上がっている。

 シリル殿下は目を見開き、手を振り払おうとする。

 ――が、その瞬間、瓶から漂う黒い霧が彼を包んだ。


「なっ……ぐ、あ……!」


 呪いの黒い煙がシリル殿下を覆い、彼が苦しそうに顔を歪める。

 そのまま床に倒れこむように、身体が光に包まれる。

 そして、白銀の幹を持つ樹に変わってしまった。

 アードラはその様子を冷たく眺め、口元に薄く笑みを浮かべている。


「これで、邪魔者は消えた…… あとは第一王子派をうまく取り込んで、私が王妃として君臨すれば……ふふ……」


 ――ぱたり、と。

 映し出された幻が、そこで切れた。


 周囲は騒然としていた。

 アードラ公爵令嬢が、王子殿下を禁呪へと誘った。

 まさか、暗殺も含めて、すべての黒幕が彼女だったなんて。

 その日のうちに、アードラは捕えられた。

 王子暗殺未遂罪などの容疑を突きつけられることになった。


「……そうだったのね……」


 私は水やりを終えた後、温室の片隅で膝をついて呆然としていた。

 真実はあまりにも重く、あまりにも切なかった。


「シリル殿下……あなたは、あのときからずっと私を……」


◇◇◇◇


 翌日。

 私はいつものように聖水を用意し、温室へと向かった。

 表向きは変わらない日常のように見えるかもしれない。

 けれど、私の中で何かが大きく変わっていた。

 シリル殿下は私を守るために、あえて残酷な芝居を打った。

 その事実を受け止めて、私は彼のためにできることをしたいと思うようになった。


 温室に入ると、いつもどおり白銀の幹が私を迎える。

 私はそっと微笑んでから、器に聖水を注ぎ――


「さあ、どうぞ……シリル殿下」


 木の根がかすかに揺れる。

 すると、いつものように白銀の樹が淡く光り、天井へ光が集まっていく。

 私は思わず息を止める。

 今日はどんな幻が見えるのだろう。

 昨日までの衝撃的な真実を超える何かがあるのか――そう身構えた。


 しかし。


「……映らない?」


 今日は、空に幻が現れなかった。

 温室の上空も、王都の空も、まったく変化がない。

 そして、白銀の幹がわずかにきしむような音を立てた瞬間。


 ――ぱりん。

 まるでガラスが砕け散るような、そんな輝きとともに。

 目の前に、見覚えのある青年――シリル殿下が倒れ込むように出現した。


「……シ、シリル殿下っ!?」


 慌てて駆け寄り、腕の中で受け止める。

 彼はうっすら目を開いたまま、肩で息をしている。

 白銀の樹は消えて、殿下は人間の姿に戻っていた。


「レ……レネ……?」


「え、ええ。大丈夫? どこか痛むところは?」


「……っ、だ、大丈夫……でも……」


 殿下はそこで、自分の姿を確かめるように手足を動かし、そして私を見つめた。



 ――途端に、見る見るうちに顔を赤くして、声にならない悲鳴を上げる。



「!!! う、嘘だろ……! 国民中に見られてたんだ……!!」


 ――そう。

 どうやら殿下には自分の『心の声』が全国民に公開されたことが分かるらしい。

 シリル殿下がどれだけ私を『かわいい』『愛おしい』と思っていたか。

 すべてが国中の人々に知れ渡ってしまったわけだ。


「し、シリル殿下、落ち着いて……!」


 殿下は顔を真っ赤にして、私のドレスの裾をがしっと掴む。


「ど、どうしよう……もう、死にたい……国民の前で、あんなに……」


 その姿に、私は思わずくすりと笑ってしまった。

 かつては冷たく見えたあの態度も。

 すべてが作り物で、本当はこんなに感情豊かな人だったのだ。


「……私、聞きました。暗殺のこと、私を守ろうとしていたこと、それに……あなたの本心も、全部」


「うう……そんな、やめてくれ……思い出すだけで心臓が……」


 シリル殿下は目も当てられない様子で、頬を両手で覆っている。

 でも、その表情には確かに安堵も混じっているようだ。

 私は殿下のそばにしゃがみ込んで、彼の顔をのぞき込んだ。


「……国中にさらされたのは……まあ、その……気の毒だったけれど」


「そ、それはもう……!」


「でも、そのおかげで誤解が解けたし、アードラの悪事も暴かれた。あなたの本当の気持ちも分かった。……だから、私としては正直うれしいんだ」


 そう言うと、殿下は困惑したように目を瞬かせる。


「……レネ。僕は、君のことをひどく傷つけてしまった。婚約破棄の芝居にしても、あまりにも酷い態度をとってしまった……。謝って済むことじゃないと分かってる。でも……」


 殿下は少しうつむき、言いづらそうに口を開く。


「……何か言いたいことがある? 私に」


 私がそう促すと、殿下は目を瞑って、一度大きく息を吸った。


「……レネ。ずっと、君のことが好きだった。誰よりも大切で、愛おしくて……婚約破棄は本当に苦しかった。でもあれが、君を守るための最善手だと信じていたんだ。……だから、今度こそ、正々堂々と言うよ。僕と結婚してほしい」


 顔を真っ赤にしながら、必死に言葉を絞り出す。

 ――思わず、胸が熱くなった。

 だけど。


『わああああああああ!』


 外で待機している騎士たちが、盛大に歓声を上げているのが聞こえる。

 温室の上空に、ふわりと幻が浮かび上がっていた。


「あはは……実は、その声も全国民に聞かれてるかもしれないよ」


「えっ!? ……うわああああっ!!!」


 シリル殿下は頭を抱えてうずくまる。私も思わず苦笑するしかない。


「……仕方ないなあ」


 私はそっと殿下の手を取り、その甲に口づけをした。


「私は、あなたに捨てられたと思っていた。でも、真実を知ることができた今、私もあなたのことを……好きでいる気持ちを大切にしたい。……だから、結婚してあげてもいいよ?」


「……っ……!」


 殿下の瞳が一気に潤む。

 国民中が幻を通して見守る中で、私たちは再び婚約を結ぶことになったのだ。

 外からは大歓声が沸き起こっている中。

 私は頬を赤らめ、殿下とそっと見つめ合う。

 殿下は恥ずかしそうにしながらも、私の手をきゅっと握り返した。


「……ありがとう、レネ。君は、ずっと僕の宝物だ」


「……うん。よろしくね、シリル殿下――いえ、もうすぐ私の旦那様?」


 そう返すと、殿下の顔がさらに茹で上がったように赤くなる。


「わああ、もうやめてくれ……!」


 だけど、その姿は幸せそうにも見えて。

 私も心が温かくなる。


◇◇◇◇


 こうして、聖樹の呪いは解け、シリル殿下は元の姿に戻った。


 彼を呪いへと陥れたアードラは捕えられた。

 宮廷から追放されるどころか、重罪に処されることだろう。


 そして国民たちは、一連の幻を通して私たちの真実の姿を知った。

 シリル殿下がどれほど私を愛していたのか、どれほど苦しんでいたのか。

 だからこそ、再び結ばれる私たちを、国民は盛大に祝福してくれた。


 その度に、シリル殿下は思い出して「恥ずかしい!」と真っ赤になるけれど。

 正直、私からすると、ちょっとだけ『かわいく』見えてしまう。


「……まさか国民全員に知られるなんて……」


「恥ずかしいけど、嬉しいよ……! ありがとね、シリル」


 私が笑って返すと、彼は困ったようにうつむいた後、そっと私を抱きしめた。


「……もう、二度と君を傷つけたりしない。ずっとそばにいて、誰よりも幸せにする。君が望むなら、この国のすべてを差し出してでも守ってみせるよ」


「そんな大げさな……あはは。でも――ありがとう」


 彼の体温が、私の心を安心感で満たす。

 あの辛い婚約破棄の記憶も、今となっては大切な過去の一部になるだろう。

 すべてを乗り越えて、私と彼はようやく本当の意味で結ばれたのだ。


 ――こうして、頭の上がらない溺愛王子と『水やり令嬢』の関係は、国民中に祝福されながら幕を下ろした。

 そして、この先、私たちは末永く幸せに暮らしていく。


 私は彼の手を引いて、そっと微笑みかける。


「さあ、行きましょう。あなたの王子としての仕事が、たくさん待ってるわよ?」


「ああ、そうだね。……レネ、今度は絶対に離さないから」


 照れくさそうに笑う彼の横顔は、どこまでも誠実で優しくて。

 私もその手を決して離さないと、胸に誓った。

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― 新着の感想 ―
まさかのほっこりするお話。 いい意味で予想を裏切られて面白かったです。
この公開処刑がある意味王子へのザマアになってる(笑)
王子様可愛い!幸せになってね。
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